第1章 (1)地域別にみても上昇傾向の賃金動向

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本節では、各地域における近年の賃金上昇の傾向について、フルタイム労働者、パート・アルバイトに分けて、各種指標を用いて概観する。

1.フルタイム労働者の賃金動向

(フルタイム労働者の賃金は、2024年の年初以降、多くの地域で過去より上昇幅が拡大)

各地域における賃金上昇の状況を確認するため、都道府県が公表している「毎月勤労統計調査」のデータにより、2022年1月~2024年12月の各月における地域別平均賃金を算出した。また、年始のサンプル替えによる変動の影響を取り除くため、各年の1-3月期の値を100として推移を確認した。

まず、フルタイム労働者1の1人当たり所定内給与についてみると、各年とも4-6月期に高まる季節性がみられる。2024年は、多くの地域において、過去を上回る動きがみられ、特に北関東、四国、九州や沖縄において10-12月期までに年初を3%以上上回る賃金上昇がみられた(図表1-1)。

なお、所定外給与を含む「決まって支給する給与」についても、所定内給与とほぼ同様に、多くの地域で上昇幅が拡大する動きがみられた(図表1-2)。

(所定内給与の伸び率が全国平均を上回ったのは13都県)

調査方法の異なる別の統計でも賃金動向を確認しよう。厚生労働省が毎年6月分の賃金について調査する「賃金構造基本統計調査」により、フルタイム労働者の所定内給与(月収)を都道府県別にみると、最も高かったのは東京都の40万4千円で、次いで神奈川県、大阪府であった。前年比は全国平均で3.8%増となっており、これを上回ったのは13都県であった(図表1-3)。

(2024年の正社員の募集賃金は、和歌山県、香川県、宮崎県で前年比4%を超える高い伸び)

最後に、求人段階の賃金動向指標である「HRog賃金Now」のデータにより、正社員の募集賃金の伸び率をみよう。2024年は、26都県で前年の伸び率を上回っており、賃金上昇の加速は募集賃金の動きからもうかがえる。特に、和歌山県、香川県、宮崎県では4%を超える高い伸びとなっている(図表1-4)。募集賃金が上昇している背景には、需要拡大による循環要因、人口動態による構造要因などがある。こうした点は2章において検討していく。

2.パート・アルバイトの賃金動向

(多くの地域でパート時給の伸びが高まっており、最低賃金引上げの効果もみられる)

次に、パートタイム労働者の状況を確認するため、フルタイム労働者と同様に、2022年1月~2024年12月の各月における各都道府県のパートタイム労働者の時間当たり給与(時給)を地域別に集計した(図表1-5)。

パートタイム労働者の時給は、年後半に上昇する傾向がみられる。これは、最低賃金の改定が10月に発効する影響と考えられる。また、2024年は、大半の地域において直近3年間で最も時給の伸びが高い年となっており、北関東、中国、沖縄では10-12月期までに4%以上の上昇がみられる。こうした上昇の背景には、労働需給の引き締まりに加え、過去最高の引上げ幅2となった最低賃金の改定の効果が表れていることがうかがえる。

(2024年のパート・アルバイトの募集賃金は、24府県で前年比4%を超える高い伸び)

次に、「HRog賃金Now」のデータにより、パート・アルバイトの募集賃金(時給)の伸び率をみると、多くの県で2024年の伸び率が過去3年間で最も高くなっており、島根県、鳥取県を始め24府県で4%を超えている(図表1-6)。時給の上昇の背景には、正社員の場合と同様に、循環要因、構造要因などがあり、こうした点を2章でさらに検討するが、パート・アルバイトの場合には、特に最低賃金の引上げの状況や、最低賃金の平均賃金への近さの影響が大きいと考えられる。

コラム1:男女間の賃金格差

我が国全体の経済活性化のためには、地方創生、とりわけ「若者・女性にも選ばれる地方」の構築が重要であり、女性の地方離れの一因と考えられる男女間の賃金格差は、地方創生の取組課題の一つとして位置づけられている。また、前回の地域課題分析レポートでも、賃金水準が若年女性の地域選択に与える影響が大きいことが確認された3

このため、直近の統計データにより男女間の賃金格差の状況を確認することとしたい。「賃金構造基本統計調査」によるフルタイム労働者の所定内給与のデータによると、2024年の男女間の賃金格差(男性と女性の平均賃金の差を男性の平均賃金で除したもの)は、長野県、沖縄県、東京都などで前年より大幅に改善した。格差が拡大した府県もあり改善の度合いにばらつきはあるが、全国平均では24.2%と、前年より1.0%ポイント縮小した(コラム1図表1)。男女間の賃金格差は長期的に縮小傾向にあり、格差縮小に向けた政府の取組4による効果が一定程度寄与している可能性もある。

賃金格差は沖縄県が最も小さく、次いで高知県、京都府であった。男女間の賃金格差の背景には様々な要因が考えられるが、勤続年数や管理職比率について男女差をみると、賃金格差の小さい都道府県においては、こうした変数の男女差が少ない傾向がみられる(コラム1図表2)。相関をみると、男女間の賃金格差は、勤続年数の男女差が小さい地域ほど小さく(正の相関関係)、管理職に占める女性の割合が高い地域ほど小さい(負の相関関係)ことが確認できる(コラム1図表3)。

ただし、同じ職種で勤続年数や労働時間などがほぼ同じ場合でも、男女間で賃金格差は発生している。例えば、保育士、介護職員(医療・福祉施設等)、会計事務従事者についてみると、労働者の年齢、勤続年数や労働時間の平均が男女間でほぼ変わらないのにもかかわらず、所定内給与や年収に明らかな格差が生じている(コラム1図表4)。こうした格差を是正していくため、2022年から義務化された各企業の男女間の賃金格差の開示を活用するとともに、地域の産官学金労言5の関係者が連携して取組を進めることが重要と考えられる。


脚注1 本稿では、常用労働者のうち短時間労働者(同一事業所の一般の労働者より1日の所定労働時間が短い又は1週間の所定労働日数が少ない労働者)を除いた一般労働者を「フルタイム労働者」とする。
脚注2 最低賃金の全国加重平均の引上げ幅は、2023年度43円、2024年度51円となり、1978年度の目安制度開始以降の最大値を2年連続で更新した。
脚注3 内閣府政策統括官(2024b)42頁を参照。
脚注4 2022年7月からは、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」(平成27年法律第64号)に基づき、常時雇用する労働者が301人以上の事業主を対象として、男女の賃金の差異に関する情報の公表が義務付けられている。また、金融商品取引法に基づく有価証券報告書の記載事項にも、女性活躍推進法に基づく開示の記載と同様のものを開示することが求められている。
脚注5 産は産業界、官は行政、学は大学・高等学校・中学校といった学問に関わる機関、金は金融機関、労は労働者、言は報道機関を指す。
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