平成9年

年次経済報告

改革へ本格起動する日本経済

平成9年7月

経済企画庁


[前節] [目次] [年度リスト]

第1章 バブル後遺症の清算から自律回復へ

第6節 バブル後遺症の克服は進んだか

今回の景気回復局面の問題として繰り返し論じられてきた点は,バブル期の負の遺産であるバランスシート調整がどこまで進ちょくしたか,その問題が景気回復にどれだけの影響を及ぼしたかである。バランスシート調整の問題とは,資産価格が上昇したバブル期に資産と負債を両建てで増加させた企業が,バブル崩壊による資産価値の下落と収益の低下に直面し,負債の圧縮と収益性の上昇のために,投資行動を抑制することである。特に,土地が主たる資産である企業では,負債の一部が返済不能となったり,内部留保の取崩しでリスク許容力が低下するなどから,リスクをとる投資行動は極力控えられた( 注1 )。また,金融機関が,貸出しにおけるリスク管理を強化したことが,中小企業の投資行動に影響した可能性も考えられる。

こうしたバランスシート調整の問題が,今回の景気回復のスピードを緩やかなものとした。実体経済の方をみる限り,設備投資が堅調に伸びており,バランスシート調整がある程度進ちょくしていることもうかがわせる。しかしながら,バランスシート問題の度合いが業種や企業規模によって異なっていることが,今次景気回復を特徴づけている産業間,規模間の著しいばらつきの背景となっている。以下ではまず企業のバランスシートの動きを整理し,さらに,不動産の問題,金融機関の不良債権問題をみて,景気循環の背景にあるバブル後遺症という構造問題を考える。

1. 企業のバランスシートの現状

(残存するバランスシート調整圧力)

まず,バブル期とそれ以降の企業のバランスシートの動きを,簿価ベースの財務データから概観しよう( 第1-6-1表 )。表で分かるとおり,不動産業において,バブル崩壊後に負債が増加する一方資本が減少し,バランスシートがかなり悪化した姿が顕著である。今次景気回復過程では,不動産業の景況改善が遅れているが,その背景としてこうしたバランスシートの悪化が存在することは明らかであり,この問題が依然として存在することが改めて確認できる。

これに対し,製造業や不動産・建設以外の非製造業については,負債比率でみる限り,バブル崩壊後にバランスシートが大きく悪化した姿はみてとれない。この要因は主として負債の増加が抑えられたことであるが,これら産業においても,通常であれば投資等の支出に振り向けられる資金が負債の返済に充てられ,その結果としてバランスシートの健全性が維持できたとみるべきであろう( 注2 )。バランスシートを収益性という点からみると,バブル期に資産と負債が両建てで増加した一方,バブル崩壊後は企業収益が低下したことから,総資産利益率(ROA)は大きく低下しており,そのレベルはバブル期以前と比較しても依然として低い( 注3 )。金利低下に伴い負債コストも低下している現状ではROAの低下が直接設備投資に影響するわけではないが,資産の効率性という面からもバランスシート調整圧力があることは念頭に置かなければならない。

なお,建設業についても,バランスシートでみる限り,バブル崩壊後負債が積み上がった形にはなっていない。しかしながら,大手建設業者の不動産業等に対する保証債務残高は,バブル期以前に比べて大きく増加しており,バランスシート上には現れないオフバランスの問題が存在する( 注4 )また,関連会社を使った会計処理についてもここでは把握できず,バランスシートをみる際には留意する必要があろう。

(業種別・項目別にみたバランスシート)

次に,バランスシートの動きを詳しくみるために,製造業,非製造業(不動産・建設業を除く)の資産・負債の各項目のバブル崩壊後の変化を91年を基準にみると,いずれにも共通していることは,資産の中で相対的に土地の伸びが高いことである( 第1-6-2図 )。この間の地価の下落を考えればこれは一見実感と合わないが,バブル崩壊後に土地の売却によって含み益の実現がなされた場合,これを購入した者も含めたマクロの資産は簿価ベースで上昇することになる。ちなみに,投資有価証券も総じて伸びており,ここには保有株式の売却による含み益の実現が反映されたものと考えらえる。

また,このほかの特徴点としては,現預金・売上債権や買入債務といった項目が総じて減少していることが挙げられる。これらの流動資産・負債は,売上高に連動するとともに,従前から資産効率の向上のためにその圧縮が叫ばれてきたものであるが,やや長い時系列でこれらの動きをみても,過去に比べて今回のこれら項目の圧縮幅は大きく( 注5 ),不要不急の債権・債務はなるべく軽減しようという企業の財務リストラの動きが反映されているといえよう。

