昭和50年

年次経済報告

新しい安定軌道をめざして

昭和50年8月8日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

4. 中小企業

(1) 激減した中小企業の生産

総需要抑制策の進行のなかで,中小企業の生産活動は大幅な落込みを示した。

中小企業,大企業別の生産活動(中小企業庁調べ)を前年比増減率でみると,中小企業は48年の14.7%増のあと,49年は6.4%減とかつてない低下を示した。この間,大企業は48年の18.9%増,49年の1.1%減であつたから,49年の中小企業の生産低下率は大幅であつたといえよう。また,中小企業の生産は40年不況,46年不況においても前年比マイナスを示さなかつたが,今回の不況下においては前年水準を下回るという異例の動きを示した。しかも,その生産低下テンポは49年年初以降,年末にかけて期を追つて大きくなり,さらに50年1~3月は前年同期に比べて実に20.1%も下回つた。これは,同じ時期の大企業の17.1%減を上回る大幅な落込みであつた( 第4-1表 )。

第4-1表 中小企業,大企業別の生産活動(季節調整値)

今回の不況下において生産が最も落込んだ50年2月の生産を業種別にみると, 第4-2表 に示すように,輸送機械のみが前年水準を上回つている以外は,残りの14業種はいずれも前年水準を下回つている。このうち比較的に低下幅が小さいのは食料品(前年同月比0.8%減)であつたが,非鉄,金属製品,電気機械,パルプ・紙などでは前年水準を30%以上も下回り,大企業の減産率をも上回つている。また,40年不況時におけるピークからの低下幅に比べても大幅であつた。

今回の不況下における主要業種の中小企業動向をみると,堅調な生活必需品需要に支えられて食料品は比較的順調な動きを示した。輸送機械も自動車下請けでは,49年年央の停滞や親メーカーの相異による受注差がみられ,造船では50年に入つて中小造船の停滞や大手造船所の下請けの受注減少がみられるが,総じて高水準の生産を続けた。これに対して内外需の不振に直面した繊維や電気機械,同部品などの落込みが目立つた。繊維の生産は比較的はやくから減少をたどり,織物,2次製品,染色整理の順に減産傾向を強め,また綿スフ,化合繊などの主要機業地では49年年央から年末にかけて極度な不振を示した。電気機械は重電,家電がそれぞれ設備投資の減少や,国内販売の減少による影響をうけたことから,下請けメーカーの49年の受注ならびに生産は48年とは様変り的様相を呈した。このほか,建設需要,設備投資の停滞ないし減少により,鉄鋼2次製品,アルミ2次製品,銅合金鋳物,合板,製材,セメント2次製品などの中小企業の生産活動も49年は大幅に低下した。

一方,非製造業でも建設業,不動産業では民間建設活動の不振や,公共事業の繰延べ等の影響をうけ,とくに設備投資と,民間住宅建設の鎮静化により,中堅・中小建設業の業況は低迷した。また,卸小売業でも百貨店を除く一般小売業が前年比で48年の23.8%増から49年には13.0%増と伸びは低下した。販売価格の上昇を考慮すれば小売業の実質販売量は49年には著しく低下した( 第4-3図 )。

他方,49年の中小企業製品の輸出動向をみると,前年に比べて48.3%上回つた。これは輸出価格の上昇による面も大きいが,47年の前年比3.3%増,48年の同10.5%増に比較して大幅な増加を示した。このうち重化学工業製品は輸出価格の大幅上昇がみられた石油・石炭製品や化学などを例外としても,鉄鋼,非鉄金属,精密機械などでは前年比倍以上の伸びとなつており,重化学工業品全体としては61.6%増と48年の20.3%増を大幅に上回つた。一方,軽工業製品では48年の4.3%減のあと,49年には逆に23.3%増となつたものの輸出価格の上昇を考慮すれば,ほぼ前年水準を維持した程度となつている。なかでも衣服その他繊維製品はわずか1.7%の微増にとどまり,数量べースでは実質減少となつた。なお,工業製品輸出総額に占める中小企業製品の割合をみると年々低下しており,48年の34.9%から49年には32.0%と,軽工業製品を中心に引続き低下している( 第4-4表 )。

第4-2表 今回と40年不況との生産対比(45年基準指数)

第4-3図 商業販売額の推移

(2) 収益率の低下と設備投資の鎮静化

このように需給の緩和と生産の大幅な低下のなかで中小企業の業況は悪化した。中小企業金融公庫「中小企業動向調査」(50年3月末,対象5,221社)によれば,50年1~3月において業況が「悪化した」ものは調査対象中小企業のうち59.1%に達し,「好転した」もの9.5%を大幅に上回つている。49年年初以降の「悪化した」ものと「好転した」ものの差(DI)をとつてみると,49年1~3月は「悪化」より「好転」が18.9%上回つていたが,その両者は逆転し,4~6月には7.1%,7~9月には27.4%,10~12月には37.1%となり,ついで50年1~3月には49.6%とこれまでにない高率を示した。

