平成4年

年次経済報告

調整をこえて新たな展開をめざす日本経済

平成4年7月28日

経済企画庁


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第3章 日本の市場経済の構造と課題

第4節 垂直的な企業間関係

第1,2節では,企業間の関係についても,銀行を中心として株式持合い等により緩く結び付いた水平的な企業間関係(金融系列)をみてきたが,一方,垂直的な企業間関係に目を転じると,生産系列や流通系列が日本の取引慣行を象徴しているといわれている。本節では,この企業の垂直的関係を表す生産系列,流通系列を考えることにより,日本の取引の特色はなにかを考えてみたい。

1. 生産系列(サプライヤー・システム)

(日本の取引形態の特色)

まず,日本の自動車産業に典型的にみられるような親企業と部品供給企業との取引形態の基本的特色としては,両者の関係が長期的,継続的な傾向を持ち,通常のスポット的な市場取引とは性格を異にしていることが挙げられる。

例えば,日本の企業の仕入れ取引のうち,継続的取引関係(5年以上)を有する企業との取引金額の割合はかなり高く,特に,生産財ではその6割が「殆ど全て」継続的取引であり,仕入れ先の最近3年間の入れ替わり状況をみても,あまり入れ替わりはみられず,取引先の固定性が大きいことが分かる( 第3-4-1図 )。また,完成品メーカーが継続的取引を行っている調達先の全体に占める割合を国際比較すると,日本は(80%以上が76%),欧州(同64.3%),アメリカ(同37.5%)となっており,このような継続的取引は必ずしも日本の固有の取引形態ではないが,日本の場合その傾向は強いと考えられる(出所, 第3-4-2図 に同じ)。

このような継続的,長期取引のメリットは,親企業と部品供給企業の間で技術開発等に関する情報の密接な交換,調整,共有,蓄積や両者の関係に固有な投資がスムースに行われることにより,協調的な関係,また,明示的な契約関係ではない信頼関係が生まれるとみられ,このような協調関係が更に,情報の交換や当事者の関係に固有な投資を促進し,信頼関係を高めるという好循環を生んでいると考えられる。日本企業の継続的取引の理由をみても( 第3-4-1図 ),供給の安定,高品質,信頼関係が重視されている。さらに,継続的取引の理由を国際比較すると( 第3-4-2図 ),高品質であることは欧米でも重視されているが,長期的な信頼関係は日本において比較的重視されている。

日本の場合,このような部品供給メーカーとの長期的協調関係は,株式保有,役員派遣により更に補完されている。いずれかの部品メーカーの株式を保有している完成品メーカーの割合をみると,日本が95.9%,欧州が76.7%と高い割合を占めているが,アメリカは15.6%に過ぎない。また,役員派遣を行っている企業の割合については,日本は87.5%に対し,欧州22.2%,アメリカ6.3%と顕著な違いが存在する(出所, 第3-4-2図 に同じ)。

次に,日本の親企業と部品供給企業との長期的・継続的取引の内容についてみてみたい。第一には,部品の製品開発においても,親企業が部品供給企業に設計を細かく指示するケース(部品供給企業は貸与図メーカーと呼ばれる)のみならず,部品企業が製品開発の早い段階で参加するとともに,設計図を提示し(デザイン・イン),親企業がそれを承認するケース(承認図メーカー)が大きな役割を果たしている。自動車産業における調達部品のタイプの割合を標準品,承認図方式の部品,貸与図方式の部品に分けて国際比較してみると( 第3-4-3表 ),日本は承認図方式の部品の割合が高く(62%),部品メーカーの開発参加度は最も高いが,アメリカでは貸与図方式の部品の割合が81%と圧倒的に高く,多くのアメリカ部品メーカーは自社開発率が発達していない。また,欧州はその中間にあることがわかる。新規部品比率をみても日本が最も高い。このように,日本の親企業は,部品メーカーの開発力を活用することにより自らの開発プロジェクトをコンパクトにし,機動性を保っている。さらに,ジャスト・イン・タイムといった在庫管理システムも上記のような協調的,信頼関係の下で効率的に行われている。

