第3章 (2)地域経済と製造業
本節では、本レポートのまとめとして、足下の地域の生産・輸出動向を確認した上で、今後の地域と製造業について考察したい。
1.足下の地域の製造業
第2次トランプ政権発足後、相次ぐ関税引上げの発表を受け、内閣府の景気ウォッチャー調査をはじめとする各種の調査では、米国の通商政策が今後の企業動向へ与える影響への懸念がみられた。本項では、そうした足下の状況を踏まえた地域の製造業について、各種の統計(ハードデータ)より確認していく。
(鉱工業生産は全国的に横ばいの中、関東、近畿などでは弱含み、東海も足踏み状態)
まずは、足下の各地域の生産動向を、鉱工業指数で確認していく。
全国的な鉱工業指数の動きは横ばいとなる中、地域によってその動きはやや異なっている。例えば、東北や九州などでは、持ち直しの動きがみられる一方、北関東や南関東、近畿などでは弱含んでいる。中でも、これまでみたように域内の製造業の割合、特に輸送用機械の割合の大きい東海では、自動車の車種切替えに伴う工場停止の影響等を受け、持ち直しに足踏みがみられており、今後の動向にも注意が必要である(図表3-6)。
(米国向け輸出額は振れを伴いながらも自動車・部品は単価減もあり減少、建機は増加)
続いて、地域別輸出について、まずは、全体でも多い米国向け輸出のうち、特に自動車、自動車部品、建設用・鉱山用機械についてみていく。
原数値につき季節性等による振れが大きい点には留意が必要ながら、自動車については、6月時点では、金額ベースで中国、九州・沖縄がやや減少傾向にある。東海については季節性を除いた前年比でみてもマイナスにあるものの、数量指数では前年比はプラスとなっている(図表3-7(1))。全国的にも金額でマイナス、数量でプラスと同様の傾向になっているところ、足下では自動車メーカーが輸出価格を引き下げたり、相対的に単価の低い車種の割合を増加させたりすることで輸出数量を確保している可能性がある24。
続いて自動車部品についてみると、東海は、完成車同様に振れを伴いつつ、5、6月は前年同月比でマイナスとなっているものの、ならしてみると横ばい圏内といえる。また、価格に比べ、数量はそれほど落ち込んでいない。一方で、その次に輸出額が大きい南関東については、6月はやや戻したものの、減少傾向にあり、今後の動きも注視したい(図表3-7(2))。
続いて建設用・鉱山用機械についてみると、最もシェアの大きい近畿の輸出額については、5月に大きく伸びた後、6月も伸びている一方、北関東、南関東は前年比ではマイナスとなっている(図表3-7(3))。
(半導体等製造装置は、中国向けは現時点で減少とはいえないものの、台湾向けは回復に足踏み)
続いて、半導体等製造装置について、中国向け、台湾向け輸出が多いことを踏まえ、両国向けの地域別輸出について分析する。
半導体等製造装置は自動車以上に変動が大きいため、より長期でみると、中国向けについて、最も大きい南関東からの輸出額は、前年比ではマイナスとなっているものの、前々年と比較すると2025年はいずれの月もプラスであり、現時点で特に減少しているとは言えない。他地域からの輸出についても、変動の大きさを考慮すると横ばい、若しくは持ち直しの動きがみられる(図表3-8(1))。
台湾向けについてみると、こちらも変動が大きいものの、南関東、近畿、九州・沖縄と、昨年末より続いていた回復に足踏みがみられる(図表3-8(2))。
2.まとめ
(グローバル・ローカルな構造変化に対応するため、マッチング・リスキリング等の支援を)
日本の製造業は、この30年間、国内のシェアを低下させながらも、東海や北関東など、幾つかの地域を中心に、生産面、雇用面共に引き続き大きな役割を果たしている。特に、東海の輸送用機械は、全国の全製造品出荷額の10%以上、全国の輸送用機械就業者数の5割近くが集中するなど、極めて大きい。
こうした機械工業を中心に、これまで見てきたように、近年出荷額等を伸ばしている産業・地域は、グローバルに展開する大企業と、その関連企業が近隣に集まる城下町型の集積となっているケースが多い。城下町型集積は、ハブとなる大企業の業況が好調なときは、それに連動して地域の産業も非常に活発となる一方、構造的に、ハブとなる企業の国際競争力が低下傾向にある場合は、地域経済自体が徐々に低成長となり、関連の中小企業が苦境に直面するという側面もある。前節では、そのような状況でも、産業構造の転換を図ることで地域経済の活性化を促す地域をみてきた。
米国の関税引上げ措置だけなく、地域経済は、経済安全保障の観点からのグローバルなサプライチェーンの再構築といった構造変化に直面している。日本国内では、人口減少・少子高齢化の更なる進行といった地域経済において避けて通れない構造変化も引き続き進んでいる。こうした人口構造の変化という底流がある中で、コロナ禍以降、緩やかではあるが日本経済の回復基調が続く中、地方における人手不足、供給力の不足が喫緊の課題となっている。各地の工業集積地においても、製造業の長期的な縮小傾向という流れを踏まえつつも、これまで各地で培ってきた産業技術や人的資源の集積を環境変化にうまく対応させつつ、将来にわたって持続可能な地域経済の発展を目指していくことが必要である。
その際は、前節のように、既存の技術や立地を生かした構造転換や地域の従業員の持続的な賃上げが重要となるが、そのためには、産業構造の変化を見越した新たなビジネスマッチングや産業の新陳代謝の促進、労働者のスキルアップ・リスキリングの支援などが今後の重要課題となってくる。
本レポートが、地域の製造業の未来を考察していく上で参考になれば幸いである。