昭和55年

年次経済報告

先進国日本の試練と課題

昭和55年8月15日

経済企画庁


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13. 地域経済

(1) 順調に拡大した鉱工業生産

昭和54年度の地域別鉱工業生産指数の前年度比増加率をみると,各地域とも53年度の伸びを上回っている。とくに前年度にマイナスまたは低い伸びを示した北海道・四国・九州などは相対的になお低いとはいえ,伸び率は大幅に高まった。この結果,53年度にみられたような地域間の跛行性がうすれ,各地域足並みをそろえて順調に拡大した( 第13-1表 )。

地域の生産活動の伸びに差がなくなったのは,電気機械をはじめ,ほとんどの業種でプラスの伸び率を示したこと,また繊維・木材など多くの地域で減少となった業種でもその寄与度は小さいことなどによるものである( 第13-2図 )。

こうした中でも,なお地域間の伸び率には若干の差がみられる。1つには,北海道・中国・四国の3地域の伸び率が相対的に小さいということであり,2つにはこれらを除いた5地域の伸び率が概して「東高西低」になっているということである。これは主として,全国計で寄与度の高い業種(一般機械・電気機械)の寄与度が地域によって異なっているためである。これをやや詳細にみてみると,北海道については,電気機械が伸び率構成比ともに小さいことによるものであり,中国・四国については一般機械が構成比が高いにもかかわらず,その伸びが小さかったことによるものである。

第13-1表 地域別鉱工業生産の動向(前年比増減率)

第13-2図 鉱工業生産業種別増減寄与度ランキング

次に,54年度の動きを四半期別にみると,前期比がマイナスとなったのは,54年7~9月期の北海道だけで,それを除くと総じて各地域とも安定した伸び率を維持しており,54年度中を通じて順調な拡大を続けた。又,年度を前半と後半に分けてみると,ほとんどの地域で全国と同様に後半の伸びが高くなっている。

第13-3図 地域別鉱工業生産の回復状況

鉱工業生産指数について,前回のピーク時(48年10~12月期または49年1~3月期)との比較をしてみると,回復状況は地域間で差がみられる( 第13-3図 )。特に北海道と四国の2地域では54年度の水準が前回のピーク時のそれを下回っていることが目立っている。これは上述のとおり,54年度の伸びが低かったためではなく,52年度のマイナス成長,53年度の足踏み状態がひびいたものである。なお,四国については,四半期別にみれば,54年度第4四半期(55年1~3月期)で前回ピーク時の水準を上回っており,北海道についても概ねその水準を回復している。これらを除いた6地域では東の方ほど回復の時期が早くなっている。

前回ピーク時との比較における地域別差異の要因をみるために54年度平均までの業種別の増加寄与度をみると北海道の回復が遅れているのは,鉄鋼業,木材木製品,輸送機械などのマイナスの寄与によるものであり,四国については輸送機械,一般機械の大幅なマイナスの寄与によるものである( 第13-4図 )。他方,その他の6地域のうち,東北,関東ではウエイトの最も大きい電気機械が2桁の寄与度を示している。また,中部は,各業種とも順調に回復しているが,どちらかといえば,西へ行くほど,マイナスの寄与の業種が多くなっている。

第13-4図 鉱工業生産前回ピーク時比増減寄与度ランキング

(2) 製造業の好況感続く

以上のような生産の順調な拡大を背景として製造業の業況判断は各地域とも54年度を通して明るさを続けた( 第13-5図 )。

日本銀行「全国企業短期経済観測」による地域別業況判断の動きをみると,いずれの地域も高水準を持続しているが,54年度中に限ってみれば,地域によって年度内のピークの時期に1四半期程度の差が認められる。すなわち,中部より東の地域ではピークが8月であるのに対し,近畿より西の地域ではピークが11月となっている。北陸を除き,このような地域差を示していることは前述のように,生産の回復状況が「東高西低」であることに見合っている。また,北海道・四国の業況判断DIの水準が低いことも,前述の生産水準の差異と一致している。55年度にはいって,5月調査の結果をみると,ほとんどの地域で上昇に転じているものの,北陸・九州の地域で低下となっている。特に四国の大幅上昇は,生産が年度末に回復したことを考えると興味深い。

第13-5図 地域別業況判断の動向(「良い」-「悪い」の割合)

他方,非製造業では54年度中を通じて低下基調が続いた。特に北海道・東北・北陸・四国での落ち込みが著しい。55年5月調査の結果とつなげてみると北陸・四国がやや持ち直しているものの,新たに中国と九州が低下基調となっている。しかし,関東・中部・近畿のいわゆる大都市圏域では,製造業と同様に好況感が続いている。

(3) 主役が交代した設備投資

昭和54年度の全国の民間設備投資は,国民所得統計によると名目で17.6%増と前年度(10.3%増)より伸びが高まったが,その地域別動向を日本開発銀行の設備投資計画調査でみると,地域によって若干のばらつきがある。しかし,電力投資の大幅減によりマイナスとなった北陸を除くと,四国,九州の伸びがプラスになったことにより,各地域とも設備投資は,概ね順調に拡大したといえる。

