昭和58年

年次経済報告

持続的成長への足固め

昭和58年8月19日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

1. 国際収支

(1) 停滞から回複へ向かう世界経済

(世界経済と世界貿易の動向)

第2次石油危機後欧米主要国では,中長期的観点を重視し,経済の供給面を改善するとともに,インフレ抑制,財政赤字削減を目指した政策運営を行った。特にアメリカでは,79年10月の新金融調節方式の採用以降金利の変動が激しくなり,インフレが鎮静化する中で実質金利の高騰を招いた。このことが各国通貨に対するドルの独歩高,世界的高金利を発生させることになり,世界同時不況という状況が生じた。

このような欧米諸国を中心とした世界経済の低迷を背景として世界貿易も停滞を続けた。世界の輸入数量(共産圏を除く。IMFによる)は,56年0.5%増のあと,57年は1.3%減となった。四半期別にみると56年10~12月期以降5四半期連続して減少した。地域別にみると56年末以降全地域で減少しているが,当初は先進工業国や非産油途上国の減少が大きく,57年に入って,石油輸出国の減少幅も拡大した。

しかし,58年に入って,世界景気にも少しずつ明るい動きがあらわれてきた。依然景気の停滞している国はあるものの,アメリカ,カナダ,イギリス,西ドイツ等で景気回復が始まったことに加え,石油価格が低下するなど世界景気の明るい指標が増している。

ただ,欧米経済の景気回復については,依然高金利という不確定要因があり,年内における回復テンポは緩やかなものにとどまるとみられる。

第1-1表 国際収支の概要

(2) 経常収支の改善と資本収支の赤字

57年度の総合収支は,1,988百万ドルの赤字となったが,前年度に比べ赤字幅は縮小した。これは,経常収支の黒字幅が前年度に比べ拡大したことに加え,長期資本収支の流出幅が縮小したことによる。

(経常収支の黒字幅拡大)

経常収支は56年度に3年振りに黒字に転じたが,57年度は貿易収支の赤字幅縮小により,91億ドルと黒字幅が拡大した。

貿易収支は,輸出,輸入ともに減少する中で,201億ドルと昨年度とほぼ同様の黒字幅となった。

貿易外収支は5年ぶりに赤字幅が縮小したが,その主因は依然水準は高いものの,前年度に比べ海外金利が低下したことに伴う為銀利子支払の減少や我が国企業の海外進出を反映した直接投資収益の増加等から投資収益収支が前年度の赤字から黒字に転じたことによる。

(流出超過続く長期資本収支)

長期資本収支は,本邦資本が前年度に比べ流出幅を22億ドル拡大したものの,外国資本が流入幅を52億ドル拡大させたため,流出超過幅は前年度を下回る119億ドルとなった。

本邦資本の流出幅は279億ドルと過去最高水準となった。この主因は,国内金融の緩和傾向,秋口までの大幅な内外金利差を背景とした借款の流出幅拡大によるものである。証券投資は前年度より流出幅が縮小したものの高水準であった。

外国資本も証券投資,外債の流入幅拡大等により160億ドルと過去最高の流入超過となった。証券投資は秋口以降の内外金利差の縮小等を背景として前年度に比ベ大幅な流入超過となった。

外為市場における円の対ドルレートは57年初来内外金利差の拡大等を背景にほぼ一貫して下落を続け,57年11月初旬には52年6月以来の円安値(277.65円/ドル)を記録した。その後58年初にかけて円安修正の局面を迎えたが,アメリカの金利が先行不透明なことを反映して,このところ240円/ドル前後の相場が続いている。

第1-2図 わが国の長期資本収支の内訳

(3) 58年に入り持直した輸出

(57年度の輸出動向)

57年度の輸出(通関額)は1,366.5億ドルで,前年度比10.1%減となり,ドルベース金額としては第一次石油危機後の昭和50年度以来,7年振りの前年度比マイナスとなった。これを,価格,数量に分けてみると,価格(ドルベース)は同7.2%の減少,数量は同3.1%の減少となった( 第1-3表 )。一方,円ベースでは57年に入ってからの円安の影響で,価格が同2.2%の増加となったことから,金額でも同0.8%の微減にとどまった。また,四半期別にドルベース金額をみると,56年末からはじまった減少傾向は57年を通じ続いたが,10~12月期を底に58年に入ってからは,持直してきている。