第二は,このような生産系列における協調的な関係の中に常に競争のメカニズムが内在化されているとみられることである。例えば,「企業間取引の実態に関する調査」(公正取引委員会,91年)における家庭用電気製品製造業の調査をみると,製品のモデルチェンジや新製品開発が比較的活発に行われている家電メーカーにおいても,コスト・ダウンや品質の向上を図るため,特定の部品メーカーに限定せずに複数の部品メーカーから購入を行い,取引先部品メーカー間に競争の関係を作っていることが指摘されている。具体的には,モデルチェンジ等の際に部品の取引先を選定しており,そのモデルの製品が製造されている間は取引が継続される。モデルチェンジの際でも,取引先部品メーカーが家電メーカーの求めている品質,価格等に見合う部品を製造できる場合には,取引が継続されている。このように,家庭用電気製品製造業でみられるように部品供給企業と親企業との関係は完全に固定化されたものではなく,一定期間毎にリシャッフルが行われる場合が多く,その際,価格のみならず品質,納期,開発力,マネージメントが重要な選定基準になっているといわれている。ここに,取引先に意見を表明し,それが通らなければ取引先を変更するというvoiceとexitによって部品供給産業の競争を促進するメカニズムが働いている。つまり,潜在的なものも含めて比較的少数の代替的な取引主体が存在し,1つの部品の技術に対し複数の企業が技術を持つようオーバーラップした発注を行っているといえる。

(アメリカのケース)

アメリカの場合も部品供給産業との継続的な関係は存在するが,日本と比較して①契約期間は比較的短期である,②多数のサプライヤーを競わせ価格の低いものから購入,③部品供給企業との関係は景気循環に左右される,などが指摘されている。また,製品開発に関しても先にみた通り貸与図メーカーの割合が大きい。

しかし,アメリカでは,部品供給メーカーとの関係を維持するために必要な投資等の取引コストが大きい場合は,垂直統合により部品供給企業を取り込んでしまう場合が多い。例えば,アメリカの自動車産業(ビッグ・スリー)をみると企業によって差はあるものの,総じて日本企業に比較して部品の内製比率が高いといわれている。外製比率の代理指標と考えられる従業員一人当たりの売上高をみると,アメリカのビッグ・スリー平均で90年度,202千ドル,日本の上位3社平均で同431千ドルと日本の方が外製比率が高い,つまり,アメリカの方が内製比率が高いことを示唆している。

(日本のサプライヤー・システムの評価―その効率性)

通常,市場には無数の売り手,買い手が存在し,価格がシグナルとなり最適,効率的な資源配分を行っていると想定されている。しかし,価格に全ての情報が盛り込まれ,価格のみが買い手の需要を決定するといった標準的な財よりも買い手の嗜好の多様化,技術革新の下で,価格のみならず品質やアフター・サービス等が重要な非標準的な財(ハイテク製品に多い)の取引の場合,商品価値に関して買い手が売り手程十分情報を持っていないという情報の非対称性がある程度存在する。このため,取引相手が誰か特定化されない1回限りのスポット的な取引では売り手が情報の優位を利用して質の劣ったものを掴ませるインセンティブは大きく,買い手がそのような欠陥商品の存在を考慮に入れると,効率的な市場取引が存在しない可能性が出てくる。

親企業(買い手)とサプライヤー(売り手)との関係の場合も上記のような情報の非対称性が存在するため,欠陥商品の問題が発生する可能性がある。また,特に部品供給企業は買い手側のニーズにあった製品の開発・供給が特に要求されるため,特定の買い手との取引のために有効な投資を行う必要が生じる。しかし,このような投資は埋没費用(サンク・コスト)になり,売り手と買い手がこのような投資から得られる利益を巡って交渉する場合,投資を行った売り手側が利益を十分享受できにくい。この場合,売り手がこのような投資を行うインセンティブは低くなるであろう。アメリカのサプライヤー取引関係も信頼関係がなく,投資インセンティブも少ないという問題点がしばしば指摘されている。

