昭和39年

年次経済報告

開放体制下の日本経済

経済企画庁


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昭和38年度の日本経済

金融

産業資金供給の増大

産業資金供給の特徴

 38年度の産業資金供給は5兆4,653億円で、前年度比18%の増加となった。( 第9-1表

第9-1表 産業資金供給

 源泉別にみると、株式市場が相変わらずの不振で増資が伸び悩んだほかは、政府資金、社債、民間貸し出し等、いずれも前年度を上回った。中でも、全国銀行貸し出しの増加は大幅で前年度比28%増となり、その産業資金供給に占める比重も、前年度の40%から44%へと高まった。また外資も1,544億円で前年度(778億円)に比べ倍増している。

 資金使途別にみても、設備資金、運転資金共に前年度を上回った(設備21%増、運転16%増)。

 なお、内部資金も、景気上昇に伴う企業の業績回復を映じて、前年度を約20%上回る増加となった。

 以上のように、38年度の産業資金供給の特徴は資金供給の強い増勢、中でも銀行貸し出しの大幅増加にあったといえる。

停滞を続けた資本市場

 こうしたなかにあって、資本市場からの資金供給は、起債が年度前半の金融緩和と起債単位の規模引き上げを映じてかなりの増加となったが、増資は前年度に引き続いて不調であった。

 38年度の株式市場の推移をみると、株価は前年秋以降の反騰をうけて4月に1,634円(東証第1部、旧修正平均)を記録したが、その後、国際収支の先行き不安、アメリカの国際収支特別教書の発表(7月)、さらにはケネディ大統領暗殺(11月)などの悪材料がかさなって崩落の一途をたどり、12月には株価は1,200円近くにまで落ち込むに至った。その後日本共同証券が設立され(39年1月)、市況もやや持ち直したが、39年4月には再び1,200円近くに落ち込み、年度を通じて不振に推移した( 第9-1図 )。

第9-1図 株価と株式投資信託の推移

 このような株式市況の不振には、上に指摘したような悪材料が38年度には特にかさなったこともあるが、そのほか投資信託の著しい不振があることも見逃せない。投資信託の不振は37年来もちこされたものであるが、設定額の伸び悩み、解約の増加に加えて増資の払い込み負担が重く、これを控除した運用可能資金の増加は小幅に留まった。

 このような資本市場の不振は、また企業の銀行借り入れ依存を増大させた一因であった。

大幅な銀行貸し出しの増加

銀行貸し出し増大の過程

 次に38年度の金融動向を特徴づけた銀行貸し出しの大幅増加についてみよう。37年秋の金融引き締め解除と共に始まるその過程は、およそ次の三つの時期に区別できる。第1は37年末までの貸し出し急増期で、これは金融引き締め中に異常に累積した企業間信用の解消や落ち込んでいた企業の手元現預金の補てんなど、後始末的な資金需要がさかんだった時期に当たる。第2は、37年4、5月ごろまでで、先行き金融緩和を見越して地銀などの融資態度は積極化したが含み貸し出し吸収のためもあって都銀貸し出しの実勢はややおちつき、全体としての貸し出し増勢も幾分鈍化した。この間企業の手元資金繰りの改善が進んだ。従来の例だと景気回復の初期にはこのような平穏な時期がもっと長続きすることが多かった。第3の時期は、38年5、6月以降貸し出しが再び急増に転じた時期である。これは在庫投資の速やかな回復に見合うものでもあるが、金融緩和の進展、含み貸し出しの解消(4月)、日銀窓口査定の廃止(5月)などがあり、それがたまたま銀行間預金獲得競争の激化と時を同じくしたこともひびいている。かくて38年7~9月、10~12月には、特に大幅な銀行貸し出しの増加がみられることになったのである。その後は金融引き締め措置の実施により、貸し出しの増勢は収まっていったものの、年度間増加は2兆5,801億円となり、前年度を26.6%上回っている。

 こうして38年度の銀行貸し出しはすみやかな生産上昇に先行し、それをさらに上回った。そこには実体的資金需要の増大もあったが、同時に銀行の業容拡大意欲が強かったことによる面も見のがせない。

第9-2図 銀行貸出と生産活動

貸し出し増加と銀行行動

 銀行が業容拡大にこのように積極的なのは、銀行間のシェア競争が激しいことや、銀行経営にとって預金量拡大の利益が大きいことによろう。38年度の貸し出し増加についても、特にこのような銀行の行動が結果的に信用創造をいきすぎさせたとみられる。

 第9-3図 にみるように銀行にとっていわば本源的預金ともいうべき個人の長期預金の伸びは、35年ごろから著しく鈍化しているが、貸し出しや総預金は従来通りの増勢を続けている。これは銀行間のシェア競争が激しく規模拡大意欲は依然強いので、銀行が個人長期預金の鈍化を法人預金の吸収で補ってきたためである。企業の手元資金にさほど余裕のない現状では、それは勢い銀行をして貸し出し増加に伴う派生預金の獲得に走らせることとなり、ひいては銀行の企業に対する貸し出し態度を甘くする結果を招いたとみられる。

