第3章 (1)物価とマインド、消費動向

[目次]  [戻る]  [次へ]

本節では、地域別の消費動向を確認するが、その前に、所得と並んで消費に影響を与える物価動向やマインドの動きについてみていきたい。

1.物価上昇

(消費者物価上昇率は2024年11月以降、食料を中心に上昇率が加速)

各地域における最近の消費者物価指数(総合)の上昇率をみると、2022年から2023年初頭にかけて4%を超えるところまで高まり、その後、3%前後の範囲で推移している。北海道、東北、沖縄は、他地域と比べて高めの上昇率となっていたが、2024年半ば以降は、いずれの地域も上昇しており、地域差が小さくなっている(図表3-1)。

物価上昇の要因を寄与度分解すると、2023年後半~2024年前半の北海道、東北、沖縄の上昇は、生鮮食品を除く食料によるものであった。2024年11月以降の全国的な上昇は、生鮮食品の寄与変化が最も大きく、また生鮮食品を除く食料の寄与も大きい(図表3-2(1)~(10))。内閣府政策統括官(2025)にもあるように、この時期は、米・野菜などの各種食料品価格が大きく上昇しており、いずれの地域においても、2024年11月以降の物価上昇は、これらが主たる要因であるといえる。

また、このほかにも、光熱・水道、関東、近畿を除いた地域では交通・通信も一定程度の寄与がみられる。この時期は、電気・ガス代の激変緩和措置等の実施や縮小・再開23、ガソリン・灯油等に係る激変緩和措置の実施と縮小24などが重なっており、こうした政策も各地域の物価に影響を与えたと考えられる。

(地域間では、光熱・水道を始めとした物価水準の違いも大きい)

地域経済をみる場合、物価上昇率だけでなく、地域間での物価水準の違いにも注意する必要がある。そこで、都道府県別に2023年の物価水準を比べると、総合指数では、全国平均に対し、南関東の4都県がやや高いものの、平均を上回る都道府県数は8、下回る都道府県数は38となっている25図表3-3(1))。

品目別に比べると、食料の場合は、平均を上回る都道府県数は21、下回る都道府県数は25と、比較的、対称に分布している26。なお、沖縄県の食料は水準が高いが、これは、移入食料品が輸送費等の分だけ高くなっていることが原因と考えられる(図表3-3(2))。

また、光熱・水道については、平均を上回る都道府県が30、下回る都道府県が17と、平均を上回る都道府県数に偏りがみられる。光熱・水道のウェイト(全国平均693)のうち、電力料金が同341と高く、こうした地域差は、1)地域電力会社の料金設定の差(電源構成差)、2)2023年に実施されていた補助額の差、3)天候要因に伴う電力需要量の差、といったことによって生じているとみられ、北海道、東北で高い傾向となっている(図表3-3(3))。また、地理的・人口要因による水道料金の差も影響している27

なお、ガソリン価格を含む交通・通信についてみると、こちらは大きな地域差はみられない(図表3-3(4))。

2.消費者マインド

(2024年秋以降、消費者マインドは全国的に前年に比べて低下傾向)

近年、我が国では身近な消費財価格の上昇が消費者マインドに悪影響をもたらしており28、マインドの悪化は、実際の消費を下押しするリスクとなる。そこで、内閣府「消費動向調査」の消費者態度指数の推移を地域別にみよう。2023年から2024年初頭にかけて、全国的に改善の動きがみられたが、北海道・東北や甲信越・北陸は、2023年前半から夏にかけて、他地域に比べて改善テンポに遅れがみられた。その後、遅れのみられた北海道・東北、甲信越・北陸は改善が続いたものの、多くの地域では、2024年の夏以降、前年と同水準で推移するようになった。2024年11月以降は、前年を下回る動きとなっている。(図表3-4)。

(消費者マインドの低下は物価上昇に影響される暮らし向き指数の低下が大きい)

消費者態度指数は、「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」(以下「買い時判断」という。)の4項目から構成される指数(単純平均)である。そこで、個別の指数についても全国的な動きと地域差を確認したい。