このような情報の非対称性や取引関係に固有な投資による利益を十分享受できないことにより生じる非効率性を解消する手段としては,売り手,買い手がある程度取引相手を特定化し,両者が継続的,長期的取引を行うか,または極端な場合,企業が合併して垂直的な統合を行うことが挙げられる。しかしながら,垂直統合の場合,組織が肥大化し,内部組織が複雑化することによる非効率(X―非効率と呼ばれる)が生じ,経営が難しくなる面もあろう。また,垂直統合により双方独占になれば,他の部品産業は全く参入できず,他の組立企業は重要な部品供給先を失うという意味で,市場が囲い込まれることとなり,日本の長期・継続的取引に比してより市場閉鎖的になる可能性も大きい。さらに,垂直統合は需要条件等の市場環境が変化する場合はその硬直性から非効率が発生してしまう可能性が高い。日本も1930年代は自動車産業において垂直統合度が高かったが,戦後,50年代から70年代にかけて徐々に上記のようなシステムを形成してきた。日本のサプライヤー・システムは協調的なシステムの中にサプライヤー間の競争を維持しているというフレキシブルな点にその本質があると考えられる。これが,サプライヤーの製品開発,納入やそのための取引関係に固有の投資を行うインセンティブを高めていることが重要である。また,部品の価格も少なくとも半年程度は固定化しているといわれており,その間,技術革新でコストが低下できれば,部品供給企業の利益になるような仕組みも作っており,それがインセンティブを保証しているといえる。

このような生産系列の利点は欧米でも評価されてきており,アメリカやヨーロッパの自動車産業では,サプライヤーとの関係も一部の企業は供給者を減らし,密接な関係をつくろうとする動きもある。

(日本のサプライヤー・システム―その影)

このようにみると,日本の系列関係は,その当事者(売り手,買い手)に関する限りは非常に効率的なシステムである。しかし,だからといってまったく欠点のないシステムなのであろうか。

第一に,このようなシステムは情報の偏在,非対称性から生じるさまざまなコストを引き下げたことは重要であるが,そのための情報の交換,調整に要する種々のコミュニケーション・コストも無視できない。特に,ここでいう情報はコンピュータの端末で得られるような情報というよりも人的に1対1で接触することにより得られる情報であり,そのような情報の交換,コンセンサスの形成は極めて時間集約的であり,長い労働時間につながっている可能性がある。また,継続的な取引のための企業の交際費もそのために支払っているコストの一つといえよう。

第二に,経済的強者である親企業と下請企業(サプライヤー)の上下関係はピラミッド型になっているとし,コストダウンの要請,品質・納入条件の過酷さ,景気変動の転嫁といった「しわよせ」,「搾取」等に象徴される伝統的な下請制への見方は,部品供給企業のデザイン・イン等の役割を考えればやや極端な議論であろう。しかしながら,「しわよせ」的なものがまったくなかったとは言い切れないであろう。これまでは最終財市場が輸出も含めてパイがどんどん大きくなっていったため,サプライヤーのパイもそれに応じ増加したことがこのような「しわよせ」をある程度緩和していたと考えられる。ジャスト・イン・タイム等はその効率性の裏で部品供給産業の長い労働時間で支えられていた面が強いと考えられる。中小企業において下請企業の割合が特に高い輸送用機械産業(従業員規模299人以下で79.9%,87年)において企業の規模別労働条件格差をみると( 第3-4-4図 ),おおむね週休二日制の割合は着実に上昇しており,また労働時間格差はやや縮小しているに止まっていたが,景気循環の影響もあり,近年はほぼ解消しつつある。一方,賃金格差については高年齢層の格差が縮小する一方,若年層の格差が拡大していること(労働省「賃金構造基本統計調査」)等から結果的には縮小していないとみられる。