さらに,有形固定資産(土地除く)をみると,製造業では92年以降おおむね横ばいとなっているのに対し,不動産・建設業のこの間の増加幅はかなり大きく,これら業種のストック調整の遅れが,バランスシート調整圧力に格差をもたらした形となっている。

(時価ベースでの比較)

ここまでは,簿価ベースで企業のバランスシートの推移をみてきたが,今回のバランスシート問題の最大の要因は,本節の初めに述べたとおり,資産価格の乱高下である。このため,実態を把握するためには,バランスシートを時価評価してみる必要があるが,客観的なデータは存在しない。そもそも時価評価額の見当がつかないこと自体が,バランスシート問題の難しさを象徴しているともいえよう。そこで,ここでは,一定の仮定計算から,時価ベースのバランスシートを試算してみた( 注6 )。

この結果をみると,まず土地及び株式の含み益については,84年末をベンチマークとすると,いずれの業種においても89年から90年に約2倍になったのをピークに減少し,再び84年ごろのレベルに減少している( 第1-6-3図 )。このことから,前述の簿価ベースでの土地や株式資産の上昇も,含み益の実現によるということが確認できる。また,業種別の特徴点ということでは,製造業の含み益が92年以降ほぼ横ばいになっているのに対し,それ以外はなお減少を続けていることが挙げられる。これは,製造業の場合,土地と株式の保有比率で土地が相対的に小さいことから,株価がおおむね底打った92年ごろから含み益の低下にも歯止めがかかったものと思われる。

さらに,ここで試算された含み損益を資本に算入して負債比率の動きをみると( 第1-6-4図 ),バブル崩壊後の負債比率の上昇がより顕著になることが改めて確認できる。もっとも,時価ベースでみても,製造業は93年以降負債比率が低下傾向にあるのに対し,非製造業の負債比率は上昇しており,バランスシート調整圧力の二極分化がここからもうかがえる。

2. 土地市場をどのようにみるか

(土地市場の特性)

バランスシート調整の問題は多額の負債と資産価格の下落に起因しているが,中でも地価の下落が続いていること,そして保有している土地が収益を生み出さないでいることが不動産やその他の非製造業のバランスシート調整圧力となっている。したがって,土地を巡る問題を解決することがバランスシート調整を終了させるためには避けて通れない。しかし,このことは単に地価が上昇すればよいということは意味しない。地価の水準については,マクロ的にみたファンダメンタルズ要因との関係で高低両論が展開されてきたが,いまだにコンセンサスは得られていない。はっきりしていることは,都心部等にも依然として遊休地が存在するなど土地の有効利用が必ずしも進ちょくしていないということである。

こうした背景を考えるに当たっては,土地という商品には通常の財やサービスと異なる性質があるということを念頭に置く必要がある。すなわち,土地については,①商品価値がかなり長い将来にかかる期待収益率に依存するため収益の不確実性に影響を受ける,②商品が高額であるため,その購入にあたっては借入れ等の負債に頼るケースが多く,取引の成立が当事者のバランスシートの状況によって強く影響を受ける,③商品が規格化になじみにくいこともあり情報収集コストが高い,といった特性がある。つまり,バブルの崩壊後,経済環境が変化するなかで,こうした土地という商品の特性が,土地市場の需給に影響をもたらしているものと考えられる。以下,この点をみていこう。

(不確実性の増大)

土地の商品価値は,その土地を利用して得られる収益に依存するが,そこでの期待収益は将来のかなり長い期間にわたったものを予測しなければならない。その意味で,土地を購入する者にとっては不確実性が常に存在する。これまでの我が国経済のように,一定の成長があれば,不確実性はさほど大きくないが,バブル期という変動の後,地価や賃料水準の不確実性が増大するなか,キャピタルゲイン・ロスの不確実性が高まっているほか,賃料と地価及び建物価格との比率から計算したインカムゲインでみても,その不確実性は増大している( 第1-6-5図 )。したがって,不確実性を考慮した場合,投資家が土地の購入に容易に踏み切れないということが考えられる。

なお,土地取引には,政策変更に伴う不確実性も存在する。すなわち,土地の利用規制や税制は時代とともに変更されうるものであるが,これが,短期的な政策目標によって頻繁に変更されるならば,結果的に土地から得られる期待収益の不確実性を増加しかねないことは念頭に置く必要がある。