それらをみると、いずれの地域においても「収入の増え方」は変動が小さく、指数全体の変動を生み出しているのは、専ら「暮らし向き」や「買い時判断」の動きである。なお、地域別の違いは大きくないが、2023年前半から夏にかけて、北海道・東北の消費者態度指数の改善が遅れたのは、専ら「暮らし向き」の動きによるものであり、甲信越・北陸については、「収入の増え方」の動きによるものとみられる(図表3-5(1)~(4))。2024年後半からの動きは、いずれの地域においても4指標に低下がみられるが、低下が大きいのは「暮らし向き」となっている。

3.消費動向

以上、消費をとりまく環境をみてきたが、前章のとおり、所得雇用環境は改善しているものの、身近な物価の上昇とそれに影響を受けやすい消費者マインドが弱含んでいる。それらを踏まえ、以下では、様々な消費財の供給面や需要面の統計を紹介しながら消費動向を概観する。

(財の実質小売売上は、関東と沖縄が全国を上回り、北海道・東北が下回る動き)

地域別の消費動向について、供給(販売)側の統計で確認する。ここでは小売業のうち、スーパー、コンビニエンスストア、そしてドラッグストアの売上に着目し、消費者物価29の影響を除いた実質でみる。なお、百貨店については、インバウンドの回復に伴う売上拡大の影響が大きいため、除外している。

まず、スーパーの店舗当たりの実質売上は、財物価が大きく上昇したこともあり、2024年の全国値は、前年を下回る月が続く中、東北や北陸が平均より弱い動きとなっていた。中国の年前半は全国値を上回る動きを見せていたが、9月以降は全国値を下回り、四国はこれと逆の動きを示していた(図表3-6)。他方、九州や沖縄、そして関東はおおむね全国値を上回る動きをみせていた30

続いてコンビニエンスストアの店舗当たりの実質売上をみると、2024年の全国値は前年を下回る月が続く中、前年の特殊要因の反動で減少した北海道、近畿31を除くと、東北、九州が全国値を下回る動きとなっていた(図表3-7)。

最後にドラッグストアの店舗当たりの実質売上をみると、全国値の前年比は2024年前半に伸長し、後半は低下していた。東北や沖縄が相対的に強い一方で、中国や九州は平均を下回る動きとなっていた。なお、沖縄については、2023年末から2024年秋頃にかけて、前年比で5~10%程度の高い伸びが続いた(図表3-8(1))。

ドラッグストアの実質売上について、店舗調整済と店舗調整なしで比べると、いずれの地域においても店舗調整なしの伸びが高く、出店効果の大きさがうかがえる(図表3-8(1)、(2))。この点は、消費財の購入先としてスーパー・コンビニエンスストアからドラッグストアへの移行が生じている可能性を示唆している。そこで、3業態を合計した実質売上をみると、2024年後半以降は、物価上昇の影響で下押しされている地域が多い中、特に北海道・東北が低調な動きとなっている。他方、関東や沖縄は全国平均を上回る動きをみせている(図表3-9)。

(家計側の実質支出は、ECやサービス支出の面で財の実店舗販売とは異なる動き)

次に、地域別の消費動向について、需要(購入)側のデータで確認する。コロナ禍も契機となり、実店舗販売から電子商取引(以下「EC」という。)への移行も続いていることから、こうした動きも合わせて確認したい。

まず、消費支出に占めるECの割合を地域別にみると、関東が最も高く、次いで近畿と続き、東北、北陸、中国では7%を下回っている(図表3-10(1))。EC利用世帯に限ると、関東が高い点は変わらないが、近畿よりも北海道、九州・沖縄の方が高く、北海道や九州・沖縄ではEC利用世帯における利用額が相対的に大きいことが分かる(図表3-10(2))。

続いて、利用世帯におけるECを利用した実質家計支出額の推移をみると、いずれの地域においても増勢がみられる。実店舗販売が弱まった2024年の後半は、東海や関東が全国を下回る動きとなったが、北陸を始め、それ以外の地域は引き続き増勢が続いている(図表3-11)。

