昭和42年

年次経済報告

能率と福祉の向上

経済企画庁


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第1部 昭和41年度の日本経済

2. 上昇の主導力と主役の交替

(3) 企業金融の大幅緩和

財政と金融が一体となつて行なわれた今回の景気対策は,企業金融の大幅緩和をもたらし,中小企業などの投資を刺激したところに特色がある。

まず,金融政策面で前記のような公定歩合の引下げ等が行なわれ,その効果が次第に浸透して企業金融の緩和を促した。しかし,今回の企業金融の大幅緩和をもたらしたいつそう基本的な背景として注目されるのは,公共部門の投資超過幅の拡大が主因となつてマネーフロー(資金の流れ)が変化したことである。すなわち,中央財政,地方財政,公社・公団等の公共部門で投資活動が活発になつたが,それに伴つて投資支出が貯蓄(租税等経常収入と人件費等経常支出の差額,つまり経常余剰など)を上回り,近年次第にその金融取引面での資金の貸借尻,すなわち資金不足の幅を拡大してきた。そして,戦後初の本格的国債発行をみた41年には,法人企業部門の投資超過(資金不足)額を上回るに至つた( 第5図 )。このため,以下にみるように公共部門からの資金供給ルートが大きくなつて,マネーフローが変化し,企業金融は大幅に緩和することとなつた。

まず第1に,公共部門はその資金不足額を主として民間金融機関による公共部門債(政保債,地方債,41年からはさらに国債)の引受増というかたちで調達し,これをもとに支出を増大した。そのため,企業部門には,民間金融機関からの借入というこれまでの資金供給ルートのほか,金融機関→公共部門→企業(公共部門に対する売上げの大幅増加)というルートによる資金供給が増加した。こうして企業部門全体としては,金融機関借入によらず,多額の資金供給を受けることとなり,しかも流入した資金の一部は減価償却ないし内部留保となつて企業の自己資金増大をもらした( 第2表 ,法人企業合計欄)。

第2に,これに加えてとくに大企業では,41年秋ごろまで設備投資(支払ベース)が落ち着きをつづけて資金不足幅が縮小傾向にあつたうえ,企業間信用の増勢鈍化や製品需給の引締まり等によつて,売上代金の回収条件が好転をつづけた。このため,大企業ではこの面からも金融機関借入金依存度は,前回の景気上昇局面にくらべ一変して低下した(前掲 第2表 大企業欄)。

第3に,中小企業では,さきの第1の点については大企業とほぼ同じ事情にあつたが,後にみるように投資不足のため投資意欲が活発であつたし,流動性補てん意欲も前回以上に旺盛で,その面から借入需要は増大していた(前掲 第2表 ,中小企業欄)。そこで,大企業の借入需要の沈静に悩んでいた都市銀行などは,これら中小企業に積極的に融資した。また,相互銀行や,信用金庫などの中小企業金融機関も,40年来のコールレート低下で高運用利回りの追求という経営の行き方が困難となつていたので,貸出を積極化した( 第6図 )。このため,中小企業金融はこれまでになく緩和された。

こうした一連の動きは市中貸出金利の低下に集中的に表現されている。すなわち,40年初の金融引締め解除後の金利低下は,その年の秋までの前半期には,前回にくらべ下げ足も鈍く,また前回と同様短期大口貸出(大部分は大企業向け)金利の引下げに主導されたものであつた( 第3表 )。その後最近までの後半期においては,総貸出金利の低下に対する短期大口貸出金利低下の寄与率が,62%と前回や今回前半期よりもかなり小さくなつた。その反面,短期小口貸出(大部分は中小企業向け)金利低下の寄与率が14%,また長期貸出(大企業および中小企業向け設備資金,長期運転貸出)金利低下のそれは,24%ときわめて大きくなつている。

以上のように企業金融が大幅に緩和し,金利も大きく低下したことが,中小企業ひいては大企業の投資活動を刺激する大きな要因となつた。


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