昭和58年

年次経済報告

持続的成長への足固め

昭和58年8月19日

経済企画庁


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13. 地域経済

57年度の地域経済の動向をみると,鉱工業生産については素材型業種の停滞,加工型業種の好調という業種間格差を反映して,地域間の跛行性が引続きみられた。建設活動は,住宅建設が公的資金住宅を中心に5年振りに増加したが,公共投資は引続き低い伸びにとどまった。消費については地方圏で低調気味に推移した。

(1) 鉱工業生産の動向

(引続き地域間の跛行性がみられる鉱工業生産)

57年度の鉱工業生産の動きをみると,全国で前年度の水準を下回ったなか,多くの地域で前年度を下回った。しかし,加工型業種の生産が好調であった東北,関東,近畿では全国を上回る伸びとなっている。反対に,加工型産業の生産が不振となった東海や素材型業種のウエイトが高い北海道,中国,四国では前年度を大きく下回った( 第13-1図 )。

地域別には,東北が電気機械,精密機械の好調に加え,素材型業種も多くの業種が不振ながら,繊維が特に大きく伸びてプラスとなったため全体として高い伸びとなった。北陸は,電気機械,精密機械を中心に加工型業種が若干のプラスとなったほか,その他の金属製品,食料品が好調で東北に次ぐ高い伸びとなった。東海や中国では,輸出や民間設備投資の低迷により,一般機械,輸送機械等の加工型業種が不振となり前年度を下回った。

関東は,加工型業種が電気機械は好調であったものの全体では低い伸びにとどまった。素材型業種は,化学,パルプ・紙を除いて不振となり,鉱工業全体で前年度をやや下回った。近畿は関東同様,加工型業種が電気機械を中心に伸びたものの素材型業種は不振で全体では前年度を下回った。

次に,第二次石油ショック直前の53年度と57年度とをくらべて地域別にみることにしよう。

全国ではこの4年間に2.8%の平均伸び率となったが,その伸びのほとんどは加工型業種によりもたらされている。

第13-1図 地域別鉱工業生産の動向

地域別では,東北,関東,九州で全国平均を上回る高い伸びになったのに対し,北海道,中国,四国,沖縄では低い伸びにとどまった。高い伸びをみせた東北,関東,九州では好調な輸出や民間設備投資に支えられて加工型業種の増加寄与度が高かったことや,この間停滞気味に生産が推移した素材型業種のマイナス寄与度が小さかったことが高い伸びに寄与している。また,東海では素材型業種,その他とも寄与度が全地域の中で唯一のプラスとなったが,加工型業種の伸びが高くなかったため全国平均の伸びにとどまった。

反対に,鉄鋼,化学,パルブ紙等の素材型産業のウェイトの高い北海道,中国,四国,沖縄で生産が停滞気味に推移したこともあって全体の伸びが低くなった。

(進行する地域工業構造の変化)

次に,業種別の生産の推移とその結果生じた工業構造の変化について地域別にみることにしよう( 第13-2図 )。

全国では昭和53年度を100とした場合,57年度は鉱工業全体で111.8,加工型業種で136.3,素材型業種で98.1となっており,素材型業種は56年度以降53年度の水準を下回っている。56年度まで生産が好調に推移した加工型業種は57年度にはいると電気機械は堅調に推移したものの,一般機械,輸送機械,精密機械の生産が輸出の不振や民間設備投資の低迷等により前年度を下回った。ただ58年にはいってからは輸出の回復に伴い電気機械に加え精密機械の生産も上向いている。

これに対し,素材型業種では57年度において化学,パルプ・紙を除く業種で53年度の水準を下回っている。この結果,鉱工業生産額に占める加工型業種の構成比が33.8%から41.2%へとかなり上昇したのに対し,素材型業種は反対に構成比が低下し,両者の構成比は逆転した。

地域別にみると,生産が好調に推移した東北,関東,九州では加工型業種の生産が好調に推移し,これが鉱工業全体の水準を押し上げている。とくに東北では電気機械の生産が半導体,電算機関連等で新規立地が多くみられたことから大きく上昇し,また精密機械も輸出に支えられて上昇したことから加工型業種の構成比は大きく上昇した。関東は,加工型業種の生産が全国平均の伸びを若干下回ったもののの,構成比は5割を超えた。加工型業種では一般機械,輸送機械が伸び悩んだのに対し,電気機械はVTR,半導体等を中心に高い伸びとなった。一方,素材型業種では化学,パルプ・紙を除いて低調に推移したが,とくに石油・石炭では大きく低下した。九州は加工型業種の生産が東北に次ぐ伸びとなり,なかでも半導体を中心とした電気機械は高い伸びとなった。57年度は前年を下回ったが,これは造船の操業度の低下に伴う輸送機械の不振によるところが大きい。素材型業種は化学等で上昇したものの,鉄鋼,窯業・土石等でかなりの生産低下となった。

第13-2図 鉱工業生産の地域別動向

次に,生産の伸びが低かった北海道,中国についてみると北海道は加工型業種が56年度にかなりの伸びをみせたものの,ウエイトが大きい素材型業種が鉄鋼,石油・石炭,木材・木製品の不振を主因に低調に推移した。また,その他が食料品を中心に伸びたことから素材型業種の構成比は低下した。中国はウエイトの高い素材型業種が窯業・土石,化学,石油・石炭等を中心に生産が低下したのに加え,加工型業種も主力の輸送機械の生産が56年度以降低下したこともあり,全体として低い伸びにとどまった。

