第1章 (1)我が国の製造業の推移
本節では、国内のマクロ統計により、我が国製造業について、出荷・輸出動向や雇用という観点から概観する。
1.日本の産業構造
(製造業の生産額シェアは長期的に低下傾向も、依然5分の1以上を占める)
我が国の製造業の立ち位置について確認するため、まずは国民経済計算(以下「SNA」という。)における経済活動ごとの生産額シェア(付加価値ベース)を時系列で確認する。
現在の2015年基準で遡れる最も古い年である1994年には、製造業の生産額シェアは23.6%と、全体の4分の1弱が製造業であったが、年を経るにつれてその割合は徐々に低下していき、直近の2023年時点では20.7%と、5分の1程度となっている。もっとも、SNA上の他の大分類と比較した際は依然最大のシェアであることには変わりない(図表1-1)。
なお、同期間には、いわゆる第3次産業がシェアを伸ばしており、経済のサービス化が進展していることが分かる。その中でも特にシェアを伸ばしているのは、専門・科学技術・業務支援サービス業、保健衛生・社会事業であり、会計や法律等の企業向け専門サービスやアウトソーシングの進展、高齢化に伴う医療福祉産業の需要拡大などが背景にあると考えられる。
SNAでは、製造業についてはより細かく生産活動別の生産額が公表されているところ、製造業内のシェアについても時系列でみていく。それによると、1994年と比較して伸びているのは、化学、一次金属、はん用・生産用・業務用機械、輸送用機械となっている(図表1-2)。
(雇用でみても、製造業は長期的に減少傾向も、依然最大のシェア)
続いて、業種別の就業者数について、就業構造基本調査を用いて、長期的な推移を確認する。それによると、1987年には24.3%が製造業に就業していたのが、こちらも年を経るにつれてその割合が減少していき、直近の2022年で15.6%と1割近く減少している。もっとも、こちらも大分類ベースでは卸売業・小売業の14.4%を上回り、依然最大のシェアとなっており、雇用という観点からも大きな役割を担っている(図表1-3)。
2.出荷・輸出動向
続いて本項では、実際の製造品ごとの出荷及び輸出について確認する。
(製造品出荷額は景気変動に応じて増減、2022年時点で1991年のピークに届かず)
製造品出荷額について、1985年以降の長期でみると、総額では、2002年、2009年、2020年など、景気基準日付における景気の谷に減少するなど、日本経済全体の景気変動を主導する役割を果たしていると言える。また、2022年時点では322兆円と、1991年のピーク時(340兆円)にはまだ達していない。製品ごとにみると、生産額シェアと同様に、化学、鉄鋼、一般・精密機械1、輸送用機械等が出荷額を伸ばしている一方、電気機械2、繊維等では伸び悩んでいる(図表1-4)。
(日本の財輸出は、輸送用機械と化学を中心に長期的には増加傾向)
次に、貿易統計を用いて日本の財輸出の推移を確認する。
日本の財全体でみると、製造品出荷額と同様の落ち込みは経験しつつも、長期的には増加傾向で推移している。バブル期前後における最大輸出額は、1992年の43兆円であったが、2023年に100兆円を突破し、2024年は107兆円(確々報ベース)となっている。伸びが大きいのは、製造品出荷額と同様、輸送用機械と化学となっており、これらの製品は輸出の伸びに伴い出荷額が増加しているといえる(図表1-5(1))。
シェアでみると、こうした製品の出荷額シェアが上昇している一方、2000年代を境に電気機械のシェアが低下している。この時期は、家電等の電化製品や半導体の生産をアジア諸国で製造するようバリューチェーンが組み直された時期3であり、電気機械製品を日本が生産する国際的な競争力が低下していったと考えられる(図表1-5(2))。
(日本の比較優位産業は、自動車関連や半導体等製造装置、建設用・鉱山用機械を中心に顕著)
続いて、我が国の国際的な比較優位をみていく観点から、顕示比較優位指数(以下「RCA指数」という。)を確認する。RCA指数は、我が国の総輸出額に占める当該財の輸出額のシェアを、世界の総輸出額に占める当該財の輸出額のシェアで割ったもので、1を上回る品目については、世界平均よりもその財の輸出に特化しているため、その品目について比較優位を有していると解釈することができる。
日本が強みを持つとされている自動車及び自動車の部分品(以下「自動車部品」という。)については、1990年代より一貫して1を上回っており、比較優位を持っているといえる。一般・精密機械では、例えば建設用・鉱山用機械が2024年で2.2、半導体等製造装置は7.7と極めて高い比較優位を示している。一方で、電気機械の中では、電子集積回路やいわゆる黒物家電に含まれる映像記録機器は足下で数値が低下し、比較優位を失ってきていることが分かる。また、いわゆる白物家電と呼ばれる家庭用電気機器は1994年には既に1を下回っている(図表1-6)。
(自動車、建設用機械等は米国向け輸出、半導体製造装置は東アジア向け輸出が主体)
本節の最後に、比較優位を持つ品目について、どの国・地域向けの輸出が多いのかを確認する。
まず、自動車は、1989年には半数近くが米国向けであったが、2000年代以降、その割合は減少し、2024年で34%と約3分の1となっている。もっとも、引き続きシェアとしては1位であり、輸出金額も1989年の2倍近い額となっている。また、2位以下をみてみると、2004年までのランキングではドイツや英国などの欧州諸国が上位に来ているが、2014年以降は欧州が姿を消し、中国やアラブ首長国連邦といった国々が上位に来ており、新興国の経済成長とともに、輸出先をシフトしていると考えられる(図表1-7(1))。
次に、自動車部品についてみると、完成車同様、1989年には米国向けが5割以上のシェアだったが、2024年には3割程度となっている。一方で、2位以下をみると、2000年代に中国向け輸出を増やしており、2024年も米国に次いで1割以上が中国向けだが、2019年に6800億円以上を輸出していた頃に比べると、金額・シェアともに減少している。3位以下も近年はタイやメキシコなど、日系大手自動車メーカーの海外工場がある国・地域が上位に来ており、海外の完成車工場への部品輸出を増加させていると考えられる(図表1-7(2))。
続いて、輸送用機械以外で比較優位のある建設用・鉱山用機械についてみると、1989年から2024年にいたるまで、リーマンショックによる景気後退期に入っていた2009年を除き、一貫して米国向けが1位となっている。また、自動車や自動車部品とは異なり、シェアも1989年の3割弱から、2024年は半分以上が米国向けとなるなど、輸出シェアを大きく増加させている(図表1-7(3))。
同じく比較優位のある半導体等製造装置について、同分類の統計が取れる2000年代後半からみると、中国、台湾、韓国と東アジア向け輸出が中心となっている。中でも、2009年、2014年は台湾が1位で、その後も金額は伸ばしているものの、より輸出額の伸びた中国が2019年には1位となっており、2024年は2兆円超と5割近い輸出先シェアとなっている(図表1-7(4))。