第13-6図 地域別設備投資動向(前年度比増減率)

これを製造業,非製造業に分けてみると,非製造業は53年度に電力を中心に大幅な伸びを示したが,54年度に入って電力投資が高水準ながら伸び率が低下したため,ほとんどの地域で全体の設備投資の増加に対する寄与度を低めることとなった。特に従来から設備投資のなかで電力の占める割合が高い北海道,東北,北陸では電力の伸び率の低下が,全体の動きに大きく影響している( 第13-6図 , 第13-7表 )。

第13-7表 設備投資額伸び率の地域別・産業別寄与度

このように,多くの地域で電力を中心に非製造業の設備投資の伸びが前年度より低下したのに対し,製造業の設備投資は,北海道,東北を除く各地域で,前年を大幅に上まわる拡大を示し,いわば54年度における設備投資増加の主役となった。

北海道については,食品,一般機械,電気機械,石油精製等で伸びた半面,ウエイトの高い紙・パルプ,鉄鋼等で設備更新,能力増投資が一段落したことによる投資減もあり,製造業全体として前年を下回った。また,東北については,食品,石油精製における53年度大幅増の反動がやや大きくひびき,一般機械,電気機械等で伸びたものの,全体としては伸び率がマイナスとなった。

ちなみに,鉱工業用建築工床面積をみても,54年度はいずれの地域も前年度に比し伸び率が大幅に高まっており,製造業設備投資の活発さを窺うことができる。

次に,前述の日本開発銀行調査において業種別の動きをみると,輸出設備投資を中心とする需要の堅調から生産が大幅に伸びた一般機械,電気機械,自動車等では全国的に設備投資の伸びが高く,これらの業種のウエイトの高い,関東・東海・近畿が高い伸びを示している。また,53年度には設備投資が低迷していた紙・パルプ,化学,鉄鋼等の素材型製造業も各地域で増加に転じたため,関東・近畿・四国・九州などの地域の設備投資の拡大に寄与した。

第13-8表 製造業の生産設備判断(D・I)の推移

なお,日本銀行「全国企業短期経済観測」でみてみると( 第13-8表 ),製造業の生産設備に対する判断は,各地域とも53年度前半から,54年度後半にかけて,徐々に過剰感が低下してきており,54年度の設備投資の増大に見合うものとなっている。しかしやや詳細にみると,北海道や四国のように,54年度末になってもなお「過剰」が「不足」を上回る地域がある反面,東北や北陸・中部・中国のように54年度のはじめか,あるいは年度後半で「不足」が「過剰」を上回るようになった地域もある。こうした生産設備に対する判断の違いと地域別の設備投資の伸びとは必ずしも一致するものではないが,それは,54年度に行われた製造業の設備投資が,能力増強よりも,更新,合理化等に主眼を置いたものが多くを占めたためではないかと考えられる。

最後に,53年度に比べ伸び率は低下したが,54年度設備投資の下支えとして貢献した非製造業(54年度設備投資伸び率12.8%に対する寄与度4.3%)も見逃せないであろう。特に電力・ガスは多くの地域において少なからぬウエイトを占めている。

55年度計画ベースでは,電力・ガスにおいて大規模な投資が予定されており,製造業と並んで今後とも各地域の設備投資の堅調は増大を支えていくものと予想される。

(4) 雇用情勢は各地域共一様に改善

生産が順調な拡大を続ける中で,54年度の雇用情勢は,製造業雇用の回復,男子雇用の増加等本報告でもみたように,順調な改善を示した。

地域別の動きを有効求人倍率でみると,過去のピーク時では地域別にかなりの開きがあった。すなわち,昭和48年10~12月期では,最高の東海と最低の九州では5.52倍と0.73倍と大きな差異があった。従ってそのときの全国値1.86倍は,こうした地域別数値の平均であったわけである(厳密には,全国の有効求人倍率の算定においてはパートタイムを含み,地域別の有効求人倍率の算定においてはパートタイムを除いたことによる差異がある)。

第13-9図 有効求人倍率にみる雇用の改善

しかし,各地域の労働需給の改善が本格化したとみられる53年1~3月期からの回復状況をみてみると,関東・北陸・東海などがやや急テンポではあるものの,地域間の格差はあまりみられず,全国的に順調な改善が進んできたことがわかる。54年度においても,北海道・東北・四国・九州がやや弱いが同様の傾向が続いている( 第13-9図 )。

次に各地域の労働需給を,求人と求職の相対的関係でみてみると( 第13-10図 ),54年度においてもほとんど全ての地域で,有効求人数の増加と有効求職者数との減少がみられるが,そのうち,有効求人数の増加率は53年度に比べてやや低下している地域が多い。北海道は有効求職者数がわずかではあるが増加した唯一の地域で,有効求人数の増加率は53年度のそれを大幅に上回った。このほかには有効求人数の伸び率増を伴って,有効求人倍率が改善したのは,関東一地域のみで,有効求人数の伸び率が高まった分だけ有効求人倍率の改善幅が前年度よりも高くなっている。中国では54年度に有効求人倍率が大幅に高まったが,それはむしろ有効求職者数の減少度合が大きくなったことに負うわけで,有効求人数の増加率は低下している。