(バランスシートの悪化と土地取引)

バランスシート問題の改善のためには,土地の有効利用が不可欠であるが,一方で,バランスシート問題が土地取引を停滞させるという悪循環も存在する。なぜならば,土地取引は通常その金額が高価であるため,それを購入するときには借入れ等が必要となり,企業のバランスシートの状態が土地の購入意欲に影響を与えるからである。一方,売手のバランスシート問題も存在する。すなわち,借入れによって購入した土地が値下がりした場合,多額の負債を抱えた企業は,その土地を売却しても,依然負債が残ることから,バランスシートの大幅な改善にはつながりにくくなっている。このため,現状では,土地を保有する企業は,売却損を顕在化させないという観点から,それを売却するインセンティブが小さくなっているものとみられる。こうした状況の中では,土地を有効利用して収益を上げようとする投資家が存在したとしても,売手が容易に取引に応じるとは限らないのである。

(非規格化商品としての特性)

一般に,市場メカニズムによって価格が決定されるような商品や財は規格化されたものであることが多い。これによって,同一の商品については価格裁定がなされ,一物一価に近いような形で需給関係を反映した適正な市場価格が形成される。しかし,土地の場合は,取引の対象となる部分がそのストックに比して極めて限定的なものでしかなく,①形状,立地条件等が千差万別であり,再生産も不可能である,②売買を行う者はこれらの地理的条件について,現時点の姿のみならず将来変更となる可能性も考慮しなければならず,かなりの知識が要求される,③土地がこのように特殊性を有するものであるために市場参加者には,流動性リスク(将来売りたいときに売れないリスク)が存在する,という点で,情報収集の費用はかなり高い。

ちなみに,商業地の超過収益率を用いて不動産市場の効率性(価格に応じて裁定が働き,期待される超過収益が事前の情報からは予測できない状態にあること)を検証すると,こうしたコストの存在を統計的に裏付ける結果が得られる( 注7 )。

したがって,土地においては,通常の財と同様に,単純に価格や取引件数についてその高低や多寡の議論を行うのではなく,あくまで土地利用との関係でその実態を把握し,有効利用を促進していくことが重要である。

(土地市場の新たな動き)

地価の下落は続いているが,東京都心部を中心にビルの空室率,賃貸料に底入れの気配がうかがえる( 第1-6-6図 )。このことは,需給面で不動産市場に明るさがみえてきたことを示している。しかし,これをもって今後の地価の反転上昇にバランスシート問題解決をゆだねるべきでもない。最近の動きの特徴としてしばしば指摘される点は,物件ごとのばらつきである。例えば,東京都心部の商業地価の動きをみると,地価自体は依然として下落を続けているものの,物件ごとの下落幅の格差が広がっていることが分かる( 第1-6-7図 )。このことは,優良な土地については相応の評価がなされていることを示唆している。今後とも不動産市場の参加者が利用価値に基づいて土地取引を行い,土地の有効利用を図ることはバランスシート問題の解決にも資するものであるが,土地の有効利用については,政府としても,本年2月に「新総合土地政策推進要綱」を閣議決定し,本年3月には「担保不動産等流動化総合対策」をとりまとめるなど,施策の推進に努めている。

3. 金融機関の不良債権問題

(不良債権の現状)

バランスシート調整の中でも,金融機関の不良債権問題は重要である。実体経済は回復基調にあるが,金融機関の不良債権問題は,投資家や企業家に,金融システム不安につながるのではないか,といった漠然とした先行き不透明感をもたらしてきた。また,金融機関の場合,個別行の問題が,資金決済等の混乱を引き起こして経済全体に波及する可能性があるため(システミック・リスク),その実態は十分注視する必要がある。

そこでまず,96年9月末の預金取扱金融機関の不良債権額をみると( 第1-6-8表 ),破たん先・延滞債権と金利減免等債権の合計で29.2兆円となっており,96年3月末との比較では,5.6兆円減少している。また,これらの不良債権には債権償却特別勘定のほか,担保カバー分や回収可能分が存在することから,大蔵省試算の要処理見込額は7.3兆円にまで減少しており,個別金融機関の経営状況は様々ではあるが,金融機関全体としては,不良債権問題を克服することは可能と考えられる。

