第3章 第1節 社会保障サービスの持続的提供への課題
1)医療・介護保険への高齢化圧力
(大都市部の医療・介護需要は2030年頃まで急増するが、多くの地域でその後は減少)
第一に取り上げるのは医療・介護サービスである。高齢化に伴い、医療・介護サービスへの需要は増加すると見込まれる。そこで、医療・介護サービスの主な需要者は75歳以上であることから、潜在需要と供給容量の関係について、都道府県別に病床及び介護ベッド当たりの75歳以上の人数を比較することで確認しよう(第3-1-1(1)、(2)図)。
将来人口推計を用いて2030年と現状(2015年)の病床及び介護ベッド当たり人数を比較すると、全都道府県で人数が増加すること、特に都市部の増加が顕著であること、医療では神奈川県、介護では千葉県が最も病床・介護ベッド当たりの人数が多くなる。
ただし、2040年まで延伸すると、次第に人口全体の減少が進むことから、病床及び介護ベッド当たりの人数は東京都や神奈川県、宮城県、沖縄県などを除く道府県で減少する見込みである。したがって、15年後の需要増加見込みに対応する機械的な施設整備を進めてしまうと、その後10年以内には設備過剰感が高まるところが多くなることになる。
(都道府県によっては保険料に大幅な引き上げ圧力が存在)
次に、社会保障の負担側に生じる人口減少問題の程度を確認しよう。国(社会保障基金)から家計に直接給付される年金を除き、医療や介護サービスは基本的に地方公共団体(医療保険の一部は雇用者)によって提供されている。国による団体間の負担水準の調整や被用者保険制度はあるものの、地方公共団体が主たる医療・介護保険の保険者である。給付が増加すれば、基本的に、被保険者である当該地域住民の負担が増加する仕組みである。49そこで、現状の医療・介護保険料の負担率を一定にした条件の下で、人口要因だけによって給付と負担の収支尻が変化する程度を求めた50。2012年度と2030年度の収支尻を比較すると、今後高齢化が進む東京都では1,200億円以上黒字が減少することが見込まれる。悪化の背景には、高齢者の増加だけでなく、働き手の減少もある(第3-1-2図)。
2)人口変化によって偏在する保育サービスの需要と供給能力
(保育サービスの供給は都市部で不足が続くものの、地方では過剰感が一層高まる)
他方、保育サービス等、子育て若年世帯向けの社会保障サービスの提供量については、慢性的な不足が指摘されている。特に、労働参加率を高めることと希望出生率「1.8」を実現するという二つの政策目標を同時に達成するためには、十分な保育サービスの供給が必要となる。
そこで、保育サービスの過不足程度を把握するために、潜在的な児童数に対する保育所定員の比率を都道府県別に比較する。待機児童問題は特に0-3歳児で深刻であるが、都道府県別の将来推計人口は1歳刻みで公表されていないことから、便宜的に0-4歳の人口を用いる。結果は、待機児童問題が深刻とされる都市部を中心に、保育所定員/4歳以下人口比率は低く、待機児童の報告がない県には余裕があり、地域差が著しい(第3-1-3図)。
続いて、保育所定員が現状水準一定の下で今後の人口動態(中位推計)がもたらす影響を確認すると、全都道府県において少子化が進む2030年においても、神奈川県や大阪府等の都市部を中心に保育所定員の不足は続く一方、島根県や福井県等では過剰感が相当高まる見込みである。政策効果が発現し、現行の低い出生率が希望出生率に近づいていく場合には、出生者が都市部に集中すれば特に、不足感が相当高まることも示唆される。