昭和51年

年次経済報告

新たな発展への基礎がため

昭和51年8月10日

経済企画庁


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第2章 世界景気の回復とわが国輸出の増加

第4節 改善がみられる国際収支

(1) 弱い輸入の回復テンポ

今回の景気回復局面において,輸入は従来に比べ伸びが弱かつた。輸入数量の減少は不況の深刻化とともに加速化し,前期比でみると49年4~6月期0.6%減,7~9月期4.6%減,10~12月期6.5%減のあと,50年に入つても減少を続けた。50年4~6月期には,輸入数量の減少幅も縮まり下げ止まりがみられた。これは国内生産が回復してきて素原材料消費が増加したこと,また繊維など一部業種で原材料の在庫調整が一巡したこと,さらに7~9月期には値上げ前の原油のかけこみ輸入もあつたためである。

景気の谷から1年間の輸入数量の鉱工業生産に対する弾性値をみると,従来の景気回復局面では平均1.5程度と生産の伸びを上回つて輸入は伸びたが,今回は0.7と様変りであつた。これは,輸入の大宗(約7割)をなす素原材料の回復が弱いことが主因であるがこの他に設備投資の低迷を反映して機械類が減少していることなどによる。それではなぜ素原材料の輸入の回復テンポが今回弱かつたのであろうか。それは輸入素原材料在庫率が空前の高水準のままで推移したからである( 第2-22図 )。その理由として次の2つが考えられる。第1に,今回の景気後退局面で鉱工業生産が戦後最大の落込みを示したため,原材料消費が大幅に落込んだこと。

第2に,輸入素原材料在庫が48年の輸入の急増(数量ベースで前年比28%増)のあと,国内の不況により大きく積み上つたことに加え,一次産品の不足傾向と輸出国の供給管理の強まりから長期輸入契約をとるものがふえ,また備蓄の強化が図られたことや,47~48年ごろの過大な買いつけ分が不況期において遂次入着したことなどから不況中も生産の落込み程の下落を示さなかつたこと。したがつて第1の理由とも相まつて,輸入素原材料在庫率は高水準のまま推移した( 第2-23図 )。

(2) 経常収支はほぼ均衡

50年度上期は前期に比べ輸出入がともに縮小したが,輸入の落込みを主因に,わが国の貿易収支は著しい改善を示した。さらに50年度下期に入り輸出が増加に転じ急速な伸びを示すようになつて,貿易収支の黒字幅はさらに拡大した。こうして,50年度には貿易収支が58.6億ドルの黒字となり,経常収支で均衡するに至つた(49年度の経常収支は23.3億ドルの赤字)( 第2-24図 )。

こうした貿易収支(通関ベースを内国調査課においてIMFベースに換算)の改善を,先進国,産油国,非産油開発途上国についてみると次のことがいえる。

また,石油価格急騰によつて交易条件が悪化した。交易条件が悪化すれば一定量の輸入をまかなうのに必要な輸出額は多くならなければならない。といつて,貿易収支の均衡を図ることがそれだけ困難になるといえるだろうか。

石油価格の引上げのように突如に,しかも4倍以上にも引き上げられれば,貿易収支が当座悪化するのは当然である。しかし,時間の経過とともに,交易条件悪化をもたらした原因である石油価格の引上げがその反面において機械類の価格競争力を素材部門より相対的に有利にした。しかも先述のように自動車など機械類に対する需要が今回の世界景気回復の局面で著増を示したことなどもあつて,貿易収支の改善に寄与した。

また,恒常的に赤字となつている貿易外収支は,50年度には輸入減少に伴う運輸収入の好転,海外金利の低下による投資収益の支払減などにより,前年度に比べ若干赤字幅が縮小し54億ドルの赤字となつた。こうして50年度の経常収支は49年度の23億ドルの赤字から1億ドルの黒字へと大幅に改善を示し,ほぼ均衡を回復した。

(3) 長期資本収支も大幅改善

長期資本収支も49年度の20.8億ドルの赤字から,50年度は2.6億ドルの赤字と著しい改善を示した( 第2-25図 )。これは,

    ア まず,対日証券投資では内外株価の上昇とわが国経済に対する信頼の回復から対日株式投資がかなりの買越しになつたことに加え,円相場の直先の開きも勘案した内外金利差などを背景として,対日債券投資も大幅な純流入となつたこと。

    イ 外債発行が49年末の「外・内外債」の再開に加え,ユーロ債市場など,国際債券市場の規模の拡大や海外金利の低下などの起債環境の好転もあり,急増したこと。

    ウ 本邦資本が50年中の輸出低調から延払信用供与が減少となつたほか内外の景気停滞を反映して企業の投資意欲がひきつづき沈静化しているため対外直接投資が落着きをみせたこともあつて流出幅を縮小したことなどによる。

以上のように50年度は貿易収支の大幅改善から経常収支がほぼ均衡し,資本収支でも著しい改善を示したため,総合収支では17.7億ドルの赤字と赤字幅が半減した。

こうしたなかにあつて,わが国の開発途上国への資金の流れをみると,総額では対GNP比で73年に1.44%に達したあと,74年は0.65%,75年は0.59%と低下した。このうち政府開発援助は73年101,100万ドル,74年112,600万ドル,75年には114,800万ドルと増加を示している。

先進国の景気回復は急ピッチで進んでいる。しかしながら,その過程において一部の国では国際収支に問題が生じた。こうした事態に対して,幸いにして,国際協調の精神に基づき各国の協力がなされ先進国の景気回復は概してみれば着実さを増している。しかしながら,こうした景気回復の前途は手放しで明るいものとはいえない。まず,根強い物価上昇圧力が引続き存在していることである。他方,景気回復が進めば石油輸入の増加を主因に先進石油消費国の経常収支は再び赤字化するおそれがある。しかしながら,当分の間石油消費国全体としてみれば対産油国赤字はやむをえないものであろう。対産油国赤字までをも改善しようとして,自国の赤字を他国に押しつけようとすることは世界景気の持続的な回復を妨げ結局は自らの景気回復を阻害することになる。世界経済の相互依存関係が深まるなかで自国の着実な景気拡大は他国の着実な景気拡大をもたらし,かえつて自国の景気拡大の着実さを増すことになる。


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