『地域課題分析レポート(2024年春号)』の公表にあたって

[目次]  [次へ]

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)では、旧経済企画庁調査局時代の1981年から、各地域の景気判断を示す「地域経済動向」を作成し、2000年からは毎四半期公表してまいりました。また、1987年からは地域経済が抱える構造問題を分析する「地域経済レポート」(2003年から「地域の経済」と名称を変更)を年に一度作成してまいりました。

しかしながら、地域の直面する課題は複雑多岐にわたり、その多くが、景気循環要因と構造的要因が不可分に絡み合うものとなってきております。もはや景気動向と構造問題を別々にして分析することには限界があります。また、ICTの進化や少子高齢化、地域からの人口流出が進み、更にはコロナ禍を経て、地域経済における構造変化も急速に進んでおります。年に一度の分析を超えて、これまで以上に地域経済の動きを素早く捉え、景気動向と構造問題をあわせて分析していくことが求められております。

こうしたことから、今年度より、これら「地域経済動向」と「地域の経済」を統合・発展させ、地域の構造問題と景気動向を包括的に分析し、四半期ごとに適時・迅速に公表する「地域課題分析レポート」を創設することといたしました。これにより、幅広いテーマに関する分析をタイムリーに行ってまいりたいと考えております。

その記念すべき第1号となる、2024年春号では、「地域における賃金・物価の好循環の検証」をテーマとしました。

日本経済は、本年の春闘での賃上げ率が定昇込みで5.1%と、1991年以来33年ぶりの高水準の賃上げが実現し、足下の企業の設備投資が100兆円を超え、史上最高の水準にあるなど、デフレから完全に脱却し、成長型の経済を実現させる千載一遇の歴史的チャンスを迎えています。日本経済を新たなステージに移行させていくためにも、賃上げを起点に所得が向上し、それが消費の拡大、企業の収益向上へとつながり、設備投資等によって生産性が向上する中で、更なる賃上げへと好循環が回っていくことが重要です。そのためにも、まずは、物価上昇を上回る賃金上昇を各地域において実現していくことが肝要です。本レポートでは、こうした問題意識の下、地域ごとの賃金・物価動向をきめ細かく分析しました。

第1章では、2023年の地域ごとの賃金上昇について統計・ビッグデータに基づき詳細に確認し、北関東・東海など大手製造業が立地する地域、北海道などインバウンドによる押上げがみられる地域において、特に賃金上昇率が高いことを分析しています。

第2章では、直近の春闘の妥結状況を中心に分析し、全体として高い賃上げ率ではあるが地域による差があること、製造業を中心に高い賃上げ率となるものの、産業の裾野、とりわけ、中小企業への波及に課題が残ることをみています。そのうえで、価格転嫁しやすい土壌の形成や中小企業の意識改革・価格競争力の向上など、全国津々浦々への賃上げの波及に向けた課題整理を行っています。

第3章では、家計の直面する物価や生計費の状況について分析しています。地方では光熱費や自動車関係費(ガソリン等)への支出が大きく、特に地方において近年の食料費や光熱費などの価格上昇が教養・娯楽費等の裁量的支出を圧迫しています。また、首都圏の住居費が突出して高い一方、電力料金は地域別の差異が大きく広がっています。これら消費バスケットや物価水準の差異により、電気料金やガソリンなどの値上がりが及ぼす影響は地域により異なり得ることを示しています。

最後の第4章では、前章までの分析を基に、今後、春闘の結果が賃金に反映されていくことにより、各地域で物価上昇率を上回る賃金上昇の実現が期待されるものの、地域ごとに異なる賃上げの状況や物価動向に留意が必要なこと、各地域で賃金・物価の好循環が進むために求められる方策について、整理しています。

本レポートが、地域における賃金と物価の好循環に関する理解を深めるとともに、それぞれの地域でのデフレからの完全脱却に向けた取組を検討する際の一助となれば幸いです。

最後に、本レポートの作成にあたって、企業や地方自治体、関係省庁などの皆様にヒアリングやデータ提供等を通じて御協力を賜りました。この場を借りて深く感謝を申し上げます。

2024年6月

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

林 伴子

[目次]  [次へ]