昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第十章 インド経済の実態分析

二 農・工業の生産

インドの農業生産は前記の第一次五カ年計画の成果に関する報告によると第10-3表のごとく,穀物生産はかなりの成長を示したことが知られる。

すなわち綿花,ジュート,甘蔗等は生産目標に達しなかつたが穀物と油料種子の生産は目標を大幅に上回つている。しかし,ここでも,さきの戦後における経済成長率の項で見たごとく,一九五〇~五一年の生産が過小見積りであったということから来る生産実績の高さについては考慮されなければならない。

一九五七年の農業生産は総じて豊作で,米は前年の二,六八五万トンに対し二,八一六万トンとかなり大幅の増加となっている。小麦も前年の八五七万トンから九〇七万トンと増加しており,雑穀物,豆類ともにかなりの増産を示している。しかし,一九五七~五八年度の生産は米面積の半ば以上を占める東北部でばはなはだしい減収が予想されており,五月四日発表の国家開発審議会の報告によれば,第二次五カ年計画の前半二カ年間の食糧生産は計画の予定量をはるかに下回ったとしている。

東南アジアの農業生産は全般に天候に左右される度合が大きく,したがって生産の不安定が特徴とされているのであるが,インドの一九五一年以後における比較的順調な生産が,果して開発計画実施の成果であるか,それとも好天候に恵まれたことによるものかということがしばしば論議の対象とされる。第一次五カ年計画期間中の灌漑施設の増加については,約六三〇万エーカー(目標は八五〇万エーカー)と公表されているが,実際には四〇〇万エーカーを若干上回る程度と推定されている。しかし,小灌漑工事では約一,〇〇〇万エーカーが新たに灌漑されたことになつているので,農業開発の実施によることもかなり大きいと見てよいであろう。

工業生産は,第10-4表の指数に明らかなごとく一九五七年第四・四半期までのところでは平均年率八%の上昇であつた。

第一次五カ年計画における主要工業製品の生産発展は第10-5表のごとくで,資本財の生産は約七〇%,中間製品,主として工業用原材料の生産は約三四%,消費財は三四%増大した。工業生産全体として五カ年間の増加率は三八%となっている。

工業生産で特に目立つているものは機械織布の生産で,五〇~五一年の三一億一,八〇〇万ヤールから五五~五六年の五一億○,二〇〇万ヤールに増大し,生産目標を約四億ヤールも突破している。砂糖,ミシン,紙,厚紙,自転車の生産は目標達成または超過遂行さえしたものもある。セメントは五○~五一年の二七〇万トンから五五~五六年の四六〇万ンにふえた。軽機械類,重化学,化学製品の生産も著しく増加した。こうした生産増大に導いた大きな要因として,原材料利用度の向上,遊休設備の活用,大規模な新投資があげられている。

第一次計画期にいくつかの新しい製品ーたとえばタイプライター,発電機,ペニシトン等がはじめて生産され,精油,造船,航空機,鉄道車輛,塩化アンモニア,DDT等の重要産業が設立されたことは特筆さるべきであろう。

政府部門に関しては,シンドリ肥料工場,チタランジャン機関車工場,インド電話工業,インテグラル客車工場等の諸企業が順調な成績をあげた。他方製鉄所,重電機工場の計画は第一次計画中には着手されなかったが,それは外国との合弁協定,予備工業に関する交渉が長びいたこと,工業の最終規模の決定がおくれたことなどが原因とされている。また計画の着手されなかったものに工作機械工場,ネパ新聞用紙工場,ビハール過燐酸工場等がある。

民間部門は,固定投資二九億二,〇〇〇万ルピーのうち工場拡張用投資は二三億三,〇〇〇万ルピーと推定され,その大部分は資本財工業に向けられたとされている。民間部門における投資目標は完遂され,既存設備の有効な利用によって生産は計画目標にそって増加したが,しかし一部産業,たとえば鉄鋼,アルミ,窒素肥料においては,設備能力の増設計画は完遂されなかつた。その結果,プラント,機械の近代化,更新計画は目標を下回り,計画の一五億ルピーに対して実際投資されたのは一一億ルピー程度であつたと推定されている。


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