昭和58年

年次経済報告

持続的成長への足固め

昭和58年8月19日

経済企画庁


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9. 金  融

(1) 57年度の金融動向

56年夏以降,緩やかな景気回復への動きが見え始めた我が国経済も,56年末以降,輸出が急速に減少に転じ,この影響から,ようやく出かかった自律回復への動きは抑えられ,57年度中停滞気味の推移を示さざるを得なかった。

この間,金融面については,55年8月以来の金融緩和政策が続けられ,金融機関の貸出増加額規制(窓口指導)については,57年1~3月期以降,金融機関の貸出計画を全面的に尊重する方式がとられている。こうしたなかで,金融機関の貸出は,企業の借入需要の低迷もあって,比較的高水準ながら落ち着いた推移をたどった。

一方,マネーサプライの動向をみると,経済活動の停滞に伴う取引需要の低迷を反映して,57年1~3月期をピークに増勢は鈍化してきている。

企業金融の面では,金融緩和局面の下で内需の回復が緩慢であったという景気要因と企業の資金調達手段多様化という構造的要因から,落ち着いた動きを示した。

短期金融市場をみると,日本銀行が,円安防止の観点からインターバンク市場金利の高目誘導を実施したことなどから,金利は金融緩和期としては高目に推移した。

次に,公社債市場では,5月頃から金利上昇局面を迎え,10月頃まで高目に推移したが,これには,国債の大量増発懸念も大きく寄与したものと考えられる。この点については,本報告で触れたところである(本報告 第3-10図 , 第3-13図 )。一方,公社債の発行条件の動きをみると,公共債は,57年4月,8月,12月,58年1月および3月と,5回にわたって改訂された( 第9-1表 )。

(2) 高目に誘導された短期金融市場金利

57年度の金融市場は,56年度3兆7,508億円の資金余剰から一転して3兆4,110億円の大幅資金不足となった( 第9-2表 )。

第9-1表 57年度における金融関係主要事項

第9-2表 57年度資金需給実績

これを銀行券の動きについてみると,発行超幅がやや拡大し,1兆1,901億円となった(56年度9,847億円)。平均発行残高の前年度比増加率をみると,56年度4.8%増のあと,57年度は,金融緩和の進展もあり,7.2%増となった。これを四半期別前年同期比でみると,57年1~3月期の5.8%増から4~6月期に7.3%増に上昇したあと,年度を通じて増加率は,ほぼ横ばいの動きを示したが,このところ伸びは鈍化している。

次に財政資金をみると,57年度は,56年度の大幅散超(4兆6,415億円)とは様変りに2兆2,276億円にのぼる揚超となった。これは一般財政の払超幅が9兆2,882億円と縮小したこと,国債の発行超幅が9兆7,781億円と拡大したことや,外為の受超幅が1兆7,377億円と大幅に拡大したことによる。

このような大幅資金不足に対して,日本銀行は,買入手形の実行,売出手形の決済,貸出の実行等により調節を行った。

一方,短期金融市場の金利は,56年12月の公定歩合引下げ等もあり,57年年初にかけてかなりの低下を示していたが,57年3月末以降,日本銀行が円安防止の観点から,インターバンク市場金利の高目誘導を実施した。この結果,コール・手形レートは,資金余剰期にもかかわらず,3月下旬から4月にかけて上昇し,その後も秋口まで高水準を続けた。こうしたインターバンク市場金利の上昇は,CD・現先市場等のオープンマーケットの金利にも波及し,短期金融市場金利は,金融緩和期としては高目に推移した( 第9-3図 )。その後,海外金利の低下等に伴い,日本銀行が市場調節方針を弾力化したことから徐々に低下し,58年に入ってからは3月~5月の資金余剰期にコール・レートが大きく低下するなど,短期金融市場の金利は57年と比べ,全般に低下傾向を示している。

(3) 落ち着いた動きを示したマネーサプライ

57年度のマネーサプライの動向を中心的な指標であるM2+CDの前年同期比伸び率(平残ベース)でみると,55年後半以降の金融緩和を反映し,56年中増加傾向をたどり,56年10~12月期,57年1~3月期に10.6%増とピークを打ったが,その後漸次伸びは鈍化し,58年1~3月期には7.6%増と落ち着いた動きとなっている。

第9-3図 短期金利等の推移

第9-4図 通貨動向(平残前年同月比)

第9-5表 金融機関実質預金・貸出状況

57年度中のマネーサプライの落ち着きは,基本的には,①56年末以降の輸出不振とそれに伴う国内経済活動の停滞や物価の落ち着きを反映して,通貨に対する取引需要が低迷を続けたこと,②長期金利の高どまりにより,個人部門を中心に銀行預金から,信託・金融債・投資信託等の新種高利回り商品への資金シフトが活発化したこと,などが主な要因である。こうしたマネーサプライの動向については本報告( 第1-12図 )で触れた。

(4) 低下傾向が続いた貸出金利

57年度の金融機関の預貸動向をみると,金融緩和が続くなかで,貸出は比較的高水準ながら落ち着いた推移をたどった。一方,実質預金の伸びは,新種高利回り商品への資金シフトから大幅な鈍化を示した( 第9-5表 )。

