第1章 第2節 2.いろいろな形態がみられる地域集積

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2. いろいろな形態がみられる地域集積

このように10地域の産業集積についての事例分析をみただけでも、その形成の経緯、産業分野、形態を始め、かかわっている組織など、多様な形態(パターン)があることが分かる。また、海外における集積あるいはクラスターの事例をみても、多様なパターンがみられる(23)

集積に参加している組織には、企業、研究所、大学などいろいろな種類がある。この集積内部の多様性が、相乗(シナジー)効果を通じて、革新(イノベーション)を促進することは知られている。これに加え、集積自体にもいろいろな種類があることは注目に値する。集積と集積が連携するときにも、集積間の多様性がシナジー効果を生むと考えられるからである。

そして、集積に多くの形態があり、一定のパターンが観察されるものではないということは、重要な論点を示唆する。「こうすれば必ず成功する」というような必勝パターンというものがあるわけではなく、例えあったとしても(ビジネスモデル特許のように保護されていれば別だが)やがて模倣されて効果が縮小してゆくとみられる。いろいろな実例をみると、「地域の資源に適した」ものや、あるいは「これまでにない」「他にはみられない」新しいパターンの集積が成功している場合が多い。このように、集積のパターンそのものについても、地域間においてイノベーションの競争が続いていると言える。

3. それ自体が地域の資源となる地域集積

地域の実例をみると、集積の効果が現われるまでには相当の時間がかかることが分かる。集積によっては、江戸時代からの蓄積もある。集積の効果には、距離的な(空間的な)要因ばかりではなく、蓄積や伝統という「時間的な要因」も関係しているからである。例えば、工場においては、製品の品質が安定するまでに、ある程度生産の累積が必要となる。訓練された労働力が安定的に得られるためには、更に長い年月がかかる。研究開発の成果についても同様か、それ以上の時間が必要となる。このように、技術的蓄積、人的組織的蓄積、連携の蓄積、研究開発の蓄積には、長い労力と時間がかかるため、こうした蓄積そのものが地域にとっての資源となっている。

10地域の実例をみても、三条・燕、北上をはじめ、既に認知されている集積は、数十年単位かそれ以上の時間的蓄積があり、蓄積が地域の資源となっている。このことを踏まえると、実績のある集積はそれだけ競争上有利な立場にあり、何もないところから集積を形成するのは、不利なことが分かる。したがって、既にある集積を活用して産業の競争力を回復させ、地域経済の再生を図る方策には、合理的な理由があると言える。

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