輸出動向を商品別にみると,繊維・同製品(ドル15.2%減,数量5.3%減)は,合成繊維織物,合成繊維糸などで,在庫の多かった共産圏向けなどを中心に減少した。化学製品(ドル3.7%減,数量3.6%増)はEC向け,アメリカ向けはやや増加したが,中近東向けで減少したほか,主力の東南アジア向けも微減となった。鉄鋼(ドル15.2%減,トン数0.2%減)は,中近東向けの棒鋼輸出が大幅増となったが,価格の高いアメリカ向けシームレスパイプの減少などから,全体として,数量では微減だったものの,ドルベースの減少幅は大きかった。一般機械,(ドル10.6%減,数量6.5%減)については,事務用機器がパソコン等を中心とした自動データ処理機械の高い伸びにより増加した。しかし,それ以外の商品では,金属加工機械が,輸出価格の自主規制を行っている工作機械を中心に,鉱工業生産の不振が続いたアメリカ,EC,東南アジア向けに大幅減少となったのをはじめ,加熱・冷却用機器,建設・鉱山用機械なども減少した。電気機器(ドル10.2%減,数量3.4%減)は,半導体等電子部品が,アメリカ向けを中心に増加したが,ラジオ・テレビは世界景気の低迷と,これに伴って発生した海外在庫増などを背景に減少した。また,テープレコーダー類(ドル5.4%減,数量23.3%増)は数量では増加したものの,ドルベースは減少となった。これは,主力のVTR(ドル1.1%増,台数31.9%増)が,数量ベースではアメリカ向けが伸び悩んだものの,EC向けを中心に増加したことから,依然として大幅な増加となったのに対し,ドルベースでは,普及型への移行,コストダウンなどによる価格の低下から,微増にとどまったことが影響している。なお,VTRは58年に入ってからは,EC向けが減少気味であるもののアメリカ向けは増加傾向となっている。

第1-3表 貿易指数の推移

自動車(ドル5.3%減,台数3.4%減)は,中近東向けが,前年度が低かったこともあり,増加したが,アメリカ向け,EC向け,東南アジア向けなど全般に不振であった。これは,乗用車の対米自主規制のほか,欧州通貨の下落に伴う価格競争力の低下や消費の低迷による欧州市場での販売不振,およびバス・トラックについては,ビッグスリーの小型トラック市場への参入の影響などによると思われる。船舶(ドル22.8%減,トン数15.3%減)は,世界不況の長期化による荷動きの減少や,タンカーを中心とした船腹過剰を反映し,減少した。

次に地域別の動向をみると,アメリカ向け(ドルベース前年度比8.7%減)は,56年度後半からの景気後退とこれに伴う現地在庫調整などから減少した。西欧向け(同9.0%減)は,景気停滞と欧州通貨の下落などがら,機械類を中心に減少した。東南アジア向け(同7.1%減)はマレーシア,インドネシア,インド向けはやや増加したが,韓国,台湾,香港,シンガポールなど多くの国々で減少した。中近東向け(同4.9減%)は57年を通じた原油価格の下落傾向と需要減による石油収入減の影響に加え,イラク向けが大幅に減少したこと,およびイラン向けが,秋以降大幅増加となったものの,年度では微減にとどまったことなどから,全体として減少した。ラテンアメリカ向け(同20.0%減),アフリカ向け(同38.8%減)は,一次産品輸出の減少による収入減に,一部諸国の対外債務返済困難などの問題も加わり,大幅な減少となった。共産圏向け(7.0%減)はソ連向けが増加したものの,経済調整の影響の残った中国向けは減少し,全体としても減少した。

第1-4表 商品別・地域別輸出動向

(4) 低迷を続ける輸入

(57年度の輸入動向)