まず預金についてみると,全国銀行の実質預金残高(末残)の前年度比伸び率は,56年度の11.4%増のあと,57年度は6.7%増と,かなりの落ち込みをみせた。これは,新種高利回り商品と定期預金等との利回り格差が拡大したことから,都・地銀等の預金から信託・金融債・投信等へ大量資金シフトが生じたことを主因とするものである。

一方,貸出状況をみると,全国銀行貸出残高(末残)の前年度比伸び率は,56年度11.1%増のあと,57年度は10.5%増となり,窓口指導の緩和等,日本銀行の金融緩和政策が長期化するなかで,比較的落ち着いた推移をたどった。これは,国内経済活動の停滞や,企業の金融費用節減から資金需要が落ち着いていたこと,金融機関も融資採算や債権保全面を重視し,無理な貸込みをしないといった慎重な姿勢を維持したことが背景としてあげられる。

こうしたなかで,金融機関を業態別にみると,都銀等では,漸次貸出態度は積極化しており,中堅・中小企業向け融資を拡大している。一方,地銀・相互・信金等では貸出の伸び悩みがみられるなど,業態間での跛行性が次第に目立つようになっている。

ここで全国銀行の貸出約定平均金利をみると,57年度中公定歩合が据置かれたにもかかわらず,企業の資金需要が盛り上がりを欠いたことから,短期貸出金利は低下が続き,58年3月末には6.381%(57年3月末6.568%)となった。この結果,長期と短期をあわせた貸出約定平均金利(総合)は,57年9月の長期プライムレートの引上げから一時微騰したものの,年度中低下傾向で推移し,58年3月末には,7.110%(57年3月末7.264%)となった。

(5) 緩和の浸透する企業金融

57年度中の企業金融をみると,56年央頃から浸透しはじめた資金繰りの緩和感は,57年央頃から漸次拡大を続けた。その後,実体経済の停滞を背景に,輸出関連業種等,一部に緩和感の後退がみられたが,全体として,企業の資金需要は落ち着いた動きを示し,緩和基調が続いている。

資金需要面を企業規模別にみると,大企業では,輸出関連業種等で後ろ向き資金需要が一部増加するなど,全体として資金需要はやや増勢を示したが,企業ではこれに対し,手許流動性のとりくずし等で賄い,借入れを極力抑制する方向で対処した。一方,中小企業では,リース,信販等一部業種における底固い資金需要や,企業収益の低迷に伴う後ろ向き資金需要などに対して,手許流動性の水準が低いこともあり,借入れの増加によって対処したといえる。

(6) 高どまり傾向を示した公社債市場利回リ

57年度の公社債市場をみると,金融の量的緩和が一層進展するなかで,57年5月央以降,長期債レートは急上昇し,その後秋口まで高水準を続けた。これは,この時期,56,57年度の大幅税収不足が表面化するとともに国債の増発懸念が強まったほか,円安の進行もあって,債券市況が下落したためである。

11月に入ると,米国金利の低下期待や,急速な円安修正を背景に内外の投資家の債券投資が増加したため,長期債レートは急落した。その後,58年に入ってからは,円高一服,金利の低下期待の後退などを反映して,長期債レートは反騰したのち,一定の範囲内での動きとなった( 第9-6図 )。

金融緩和下における長期金利の上昇は,56年春以降においてもみられたが,当時の最も大きな上昇要因は米国金利の上昇であった。今回(57年5月以降)の金利上昇局面では,米国金利はむしろ低下傾向で推移しており,長期金利上昇には,円安に加え,国債引受増加予想が大きく寄与している。このことは,財政赤字が,国債の大量増発懸念を通じてわが国の長期金利に大きな影響を及ぼしたことを示している。

次に市場の動向をやや詳細にみていくと,まず,起債市場では,公募発行額は23兆2,307億円と,前年度比24.1%の増加となった。このうち,民間債は1兆5,120億円と,前年度比16.7%の減少となったものの,公共債については,税収の大幅落ち込みを補填するため国債の大量増発が行われたため,前年度比29.1%の大幅増加を示した。こうしたなかで,57年7月および58年2月にシ団引受長期国債が休債となり,58年3月の国債発行条件の改訂により,国債の応募者利回りが事業債のそれを上回るといった事態が生じた。

第9-6図 公社債市場の動き

次に流通市場をみると,57年度の公社債売買高は,350兆1,283億円と前年度に比ベ,37兆8,318億円増加し,伸び率は12.1%と引き続き拡大した。内訳をみると,一般売買高が214兆454億円と,前年度に比ベ20.2%増と順調に拡大したのに対し,現先売買高は,136兆829億円と前年度に比べ1.4%の低い伸びにとどまり,総売買高に占める比率も前年度の43.0%から38.9%へ低下した。

第9-7図 株式市場の動き

一般売買高の拡大については,金融緩和の進展の中で,金融機関,事業法人などが,余裕金を積極的に債券運用に振り向けたことなどが主因としてあげられる。

一方,現先売買高の低迷については,外貨預金,CDなど短期金融商品の多様化が進んだことなどが主因とみられる。

次に,57年度の株式市場をみると,前半は,米国の高金利や円安傾向に加え,国内景気が盛り上がりに欠けたことなどから,総じて低調な相場展開に推移した。しかし,後半は,米国金利が大きく低下を示したことから,相場は一転して上昇し,活発化した外人買いを背景に様変りの活況場面へ転じ,58年に入ってもなお上昇基調を続けている( 第9-7図 )。


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