第1章 (2)人々の地域移動のタイミング
前節では、我が国の人口について、東京圏への一極集中が進んでいること、特に女性の東京圏への純流入が多いことを確認した。ここからは、東京圏への人口流入が進学や就職など、主にどのタイミングで起きているかをみていくこととする。
1.東京圏(南関東)への年齢別移動状況
(東京圏への流入は、各地域とも20代前半が中心)
各地域のどの年齢層が多く東京圏に流入しているかを確認するため、「10代後半」から「30~40代」の間を4つの年齢層に分けて純流入の状況をみていく。
2023年の東京圏における地域別・年代別の人口純流入をみると、すべての地域において、「20代前半」が最も多くなっている(図表1-9)。次に多い年齢層は、東北、甲信越、九州、沖縄の4地域では「10代後半」となっており、それ以外の7地域では「20代後半」となっている。「20代前半」のうち、地域別に最も多いのは近畿からの純流入で、年間約1万5000人となっている。そのほか、東北、東海、九州からも1万人を上回る純流入となっている。
東京圏への純流入について、2019年との比較により、コロナ禍前後の動きをみると、全体として大きな変化はないものの、「20代前半」は、東北、北関東、甲信越からは若干減少している一方、東海、近畿からは若干増加している(図表1-10)。また、「10代後半」は、東北からの流入が若干減少している。
2.東京圏(南関東)への男女別移動状況
(東京圏への流入は20代前半の女性、10代後半~20代前半の女性は近畿圏へも多く流入)
次に、2023年における地域別・年代別の東京圏への純流入を男女別にみると、「20代前半」では、東北、北関東、甲信越、東海などにおいて、女性が男性より多い(図表1-11、12)。他方、近畿でも、「20代前半」の女性は東京圏への純流入が多いものの、中国、四国、九州などからの純流入も多く、同年代の男性とは異なる動きをみせている。
3.他地域への移動の理由
(20~29歳の居住地移動は「職業上の理由」、県外移動では2割が入学や進学の都合)
国立社会保障・人口問題研究所のアンケート調査によると、過去5年間(2018~2023年)に現住地への引っ越しを行った人が移動の理由として最も多く挙げたのは、20~29歳では「職業上の理由」(30.3%)であった(図表1-13)。
回答者のうち、県外から現住地に引っ越した人では、「職業上の理由」を挙げた割合は51.6%と全体平均より高く、さらに、非大都市圏から三大都市圏に引っ越した人では、62.5%とより高くなっている。
また、「入学・進学」を理由に挙げた割合は全体で6.5%、県外からの移動者で12.3%、非大都市圏から三大都市圏への移動者で20.6%である。「入学・進学」と「職業上の理由」を合わせると、非大都市圏から三大都市圏に引っ越した人の移動理由の8割以上を占めており、若い世代が三大都市圏に流入する主たる要因が、進学と就職であると示唆される。
コラム1:住民基本台帳人口移動報告の実態とのかい離
本章で紹介している人口移動の状況は、総務省による「住民基本台帳人口移動報告」(以下「住基移動」という。)を用いている。住基移動は、住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)の規定により市町村に届出等のあった転入者の日本国内の移動に係る情報を集計したものである。
住基移動において、人口の転出や転入がデータに反映されるためには、住居の移動に伴い、移動先の自治体に住民登録が行われている必要がある。住民基本台帳法では、転居後2週間以内の届出が義務付けられており、正当な理由なく届出をしない者には5万円以下の過料が科されるが、住民票を移さないという者は一定程度存在する可能性がある6。
他方、各地域の人口及びその移動については、5年ごとの国勢調査のデータが最も実態を反映しているものと考えられる。国勢調査は、日本に住むすべての人の世帯を対象に常住7している地域で調査を行っている。そこで、地域別・年代別の人口について、最新の国勢調査(2020年)と同時点の住基移動との間で、データの比較を行ってみた。
その結果、10代後半と20代前半の人口が、北海道、南関東、近畿では国勢調査の方が住基移動よりも多くなっている一方、多くの地域において、国勢調査の方が住基移動よりも少なくなっているなどのかい離がみられた。特に四国の20~24歳は、国勢調査の人口が住民基本台帳上の人口より10%程度少ないなど、相当程度のかい離が生じている(コラム1図表1)。
地域により程度に差はあるものの、若年層の人口移動については、本章でみてきた住基移動のデータよりも実際は多い可能性がある。