第三に,当事者(insider)にとって効率的なシステムでも,第三者(outsider)にとってどうなのであろうか,また,経済全体の厚生を考えた場合どう評価できるかが問われる必要があろう。第一には,このような長期的,継続的な取引が第三者のサプライヤーからみて新規参入の障害になっていないかどうかである。確かに,売り手・買い手間に固有な投資が行われるほど,親企業の供給相手先を変更する場合のコストは大きくなり,そのインセンティブは小さくなるのが普通である。例えば,家庭用電気製品製造業等でみられるように,オーバーラップした発注により競争のメカニズムを維持しているが,これは特定の比較的少数の第一次サプライヤーの間でのいわゆる「顔の見える競争」であり,不特定多数のサプライヤーが競争に参加しているわけではない。この意味で取引解消の場合にコストがかかることが参入障壁になる可能性もある。特に,承認図メーカーとしての参入を行う場合にはこの傾向が強いであろう。第二に,この競争は価格を主体としたオークション的な競争でなく,多面的な競争であるため,外部から不透明に映る場合もあろう。また,取引の契約が柔軟性維持のため暗黙的な不完全契約になっている場合があることも不透明さを助長する要因となろう。外資系企業からみて対応が困難と感じている具体的な流通機構,取引慣行等についての指摘事項をみると( 第3-4-5図 ),品質,納期,価格といった経済的要因が高い割合を示している。しかしながら,取引の継続性や取引慣行の複雑さ,独自性に関するものも閉鎖性の要因として指摘されているのは事実であり,経済的要因は参入企業の努力で乗り越えられるべきものだが,不透明性は改善していくべきである。

このような日本のサプライヤー・システムも変革を求められている。まず第一に,このようなサプライヤー・システムにおいても透明性を高め,ルールを明確化することにより,新規参入を促進し,競争メカニズムを有効にするとともに,国内企業のみならず,製品開発の早い段階で外国のサプライヤーが競争に参加できるような環境整備を行うことにより,参入機会を開放していくことが必要であろう。部品供給企業が取引を行う親企業の数の推移をみると( 第3-4-6図 ),電気機械,輸送用機械とも取引先の多角化が引き続き行われていくことが予想される。特に,自動車産業では,部品企業が親企業以外と取引を行い始めたり,親企業が外国企業を含めた部品供給企業の新規参入を促進するという動きがみられる。

第二は,最終財の需要者である消費者の利益が,このような生産系列における取引関係で損なわれていないかという問題である。継続的な関係がメンバーが固定した硬直的なものになれば,参入障壁,超過利潤が発生し,最終的には消費者が負担する場合もある。このような観点からも,独占禁止法の運用により生産系列取引において,公正な競争を阻害するような取引が行われないよう監視を強化し,かつ生産系列取引に内在する競争メカニズムを維持・強化することが重要である。

2. 日本の流通機構の特色とその評価

(マクロ指標からみた流通機構の国際比較)

日本の流通機構について,マクロ指標を用いて国際比較を行うと( 第3-4-7表 ),第一に,日本の小売業の高密度,小規模性が指摘できる。小売店店舗密度を人口千人当たりの事業所数でみると,欧米諸国よりも大きく,また,小売業の規模は,店舗(又は事業所)当たりの売り場面積,従業者数,売上高について欧米よりも低い数字になっている。

第二に,卸売業が多段階である可能性である。これは,卸/小売の売上高比率(W/R比率)を国際比較すると,日本が高い数字になっていることからその可能性が示唆される。ただし,日本の場合,卸売業に総合商社が入っているため,この指標がやや過大になっている面もある。卸売業の規模について,小売業と同様な指標を使って国際比較をするとその規模は比較的大きいものとなっている。

第三に,流通業の生産性は国際的にも遜色のないレベルとなっている。小売業の生産性を従業者一人当たりの年間販売額でみると( 第3-4-8図① ),為替レートの変動にもよるが,日本は比較的高くアメリカと同程度である。これを更に規模別でみると,10人未満の小規模店舗の生産性は低くなっている。逆に大規模店舗の場合は,派遣社員制度により生産性が過大評価されている可能性があるもののかなり高い。また,卸売業の生産性を同様な指標で比較すると,為替レートの変動,総合商社の存在や多段階性による二重計算により影響されている面があるものの,高いものとなっている。規模別にみると,小規模店舗でもアメリカとほぼ同程度であり,大規模卸売業では,かなり高い。しかし,そもそも,一人当たりの販売額は仕入れ価格が高いとその他の条件を一定として大きくなることに留意する必要がある。そこで,流通業と全産業,または,流通業と製造業と比較した相対的付加価値生産性(従業者一人当たりの付加価値)をみると( 第3-4-8図② ),フランスよりは低いがアメリカ等とはそれほど大差ない。