このように,金融機関のバランスシート上は不良債権処理は進ちょくしているが,留意しなければならない点もある。具体的には,①共同債権買取機構への売却債権の現状,②金融機関の間の格差,③金融機関の株式保有の問題点,④相対的に低い自己資本,といった問題に着目して,以下それぞれの問題を考えてみよう。

(共同債権買取機構への債権売却の現状と問題)

まず,共同債権買取機構への債権売却についてみると,96年度末までに同機構が買い取った債権の額面金額は累計で13兆6千億円になっており,銀行は貸出金償却のうち約4分の1(94,95年度平均)を同機構への売却損等に依存した形となっている。これには,同機構を通じた債権買取りスキームによって,金融機関は売却損を容易に損金処理できるというメリットが寄与したものと思われるが,いずれにしても,不良債権処理に果たしたその役割は大きいといえる。しかし,金融機関が保有する担保不動産は,地価の下落とともにその価値が低下しており,同機構の買取り時の損失率は7割を超えている( 第1-6-9図 )。さらに,共同債権買取機構の購入資金は金融機関からの借入金であるため,これが市場に売却されることによってはじめて処理が完結することになるが,実際には担保不動産の売却は順調ではなく,累積の回収率は97年3月末現在で15%程度にとどまっている。つまり,同機構の債務者からの返済が進展しないため,実質的には時価まで減額された不良債権を同機構が保有することになるのである。ちなみに,共同債権買取機構は当初予定どおり98年3月をもって債権買取り業務を終了し,その後は債権回収に専念する。

また,こうした形で債権の回収が進まず,売却債権が買取り時より値下がりするならば,実際に回収されるときに確定時の損失が発生する。一部銀行では,97年3月期決算より,損失に備えた引当てを計上しているが,マクロでは公表数字がない。そこで,商業地価の下落分を加味してこれを試算すると,同機構の買取金額累計の2割強に相当する( 注8 )。マクロでみた金融機関の業務純益(全国銀行ベース,91~96年度平均)との対比では25%程度であり,現時点では確定時の損失は十分処理可能な範囲ということはできるが,今後の地価動向によっては,損失額はより大きくなる可能性もあることに留意する必要があろう。

(業態別,金融機関別の格差)

不良債権処理について,マクロでは進展がみられるが,個別の事情は様々である。例えば,貸出に対する不良債権額の比率をみると,業態によってその進ちょく状況に格差のあることが分かる( 第1-6-10表 )。また,都銀・長信銀・信託銀といった大手銀行の間でも,不良債権処理の過程で各銀行のROA(総資産経常利益率)のばらつきが拡大していることも確認できる( 第1-6-11図 )。金融システムには,個別行の問題がシステム全体に広がる危険性が内在するだけに,こうした問題については,各金融機関が最大限の自助努力により不良債権の処理を進めていくことが重要である。なお,本年入り後,大手銀行において前例のない大胆なリストラを進めるなど,抜本的な再建策の発表といった動きもみられる。

一方,競争制限的な規制や競争力の弱い金融機関の保護を通じてシステムの安定化を図るといった考え方は,金融システムの効率性を犠牲にし,結果的に我が国の金融の国際競争力を低下させるものであり,適当でない。今後は,本年6月に公表された金融システムに関する報告等も踏まえて,自己責任原則を徹底し,市場規律に立脚した透明性の高い金融システムを構築していくことが,不良債権処理における課題であろう。

(金融機関の株式保有の問題)

我が国の金融機関は企業にとっては安定株主である。アメリカでは銀行の株式保有が禁止されているが,我が国では,銀行による株式保有がメインバンク機能を発揮させる形で一定の役割をもっていた。また,銀行経営という観点からも,従前から保有している株式が今日多額の含み益をもたらしたという意味で重要であった。この結果,不良債権の償却に当たっても,これら含み益を活用することが可能であり,この3年間(93~95年度)の貸出金償却と対比すると,39.9%にあたる3兆円の株式等関係利益があった。

しかし,こうしたことは,我が国の銀行が含み益に支えられたことを示すものであり,バブル崩壊後の株価の下落と含み益の実現による不良債権の処理の過程で逆に含み益は減少した。この結果,我が国の銀行における自己資本のBIS比率についても,当初は有価証券含み益がかなり寄与していたが,その寄与は株価の水準に影響されて,かなりの変動がある( 第1-6-12図 )。また,この間の含み益の実現にあたっては,相当程度クロス取引(時価で売却すると同時に買い戻す取引)が行われてきたと考えられる。この場合,前述のとおり,配当利回りが低下してしまう(受取配当総額が不変で株式の簿価が上昇する)ことから,収益を生み出さない不良債権を保有していた場合と,株のクロス取引による含み益の実現によってこれを償却した後では,資産の保有コストという観点からみると,短期的には大きく変わらない状況が続いてしまうのである(前掲 第1-4-9表 )。