最後に,大都市圏の東海,近畿については,東海は加工型業種が57年度にはいって自動車を中心とした輸送機械の生産の低下に加え,一般機械も工作機械のほか産業機械の生産も不振で前年度を下回るなど53年度から57年度の期間中低い伸びにとどまったが,加工型業種の構成比は関東に次ぐ大きさとなっている。近畿は加工型業種の生産が電気機械は好調だったものの全国平均を下回る伸びとなり,また素材型業種も化学を除いて多くが不振に推移したが,加工型業種の構成比は上昇した。

(2) 住宅建設と公共投資の動向

(低水準が続く住宅建設)

57年度の新設住宅着工戸数は,全国で114万6千戸,前年度比1.3%増と低水準ながら5年振りの増加となった。地域別にみると,4~6月期は中国を除く全ての地域で前年を下回る低調なスタートとなったが,7~9月期から前年を上回り10~12月期がピークとなった( 第13-3図 )。これは,住宅金融公庫の融資条件変更(段階金利採用)直前の第2回募集分(57年7月27日~9月30日)による影響が大きく,特に大都市圏と公的資金住宅のウエイトの高い,中国,九州などで著しい増加がみられた。しかし,その後58年2月までは,多くの地域で増加基調にあったが,3月以降は公庫融資住宅の着工一巡などから伸び悩みないし減少を示している。住宅着工戸数の資金別割合をみると民間資金住宅の割合は,多くの地域で7~9月期,10~12月期に低下したが,1~3月期には上昇して公庫融資住宅の反動減をおぎない,着工戸数の減少を,やや下支えした形になっている。これを57年度合計でみると関東,近畿の大都市圏では,民間貸家など根強い需要もあって57%という割合を占めているものの,その他の地域では30~40%台となっている。また第二次石油ショック後の動きをみてもほとんどの地域で長期的に減少傾向となっており,民間資金住宅の低迷が,住宅建設が低水準である主因となっていることが窺われる。

第13-3図 新設住宅着工戸数の動向

第13-4図 公共工事請負金額の推移

(強い前倒し政策がとられた公共投資)

57年度の公共投資を公共工事請負金額でみると,全国で前年度比3.1%増と56年度に引続き低い伸びにとどまった。57年度は,特に国77.2%,地方公共団体75.4%の上半期前倒し契約が実施されたことや,公社,公団なども前倒しに積極姿勢をとったことなどにより,各地域にもその影響が現われている( 第13-4図 )。4~6月期では,北海道,沖縄は前年を下回ったものの,その他の地域は好調で,特に大都市圏と北陸,四国が高い伸びとなった。7~9月期では,北海道,沖縄は大幅増となり,関東,九州では前年を上回ったが,その他の地域では減少に転じた。10~12月期は,東海,近畿では前年を上回ったものの,各地域とも息切れ状態となった。しかし,1~3月期には総合経済対策による2兆500億円の公共投資追加の効果もあり,多くの地域で再び増加となった。年度計でみると,道路整備,災害復旧工事を中心として北海道,関東,近畿,四国などで比較的高い伸びとなり,中国では前年度の大型工事の反動から逆にかなりの減少となった。

(3) 個人消費の動向

(伸び悩んだ大型小売店販売と好調だった乗用車販売)

57年度の個人消費の地域別動向を百貨店販売額でみると,前年度に対する伸び率は年度に比べて小さくなっているが,その中で北海道,東海,中国で比較的高い伸びとなった。これを売場面積当たり販売額でみると,北海道がかなりの前年度比減少となったほか,関東も減少となった。これに対して東海,北陸,中国,九州で前年度を上回る伸びとなったが北陸,九州では売場面積が減少したことが増加となった大きな要因である( 第13-5図 )。

第13-5図 個人消費関連指標(前年度比増減率)

セルフ店販売額をみると,百貨店販売額と同様前年度に比べて伸び率が鈍化している。その中で,北海道,中国,九州で比較的高い伸びとなったが,これらの地域では店舗数の増加が顕著であったので売場面積当たりの販売額でみると,東北,東海,北陸で比較的高い伸びとなっているが関東では前年度を下回った。

一方,乗用車新規登録・届出台数により乗用車の販売動向をみると,各地域とも前年度に比べて高い伸びとなった。その中では,沖縄,北海道のほか関東,四国で比較的高い伸びとなったが東海,北陸はやや低い伸びにとどまった。

(やや拡大傾向のみられる消費の地域間格差)

全国を100とした場合の勤労者世帯の消費支出の推移を昭和45,50年と最近年の55,56,57年についてみると45年から50年にかけて地域間格差は縮小傾向を示し,その後55年にかけて横ばいで推移した。最近時点では関東,近畿の大都市圏や中国で引続き水準が高くなっているのに対し,九州,北海道,四国,沖縄等の地方圏で低下するなど格差がやや拡大傾向にある( 第13-6図 )。

50年までの地域間格差が縮小したその背景には,所得(実収入)の平準化があげられ,世帯主の収入が平準化したのに加え,妻の収入が東北,北陸,中国,四国等地方圏で高くなっていることによる。その後55年まで実収入の地域間格差がほとんど変らないままで推移したことにより消費支出の格差も横ばいで推移したが,56,57年には鉱工業生産が低調に推移した北海道,四国や沖縄で実収入が低下気味となったこともあり消費支出は低調となった。一方,生産活動が好調となった関東,近畿では引続き高い消費水準を維持したため,これら大都市圏と地方圏との間で格差がやや拡大した。

第13-6図 勤労者世帯の消費支出の地域間格差


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