第2章 (3)ラピダス(北海道)の投資に伴う経済効果

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続いて本節では、北海道のラピダスの投資による効果を確認したい。なお、2024年9月現在、2025年1月の完成に向け、工場建設中の段階であり、2025年4月よりパイロットラインを稼働、2027年からの量産化を目指している状況であるため、主だった経済効果が発現する時期については、JASM(熊本県)とは時間差があることに留意が必要である。

(北海道では、2023年度の製造業向けの工事請負が非常に大きな伸び)

第2節と同様に、製造業の施工都道府県別の工事請負をみてみると、こちらも2023年度に非常に大きな契約額となっており、ラピダスの工場新設が大きく寄与しているとみられる(再掲図表2-6)。

(ラピダス建設の影響もあり、周辺地域の地価は大きく上昇)

地価の状況については、前節のランキングでもみたとおり、千歳市周辺の商業地は、特に2022年以降、大きな伸びを示しており、工業地についても、2023年以降大きな伸びを示している。住宅地についても、足下でいったん伸び率は低下したものの、ここ数年で大きく伸びている。また、北広島市の工業地についても、高い伸びが続いている(前掲図表2-8図表2-22)。ラピダス進出以前の伸びについては、コロナ禍から明けて新千歳空港が本格的に稼働しはじめたこと、北広島市の北海道ボールパークFビレッジが2023年3月に開業したことの影響があると考えられる。足下でもそうした影響は引き続き残っていると考えられるが、特に2024年の千歳市については、商業地の伸び率が加速しており、ラピダスによる押上げ効果も含まれていると考えられる。

また、千歳工業団地の分譲状況をみると、ラピダスへの分譲が決まった後の2024年に分譲率が91%にまで達していることから、土地事情もひっ迫しており、地価上昇の要因になっているとも考えられる(図表2-23)。なお、千歳市としては、さらに工業団地を広げるため、市街化調整区域を変更する要望を検討しているとの報道も出ており、増加する土地需要への対応が課題となっている。

(建設業の雇用環境は、ラピダス建設前よりひっ迫状態が続く)

続いて、雇用の状況についても確認する。

半導体関連の求職者の関心については、前節の検索マップにもあるように、北海道の列においても、特に関東以北、中京圏・近畿圏を中心に赤が濃くなっており、ラピダスの計画発表を踏まえ、周辺地域や大都市圏から高い関心が寄せられていることが分かる(前掲図表2-11)。

次に、労働需要をみる観点から、北海道の産業別の新規求人数について確認する。製造業では、2022年にやや増加していたが、ラピダス進出の発表後、特に大きな変化はみられない。現在、2025年4月のパイロットライン稼働に向けて工場の建設中で、関連企業の進出もまだ多くはみられていないため、製造業の雇用に影響が出てくるのはまだ先であると考えられる。また、建設業についても、従前より北海道新幹線、札幌市の再開発などで建設需要が旺盛であったことを反映し、2020年以降、新規求人が高水準となっている(図表2-24)。ヒアリング情報も踏まえると、ラピダスの工場建設により、建設業の労働需要は伸びてはいるが、従来から続く需要のひっ迫に大きく拍車をかけるほどではないと考えられる。

製造業については、まだ影響は出ていないと考えられることから、建設業に絞って、ほかの雇用指標も確認する。所定内給与については、前述の労働需要のひっ迫も踏まえ、2023年に大きく上昇し、全国平均との較差も縮まっている(図表2-25(1))。また、労働者数も同様に増加している(図表2-25(2))。

最後に、求人広告サイトにおける指数を確認すると、2024年の7月に入り賃金の指数が急上昇しており、労働需要のひっ迫の影響によるものとみられる(図表2-26)。

(一部半導体関連企業は進出済、その他の指標も今後の発現に期待)

既に工業団地の分譲率を確認したが、特にラピダス進出以降に千歳市工業団地へ進出・用地拡大した企業を確認すると、半導体製造工場向けの事業を行う企業がいくつか進出している(図表2-27)。本格的な参入は、まだ先とみられている中、既に工場メンテナンスに関連した企業は進出しており、ラピダスへの期待の高さがうかがえる。

人口については、北海道全体で長期的に減少している中で、千歳市、恵庭市、北広島市では増加している。特に直近では、札幌市が減少に転じた中でも増加しており、これらの市の人口増加が際立つ。もっとも、現時点ではラピダスに関連した企業の進出は数が限られており、むしろ、新千歳空港における便数増加に伴う空港関連職員の増加や、北海道ボールパークFビレッジ開業及び近隣地域の再開発の影響が考えられる。

また、消費についても、北海道全体で伸びてはいるものの、現時点では観光需要が戻ったことによる影響が大きいものと考えられ、ラピダス進出の影響を測ることは難しい。千歳市周辺に各種小売店が進出しているとの報道もあり、工場周辺の消費も徐々に伸びているものと考えられるが、関連統計データへの反映が待たれる。

コラム2:ラピダス周辺の道路状況について

コラム1と同様に、ラピダス周辺の交通状況についても確認したい。

ラピダス周辺の交通断面量のデータについては、最も工場に近い地点が、国道36号線上の、地図のA地点、B地点と、やや離れた地点となってしまう(コラム2図表1)。ここは、千歳市内の施工会社の寮から工場に向かう道であるとともに、新千歳空港から一般道で札幌市内や北広島市、恵庭市等に向かう場合に通過する地点でもあり、新千歳空港の利用者が多く通過する地点である24。そこで、新千歳空港の乗降客数とともに交通量をみてみると、2023年半ばまでは、空港の利用者数に比例して交通量が増えている。一方、それ以降については、空港の利用者数が大きく増えていない中で、微増していることが分かる(コラム2図表2)。これは、ラピダスの千歳工場建設のタイミングとも重なることから、工場建設によって該当地点の交通量が増加したことが考えられる。

その上で、当該地点は、元々多い交通量が想定されているため片側2車線となっている国道であること、また、施工会社がJASM建設時の反省を踏まえ、右折をしないルートを通るなど、渋滞防止策に努めていることもあり、現地でも渋滞しているとの声はさほど聞かれない。ただし、今後の工場完成に向けて佳境に入るタイミングに冬場の降雪が重なることから、交通状況について、引き続き注視が必要となる。


脚注24 高速道路を使用する場合は、インターチェンジが国道と逆側にあるため、通らない。
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