第3章 (1)人材確保・育成について
少子高齢化が進む中、各産業において人手不足感が高まっているが、それは半導体産業も例外ではない。本節では、今後の半導体産業の発展に欠かせない人材の確保・育成について確認することとしたい。
(今後、4万人以上の半導体人材が必要、域外就職も多い)
少子高齢化により、日本が人口減少社会に進む中、各産業で人手不足が深刻な課題となっている。特に半導体産業においては、これまでみてきたように、長期的に半導体関連の従業者が減少してきている中、足下では日本各地で半導体関連の設備投資が相次いでおり、今後、大幅な人手不足が予測される。例えば、一般社団法人電子情報技術産業協会(以下「JEITA」という。)によれば、今後10年で、主要企業9社25で43,000人の半導体人材が必要とされている(図表3-1)。
また、各地域の大学や高専で、半導体及びその関連分野を含む理系学生が、卒業後に域内にとどまらないケースも多く、各地で頭を悩ませている(図表3-2)。半導体人材の供給が限られている中、数少ない人材の奪い合いとなっているのが現状である。
(産学官が連携しながら、人材確保・育成にむけて各種の取組)
こうした状況に対し、各地域で取組が進んでいる。
教育関係では、各高専で半導体に関するカリキュラムが連携して実施されているほか、熊本大学でも、2024年4月より、工学部内に半導体専門のコースである半導体デバイス工学課程を設置した。また、東北大学では、2024年4月に学内共同研究施設等の一つとして、東北大学半導体クリエイティビティハブを設置し、関係機関とも連携して関連人材の育成に取り組むなど、各専門教育機関においても、専門人材の育成を加速させている。
リカレント教育も九州を中心に取組が進んでいる。九州工業大学では、2023年に半導体中核人材リスキリング推進室を設立しており、2028年までに、リカレント・リスキル教育プログラムを5個に増やすこと等を目標としている。また、福岡県では、公益財団法人福岡県産業・科学技術振興財団が、福岡半導体リスキリングセンターを開設し、一般や企業向けに半導体に関する講座やセミナーを提供している。このほか、熊本大学や北海道大学においても、半導体についてのリカレント教育プログラムの提供が始まるなど、年齢を問わない人材育成が進められている。
さらに、各経済産業局等が中心となり、地域コンソーシアムを形成し、地域の企業、教育機関、地元公共団体といった産学官の連携を図ることで、中長期的な視点から、人材確保・育成に取り組んでいる(図表3-3)。具体的には、学生の企業訪問や、学校への実務家教員の派遣など、地域の半導体産業に興味を持ってもらうための取組に力を入れている。また、半導体産業に求められる人材は、必ずしも電子工学に限られておらず、データサイエンスなど、幅広い分野にまたがっていることから、電子工学以外を専攻する層へのアプローチも行われている。
その他、JEITAでは、東北経済産業局の依頼を受け、小中学生向けのビデオを作成し、より長期的な人材確保に向けて取り組んでいる。
政府としても、2022年より、政府、地方公共団体、産業界及び大学・高専関係者を構成員とするデジタル人材育成推進協議会を開催し、高等教育機関を中心としたデジタル人材育成を産学官が一体となって推進している。
(地域が抱える共通の課題についての連携で、人材不足に対応)
人材不足への対応の一つとして、熊本県と宮城県の地域間連携をみていく。
前述のように、日本人の半導体人材はどの地域も不足しており、人材育成・確保のため、地域単位でコンソーシアムを実施するなど、各地で人材確保に努めてはいるものの、どちらかといえば長期的な対策が多い。そこで、半導体産業の立地が進む熊本県・宮城県の両県が連携して、人手不足の中での人材確保という共通の課題解決に取り組むため、新たな国家戦略特区として、産業拠点形成連携“絆”特区が2024年6月に指定された(図表3―4)。2県においては、当該特区の適用により、半導体関連産業に従事する外国人について、在留資格審査期間をこれまでの約3か月から1か月程度に短縮できるようにするなど、外国人材の受入環境の整備を行うこととなった。
このほかにも、2県は当該特区において、半導体関連人材の早期育成にも取り組んでいくこととしているなど、産業拠点形成のための環境整備に向け、様々な面で連携を図っている。
コラム3:外国人向け小学校
ここでは、JASMの工場建設が与える影響として、熊本県内における外国人労働者の子供の教育環境について確認したい。
JASMの第1工場の稼働に伴って、台湾から約400人の従業員が2023年8月より順次来日しており、約150人の子供が同行していると報道されている。外国人の子供の増加が見込まれるため、熊本県内の各種学校や団体では、受入体制の整備に取り組んでいる(コラム3図表1)。熊本県からの働きかけもあり、九州ルーテル学院が2024年4月よりインターナショナルスクールの小学部を開設し、一部の従業員の子供の受入先となっている。また、九州ルーテル学院を含め、現在熊本県内にインターナショナルスクールが2校あり、JASM第1工場より車で30分程度の熊本市内に立地している(コラム3図表2)。
既に第2工場の新設も決まっており、今後、台湾から更なる従業員の来日も見込まれるところ、台湾から入国する従業員の子供の教育問題もより大きなものとなる可能性がある。各市町村、ひいては、熊本県においては、こうした動向についても対応していくことが、地域社会との共生という観点からも重要になっていく。