しかも,株式の含み益がクロス取引で実現された結果,株式の簿価が上昇したが( 第1-6-13図 ),このことは,株式の価格変動が含み損をもたらすリスクを拡大させることになる。株式の場合,含み損については期末に償却が義務付けられていることから,簿価の上昇は結局自己資本の毀損につながりかねない。ちなみに,株式の価格変動を考慮し,ヴァリュー・アット・リスク(当該資産に対して一定確率で発生しうる最大損失額,VAR)を試算すると,ある程度前提に幅をもたせても,上場有価証券含み益の5割以上に相当する額になるとの結果が得られ,株式の含み益にも左右される銀行の自己資本には,多少不安定な要素もあることが分かる( 注9 )。

(相対的に低い自己資本)

ここ数年は,業務純益の順調な伸びと上述の株式含み益の実現によって,不良債権の償却を支えたが,一方で,単年度の利益を上回る積極的な不良債権の償却は,もともと国際的には高くはなかった我が国の金融機関の自己資本をさらに低下させることにもなった。最近の我が国の主要銀行の自己資本比率を国際的にみると海外の銀行に対して相対的に低くなっている( 注10 )。

また,前掲 第1-6-12図 から分かるとおり,我が国の銀行では90年以降劣後ローンの取り入れによって自己資本を確保する動きがみられた。このときの劣後ローンの多くは期間10年となっているが,これをBIS比率算出上の自己資本に組み入れる際には,残存期間が5年以内になると,年率20%ずつ段階的に不算入扱いとなる。このため,ここにきて銀行は資本の目減り分の借り替え等に直面しているが,金融機関の破たんによる債権放棄という事態も現実のものとなっており,銀行はかつてのような低利で劣後ローンを調達することが難しくなっている。また,優先株の発行についても,引受先の問題等様々な困難が指摘されている。

こうした問題は,単に銀行間の格差を拡大させるだけではなく,ジャパンプレミアムにみられるように,我が国銀行業全体の国際競争力の低下をもたらすことにもなる。そして,自己資本の低下に伴うリスク許容力の低下と国際的な信用の低下は,結果的に我が国企業に対する金融仲介にも影響を及ぼしかねない。

4. バブル後遺症の克服に向けて

バブル崩壊の後遺症である企業のバランスシート悪化,土地需給の不均衡,金融機関の不良債権については,即効薬はないが,次のような点を着実に進める必要がある。

まず第一に,土地の有効利用を促進することが重要である。不良債権処理を先送りし,地価の反転上昇に期待をかけることでは解決にならない。利用価値の高い不動産を遊休地にしておくことは,得べかりし付加価値生産を放棄していることであり,国民経済的にみても損失である。土地利用は計画性が要請されるため,規制緩和によってすべてが解決されると考えるべきではないが,適切な規制緩和を推進するとともに,当事者が土地を有効利用するインセンティブを与えていく必要があろう。

第二に,金融機関の不良債権処理の徹底と収益性の向上である。会計処理上は,金融機関の不良債権は償却が進んでおり,個別銀行についても大胆なリストラを含む抜本的な再建策がとられるなど,改善が進んでいるが,なお上記で指摘したような問題を抱えている。金融セクターにおけるバブル後遺症の治癒には,金融機関が収益をあげることによって自己資本を再生することが不可欠である。このためには,早急な不良債権の処理と,金融機関の経費の削減等更なるリストラが必要である。しかし,それと同時に重要なことは,業務の見直しや新たな収益源を積極的に開拓することである。日本の大手金融機関は巨額の資産と広範な事業展開を特色とするが,中長期的には思い切って得意分野に特化し,そこでの競争力を高めていくといった方法も含めて,各々の金融機関が自ら方向を決めていくことになろう。

第三に,こうした金融分野の改革を進めていくために,本年6月に公表された金融システムに関する報告等も踏まえて,自己責任原則を徹底し,市場規律に立脚した,透明性の高い金融システムを構築していくことである。このことは,第2章第3節で述べる金融の規制改革による金融仲介システムの活性化のための前提である。