第3章 (2)まとめ

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東京圏を中心とする都市圏への若年層の人口集中について、前章で要因を分析し、前節ではその対応事例をみてきた。それらも踏まえ、最後に、本レポートのまとめとして、今後、政府や地域がとるべき方向性について考察したい。

(地域の特性も活かした魅力あるカリキュラムによる学生の取り込み)

若年層が地元を離れる要因は、主に進学環境、就業環境、生活環境に分けられた。

進学環境要因として、地元には希望の進路がないと考える若者が多く、実際に大学の知名度や学科における地域の偏りを確認した。それに対し、地元企業との連携など、地域に根差したカリキュラム、あるいは国際関係など、魅力あるカリキュラムで学生を集めている事例を紹介した。各大学においては、地域の特性も考慮しながら、また、卒業後の地元定着率という観点から就職先とも連携し、魅力あるカリキュラムによって学生を惹きつけていくことが重要である。産官学金労言33、地方を支える各アクターと連携した有機的な地域人材の育成が求められる。

(Uターン希望の若者に魅力ある職の創出も重要)

就業環境による要因については、地元には希望の職がないと考える若者が多く、その観点では、既に述べたように、地域と連携した大学のカリキュラムを通じて、地域の魅力ある職をより身近に感じてもらう取組が重要である。また、職があれば地元に残りたかった、あるいはUターンしたかったという若者も一定数存在し、大学生のUターン希望者も増えている。地元に大卒・院卒者が働きたい職場が少ないケースについても、地域における本社機能の移転・拡充、大学発のスタートアップ創出の推進策などは、大学・大学院を卒業した高度人材の雇用・地元定着につながる。地域・日本経済の活性化にも資するところ、引き続き取組が進められることを期待したい。

就業環境のうち、待遇面については、新卒を含む若年層、特に女性で人口流出入と賃金差との相関が強いことがわかった。地元へのUターンが進まない要因として、賃金水準が不十分であることも一因と考えられる。また、地方からの人口流出を防ぎ、特に戻りたい女性が戻りやすい環境をつくるという観点からも、投資拡大に加え、男女間賃金格差の是正や女性の管理職登用といった雇用慣行の改善が必要となる。非正規雇用の正規化の推進等による構造的な賃上げを通じて男女間賃金格差を是正し、結果として地域間格差を縮小させることも重要である。また、地域間の賃金格差是正に向けては、最低賃金の引上げ、特に水準の低い地域の底上げも必要である。

若年層ほどテレワークを選好している例からは、働き方の多様化を推進していくことも一つの手段となる。テレワークの進展により、働き方が多様化し、職場と居住地との地理的制約も解消されていくことも考えられる。現状では、週5日以上のテレワーク実施率はコロナ禍を経ても余り変化はないが、週1日以上のテレワーク実施率は上昇している(図表3-6)。テレワークについては、東京圏などの都市部においても、引き続き推進していくことが、働く者の希望をかなえるという観点からも重要である。

(若者に選ばれる地方に向けて)

生活環境要因については、今回のレポートでは焦点を当てていないが、特に若者の居住地移動の理由として、少なくない割合を占めている。都市は、利便性における相対的な優位性があるものの、居住コストの高さや通勤時間が長いが故の自由時間の制約等で劣っている。地域においても、魅力ある生活環境を構築していくことが重要である。

また、地域の閉塞感、閉鎖性を理由に地元から外へ転出した者も多かった。人間関係の緊密さは、地方の魅力の一つとして捉えることもできるが、これを忌避する層は一定数存在する。地域のありようについて検討を進めていく上で、こうした若者の意識も考慮することが重要と考えられる。

以上のように、若者に選ばれる、魅力ある地方に向けては、進学、就職、生活など、様々な面からアプローチしていくことが重要であり、本レポートが、各地域の人口移動政策を考える上で参考となれば幸いである。


脚注33 産は産業界、官は行政、学は大学・高等学校・中学校といった学問に関わる機関、金は金融機関、労は労働者、言は報道機関を指す。
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