昭和55年

年次経済報告

先進国日本の試練と課題

昭和55年8月15日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

1. 国際収支

(1) 第二次石油危機下の世界経済

(急激に脹らむ産油国の経常黒字)

世界経済は,第一次石油危機の発生後,景気の後退,インフレの悪化,国際収支の赤字といったトリレンマに陥り,1978年末になって,ようやくこの調整過程を終えようとしていたが,1979年初から再び原油価格の大幅上昇に直面することとなった。

国際収支面をみると,74年以降逐年減少してきたOPECの経常黒字は,79年には再び急増し,80年には1,000億ドルを超えるものと予想されている。このOPECの黒字に対応して,80年には先進工業国では600億ドル余,非産油発展途上国でもそれに近い赤字の発生が予想されている( 第1-1表 )。

このような巨額の赤字は先進工業国にとっても大きな負担であるが,第一次石油危機に伴う国際収支悪化を先進国からの公的移転や金融市場を通じた借入れによってようやく乗り越えてきた非産油発展途上国にとって,極めて大きな負担である。この負担の程度を公的債務残高の輸出額に対する割合でみると,78年時点で前回の石油危機当時よりも悪化している( 第1-2図 )。従って,今後これら非産油発展途上国の石油代金のファイナンス問題が,世界経済の安定にとっての重要な課題となろう。

(騰勢が続く先進国の物価情勢)

原油価格の大幅な上昇は物価面にも大きな影響を及ぽしている。主要先進国の卸売物価は,79年に入って大幅に上昇率を高め,80年に入ってもこの騰勢は続いている( 第1-3表 )。ヨーロッパ諸国では最近でも根強い物価の騰勢が続いているものの,アメリカでは景気下降が強まる中で卸売物価上昇テンポが鈍化の兆しを見せ始めている。また,日本でも円高の影響等もあって5月,6月と前月に比べ下落するといった動きも見られる。しかし,原油価格の動向も不透明であること等からみて,先進国の物価情勢は依然として先行き楽観できない状況にある。

第1-1表 世界の経済収支

第1-2図 非産油発展途上国の公的債務残高

第1-3表 主要国のGNP・生産・物価動向

(アメリカ経済は景気後退局面へ)

原油価格の上昇は一方でデフレ効果を伴う。主要先進国の経済は79年中は総じて拡大傾向を維持したが,最近になって一部で景気下降の動きが強まっている。

アメリカ経済は,1975年の第II四半期以来長期にわたって拡大傾向を続け,世界経済の第一次石油危機からの回復に大きく貢献してきた。79年に入っても,等II四半期には実質GNPが前期比マイナスとなったが,第III四半期以降は大方の予想に反し実質GNPは再び増加した。その後,実質GNPの増加は80年第I四半期まで続いたものの,80年に入ってからは景気の頭打ちが指摘され,第II四半期には実質GNPは前期比年率で9.1%減と大幅な落ちこみを示すに至っている。イギリスでも,本年に入ってから次第に景気下降が鮮明となっており,フランスでも頭打ちの気配がみえている( 第1-3表 )。

これまでのところ,その他の主要先進国では総じて経済の拡大が続いているものの,今後,アメリカの景気下降の動きが貿易を通じて各国に派及していくことも予想される。

先にみたような物価の高い上昇が続く中で,景気後退の動きが広範化することになれば,主要国がスタグフレーションという困難な状況に直面することも予想される。各国は,経済運営の極めて難しい局面を迎えている。

(2) 大幅に悪化した国際収支

昭和54年度の総合収支は,前年度の23億ドルの赤字から190億ドルの赤字へと赤字幅を大きく拡大した。これは,長期資本収支は流出超過幅を縮小したものの,経常収支が前年度の大幅黒字から一転して大幅赤字となったためである( 第1-4表 )。

(大幅黒字から大幅赤字に転じた経常収支)

経常収支は,前年度の119億ドルの黒字から一転して139億ドルの大幅赤字となった。これは,貿易外収支の赤字幅が前年度を更に上回ったこともあるが,貿易収支が前年度の大幅黒字から赤字へと転じたためである。

