昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


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第II部 構造転換への適応-効率的で公正な社会をめざして-

第5章 東京集中と地域経済

第3節 バランスのとれた地域振興のために

今後国際社会や我が国での情報化の一層の進展等を通じて各国間の関係がより緊密になるにしたがって,東京の世界都市としての重要性は,増すことはあれ減じることはないように思われる。東京の重要性がその諸機能の集中から生じていることは既にみたとおりであり,その重要性故に放置されれば自動的に機能の集中が進むものと考えられる。こうした動向を踏まえ,今後東京圏と東京圏以外の地域でのバランスのとれた発展を図っていくために必要な方策について考えてみることとする。

東京圏では,土地・住宅問題等を始めとして解決されるべき問題は少なくないが,土地・住宅問題を解決していくためには,土地の有効利用を図ること等で対処しうる面もあり,居住環境の整備に関する方策を講じつつ,市街化区域農地課税の在り方及びこれとあわせた良好な宅地供給等に関する方策の検討を行い,その結果を踏まえ適切な対応を図る必要がある。

また,その一つの可能性は東京の持つ諸機能の分散を図ることであろうが,様々な機能が混然一体として存在していることが全体としての機能を高めていることや具体的にはどの機能をどの地域に分散するのか等困難な問題は少なくない。短期的には,土地の高度利用を図ること等で対処しうる面もある。しかし,より抜本的にはこうした対策では対処が困難になることが考えられ,東京圏の内部で多核多圏域型の都市構造の形成を図るとともに,多極分散型国土の形成を目指した機能分散が図られていく必要があろう。

東京は世界都市として今後とも活発に発展していくことは疑いないと思われる。しかし,発展のスピードをどう考えるのか,また,他の地域との共存をどうやって図っていくのか問題は少なくない。ここー,二年にみられたような,企業の東京における本社機能の拡大や東京移転,東京圏での国際金融都市化に伴う急激な発展等が,都心部及び臨海部の再開発を促進する一方で,都心部の土地価格のみならず周辺部の土地価格までをも高騰させ,住宅価格やオフィスビルの賃貸料を上昇させ,不動産保有者に大きなキャピタル・ゲインをもたらすなど社会的な歪みを生じてきている。従って,穏やかな発展が望まれるが,テンポだけではなく,こうした歪みが今後更に拡大されないように,必要な規制の緩和は勿論のこと新たなルール造りも必要とされよう。

一方,東京圏以外の地域においては,既存の集積を生かして,関西圏,名古屋圏等において,世界都市機能の分担を図り,21世紀に向けた独創的な産業と文化を創造する中枢圏域,産業技術の中枢圏域等として整備を進めるほか,地方圏においては,長期にわたって安定した人と国土のかかわりを築き,良好な国土を将来に引き継ぐため,積極的な地域振興により人口定住を推進するべきである。このため,地方の大都市圏においては,地域での金融・情報サービスセンターとしての機能を充実させつつ,中核的な製造業を内需主導の経済環境にみあったものに転換させていく必要がある。また,地方圏においては,東京等を活用しつつ,個性豊かな地域社会を造り,多極分散型国土の形成を図っていくことが重要である。特産品の開発などの地域産業の振興策,イベントなどの開催,都市と農村の交流が既に各地で行われてきており,今後ともこうした方向で発展が図られていくことなども必要であろう。

ただ,地方圏においては大都市圏と比較して民間活力活用の条件は相対的に整備されていないため,地方公共団体が地域振興をリードしていく必要性は高いと思われる。地域特性を生かした魅力ある地域づくりを進め,多様性を有する国土の形成を図る上で,地域の総合的な行政主体である地方公共団体の果たす役割が増大しており,その行財政基盤の強化を図る必要がある。

このため,国と地方の役割分担については,国,地方を通ずる行財政の簡素合理化及び地方分権の推進の観点に立って,地域づくりにおける地方公共団体の自主性,自律性の強化等を図ることを基本に,引き続きその見直しを進め,また,日常社会生活圏の拡大等により,市町村の区域を越えた広域的な対応の必要性が高まっていることから,引き続き事務の共同処理体制の整備・充実,関係市町村・住民の機運の高まりを前提とした自主的な合併の条件整備などを進める必要がある。

60年度の都道府県,市町村の歳入にしめる一般財源の割合をみると,地方税は4割程度,一般財源は全体でも6割に満たない(第II-5-7表)。

高齢化,情報化,国際化の進展等に伴う多様な財政需要の増大に対応していくためには,地方財源の確保と安定を図るべく,今後とも適切な措置を講じていく必要があろう。

なお,国の地方支分部局については,事務などの整理合理化を進めつつ,本省の権限の委譲などにより,地方公共団体との円滑な連携の下に地域の実情をより反映した行政運営を図る方途についても検討していく必要があろう。

また,既にみたように東京の世界都市としての重要性は増すと考えられ,東京をそれにふさわしく整備するとともに,地方の活性化,多極分散型国土の形成を図り,東京圏と地方の相互的で高次の補完関係を創造していくように努めていくことが極めて重要である。また,東京と地方との距離的な関係を公的部門と民間部門の適切な役割分担の下に時間,費用共に縮めていくことは,東京と地方のバランスの取れた発展にとって不可欠なものと言えよう。既に,情報・通信網ではその兆しがみられており,交通網においては一層の充実が必要である。こうした低コストで高い効果を発揮する交通網の提供は,地方産地の産物の輸送ばかりでなく,人的な輸送も増大させ,リゾート基地としての地方の発達を促すものとして期待される。また,前章でみた労働時間の短縮は時間多消費型の消費,レジャーなどを増加させると考えられ,こうしたリゾート基地としての地域の発展を促進していくためにも必要な手段となりえよう。


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