第3章 (1)家計の消費バスケットと物価水準の構造的な地域差

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消費者が直面する物価の水準については、全国展開しているスーパーやコンビニエンスストアで販売される食料品や日用品などは全国共通の部分が大きいが、光熱費や住居費などでは地域による差異もみられる。

また、気温差による冷暖房の利用頻度の違い、自動車保有率の違い、教育サービス産業の供給体制の違いなどにより、消費バスケットの構成比は地域ごとに異なる。そのため、各品目の物価上昇が家計に及ぼす影響度合いも、地域によって異なる。そこで、まず、「家計調査」(総務省)のデータから消費バスケットの構造的な地域差についてみていくとともに、近年の物価上昇局面で各地域の消費バスケットがどのように変化したか、確認してみたい。

(地方では光熱・水道費や自動車関係費への支出が大きい)

「家計調査」(総務省)から、2人以上勤労世帯の2023年の1月当たりの平均支出額とその内訳を地域別/都市規模別14にみていくと、消費支出額の総額は、関東、北陸、近畿が全国平均以上か同程度となっている(図表3-1)。また、都市規模別にみると、都市規模が大きいほど消費額が大きくなっている。

主要品目別に消費支出額の構成比を大きい順にみていくと、「食料」は全ての地域において構成比が最大であり、地域差が小さい(図表3-2)。次いで構成比が大きいのは「交通・通信」及び「その他消費支出」となっており、さらに「光熱・水道」及び「教養娯楽」が続く。こうした大きな構成比の順は各地域で共通しているが、個別の比率については地域差もみられる。

特徴的な地域差としては、関東・近畿では「住居」「教育」「教養娯楽」の構成比が相対的に大きく、また、北海道・東北・北陸では「光熱・水道」「交通・通信(うち自動車関係費)」の構成比が相対的に大きくなっている。

都市規模別でみると、大都市において「住居」「教育」「教養娯楽」の構成比が大きく、関東・近畿と同様の傾向となっている。一方、小都市・町村では、「光熱・水道」「交通・通信(うち自動車関係費)」の構成比が大きくなっている。「食料」については都市規模による違いはみられない。

(地方では食料・光熱費など生活に欠かせない支出の増加が、教養・娯楽等の裁量的支出を圧迫)

次に、上述の消費支出の品目別の構成が、近年どのように変化してきているか確認したい。感染症拡大前の2019年から2023年にかけての消費支出額の変化をみると、消費支出額の総額は全国平均でやや減少しており、地域別にもほとんどの地域で同様に減少している。都市規模別にみると、大都市・中都市では消費支出額がやや増加する一方で、小都市・町村では支出額が減少しており、都市と地方で動きに違いが生じている(図表3―3(1))。

品目別には、

  • 食料品の値上げが相次いだことにより、「食料費」に対する支出が全ての地域で4,000~7,000円程度増加しており、特に都市規模別の大都市では8,000円以上の増加となっている(図表3-3(2))。
  • また、「光熱・水道費」も、資源価格高騰の影響を受け、全ての地域で増加しており、特に北海道・東北・北陸・中国で2,600~3,000円以上の増加となっている。
  • 「交通・通信費」は、ガソリン価格上昇により「自動車等関係費」の支出増加があった一方、携帯電話各社で新料金プランの導入が進んだこともあり「通信費」の支出が減少している。地域別には、北海道では支出額が7,000円程度増加したが、多くの地域では2,000~8,000円以上減少している。
  • 「住居」については、関東・近畿・四国では増加しているが、その他の地域においては減少しており、特に中国・北陸・北海道で減少額が大きい。
  • 「被服・履物」については、全地域で1,000円~2,000円程度減少している。「教養・娯楽」についても多くの地域で減少しているが、関東・近畿・沖縄では増加している。

以上まとめると、全国的に「食料」「光熱・水道」といった生活必需品への支出が増加する中で、地方部(地域別には関東・近畿を除く地域、都市規模別には大都市を除く地域)では、「被服・履物」「教養・娯楽」といった裁量的支出の減少がみられている。一方で、都市部(地域別には関東・近畿、都市規模別には大都市)では、「光熱・水道」の増加が相対的に小さく、「交通・通信」関連支出が減少したこともあり、「教養・娯楽」といった裁量的項目の支出の水準は維持されている。

(物価水準は「住居費」「光熱・水道費」等で地域差が大きい)

このように家計の消費バスケットには構造的な地域差が存在しているが、「消費者物価地域差指数」(総務省)から、物価水準の構造的な地域差とその時系列の変化についても確認しておきたい。

まず、確認できる最新の2022年のデータから、総合及び品目ごとの物価水準の地域差をみてみる。

各都道府県の消費バスケットのウェイトで統合した「総合」でみると、物価水準が最も高いのは東京都、物価水準が最も低いのは宮崎県で5年連続となっている(図表3-4(1))。また、物価水準が最も高い東京都と最も低い宮崎県との比率は1.09倍となっている。指数が100(全国平均)を上回るのは、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)と北海道、山形県、京都府の7都道府県となっており、特に、東京都(104.7)と神奈川県(103.1)が突出している。

品目ごとにみていくと、

  • 最も地域差が生じているのは「住居費」となっている(図表3-4(2))。「住居費」に関しては東京圏(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県)が突出して高くなっており、最も高い東京都と最も低い香川県との比率は1.60倍となっている。
  • 次に地域差が大きいのは「教育費」である(図表3-4(3))。「教育費」は、東京都、神奈川県や大阪府を中心とする近畿の府県で高い傾向にある。最も高い和歌山県15と最も低い群馬県との比率は1.58倍となっている。
  • これに次いで地域差が大きいのが「光熱・水道費」となっている(図表3-4(4))。「光熱・水道費」は、北海道・東北といった北日本で高くなっており、最も高い北海道と最も低い大阪府との比率は1.27倍となっている。

こうした構造的な物価水準の地域差が、約10年前(2013年)、感染症拡大前(2019年)と比較してどのように変化してきているか、地域別にみてみたい。上述した地域別の特徴は2013年には既にみられていたが、北海道・東北・中国では、他地域に比べ、「光熱・水道」の価格が相対的に高く、このうち特に北海道では、10年前に比べ価格が上昇していることが分かる(図表3-5(1)~(10))。また、関東の「住居費」は時系列的にはそれほど変化はみられないが、近畿で近年「教育」の価格が他地域に比べ上昇している。ただし、これらの価格の10年前と比べた変化幅は大きくはなく、総じて、構造的な物価水準の地域差の特徴には変化はみられない。


脚注14 本章で扱う「家計調査」及び「消費者物価指数」の「地域別」区分は以下のとおり。
北海道:北海道
東北:青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
関東:茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県
北陸:新潟県、富山県、石川県、福井県
東海:岐阜県、静岡県、愛知県、三重県
近畿:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
中国:鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
四国:徳島県、香川県、愛媛県、高知県
九州:福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県
沖縄:沖縄県
「都市規模別」は、大都市(政令指定都市及び東京都区部)、中都市(大都市除く人口15万人以上の市)、小都市A(人口5万人以上15万未満の都市)、小都市B・町村(人口5万未満の市及び町村)の4つの区分。
脚注15 和歌山県については「教育費」に含まれる私立大学の授業料が全国平均から乖離する要因となっている。
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