昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


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第II部 構造転換への適応-効率的で公正な社会をめざして-

第5章 東京集中と地域経済

第2節 地域経済の問題点

以下で,東京圏以外の地域経済について大都市圏とその他地域(地方圏)とに分けてみてみよう。ここで大都市圏とは,札幌,仙台,名古屋,京都・大阪・神戸,広島,北九州・福岡の経済圏とした。

まず,大都市圏についてみると,既にみたように高度成長期には製造業での活発な投資活動が,地方公共団体によるインフラストラクチャーの整備等を通じる積極的な企業誘致策により各地域に分散して行われたこともあって,地方大都市を中心とする経済圏も概ね発展をした。しかし,石油危機後の経済成長率の鈍化に合わせてそのテンポも鈍化し,一方で東京経済圏が機能の集中から拡大を続けたことから相対的に地位を低下させてきている。こうした大都市圏は,背後に工業地帯を持っているものが多いが,中心市における就業者について第二次産業と第三次産業の比率をみてみると,仙台,福岡等では第三次産業の比率が相対的に高く,北九州等では相対的に低い。しかし,この場合でも三次産業比率は二次産業のそれより高くなっており,三次産業の動向が地域にとって重要と言える。北九州等の二次産業比率の高い大都市は,中核製造業の発展をてことして流通サービス等が成長を遂げ,三次産業依存度を高めてきたと思われるが,依然として中核製造業に大きく依存していることには変わりはない。そのため,経済自体の情報化,サービス化の進展とともに次第に従来からの二次産業への依存度の高い都市の地位は相対的に低下してきており,今後三次産業を中心に再活性化していくことも一つの方法であろう。

一方,三次産業の比率の高い大都市の場合も背後のー・二次産業と密接な関係にあり,地域経済において政治,経済の中心として商業,金融,情報等で東京に似た機能を果たしてきたものの,三次産業の中心は卸・小売業等にとどまり金融・保険業や情報サービス・調査・広告業の蓄積は相対的に薄かった (第II-5-6表)。こうした経済的な要因の他に大都市自体でも,地方独自の多様化,個性化ではなく,画一化を求めてきた面もあろう。

交通・通信網の整備は,国土の均衡ある発展を図る上で極めて重要であるが,ただその整備は地域づくり,東京圏のあり方によって東京への集中,分散両面に働くことも考えられる。高度成長期を通じた東京と結びついた交通・通信網の発達等は,地方定住の進展に貢献してきたが,現実に地方大都市と東京の経済力に大きな相違がある状況においては,こうした東京との交通流や情報流のパイプが太くなったことが,ともすれば,地方大都市の東京に対する依存を強める方向に作用した面も考えられる。交通網の整備により時間距離の短縮は達成されたものの,東京と地方大都市のもつ都市活動の利便性の差やアクセスコストとの関係において,相対的に東京への人口等の集中が進む場合もあろう。

今後は,こうした地方の大都市では,地方独自の多様化を進めていくなどにより自立力を高め,こうしたパイプを東京への依存の増大に終わらせず,より相互的で高次の補完関係を創造していくよう努めていくことが極めて重要である。

次に,地方圏についてみてみよう。地方圏は,一般に就業者に占める第一次産業就業者の比率が相対的に高く,また高度成長期には地方圏から大都市圏へ労働者が移動した。農村地域では,高齢化が進む中で農業の効率的発展,就業機会の確保などを促進し,地域社会の活性化を図ることが重要である。

また,地方圏の中には,地場産業の産地や高度成長期に大企業の製造工場が建設されたところも含め企業城下町として造船や鉄鋼といった単一の大企業の存在に雇用,財政といった面で大きく依存しているところもある。こうした地域の中には,世界的な過剰能力の存在やNICsの台頭等から中長期的に構造調整を必要とする業種を抱えている所も少なくなかったが,60年秋以来の円高がそうした問題を一層鮮明にし,輸出型産地や企業城下町は厳しい状況に置かれているところも多い。

また,地場産業への依存の高い地域での対応についてみると,輸出型産地とそれ以外の内需型産地に分けることができる。内需型産地では,NICs諸国等からの輸入品との競合により影響を受けているが,中には,手作り品の見直しや着実な個人消費の伸び等に支えられているところもある。一方,輸出型産地では,生残りのため製品構成の転換等が刃物・陶磁器(岐阜)などの産地では行われている例もあるが,一般に今回の円高による打撃は大きなものとなっている。

また,今回の大幅かつ急激な円高にもかかわらず,輸出型とはいえ先端技術関連産業が立地している地域では底堅い動きが持続されている。

このような地域経済の情勢の中で,手作り品が見直されてきていることは,一つの示唆を与える。すなわち,我が国経済は,高度成長期を通じて効率的な生産形態の下,少品種を大量に低価格で生産し,大量に消費するというパターンが定着してきたが,最近では,ニーズの多様化に伴って少量・異品種かつ高付加価値商品が選好されるようになってきている。これは手作り品も多い地場産業にとっては,かえって活躍の場が広がってきているとも言えよう。また,農業生産物についても同様なことが言え,大量生産品よりも,無農薬・有機生産野菜や果物等がたとえ高価であっても選好されてきているなど,消費者の選好が極めて多様化してきていると思われる。低価格品の場合では,輸送コストの問題が大きく大量輸送による単位当たリコストの引下げが必要とされたが,高付加価値製品は高価格の場合が多く,小型の商品では無論のこと,大型のものであっても輸送費は大きな問題とはなりにくいため,消費圏から遠くとも生産可能と言えよう。加えて,このような高価格・高付加価値品の生産は多くの場合労働集約的であり,雇用の吸収がある程度期待しうる。ただ,地域経済といえども東京圏及び地方の大都市圏と全く独立して生産活動を行いえず,これらの大都市圏から強い影響を受けており,こうした商品・産業の発達にはこれらの大都市圏の発展が重要であることは言うまでもない。


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