以上のように,日本の場合,従業者一人当たりの売上高,一人当たりの付加価値による相対生産性を見る限り,小規模の小売業で生産性の低い可能性はあるものの,小売,卸売業それぞれの平均的生産性は国際的にみても低いとはいえないと考えられる。

第四に,流通機構の効率性も国際的にみて低いとはいえない。消費者が生産者のコスト以上にどの程度支払っているかという観点からは,流通機構の効率性は粗マージン率((販売額-仕入れ額)/販売額)で表される。粗マージンは純利益と流通部門のコストを合計したものでもあり,流通部門の競争が不完全であれば純利益が高まり,流通部門が非効率であればコストが高まるため,流通部門の全体的な効率性が高ければ,粗マージン率は低くなるはずである。この指標を国際比較すると( 第3-4-9表① ),日本は卸売,小売ともおおむね同じか,低くなっている。また,卸売の多段階性を考慮した流通全体のマージン率をみると,日本はアメリカよりは高いが欧州諸国と同程度である。また,在庫を抱え込まない程,効率性が高いという観点からみると,在庫率(在庫高/販売高)は( 第3-4-9表② ),諸外国に比べて低く,卸売,小売を合計した流通全体の在庫率でみてもアメリカ,ドイツと同様である。なお,これは,多頻度,小口配送が行われている結果である可能性には留意すべきである。

以上のように,日本の流通業の特色として,高密度,小売段階の小規模性,卸売業が多段階である可能性などが指摘できる。しかしながら,流通機構の生産性,効率性のマクロ指標をみると,データの制約の問題等その評価には十分注意する必要があるものの,欧米諸国に比較して低生産的,低効率的と結論づけることはできないといえる。

しかしながら,これが日本の流通機構や商慣行に問題がないことを意味するわけではない。以下では日本の流通機構のミクロ的側面,商慣行について考えることとする。

(日本の商慣行)

日本的な商慣行としてしばしば,「建値」,「返品」,「リベート」,「系列店」等が指摘されている。問題なのはこれらが流通機構としてどのような経済合理性を持っているか,社会的厚生からみて問題はないか,また,国際的に広く行われているのかなどの点であろう。

「建値」は,メーカーが流通段階ごとに付す標準的な価格体系で,消費者段階ではメーカー希望小売価格などと呼ばれているものであり,欧米ではあまりみられない。建値はメーカー等にとっては値崩れを防ぎ,マージンが維持しやすい,消費者にとっても商品選択の目安になる等の利点があるものの,逆に価格が硬直化する恐れがあるなどの問題点がある。

メーカーの提示する建値が単なる参考価格の通知にとどまらず,流通業者の販売価格を拘束する場合は再販売価格維持行為となり,アメリカ,EC,日本とも原則禁止である。また,公正な競争を阻害するおとり販売を防止する等の観点から,例外的に再販売価格維持行為に対する独占禁止法の適用を除外する制度があるが,日本では欧米と比べ適用除外品目(一部の化粧品・医薬品,書籍・レコード等の著作物)が多い。アメリカ,カナダなどでは再販売価格維持行為は全面的に禁止されており,イギリスでは書籍,地図及び医薬品が,ドイツでは出版物のみが,また,フランスでは書籍のみが適用除外となっており,日本においては国際的な制度の調和の観点からも適用除外制度の見直しを継続させていくべきであろう。

「返品」については欧米では流通業内の買い手が商品リスク負担をすべきであるという原則があり,原則として欠陥品等のみが返品を認められている。一方,日本ではアパレル,書籍,医薬品等に広く返品がみられる。返品は,品揃え確保のため,流通業内の売り手と買い手がリスクを分担する等の経済合理性があると考えられる。しかし,返品自体は流通業者に対する大手の小売業の優越的地位の乱用の問題,小売の販売努力,合理化を妨げている可能性,コストの不透明性や競争制限的な行為になる可能性があるなどの問題がある。

