第3章 第3節 資産の有効活用と管理の効率化
行政サービスの効率的な提供は重要であるが、人口減少下ではストックを利用したサービスの一人当たり費用が継続的に上昇するという問題に直面する。公民館や図書館等の公共施設は、一旦設置されると数十年に渡り便益を提供し続けるが、ストックの大きさに連動して維持管理費用が次第に重く圧し掛かってくる。ここでは、そうしたストックをどのように管理活用するか、という点を検討する。
1)地方管理の公共施設の有効活用
(公的施設資産のうち、地方管理分は名目520兆円程度55)
我が国の社会資本ストック額は約830兆円あるが、そのうち520兆円程度が地方管理分である。国道の一部を含めた多くの道路、公営住宅や学校等の公共施設、上下水道、廃棄物処理施設等の身近な生活インフラは、そのほとんどが地方公共団体によって管理されている(第3-3-1図)。
(道路や学校等の公共施設は一人当たり保有高が上昇する見込み)
人口減少に伴い一人当たりストック量は増加していくため、必要に応じて規模を縮小することが不可欠である。将来人口推計を用いて一人当たりストック量を延長すると、一人当たり道路ストックは、人口減少によっておおむね全て都道府県で増加する見込みである(第3-3-2(1)図)。特に、中国地方では、一人当たりストックの全国平均が237万円であるのに対し、500万円以上に達する県もある。道路ストックが機能を発揮するためには、維持更新費用を負担していくことが必要だが、それに見合う利用量を確保できなければ、負担超過になってしまう。
同様に、学校ストックも2030年にかけて大幅に過剰になっていくことが見込まれている(第3-3-2(2)図)。年少人口一人当たりの学校ストックの金額は、全国平均は477万円から656万円の増加となるなか、特に、東北や中国、四国地方においては、急増していく見込みである。一人当たりの資産が増えるということは、それだけ一人当たり維持費用も増えることになり、住民負担が高まることになる。
(公共施設や生活インフラ等の維持更新費用が地方公共団体の財政を圧迫)
こうした地方公共団体が管理する公共施設や社会インフラは高度成長期に整備されたもの56を中心に現在更新期を迎えており、多額の更新費用が必要と見込まれている57。地方公共団体が設置・管理している公共施設や社会インフラについて、耐用年数の経過後にも現在と同じ規模で更新すると仮定すれば、更新額が試算できる(第3-3-3図)。
今後40年に必要となる更新費用の1年分の金額を人口規模別に試算すると、更新費用は規模の小さい団体ほど一人当たり負担が多くなっており、人口1万人未満の地方公共団体と政令指定都市との差は4倍近くになる。これは、道路や上下水道は人口密度にかかわらず居住エリアを面的にカバーする必要があり、人口密度が低い小規模団体では、道路や上下水道の一人当たり延長が大きくなってしまうためである。
2)集約化や複合化の取組と期待される効果
(公共施設の集約・複合化には一定のコスト削減効果)
増加が見込まれる費用に対し、残すべき公共施設を選定・整理していくことはもちろんのこと、公共施設を複合化し、多用途に使える一つの施設を整備することでコスト削減や住民の利便性向上を図る試みが、既に各地で行われている。例えば、浜松市は早くから公共施設の集約・複合化の取組を進めている。その中から実例を用いてコスト抑制の程度を調べてみよう。58
一つ目の事例は、2012年に老朽化が進んでいた舞阪文化センターを廃止し、その機能を雄踏文化センターと町役場の跡地である舞阪協働センターに移転したものである。老朽化した舞阪文化センターを存続させた場合と比較すると、事業後30年で約31億円のコスト削減効果が見込まれる。削減効果の源泉は、舞阪文化センターのような規模の大きい施設を廃止することで老朽化に伴う改修費や借地料を削減する点である。また、余裕がある既存施設に機能移転することで既存施設の稼働率の向上にもつながる(第3-3-4図)。
二つ目の事例は、さくま郷土遺産保存館と佐久間就業改善センターについて、その機能を旧町役場である佐久間協働センターに集約することで、施設の廃止や民営化を行った事例である。この事例では、施設廃止による改修費等の節減に加え、施設民営化による賃料収入など収益増加にもつながった。その結果、事業後30年間で約10億円のコスト削減効果が見込まれる(第3-3-5図)。
(コラム3 公立病院改革の評価)
地方公共団体が設置する公立病院は重要な地域医療機関であるが、人口減少と高齢化により、経営が悪化する傾向にあった。そこで、政府は「公立病院改革ガイドライン」(2007年)を示し、各団体における「公立病院改革プラン」の策定を通じた経営改革を進めてきた。ここでは、個別病院の財務データを利用し、改革の成果を確認してみたい。