貿易収支が前年度の205億ドルの黒字から24億ドルの赤字に転じたのは,輸出が前年度比8.3%増となったものの,輸入が同40.6%増と著増したためである。このように輸入金額が急増したのは,54年初以降数次にわたって,産油国による原油価格の引上げが実施されたためであるが,加えて,54年前半には,53年10月までの円高のJカーブの本格的局面である下降(黒字縮小)局面と同年11月以降の円安のJカーブの初期的局面である下降(赤字拡大)局面が重なったことも貿易収支の黒字縮小,赤字増加の一因となっている。

第1-4表 国際収支の概要

貿易外収支が前年度の78億ドルから101億ドルへと赤字幅を拡大したのは,主として運輸収支が赤字幅を19億ドル拡大したためである。これは,本報告でもみたように,燃料油の値上がりによる港湾経費の赤字拡大によるところが大きい。一方,前年度大幅に赤字を拡大した旅行収支の赤字が前年度並みにとどまったのは,54年中の円安の進行による面が大きい。

(流出超過幅が縮小した長期資本収支)

第1-5図 証券投資の動向

長期資本収支は,84億ドルの流出超過と高水準の流出超過となったものの,前年度の163億ドルの流出超過に比べてその幅は半減した。

主要項目別にみると,前年度に大幅に流出超過幅を拡大した借款,直接投資が前年度並みの流出超過にとどまったのに対し,証券投資が前年度の大幅流出超過から一転して流入超過となったことが特徴的である。

証券投資が流入超過に転じたのは,53年3月以降とられていた非居住者の債券取得制限措置が54年2月に解除されたこと,54年5月から非居住者の現先取引への参入が認められたことなどから,非居住者の債券投資が大幅に増加した反面,円建外債の発行が流通利回り上昇等による起債環境悪化を反映して大幅に減少したこと等によるものとみられる( 第1-5図 )。

第1-6表 最近における為替政策の主要な変更

(54年度の為替政策)

外国為替市場での円相場は,53年11月以降,それまで2年近く続いた円高傾向から一転して円安傾向となった。この間,54年から55年にかけては,円相場の安定,資本の流入促進等のための対策が講じられた( 第1-6表 )。

(3) 増加に転じた輸出

(54年度の輸出動向)

54年度の輸出(通関額)は,総額1,070.3億ドルで前年度比8.1%増となった。これを価格,数量に分けてみると,円安傾向を映じて価格は同1.9%の上昇にとどまり,数量は同6.1%増とかなりの増加に転じた。一方円ベースでは,円安による価格上昇と数量増とが相まって同22.5%の大幅増となった。こうした輸出数量の増加は,世界貿易の堅調と円安による価格競争力回復によるものである(本報告 第I-3-17図 参照)。

輸出動向をまず地域別にみると,アメリカ向け(9.0%増,ドルベース前年度比,以下同じ)は,消費を中心に景気が堅調に推移したことから,円安に伴い期を追って伸びを高めた。また西欧向け(11.6%増)も,石油価格上昇下比較的根強い景気に支えられて消費財を中心に増加した。東南アジア向け(12.0%増)は韓国などの景気後退にもかかわらず産油国の好調から堅調に推移した。一方共産圏向け(0.9%減)は,経済計画の見直しなどから減少に転じた。こうしたなかで,中近東向け(14.3%増)は石油価格上昇による産油国収入増を背景に,年度後半著増し輸出増加の主役となった( 第1-8図 )。その内容を商品別にみると,繊維・同製品,鉄鋼,自動車,テレビなどの旧来からの製品,とくに消費財の伸びが著しい。この結果,先進国向けが減少している繊維・同製品,テレビの中近東向け比率は急速に高まっている。また中近東向けのプラント受注額も54年度は前年度の2.5倍に達した。経常収支の赤字が続くなかで,中近東向けの増加はオイルマネー還流の面からも望ましい傾向と言えよう。

次に商品別の動向をみると,鉄鋼(15.4%増,数量では0.1%増)はトリガープライス制の下で価格上昇によって増加し,化学製品(18.9%増)も原料コスト上昇による価格上昇から増加している。一方,自動車(14.3%増,同18.0%増)は,円安による価格競争力の回復に加え,燃費のよさから米国市場などで販売シェアは期を追って高まり,乗用車を中心に後半急増した。前年度著増した一般機械(3.7%増)は,通関べースではしばらく伸び悩んだが,年明け以降円安の効果が現われ増加テンポが高まっている。また船舶(37.3%減,同21.7%減)は引続き減少したが,受注面では増加に転じており,今後は緩やかな回復がつづくとみられる。