なお、この総務省「家計消費状況調査」によるECを利用した家計支出額は、財だけでなくサービス購入を含んでいる。このため、実店舗とECの別を問わず家計側の財消費について確認できるクレジットカードデータを用いた指標(実質)でみると、2024年後半以降、全体的な動きは実店舗販売と大きく変わらないものの、EC利用部分によって違いが生じている。北海道や南関東は全国を上回る一方、東海、北陸、近畿、九州などは全国を下回る動きとなっている(図表3-12)。

(実質外食消費はおおむね横ばい圏内も、今後に注視)

ここまで財消費についてみてきたが、サービス消費の地域別の売上動向についても確認したい。

サービス消費全体について、クレジットカードデータの実質利用額をみると、2023年後半から2024年前半にかけて、北海道、東北、北陸、四国など、財消費には弱さのみられた地域でも、他地域と比較して高めの伸びを示している。また、2024年後半以降は、いずれの地域においても5%程度の伸びを示している(図表3-13)。コロナ禍からの経済社会活動の正常化の中、着実に持ち直していることが分かる。

なお、サービスのうち、一例として外食動向を販売側のデータからも確認しよう。民間企業が集計しているPOSデータによる飲食店の実質売上推移(前年比)を地域別にみる32と、2024年半ば以降は振れを伴いながらも、横ばい圏内で推移している(図表3-14)。2025年に入り、北陸の1月には2024年の震災による減少の反動増がみられるが、それ以外の地域は12月並みの伸び率で推移していた。2月は全地域で減少しているものの、実勢はそこまで弱くないとみられる。2024年はうるう年で1日多かったこと(約3%)のはく落があり、また、大雪や寒波によって外出が控えられたという一時的な影響もあったことが、他の調査33では指摘されている。

以上、ここまでいくつかの統計とデータで家計の財やサービス支出動向を確認してきたが、いずれの地域においても、財支出はEC化の影響を勘案しても物価高の影響が強くみられる一方、飲食店等のサービス支出は、カード利用実績等からは緩やかな持ち直しの動きが続いている様子がうかがえる。


脚注23 電気・ガスの激変緩和措置は2023年1月から2024年5月使用分まで実施され、酷暑乗り切り支援は2024年の8月から10月使用分まで実施された。また、電気・ガス料金負担軽減支援事業が2025年1月から3月使用分まで実施された。各月の使用分のため、翌月に反映される。
脚注24 燃料油の激変緩和措置は、2022年1月27日より開始されており、レギュラーガソリンでは1リットル170円を超えると発動される。2023年10月5日~2024年12月18日は同175円程度、翌19日~2025年1月15日は同180円程度、翌16日~現在(2025年4月17日時点)は同185円程度を上限価格に補助が行われている。
脚注25 高知県は100.0と全国平均と同水準。
脚注26 兵庫県は100.0と全国平均と同水準。
脚注27 内閣府政策統括官(2024a)p.51。
脚注28 内閣府政策統括官(2025)。
脚注29 以下、小売店は財の消費者物価指数で実質化。詳細は図表3-6の備考4を参照。
脚注30 北海道は、2023年8月の中国による日本産水産物の禁輸措置による影響が大きかったことから、2023年9月以降、「食べて応援!北海道」キャンペーンを実施し、道内のスーパーやコンビニ、ふるさと納税等を通じた販促キャンペーンを行っており、同時期における北海道のスーパー、コンビニの売上増はこの影響と考えられる。
脚注31 近畿については、大阪市で2022年11月~2023年2月、2023年12月~2024年5月まで、コンビニでも使用できるプレミアム付商品券事業が行われており、その影響があったと考えられる。
脚注32 2023年前半は、コロナ禍からの回復のために前年比90%以上となる地域もあったため、2024年以降の動向のみをみている。
脚注33 例えば、内閣府「景気ウォッチャー調査」。
[目次]  [戻る]  [次へ]