第13-10図 雇用の改善と求人・求職状況

このようにみると,54年度の雇用情勢は,多くの地域で有効求人数の増加率が低下したが,有効求職者数の減少を伴ったことから,有効求人倍率でみる限り,各地域共一様に順調な改善を示した。

第13-11表 雇用人員判断(D・I)の推移

なお,北海道については,53年度は鉱工業生産の伸び率がマイナスであったこともあり,有効求倍率の改善がもっぱら有効求職者数の減少によってもたらされたわけであるが,54年度は上述のとおりこれと対照的に有効求人数の増加が大きく寄与した。これを四半期別にみてみると54年度の第4四半期に建設業を中心に製造業を含めて求人状況が悪化したことから有効求人数が大きく後退し,さらに有効求職者数の若干増もあって有効求人倍率の改善は足踏み状態となった。このような動きは他の8地域においても若干みられ,多くの地域で年度半ばに有効求人倍率が改善した後,第4四半期には伸び悩みの傾向がみられた。

一方,日本銀行「全国企業短期経済観測」によって雇用人員の過不足感をみてみると( 第13-11表 ),地域間に若干のばらつきはあるものの,53年度前半から,54年度後半にかけて,過剰感の解消あるいは不足感の増加が一つの傾向となっており,こうした動きは全体としての有効求人倍率の改善とも見合うものと考えられる。

(5) 地域差あるが堅調だった個人消費

個人消費での動きを実質家計消費支出(全世帯)でみると,全国平均では54年度も順調な伸びを示している。しかし,これを地域別にみると,生産・雇用が多くの地域で均等な伸びを示したのとは対照的に,伸び率の地域間のばらつきが,53年度に比べて大きくなっていることが注目される( 第13-12表 )。

53年度においては,伸び率の最高を示した地域と最低を示した地域の差が4.5%ポイントであったのが54年度では13.9ポイントと3倍に拡大している。もっとも,消費支出の地域による差はこれほど大きくないとの見方もある。農家世帯の消費支出や百貨店の販売額などをみると地域によってあまり差がないからである( 第13-13図 , 第13-14表 )。

第13-12表 実質家計消費支出(前年度比増減率)及び五大費目寄与度

第13-13図 世帯当り可処分所得・消費支出の動き(前年度比増減率)

しかし,家計調査でみた上述の動きは,傾向としては実態を表わしていると考えられるので,以下では,それを中心にやや詳しくみてみよう。

家計調査でみた消費支出の伸びの地域差が拡大したのは,主として勤労者世帯の消費支出の差によるもので,さらに,それは勤労者世帯の可処分所得の伸びの違いからきている( 第13-13図 )。

全世帯の実質家計消費支出が最も大きい伸びを示した四国では,勤労者世帯の可処分所得も最高の伸びとなっているし,逆に全世帯の実質家計消費支出の伸びがマイナスとなった北陸では,可処分所得も他の地域にみられない対前年減となっている。

第13-14表 百貨店販売額の動向-前年(同期)比増加率

可処分所得との関係でもう一つ特徴的なことは,54年度ではほとんどの地域において消費支出の伸びが可処分所得の伸びを上回ったことである。勤労者世帯については,近畿のみが逆になっているが,北陸の伸び率マイナスも含め,消費支出の伸びの方が高い。又,農家世帯についてみても,54年度は,可処分所得の伸び率が前年に比べ低下している中で,北陸だけが逆の動きをし,また四国は等しい伸び率となっているほかは,大多数の地域で消費支出の伸びの方が高くなっている( 第13-13図 )。

このことは,全国的にみられた消費性向の高まりが年度当初における消費者物価の安定,雇用の改善傾向等を背景に,各地域においても,程度の差はあれ進行したことを意味するものである。それがどのような形で進んだかを消費支出の内容からみてみよう。

各地域の消費支出の費目別寄与度を比較してみると,全消費支出の伸び率が全国平均を上回る地域(北海道・関東・東海・近畿・四国・九州)については,それぞれ雑費での寄与度が最も大きく,全国平均を下回る地域(東北・北陸・中国)については,雑費の寄与度がマイナスあるいは小さいものになっている。これに対して,食料費・光熱費は地域による寄与度の差が極めて小さく,所得の伸びの違いが選択的支出の面に現われる傾向がここからも読みとることができる( 第13-12表 )。

以上のように,54年度の家計消費は,各地域の勤労者世帯の所得の伸びの相違とそれにもとづく支出態度の差異等によって,地域間にややばらつきがみられた。

しかし,消費者物価は,年度後半に上昇傾向を強めたものの,比較的落ち着いた動きをみせ,雇用情勢も年度を通じて改善傾向を維持したこと等から,多くの地域で消費性向が高まり,家計の消費支出は,概ね堅調な推移をみせたといえる。

54年度の地域経済は,順調な拡大をみせた輸出,好調に推移した設備投資に支えられた生産の拡大基調によって維持されたが,これと並んで比較的堅調な動きをみせた個人消費に負う所が大きかったことも見逃せないであろう。


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