第1-7表 商品別・地域別輸出動向

第1-8図 ①輸出の地域別増加寄与度

以上のように商品別の動向をみると,素材型と加工組立型とでかなり異った動きがみられる。素材型では,主に価格上昇による輸出金額の増加であるのに対し,加工組立型では数量による寄与が高いという点である。また採算との関係でみても,両者には対称的な動きが見られる( 第1-9図 )。不況と円高の過程で価格よりも数量を重視した素材産業は,今次円安過程では逆に価格を指向し,一方加工組立産業は円高時には数量減となったが,非価格競争力を背景に円安下では採算を回復しつつ数量も増加している。

また加工組立産業のなかでも,テレビやラジオが低迷する一方,VTRや半導体集積回路は増加を続けるといった長期的な構造変化が続いている。コンピューター,工作機械,VTR,カメラと言った新しい技術を組み込んだ「メカトロニクス」関連商品群の全輸出額に占めるシエアは12%に達し,今や自動車,鉄鋼と並んで輸出商品の主役になりつつある( 第1-7表 )。

(4) 大幅増となった輸入

(54年度の輸入動向)

54年度の輸入(通関額)は,総額1,204.6億ドルで前年度比42.3%増と,前年度(18.1%増)の伸びを大きく上回った。これは,数量の伸びが5.8%増(前年度9.8%増)にとどまったのに対し,価格が34.5%増(同7.6%増,金額の伸び率÷数量の伸び率)と大幅上昇となったためである。

第1-9図 業種別にみた輸出数量と採算

財別の動きをドルベースでみると,鉱物性燃料が原油価格の相次ぐ引き上げにより,粗原料が海外一次産品高により増加したため,工業用原料は前年度とは対照的に大幅増加となった。また,資本財は国内の設備投資の堅調を反映して53年度に引き続き増加している。一方,消費財では年度前半までは53年度に引き続き大幅上昇を続けたが,後半になって円安により相対価格が不利化したこともあって急速に伸び率が低下した。特に衣類,雑貨類を中心とした非耐久消費財は55年1~3月期にはドルベースで前年を下回っている。また,食料品も年度後半には伸びが鈍化したため前年並みの増加率にとどまった。

第1-10表 商品別・地域別輸入動向

地域別にみると,財別の輸入動向を反映して大部分が原粗油である中近東(63.9%増)や,原材料,鉱物性燃料の多い東南アジア(52.0%増)からの輸入が急増した。一方,製品類の多いアメリカ(32.4%増),EC(18.2%増)からの輸入は相対的に伸び率が低く,四半期別にみると期を追って伸びが低下している。

(原粗油輸入数量の動向)

48年度の石油ショック以来,原粗油輸入量の停滞傾向が続いている。54年度もドルベースでは前年比66.5%増と大幅増となったものの,数量では同0.2%増と低い伸びにとどまり,依然48年度の水準を下回っている。一方では生産が増加しているにもかかわらず,このように原粗油輸入量が停滞傾向を続けているのはなぜだろうか。

第1-11図 原油・石油製品の国内消費推移

第1-12図 科学製品(中間品)の輸入推移

第1-13図 中間製品の輸出入に占めるウェイト推移

第1に,本報告でも述べているように,国内の石油消費が産業部門での原単位向上によりあまり伸びていないためである( 第1-11図 )。第2には,エネルギー多消費業種の多い素材産業が相対的に低い伸びにとどまっているためである。

なお,数字的裏仕けには乏しいが本報告にもあるように中間品への代替が進んでいることも一つの理由としてあげられる。これには化学製品などのように原材料としての石油を減少させる面と,非鉄金属地金などのようにエネルギーとしての石油を減少させる面とがある。また輸出においては中間品は横ばいないし減少となっている( 第1-12 , 13図 )。

以上のような動きが続けば,今後とも原粗油の輸入は低く抑えていくことができるものとみられる。


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