第4章 第1節
4-1.雇用・労働市場の動き
(労働需給は全ての地域で改善)
2012年末以降、地域別有効求人倍率は、当初から1倍近傍で推移していた東海や北陸などの地域のみならず、水準の低かった沖縄や北海道などにおいても着実な改善がみられる。例えば、北海道では2015年8月に1倍を上回り、沖縄を除く全ての地域で1倍を超えることとなった。沖縄についても、12月には本土復帰以降、最高値を更新する0.92倍を記録しており、全国的に着実な改善がみられる(第4-1-1図)。
(有効求人倍率が1倍を超えた職業安定所数は全体の7割強と高水準)
労働需給の改善状況をより詳細に把握するため、職業安定所別有効求人倍率の動向をみると、ばらつきがあるものの、改善は津々浦々に広がりをみせている(第4-1-2(1)図)。2012年10-12月と2015年10-12月の有効求人倍率を比較すると、434の職業安定所のうち、427の職業安定所(98.4%)で改善している。また、2016年1月には、有効求人倍率が1倍以上の職業安定所は309か所(71.2%)となり、全国的に需給改善が進展していることが分かる(第4-1-2(2)図)。
(新規求人倍率も全ての地域で改善基調)
次に、(有効求人から前月から繰越された有効求人数を除いた)新規求人倍率の動向をみると、2012年末以降、こちらも全ての地域で着実に改善している(第4-1-3図)。
2014年半ば以降は、インバウンドを中心とする観光需要の高まり等により、沖縄の新規求人倍率も1倍を超え、全ての地域で1を上回って推移している。2015年時点でも、全ての地域で高い水準を維持しており、引き続き企業における採用意欲の高さがうかがえる。
(新規求人数は医療・福祉、宿泊・飲食等で多い)
産業別に新規求人数の動向をみると、高齢化の進展を背景とした医療・介護需要の高まりを受けて、全ての地域で「医療・福祉」が増加に寄与している。また、「宿泊・飲食」や「卸売・小売」は、観光需要の高まり等により、東北を除く全ての地域で増加に寄与している。一方、「サービス」については、2014年以降、北関東、九州、沖縄を除く地域において、派遣労働者求人が減少し、減少寄与が大きくなっている。また、「建設業」は、2015年以降、公共工事の減少等を背景として、地方を中心に増加の寄与が低下している(第4-1-4図)。
(失業率は全ての地域で低下、有効求人倍率も改善)
こうした労働需給の改善は失業の解消に結び付くことが重要である。2012年末から2015年末までの完全失業率の動向についてみると、沖縄は水準が高いものの、全ての地域において失業率が低下傾向にある。なお、1995年以降の各地域における平均失業率と現状を比較すると、多くの地域で過去平均よりも低い(第4-1-5図、コラム2)。
他方、職業別有効求人倍率をみると、2012年度から2015年度にかけて、特に、サービス、建設・採掘などの職種において3倍近傍で推移しており、職種別の求人数が求職者数を上回る傾向が続いている4。特に、サービスの地域別有効求人倍率は全ての地域で上昇している。建設・採掘の地域別有効求人倍率は、東北、近畿、九州、沖縄など一部の地域でおおむね横ばいとなっているものの、それ以外の地域では、引き続き上昇しており、需給がタイト化していることを示唆している(第4-1-6(1)、(2)、(3)図)。
(労働需給のタイト化はマインド調査にも顕著)
労働需給のタイト化は、職業安定所経由の求人求職のルート以外でも確認できる。例えば、日銀短観の雇用・人員判断DIは、地域ごとにばらつきがみられるものの、全地域的に人手不足感が高まっていることを示唆している(第4-1-7図)。こうした需給のタイト化は、労働力人口が減少するなか、職種間や産業間での労働需給調整が円滑に進んでいないことも影響している可能性がある。こうした動きを背景に、「景気ウォッチャー調査」の結果にも、福祉、建設等さまざまな業種で、雇用のミスマッチや、人手不足を指摘するコメントが寄せられている(第4-1-8表)。
これまでのところ、需要不足に伴う失業は減少している一方、雇用のミスマッチや特定職種における人手不足が全国的に拡大している点に注意が必要である。大都市部に先行して人口が減少している地方では、人手不足が経済成長の足かせとなる可能性もあり、ミスマッチの解消や投資増を含めた生産性の向上が重要となる。
(労働需給のタイト化には供給側の構造要因も影響)
労働需給のタイト化については、需要(企業)側の要因だけではなく、供給(労働者)側の要因による部分もある。就業者数の変化を失業者から就業への移動、非労働力人口から就業への移動、15歳以上労働力人口の増減に分解すると、失業者や非労働力人口から就業者への移動が増加を支える一方、南関東や沖縄を除く地域では、15歳以上の労働力人口の減少や人口移動が就業者数の減少に大きく寄与しており、特に、東北、北関東甲信、中国、九州での寄与が大きい(第4-1-9図)。つまり、労働需要を満たすよう失業者も今まで働いていなかった者も雇用されるようになっているが、総数である15歳以上人口が減少することで総労働供給が抑制されている地域があることが分かる。
この間、高齢者と65歳未満の女性の労働参加率は、大都市のみならず、全ての地域で上昇しており、労働参加が浸透しつつある(第4-1-10図)。今後、人口減少が続く中、高齢者や女性が働きやすい雇用形態や環境整備が一層求められることになる。