第1章 第2節
1-2.消費の回復に地域差が生じる要因
前述のとおり、消費税率引上げ後の反動減で落ち込んだ消費の持ち直しには地域差がみられる。以下ではその要因を所得、資産、外国人旅客、の三つから整理する。
(所得変化と消費税率引上げ後の消費水準の変化)
まず、消費税率引上げ後の2014年4月-9月から2015年4月-9月の総所得(一人当たりの現金給与総額に労働者数を掛け合わせたもの)と消費(販売側統計)の動きを比較すると、消費は総じて増加した(図中の上方へのシフト)が、総所得は、北海道、東北、近畿で減少した(第1-2-1図)。
北海道は一人当たり賃金、東北は就業者数と一人当たり賃金双方、近畿は就業者数の減少が、総所得減少の要因となっている。所得の伸びに対して消費がより伸びる背景には、販売側の統計を用いていることから訪日外客の購買による押上げ分も含まれているだろうが、こうした影響を最も受けると考えられる沖縄では、所得と消費の伸び率はバランスしており、消費の相対的な上昇は発生していない。
所得が減少した3地域では、いわゆるラチェット効果(所得が低下しても、低下した所得の割合ほどには消費を減らさない現象)も下支えに寄与していると考えられるが、沖縄を除く6地域でも、平均消費性向の高まる結果となっている。これは、消費税率引上げ後に反動で減少した消費水準が、1年後には、2~3%程度回復したことを示唆していると考えられる。
(資産保有の多い世帯の消費の方が資産価格の影響を受けにくい)
次に、消費と資産保有の関係を確認する。資産の例として、世帯当たり株式保有額(2人以上の世帯)を利用して地域間比較をすると、関東や近畿などの大都市圏を含む地域の世帯は、他の地域に比べ、株式保有額が多い(第1-2-2図)。
そこで、株式保有額と消費支出額の関係を描くと、世帯当たりの株式保有額が多いほど、消費支出額も多い傾向にあるが、その程度は逓減していくことが読み取れる(第1-2-3図)。このことから、株式保有額が多い大都市圏の世帯ほど、資産価格変化の影響はあるものの、消費支出額への影響は、資産規模に応じて逓減すると考えられる。
(観光需要の拡大と地域的なばらつき)
第三の要因は訪日外客による消費である。こうした非居住者の消費は、我が国のサービス収支の受取側に計上されるため、小売販売から家計の消費動向をみる際には注意が必要である。近年非居住者の消費が増加している背景には、訪日外客の増加が挙げられる。客数全体の動きをみると、2014年は前年比29.4%増の1,341万人となり、その後も中国からの観光客を中心に増加が続いており、2015年10月には1,500万人を超えた(第1-2-4図)。
こうした動きは、円安や外航LCCの乗り入れ拡大、クルーズ船入港増に加え、入国審査手続きの簡素化、また、アジア諸国を中心としたビザ要件緩和といった各省横断的な観光戦略の取組によって促された面が大きい(第1-2-5(1)、(2)図)
更に、免税対象品の拡大や免税手続の簡素化等の動きも、消費需要の喚起に寄与していると考えられる(第1-2-5(3)図、(4)表)。ただし、こうしたインバウンド需要の効果が広がる中、地域ごとの消費額は、アクセスポイントとなる空港港湾の位置や観光地、ホテル、免税店等の所在等によって左右される。海外からのアクセスが弱い地域では、こうした需要増のメリットを享受しにくいとの声もある。
(ホテル稼働率にも大きな地域差)
訪日外客を含む交流人口の流入程度を宿泊施設の稼働率によって比較すると、大阪府や東京都などの大都市部に加え、沖縄など一部の地域でも稼働率が大幅に上昇している。一方、宮崎県など、地域によっては稼働率が2012年よりも低下しており、インバウンド需要の発生に地域差が拡がっている可能性もある(第1-2-6図)。観光需要は先に述べた各種政策効果等により堅調に推移し、地域経済に与えるインパクトも大きいが、各地域において更なる観光需要の取り込みに向けた官民連携や観光関連投資を進めていくことが重要である3。
(人口減少は構造的に消費を下押し)
最後に、構造的な消費の下押し要因となっている人口減少や高齢化について地域別の比較をする。地域別の百貨店・スーパー販売額と人口増加率の関係を描くと、人口減少率が大きい地域では、消費の減少率も大きく、人口減少は消費の下押しする構造要因となっている(第1-2-7図)。
(高齢化率が進むと所得に対する年金の比率が上昇)
高齢化は消費の下押し要因となるのか。沖縄を除き、地方では就業者が減少しつつ、高齢化率が高まっている。ただし、高齢化率の高まりは年金受給者数の増加でもあるため、年金収入も増加する。その結果、マクロの総所得に占める年金給付額の割合は高まっていくが、これは、地域のフローの所得と消費がマクロの景気変動の影響をあまり受けなくなることを意味する。これは、地方の景気変動に対して年金収入が安定的に作用する一方、景気拡大局面では、資産収入が効果をもってくることになる(第1-2-8図)。