(公立病院の数は減少したが地方公共団体からの繰入金は年額0.7兆円程度で推移)
最初に公立病院全体の状況を概観する。病院数は、1,000(2004年度末)から、839(2013年度末)へ2割程度減少した。減少要因は、診療所化が72件と最も多く、次いで地方独立行政法人化が67件であり、経営形態の変更が進んだためである。
経営状況について、経常赤字の病院が全体に占める割合をみると、2006年度では75%程度であった。その後、経常赤字病院の割合はやや低下したものの、2013年度でも55%程度である(コラム3-1図)。経常損益には地方公共団体からの繰入金が含まれることから、財政援助を得てもなお、多くの病院は赤字状況にある。
他会計から公立病院会計への繰入金は7,000億円程度で推移しており、病院経営は設置団体の慢性的な財政負担となっている。繰入金のうち、政策的医療に関する経費負担金は意図したものだが、一般的な医療事業によって生じた損失の補てん部分は、経営改革によって解消されることが望まれる。
(医業収支が改善したのは収入も支出も増やした規模の大きい病院)
では公立病院の改革効果について評価しよう。ここでは、改革の始まる前(2007年度)と取組の進んだ後(2013年度)の経営状況の変化を分析する。改革の成果は、医療事業から得られる収益(医業収益)とそれに要する費用(医業費用)の変化(医業損益)に表れると考えた。また、収益側の負担金や費用側の減価償却費は当座の経営努力とは無関係なので除外した。その上で、病院の経営環境は、立地や規模で異なることを踏まえ、立地地区59と病床の規模60によって4グループに分類した上で分析している(コラム3-2図)。
評価対象病院数632のうち、医業損益が改善した病院数は290、悪化した病院数は342であった。損益変化の要因は、医業損益が改善した病院グループでは、医業収益の増加した病院が多く、また規模が大きいほどその傾向が顕著であった。一方、医業損益が悪化した病院グループでは、医業費用の減少を上回って医業収益が減少し、結果として医業損益が悪化した病院が多かった。特に、不採算地区に立地する病院は、このパターンにあてはまっていた。つまり、医業損益変化の分岐となった主要因は、医業収益の変化であり、医業費用を抑制して経営改善を果たした病院は、相対的に少なかった。
(医業収支の改善はもっぱら患者当たりの単価上昇)
次に、損益変化の主要因である医業収益の変化要因を特定するため、外来収益(患者数と平均単価)と入院収益(患者数と平均単価)の動きに着目する(コラム3-3図)。規模に着目すると、医業収益は大規模病院ほど増加し、規模が小さくなるにつれ減少していた。特に不採算地区の病院では医業収益は減少していた。これを患者当たりの平均単価の変化と患者数の変化に分解すると、規模にかかわらず平均単価は医業収益にプラスの寄与となっており、特に入院患者の平均単価はプラス効果が大きかった。
他方、患者数の変化は、全てのグループでマイナスの寄与となっている。ただし、大・中規模病院では、減少寄与が小さいものの、小規模病院における患者数の減少寄与は大きかった。特に不採算地区の病院では、患者数の減少効果が平均単価の上昇効果を上回り、全体の医業収益を減少させる結果となっている。
(経営改革のポイントは規模や立地によって異なり、連携や機能分化が重要課題)
以上のとおり、公立病院改革の実施期間における経営改善の度合いは、病院の規模や立地条件といった環境により大きく異なっていた。大・中規模病院は、医業損益の改善したところが多く、それは収益増加によるところが大きかった。それも、患者当たり平均単価の上昇によって患者数の減少を補っていた。一方、小規模病院では、平均単価の上昇幅も小さく、費用削減の不足や患者数の減少により、赤字となる例が多数あった。医師不足等による十分な医療体制を整えられない病院も、この区分に属していると考えられる。
今後の人口減少等が一層進む中で、公立病院が地域のニーズに応じ、採算確保が困難な特殊医療も提供しつつ、独立採算を目指すことは可能だろうか。地方ほど患者数の減少等によって経営は厳しいことからも、医療圏内で一層の機能分化と連携を図る、あるいは介護や福祉事業、健康産業との連携等により範囲の経済性を活かし、採算性を回復する必要がある。なお、患者当たり単価上昇による収益増を主因とする経営改善は、国民負担によるものであり、あまり意義のある黒字化ではないことは言うまでもない。