「リベート」については,日本だけでなく欧州でも存在するが大きな違いは,日本の方が多種多様であること,欧州では決済毎に支払われるが日本では一定期間毎に支払われる場合が多く,日本の長期的,継続的取引を示唆するものとなっている。これは,販売促進へのインセンティブ・スキームとも考えることはできようが,返品制と同様に小売業の自助努力を妨げ,非効率な零細店舗の温存に繋がっている可能性やコストの不透明性の問題がある。

「系列店」は,化粧品,家電,自動車等の分野で行ってきた流通系列化の結果である。この内,専売店制や代理・特約店制は,メーカーが自社製品の販売網の組織化,特定化を行うことである。これは日本特有のものではなく欧米諸国でも採用されている。このような製造業者と流通業者の垂直的協調関係は,小売業のサービス供給インセンティブを向上させるといった機能があるであろう。家電製品普及の初期はこのような小売店のサービス活動が重要であったと考えられる。また,メーカーと小売業者との情報の交換といった観点からは,小売業者からメーカーへ消費者の嗜好等の情報が伝わり製品開発に反映されやすく,メーカーから小売業には製品に関する情報が効率的に伝わるといった利点がある。

他方,このような垂直的関係はカルテル的な行動を生む危険もあり,更に,重要なのは,新規参入が困難となる可能性が生じる問題である。まず,流通系列化の下で製造業者と流通業者が長期的継続的な関係を持つ場合,生産系列等と同様,両者は取引に固有な投資を行い,その投資は埋没費用(サンク・コスト)の性格を持ち,取引を解消した場合,他に転用・転売できず,そのコストを回収できないことから,流通系列は参入制限的な効果を持つかもしれない。特に,「系列店」が専売制の場合は,競争関係にある他の製造業が販売先を確保しにくいという問題があり,自由な競争を阻害する場合が考えられる。独占禁止法上では販売者の自主的判断で特定メーカーを扱う場合は規制対象にならないものの,「不当な排他条件付取引」にあたる場合は規制される。また,日米構造問題協議以後,91年7月には「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」が公表され,独占禁止法上の考え方を明確にした。一方,アメリカの場合,専売店制は反トラスト法で規制の対象であるが,1970年代後半以降個々の行為の違法性をケース・バイ・ケースで判断することになっている。さて,日本の流通系列の現状をみると,家電業界では販売ルートの多様化が進んでおり,地域店の販売シェアが着実に低下するとともに,スーパー,大型専門店のシェアは上昇しており( 第3-4-10図 ),家電業界にもこのような流通系列を見直し,リベートを簡素化する動きがある。自動車業界もこれまで他社の車の販売を行うことはまれであったが,近年,他社の車の販売について,これまでのディーラーとの契約方式を見直すところも出てきており,流通ネットワークの開放性を明確にする動きがある。

消費者ニーズの多様化等の流通業の直面する環境のダイナミックな変化の中で,国内外から「大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律」(以下,大店法)については,①制度の透明性が確保されていなかったこと,②大型店の出店に対して地方公共団体によって様々な規制が加えられていることを通じて,大店法が事実上参入規制になっている可能性があることが指摘されてきた。

特に,参入規制の存在は,一般に参入規制のない場合と比較して価格を高めたり,生産性の低い店舗を温存させる可能性があるため,消費者の利益が損なわれることになり易い。そこで,大型店の販売額のシェアと商品価格の関係を見ると( 第3-4-11表 ),全国ブランドの大量生産食品ではほぼ大型店の販売シェアの高い地域ほど価格は低い傾向にあり,家電製品については更にこの傾向は顕著である。一方,生鮮食品については,販売額のシェアと価格の関係は明確に有意とはいえないが,おおむね正の相関がある。これは,常に一定の品揃えを確保する必要性や包装等により,大型店の方が逆に価格が高くなる傾向を反映している。

大店法に関しては,規制緩和を求める声が高まっていたところであるが,91年5月,消費者利益への十分な配慮,手続の迅速性の確保,手続の明確性・透明性の確保等を基本的視点に捉えた大店法改正案及び同法に関連する4法案が成立,公布された。このような規制緩和の実施により,小売業をめぐる適正な競争が促進され,最終的には商品価格等の面で消費者の利益の保護につながることが今後とも期待される。