第9-3図 貸出、実勢預金、個人長期預金の増加率(全国銀行)

 38年度に信用創造が特に大幅となったのは、このような底流が金融緩和によって一挙に表面化したためであろう。

 このことは、預金構造の変化に銀行行動が適応していないことの現れであるが、同時に金融正常化の推進に当たっても銀行間競争の現実をたえず配慮しつつ、これを改善していかなければならないことを示している。

第9-4図 全国銀行預金者別預金構成の推移

金融機関資金繰りと金融市場

現金需給とコール市場

 貸し出しの増加に伴い金融市場は次第に引き締まりに向かった。

 現金需給の動きをみると、日銀券は年度はじめは景気回復に伴う取引の増大や預金通貨の膨張に対応して高水準の増発を続けたが、その後は消費者物価の騰勢一服などもあって幾分おちついた。さらに年度末には金融引き締めの影響も加わって弱含みに転じている。年度間の増発額は、2,465億円で増発率は16.1%(前年度2,343億円、18.1%)に止まった。しかし、財政資金対民間収支は予想を大幅に下回って498億円の散超に過ぎなかった(「財政」の参照)。結局38年度の現金需給(財政収(△)支マイナス日銀券)は1,967億円悪化した。この間、日銀債券売買の買い入れ超過が4,842億円あり、日銀貸し出しは1,520億円減少している。オーバー・ローンの漸進的解消への考慮もあって大幅な買いオペレーションが行われた年度はじめは金融市場も緩和したが、年央以降は買いオペも手控え気味とされ、コール・レートも次第に上昇基調へと転化していった。

 すなわちコール・レートは38年6月には無条件もの2銭、月越しもの2銭4厘となり、しばらくこの線で横ばいとなったが、年末接近と共に上昇に向かい、38年12月には無条件もの2銭2厘、月越しもの3銭3厘の水準に達した。

 この間無条件もの等の短期ものに比較して、月越しものや期越しもの等の長期もののレート上昇が相対的に大きくなっている。これは先行き金融市場の引き締まりを見越して長期ものに対する取り需要が強かったことによるものであろう。市場資金の出し手別構成を見ると地方銀行、相互銀行等の比重が低下し、信託銀行や農業系金融機関のウェイトが増大している。

第9-2表 現金需給バランス

第9-5図 コール・レートと市場資金

金融機関の資金繰り

 以上の動きは、金融機関の資金繰りにも現れている。全国銀行の預貸率をみると6月までは改善が進んだが、その後は上昇傾向に転じた。このため預貸率の改善期間は、前回、前々回の景気回復期に比べ、著しく短命に終わった( 第9-6図 )。預貸率が悪化しつつあるにもかかわらず、銀行貸し出しの増勢がなかなか衰えなかったところに、既にみた銀行の根強い拡大意欲をうかがうことができる。

第9-6図 預貸率の推移(全国銀行)

 この間の事情をややくわしくみると、年度当初は貸し出しの増加と共に預金も大幅に伸び、買いオペレーションもあって資金繰りは比較的好調であった。預貸金の大幅併進がみられたのは、貸し出し増加が実体経済の上昇を上回っていただけに、それがまず企業の預金として歩たまり、これがまた銀行貸し出しの拡大を可能にするという循環がみられたからである。全国銀行の貸し出し増加に対する法人預金の増加の割合は、31年度から37年度までの各上期を平均すると50.2%であるが、38年度上期にはそのいずれをもこえて71.1%に高まっている。

 こうした傾向が都市銀行に最も顕著に現れたのはいうまでもない( 第9-3表 )。預貸金の相互的拡大と買いオペレーションによって、38年度合計でも都市銀行は前年度の資金不足(預金+債券<貸し出し+有価証券)からわずかながらも資金余裕をみせるようになった。しかし、買いオペによる日銀借り入れの減少にかかわらず、コールの取り入れや借用金の増加で、外部負債の累増は続いたのである。それでも、年度当初のコール・レートの低下や公定歩合の引き下げで外部負債金利が軽減された一方、預金増加がともかく大幅だったため、銀行の強気の貸し出し態度を改めさせるにいたらなかったといえる。

第9-3表 金融機関の資金ぐり

 もっとも、預金の増加は下期に入るとかなり鈍化した。特に地方銀行、相互銀行ではその傾向が強く、これらにあってはその資金繰りは年度全体としてもかえって前年度より悪化している。これは歩積み両建て預金の自粛等によるところもあるが、主な取引先である中小企業で盛んな投資活動が続いたため、その預金歩たまりが悪化したことによるところが大きい。そのことはこれら金融機関の貸し出し拡張を制約し、年度後半において全体としてはなおゆとりのあるなかで中小企業の資金繰りを繁忙化させる一要因となった。


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