こうした業況の悪化のなかで中小企業の取引条件も悪化の方向をたどつた。同調査によれば,回収条件は49年1~3月から50年1~3月にかけて現金収入比率は46.0%から40.7%へ下がり,売掛期間は42.5日より44.2日へ,また受取手形サイトは109.4日より117.2日へとそれぞれ長期化した。このような企業間信用の膨張を40年不況,46年不況時に比較すると,当時はいずれも現金収入比率の低下がみられたが,売掛期間,受取手形サイトはそれほど長期化を示さなかつたが,49年不況では回収条件の内容がいずれも一斉に悪化したことが目立つている。また金融引締めの長期化で中小企業の資金調達難は48年秋以降顕在化,借入れ金利(短期金利)も47年7~9月の7.0%を底に急ピッチで上昇し,49年1~3月には9.53%,ついで50年1~3月には9.89%に達した。これは39年10~12月の8.8%を上回る水準である( 第4-5図 )。

第4-4表 中小工業製品の輸出額の推移

第4-5図 中小企業の資金繰りと回収条件(製造業)

こうした企業間信用の膨張,資金調達難,借入れ金利の上昇などは40年不況,および46年不況を上回る悪化を示したが,ここで中小企業製造業(資本金1,000万円~1億円)の収益動向を「法人企業統計季報(大蔵省調べ)でみると, 第4-6表 のごとくなつている。

中小企業の売上高純利益率は48年の大企業(製造業,資本金1億円以上)と同率の5.9%とかつてない高収益をあげ,ついで48年には3.7%へと低下を示し,大企業の3.4%をわずかながら上回つた。

49年における中小企業の同利益率の低下要因を各費用の対売上高比率の変化によつてみると,つぎのような要因が働らいている。

売上原価比率(売上高に対する売上原価の比率)は人件費,減価償却費の引続く高い伸びなどもあつて49年より高まり,また一般管理販売費比率の上昇から営業利益比率は低下した。営業外収益比率,営業外費用比率はいずれも48年より高まつたが,金利負担の嵩増などから後者の上昇率が上回り,これらの結果,売上高純利益率は48年の5.9%から49年には3.7%へと低下した。この間の大企業の収益率と比較すると,中小企業の一般管理販売費比率,営業外費用比率の伸びはいずれも大企業の伸び率を上回つたが,売上原価比率の伸び率が下回つたため,49年の純利益率は大企業より高かつた。ながでも人件費比率および利子割引料の伸び率が大企業より下回つており,中小企業の利益率の低下を小幅なものとしたことが特徴的であつた。なお,中小企業の1人当たり人件費(月額)および従業員1人当たりの給料(月額)をみると,49年はそれぞれ前年比25.3%増の137,052円と24.6%増の117,011円であつたが,これは大企業の伸び率(各30.1%増,29.0%増)をいずれも下回つている。

このような業況の悪化,利益率の低下に伴い,中小企業の設備投資も著しく減少した。設備投資の動きを「法人企業統計季報」により有形固定資産新設額の推移でみると, 第4-7図 に示すように,製造業では今回の不況下において40年不況とほぼ同程度の著しい落込みを示した。今回の不況下の特徴は,これまで中小企業の設備投資の減少が大企業より先行してあらわれていたものが,今回は大企業と同時的に減少したことである。中小企業の設備投資が48年まで急増傾向を示したのは,物不足と高収益のなかで業容の拡大をはかつたが,49年年初以降の急激な需給緩和に対応して設備投資意欲が減退したためとみられる。「生産能力拡大」,「新製品の生産」のための設備投資が激減し,その主体は「補修・更新」と「生産工程合理化」にとどまつた。また,非製造業中小企業の設備投資も47年以降の安定的な伸びから,49年後半には急速に鎮静化した。

第4-6表 売上高構成比の推移(製造業)

(3) 落着いてきた企業倒産

今回の不況は従来と異なつて消費減退や,輸出鈍化を伴つたことから,中小企業経営に与えた影響は大きなものとなつている。しかし,企業倒産は件数,負債金額とも高水準を続けたが,その増加率や倒産発生比率は過去の不況期に比べてとくに高いものとはなつていない。

