第1章 第1節 産業集積メリットの活用に向けた動き 4.
4. 動き始めたビジネス支援図書館
単なる産業集積やネットワークとクラスターの大きな違いは、クラスターの構成メンバーにベンチャーが存在していることと言われている。また、クラスター内において活発な競争が行われ、連携や協調を主な目的とする産業集積やネットワークとは違っていると言われる。このように起業や新規参入による競争は、産業集積をクラスターへと発展させるのに重要な役割を果たすとみられる。
起業や経営活動を支援する仕組みとして期待されているのが、ビジネス支援図書館であり、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(2003年6月27日閣議決定)にその整備が盛り込まれている。
ビジネス支援図書館とは、図書館の持つ情報蓄積と空間(場)の提供の機能をもとに、インターネット、データベースへのアクセス、ビジネスに必要な情報収集のノウハウを持つ司書によるレファレンスを提供することなどで、地域における起業及び中小企業などを支援する図書館のことである。具体的には、デジタルライブラリー、商用データベースの提供をはじめ、起業に当たっての各種相談、専門司書による電子メールでの情報サービス、起業家セミナー、IT活用講座など、インキュベーション・マネジャー(IM)としての機能を提供することにより地域の起業家及び中小企業などを支援する。
セミナーの開催に際しては、地域のNPO やボランティア組織と連携を図り、地域の事情に対応したビジネス支援を目指している。多忙な起業家、経営者やこれから起業を考えている人にも利用しやすい土曜、日曜及び夜間にも開いているということが、図書館の重要な利点の一つになっている。
ニューヨークには、96年にニューヨーク公共図書館の研究図書館として科学産業ビジネス図書館(SIBL)(9)が開館した。130万点の資料、11万種類の刊行物が取り揃えてあり、150種類の高度なデータベースも無料で提供されている。また、SCORE(10)(米中小企業庁〔SBA〕の呼びかけにより発足した元経営者のボランティアが作る経営コンサルタントグループ)によるコンサルティングを受けることもできる。ビジネスに特化した図書館としては世界最大を誇り、東京都のTOKYO SPRing など、日本のビジネス支援図書館はこれをモデルにしている(11)。
日本においても、ビジネス支援に向けて変わりつつある公共図書館の事例がみられる。
北広島市立図書館(北海道)では、2002年から一部の図書館利用者に電子メールによって定期的に検索情報を送付する「選択的情報提供」(SDI)(12)サービスを試行的に実施している。
秋田県立図書館では、2001年度に地元の産業振興団体等にパンフレットや報告書を提供してもらい、「地域活性化コーナー」を開設した。インターネットの自由検索サービスも行っている。
東京都は、2002年6月に東京商工会議所内に「TOKYO SPRing」(東京都ビジネス支援ライブラリー)を開館した。インターネットの自由検索、ブルームバーグ等のオンライン・データベース、ビジネス関連のレファレンス書籍(四季報など)を常備し、都立中央図書館がレファレンス支援(13)を行っている。ビジネスアドバイザーなども配置している。
浦安市立図書館(千葉県)では、2001年度にビジネス支援サービスを開始し、各種セミナーを開催するとともに、講師や専門家による個別相談会を実施している。2002年度には、市民による支援組織「ビジネス・コミュニティ浦安」が設立され、この支援組織のメンバーからは創業者も誕生している。
岐阜市立図書館(岐阜県)では、2001年度に地場産業であるアパレル・ファッション産業を支援する目的で「ファッション・ライブラリー」を開設した。関連図書の閲覧に加え、海外のファッションショーのビデオによる紹介も行っている。2002年11月には公立図書館としては初めてファッションショーを開催した。
広島県立図書館では、2001年度に「ビジネス支援コーナー」を開設し、隣接する広島県中小企業・ベンチャー総合支援センターと連携してビジネス支援を開始した。ビジネス関連の館外情報源の紹介(レフェラル・サービス)にも力を入れている(14)。