昭和59年

年次経済報告

新たな国際化に対応する日本経済 

昭和59年8月7日

経済企画庁


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第2章 経常収支の動向とその要因

我が国の経常収支は,第2次石油危機の発生により大幅な赤字を計上したが,56年度以降黒字に転じた。経常収支黒字幅は,57年度の91億ドルから58年度には242億ドルへと151億ドルもの拡大を示した。この経常収支黒字の大幅化は,①57年を通ずるドル高(円安)の進行,②58年におけるアメリカの急速な景気回復及び我が国国内需要の伸びが比較的緩やかであったこと,③石油輸入価格の低下といった短期的な要因によるところが大きい。

しかしながら,名目GNP比でみて2%を上回る現在の経常収支黒字をこうした短期的な要因のみによって説明することは困難である。少なくとも事後的な民間投資,民間貯蓄の動きをみる限り第1次石油危機を契機とする高度成長から安定成長への移行に伴って我が国の民間投資性向は大幅に低下する一方で,民間貯蓄性向の低下幅は小幅であった。この結果,中期的にみて財政部門,対外部門における投資超過傾向が強まったと考えられる。さらに,長期にわたる我が国の国際収支構造の動向をみると,40年代前半に経常収支は黒字傾向を示すようになり,40年代半ばには投資収益収支も黒字化している。我が国の国際収支構造も,経常収支の赤字と長期資本の流入によって特徴づけられる債務国の段階から,経常収支の黒字を資本輸出によって他国に資本を供給する債権国の段階に達していると考えられる。2回にわたる石油危機は我が国経済に深刻な影響を与えるとともに先進諸国の経常収支を悪化させたが,我が国の場合,石油危機発生後3年目には経常収支は黒字化している。

これまで我が国は,対外不均衡の拡大,対外経済摩擦の高まりに対し自由貿易体制を維持し,強化するとの観点から我が国市場の一層の開放,輸入拡大のための努力を行ってきた。この結果,現在我が国は世界において最も開放された市場の一つとなっている。今後とも我が国が自由貿易の維持・強化のためのルールづくりのために積極的な貢献を行い,保護主義に対する巻き返しを図ることは重要な課題である。

さらに,我が国経済が国内民間需要中心のインフレなき安定した力強い成長を実現することは,貿易の拡大均衡を通じて対外経済摩擦を解決する上で不可欠の条件であることは言うまでもない。一国の資源配分はその国民が主体的に選択すべきものであるが,我が国においては住宅および居住環境改善のための潜在的ニーズはあり,また新たな技術革新に対応した産業構造の一層の高度化を実現することが望まれている。こうしたニーズを満たすためには住宅投資,設備投資等の民間投資の持続的拡大,並びに民間主導の社会資本投資を促すための条件整備を進めることが必要である。すなわち,現在我が国には国内貯蓄を国内において有効に活用する余地がかなり残されており,中長期的な観点からみて民間投資の持続的拡大が必要である。他方,我が国の家計貯蓄率は,人口の高齢化の進展等に伴い低下傾向を示す可能性がある。

一方こうした国内における投資機会拡大の余地,並びに貯蓄率の低下傾向を考慮するとしても,今後とも我が国の貯蓄供給能力は国内投資水準を上回り,国内部門は貯蓄超過傾向を示すとみられる。この結果,我が国の対外部門は基調として投資超過傾向を示し,経常収支は,今後ともかなりの黒字を生み出していく可能性が強いと言えよう。我が国経済は,金融の国際化を通じてこの経常収支黒字を対外面においてより効率的に活用し,資本供給国として世界経済の発展に積極的に貢献していくことが望ましいと言えよう。


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