輸入は第二次石油ショック以降低迷を続けている。57年度の輸入(通関額)は,1273.3億ドルで前年度比10.8%減と,56年度(同0.9減)に続き減少した( 第1-5表 )。56年度に比べて大幅な減少になった理由は,国内生産活動の停滞や円安により数量が前年度比4.4%の減少と3年連続の減少となったことに加え,価格(ドルベース)が,原油価格の軟化等により,同6.9%の減少となったことがあげられる。四半期別の動きをみると,金額,数量とも季節調整済の前期比で57年4~6月期から3期続けて減少した後,57年末からの円安修正もあり,58年1~3月期には微増となった。

商品別の動きをドルベースでみると,鉱物性燃料(前年度比12.9%減,以下同じ)は,原粗油(16.9%減)の減少を主因として大幅な減少となった。57年度の原粗油の輸入量は,素材産業の不振,省エネルギーの一層の進展等による内需の減少に加え,57年末からは,原油価格引下げを見越した石油産業界の輸入手控え,在庫削減等の動きもあり,205百万kl(通関ベース)と,45年度以来12年振りの低水準となった( 第1-6図 )。また輸入価格(通関CIF価格)は,世界的な需給緩和と,割安なスポット原油の輸入比率がが高まったことや,58年3月のOPEC(石油輸出国機構)の原油価格の引下げ決定等により,56年度の36.9ドル/バーレルから,57年度は34.1ドル/バーレルへと,石油ショック以降初めて低下した。この結果,輸入(通関額)にしめる原粗油のウエイトは56年度の37.1%から57年度は34.5%へと低下した。

原料品(7.5%減)も内需不振と市況の低迷等により大きく減少した。繊維原料(10.3%減)および金属原料(6.8%減)は,繊維工業,鉄鋼業などの需要不振や市況の低迷もあり減少した。木材(3.3%減)も3年続けて減少したが,数量では,57年後半の国内の住宅着工の増加,米材の対日輸出攻勢等により7.3%の増加となった。食料品(5.6%減)は魚介類,コーヒー・ココア等が増加したものの,砂糖,とうもろこしなどにより減少したが,数量では5.4%の増加となった。

第1-5表 商品別・地域別輸入動向

第1-6図 原粗油輸入量と輸入価格の推移

製品類は本報告でも述べた様に,国内の生産活動の停滞に加え,57年中の大幅な円安により相対価格(製品類の輸入価格と国内製品の卸売物価との比)が上昇したため,数量ベースの季節調整済の前月比で57年4~6月期から3四半期連続の減少となった。中味をみると(ドルベース),自動車(18.1%増),鉄鋼(2.5%増)等は増加したものの,航空機(26.9%減),繊維製品(7.0%減)等は減少した。58年に入り,円安修正の進展,航空機の輸入増などにより製品類の輸入は持ち直してきている。

地域別の輸入動向をみると,中近東(15.1%減),東南アジア(8.5%減),共産圏(14.5%減),EC(17.3%減),アメリカ(4.9%減)などほとんどの地域からの輸入が減少した。これは原粗油を始めとした一次産品価格の下落がその要因となっているが,ECからは前年度増加した非貨幣用金や船舶の輸入が大幅に減少したことがあげられる。

(製品輸入比率は着実に増加)

以上が57年度の輸入動向であるが,次に55年以降の商品別の輸入数量の動向をみてみる( 第1-7図 )。第二次石油ショック以降輸入の大宗をしめる原燃料(鉱物性燃料+原料品)の輸入数量が低迷しているのに対し,製品類と食料品は,円レートの動きに左右されるものの,ほぼ55年の水準を上回って推移しており,商品間に跛行性ができていることがわかる。つまり,第二次石油ショック以降の輸入の低迷は,主として原燃料輸入の停滞に基づくものであることがわかる。

第1-7図 商品別輸入数量指数の推移

第1-8表 製品輸入比率の推移

このような中で,わが国の製品輸入比率は着実に増加している( 第1-8表 )。二度の石油ショックによる原燃料価格上昇の影響を取り除くための実質値でその推移をみると,昭和45年の15.9%から57年には26.6%にまで高まってきている。ただし,欧米諸国に比較し,その数字は依然として低水準にあることは否めない事実でもあり,今後も一層の製品輸入の拡大に努力していく必要がある。


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