昭和51年

年次経済報告

新たな発展への基礎がため

昭和51年8月10日

経済企画庁


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第2章 世界景気の回復とわが国輸出の増加

第3節 輸出増加による着実な景気回復

(1) 大きかつた輸出増加のインパクト

第1章でみたように,わが国の今回の景気回復は初期においてはそのテンポが鈍く,51年に入つてから急回復するという経過をたどつたが,このような回復パターンをもたらした要因として輸出の果した役割が大きい。輸出は従来の回復局面では景気回復の初期におけるリーダーであつた。ところが今回は様子が違つた。すなわち,GNPベースでも50年度上期は民間設備投資の減少傾向が続くなかで輸出も減少を示したのである。しかし先に述べたようにわが国の輸出が世界景気の回復とともによみがえり,50年10~12月期,51年1~3月期と急増を示した。そして輸出が景気回復のテンポを早めるうえで大きな役割を果した。

輸出増加は,輸出以外の需要をも誘発する効果をもち,GNP全体に与える影響は非常に大きい。いま,当庁内国調査課マクロ・モデルを用いて50年度下期の輸出増加の影響を試算してみると,こうした輸出増加がなかつた場合に比べ50年10~12月期の実質GNPを0.9%,51年1~3月期には2.9%とそれぞれ押し上げたとみられる( 第2-19図 )。つまり,1~3月期だけをみると,実質GNPは輸出増加とその波及効果により,前期比で約2%引き上げられたとみられる。ちなみに国民所得統計(速報)によれば1~3月期の実質GNPは前期比3.5%増であるので,このうち約6割が輸出増による直接・間接効果によるものであつたことがわかる。こうした効果はかなりの期間にわたつて波及してゆくものであるが,需要項目別にみると,民間設備投資や民間在庫投資への影響が大きい。とくに民間設備投資に対するインパクトが大きく,輸出増加により相当引き上げられるものと推定される。こうした動きは,現実に現れており第1章でも述べたように,自動車,電気機械など輸出好調業種では設備投資計画の上方修正がみられている。

また鉱工業生産に対する輸出増加のインパクトも非常に大きなものであつた。50年度上期においては輸出は減少を続けていたので,鉱工業生産の増加には全く寄与することはなかつた。しかしながら,50年10~12月期以降輸出は増加に転じ生産,出荷を引き上げる効果をもちはじめた。通産省の試算によれば,鉱工業出荷では前期比で10~12月期の2.1%増,51年1~3月期の5.7%増のうち,輸出向け出荷(外需)の増加寄与率はそれぞれ66%,45%であつた。このような輸出向け出荷の増加は,その波及効果を含めると51年に入つてからの鉱工業生産の回復に大きなインパクトを与えた。今回の輸出増加の中心は機械部門であつたが,この部門の生産誘発係数は,電気機械をみても輸送機械をみてもかなり高いことに加え( 第2-20表 ),これらでは早くから在庫調整が進展していたこともあつて,これらの輸出著増が他の部門の生産を誘発した度合いは大きく鉱工業生産全体の増加に寄与した。また,マクロ・モデルの試算によれば,1~3月期の生産増(前期比5.8%)のうち輸出の増加寄与率は約6割(前期比で3.6%増)に達したとみられる。さらに輸出増加の影響は4~6月期以降も拡大するが,4~6月期についてみると鉱工業生産をかなりの程度(前期比で約3%)引き上げたとみられる。

(2) 輸出関連業種の収益は大幅改善

輸出増加はまた企業収益の改善に寄与した。いま,輸出比率の変化幅(50年度上期から下期にかけて)でみて製造業平均以上に輸出比率が高まつている機械類の業種では,50年度下期の売上高経常利益率をみると,製造業平均よりも収益が改善している。とりわけ自動車は,輸出の急増とともに収益も改善が著しい( 第2-21図 )。

また,石油価格高騰による交易条件の悪化が企業収益を圧迫するという議論がある。たしかにわが国の場合のように石油をはじめとする原・燃料の輸入依存度の高い国では,これらの価格が上昇すると他の条件にして等しい限り製造コストが上昇し企業収益が圧迫される。しかし交易条件が元に戻らなければ収益圧迫要因が除去されないかといえばそうではない。というのは,原・燃料コストが製品価格を押し上げる割合は製品価格に占める原・燃料コストの割合(原単位)に原・燃料価格の上昇率を乗じたものであるからである。例えば,石油価格が4倍になつたとしても,石油原単位が10%ならば,石油価格上昇による上昇分が吸収されるだけの製品価格の上昇率は300(%)×0.10=30(%)である一方,石油が輸入全体の中で30%として,石油だけが4倍になつて他は一定であるとすればコスト上昇率は300(%)×0.3=90(%)である。すなわち,石油価格急騰直前の交易条件を100とすれば急騰後は130/190×100=68.4となり,依然交易条件は元の水準に戻つていないが,コストを価格に転嫁できる状況が整えばもはや企業収益を圧迫する要因とならない。


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