銀行取引停止処分者件数(全銀協調べ,資本金100万円以上の法人)の動きをみると,49年1~3月3,228件,4~6月3,235件,7~9月3,263件,10~12月3,879件と期を追つて増加し,49年間ではこれまで最高の42年(13,683件)を上回る13,605件,前年比25.3%の大幅増加となつた。また,負債金額も10,147億円で前年比116.1%の大幅増加となつた。しかし,この間の動きを件数の前年同期比の推移でみると,49年1~3月の49.9%増をピークとして,4~6月25.0%増,7~9月20.1%増,10~12月14.0%増と期を追つて増加幅は縮小し,さらに50年1~3月は4.2%減と減少に転じている。また,倒産発生比率(法人企業数に占める倒産企業の割合)も倒産発生がピークとなつた49年1~3月は1.68%とやや高まつたが,49年度中はほぼ1.5%台で推移しており,倒産件数が増加した40年1~3月当時の3.14%や,40年不況時の2.5%台の水準に比べるとかなり低い水準となつている。

第4-7図 設備投資の推移

業種別の動きを件数の前年同期比増減率でみると,倒産のピークに当る49年1~3月ではいずれの業種でも大幅増加となつており,なかでも住宅建設活動の不振や公共工事の繰延べから建設業,不動産業での増加が目立ち,またこの期に個人消費が実質マイナスとなつたことから小売業での増加も目立つた。一方,倒産が減少に転じた50年1~3月では,建設業,小売業,製造業などで減少となつているのに対し,それまで比較的に増加を示さなかつた卸売業,運輸業など流通関連業種で増加しているのが注目される( 第4-8表 )。

第4-8表 倒産の業種別推移

また資本金規模別にみると,100万円未満規模や100~299万円規模の小零細企業では増加率が低いのに対し,1,000~4,999万円規模や,5,000~1億円規模の中堅企業での増加が目立ち,また1億円以上の大企業でも比重は少ないものの大幅に増加している。

第4-9図 企業倒産件数の変動とその要因

原因別に倒産の動きを前年比でみると,49年は「売上げ不振」(91.7%増),「在庫過大」(58.4%増)など需給要因が圧倒的に増えており,一方,「コスト高・人手不足・採算悪化」(22.6%増),「関連倒産の波及」(29.8%増)などの要因は前年に比べて増加幅を縮小している。

いまここで企業倒産変動の要因を試算してみると,原材料卸売物価にみられるコスト高要因は,48年後半から49年前半にかけて増加しており,製品在庫にみられる需給要因は49年になつて高まつている。この間,金融動向の代理変数としてとつた利付電々債利回りにみられる金融要因は,金融引締め開始とともに高まつているが,49年後半から50年にかけては低下の方向にある( 第4-9図 )。

以上のように,今回の不況下で企業倒産が過去の不況局面に比べて比較的落着いた動きとなつたのは,①48年のインフレ・物不足時において異常な製品価格の高騰による大幅な企業収益好転を背景に,内部蓄積率が高まり,資金繰り面でかならずしもひつ迫がなかつたこと,②コスト面では49年度に入つて原材料卸売価格が落着いてきたこと,③財政金融面,行政面では倒産防止を図つた「きめ細かい配慮」がなされたことなどがあげられる。今回の不況下でとられている中小企業対策としては,①政府系中小3機関(中小公庫,国金公庫,商工中金)に対する数次にわたる財投の追加,それによる貸出計画の増額,②中小企業信用保険公庫を通ずる倒産関連特別措置,③民間金融機関に対する中小企業向け金融の円滑化要請,④下請け代金支払遅延防止法に基づく親企業に対する同防止法の遵守要請,⑤官公庁の中小企業向け発注の確保などがある。また,倒産関連特例措置は今回の中小企業対策の大きな特色となつている。

(4) 中小企業の今後の課題

戦後始めてのマイナス成長と今後の低成長過程のなかで,中小企業は多くの構造的問題をかかえている。すなわち,繊維では開発途上国の追上げが一段と厳しくなつている。食品などの例にみられるように比較的需要が安定し,量産可能な分野における大企業の進出も目立つており,中小企業の存立分野は大きく変化している。一方,下請け中小企業では親企業の内製化の強まりがみられ,親企業ヘの依存度低下の動きがみられる。これまで下請関連中小企業は高度成長過程で親企業の高成長と密接な関連をもつて発展成長してきたが,減速経済下で需要の伸びが鈍化し,下請け中小企業はかつての高成長期とは別の対応が迫られる懸念が少なくない。

このように,中小企業をとりまく環境は大きく変化しているが,独自の分野の開拓と品質,性能の向上はこれまで以上に中小企業にとつてかかせない。また,サービス経済化への進展によるこれらの分野での中小企業の果す役割は,今後ますます増大していくものとみられるが経済構造変化への速やかな適応が中小企業にとつて大きな課題となつている。


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