第1章 (2)地域別の雇用と労働需給の動向
本節では、賃金上昇が続く中での雇用者数や労働需給の動向について、地域別の状況を確認する。
1.雇用動向
(雇用者数は北海道、関東、近畿、九州などで増加傾向)
各地域の雇用動向について総務省「労働力調査」を用いて確認したい。地域別雇用者数は、南関東と近畿においては明らかな増加傾向がみられる。北海道、北関東・甲信、九州においても、緩やかな増加傾向となっているが、それ以外の地域はおおむね横ばいとなっている(図表1-7)。
また、自営業や農業従業者も含む就業者数全体の動きを確認すると、各地域とも増加幅は雇用者数と比べて就業者数全体の方が若干下回っており、高齢化等に伴う自営業者の減少、雇用者へのシフトが生じている(図表1-8)。
2.就業環境
(ハローワーク有効求人倍率の地域差は縮小傾向を示し、2024年はいずれの地域も1倍超)
次に、就業環境の変化を確認するため、公共職業安定所(ハローワーク)の有効求人倍率の推移を就業地別にみる。全国平均が2023年以降は緩やかに低下し、2024年後半からほぼ横ばいで推移する中で、水準に地域差はあるものの、各地域とも全国平均とおおむね同様の推移を示している(図表1-9)。地域間の水準差をみると、コロナ禍からの回復過程で地域差が拡大し、2022年1月は最大値と最小値で0.8ポイント程度の差があったが、その後、景気回復の広がりとともにその差は縮小し、2024年末は0.5ポイント程度となっており、いずれの地域も1倍超の水準となっている。なお、都道府県別にみても、就業地別では2025年2月の状況で全都道府県1倍を超えている。
(ハローワーク有効求人倍率は、南関東、近畿、沖縄を除き、求人要因、労働力率要因で低下)
有効求人倍率は、需要側(求人)だけでなく供給側(求職)でも変動する。そこで、近年の変動要因を確認するため、2022年から2024年にかけての各地域における有効求人倍率の変動幅を求人要因と求職要因(人口、労働力率、失業率)に分解した。有効求人倍率との関係は、求人数増はプラス、人口増はマイナス、労働力率上昇はマイナス、失業率上昇はマイナス、となる。
この期間は、コロナ禍明けに上昇した有効求人倍率が、おおむね横ばいで推移していることから、変動幅は±0.1程度と小幅であるが、変動要因には地域差がみられる。ハローワーク求人の増加は、南関東と沖縄で有効求人倍率の押し上げ要因となったが、それ以外の地域では押し下げに寄与した。人口要因は、増加が続く南関東と沖縄では倍率の押し下げ要因となったが、それ以外の地域では上昇に寄与した。労働力率は全ての地域で高まっており、倍率の押し下げに寄与した。失業率は、沖縄、近畿、南関東、北関東、北海道で低下しており、倍率の上昇に寄与した(図表1-10)。
(全ての地域でハローワーク経由の入職者が減少する一方、民間の職業紹介を通じた入職が増加)
求人数要因がマイナスに寄与している点を評価するには、仲介プロセスの構造的な変化を勘案する必要がある。例えば、ハローワークには表れない求人・求職は増加している。厚生労働省の「雇用動向調査」により、各地域の常用労働者がどのような経路で入職したかを確認すると、ハローワーク経由の入職者の割合は、2012年から2023年にかけて、全国では24%から14%、2012年時点で最大の東北では40%から26%になるなど、全ての地域で減少した。一方で、広告や民営職業紹介所を通じた入職が増加していた(図表1-11)。したがって、入職経路における民間シフトの動きを勘案すると、ハローワークの求人数減少が必ずしも労働需要の減少を示しているとはいえない。
(民間求人広告による求人は全国で増加も正社員求人は地域によりばらつき)
民間の職業紹介の代表例として、求人広告サイト上の求人データを抽出したビッグデータである、株式会社ナウキャストの「HRog賃金Now」の求人指数について、5年前の2019年と2024年で比較したい。正社員については、2倍以上となった佐賀県を筆頭に、18の府県及び全国平均では増加しているが、東北、北関東、甲信越、北陸、中国、四国の地域を中心に、多くの都道府県で減少しているなど、ばらつきがみられる(図表1-12(1))。特に30%以上の低下がみられるのが、宮崎県、岡山県、島根県、愛媛県である。
パート・アルバイトの求人指数については、44の都道府県で増加しており、9府県で50%以上伸びている(図表1-12(2))。その中でも減少、あるいは伸びの弱い地域をみてみると、こちらも東北、北陸、中国、四国といった地域が多い。
こうした増減について、構造的な背景として人口動態を確認したい。近年の高齢者労働の進展も踏まえ、15~74歳の人口についてみると、全国的に減少する中、特に、北海道、東北、甲信越、北陸、中国、四国を中心に地方部で減少している(図表1-13)。減少地域は求人指数の伸びの弱かった地域とおおむね一致していることから、こうした人口動態も加味すると、これらの地域の就業環境は求人指数の低下ほど悪化しておらず、労働需給はタイトになっていると考えられる。
(スポットワークの求人倍率の水準はハローワークより高く、2024年は上昇傾向)
民間による職業紹介が拡大する中、近年は短時間・単発の就労を内容とする雇用契約であるスポットワークも増加している。こうした動向は公的統計で捕捉できないことから、民間調査機関が提供するビッグデータに基づく求人倍率を確認しよう。求人倍率には季節性もみられ変動が大きいものの、全国の値では、2023年12月と2024年12月を比較すると、+0.49ポイントの3.38倍となっている。また、関東と近畿ではおおむね2~3倍程度、東海では2~5倍程度と、ハローワークの倍率より高水準で推移しており、スポットワーク求人が盛んに行われていることがうかがえる(図表1-14(1))。前年同月差をみると、2024年は求人倍率が上昇傾向にあり、新たな就業形態とそれを仲介する仕組みの普及が就業機会の拡大をもたらしていることがうかがえる(図表1-14(2))。