昭和39年

年次経済報告

開放体制下の日本経済

経済企画庁


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総説

昭和38年度の日本経済

国際収支の不均衡

輸出上昇率はやや鈍化

 輸出は不振であったというわけではない。38年度は、5,567百万ドルで、前年度に比べ14.2%増加した。年間の動きをみても、グラフに示すように、大体順調に増大した。しかし上昇率は前年度の18.2%に比べると幾分鈍化した。

 また、世界貿易と比べても、日本の輸出成長力の優越性はうすかった。38年には景気はアメリカ、ヨーロッパ、低開発国のどこでも大体好調で、世界貿易も拡大した。しかし、グラフに示すように、これまでと違って、日本の輸出が、世界の貿易増加率をはるかに上回って伸びるという現象はみられなかった。世界の輸入需要が1%伸びる時の日本の輸出の増加率、すなわち、日本の輸出の世界需要に対する弾性値は過去10年間の平均は2.3であったが、38年は1.4であった。

 この低下は、ある点では当然である。 第4図 をみるとわかるように、日本の輸出増加率が特別に高かったのは、昭和29年から31年だが、このごろは、日本の輸出は十分戦争による落ち込みの影響から抜け出しておらず、回復期にあった。こういった時期にみられた高い増加率がいつまでも続かないのは仕方がない。また、37年が、国内の引き締めとアメリカの好況とが重なって日本の輸出の伸びが大きかったので、その反動で38年の輸出増加はゆるかったということもある。市場別の輸出の伸びをみると、38年はEEC、アメリカ、大洋州、共産圏向けが大幅に増加したが、アメリカ向けはそれほどでもなかった。アメリカの輸入増加率が鈍り、対米輸出は37年は3割も伸びたのに、38年は8%に止まったので、これが日本の全体の輸出上昇率を低めることになった。現在日本の輸出が軽工業品から重工業品への転換期にあることも、輸出弾性値低下の1つの原因であろう。 第1表 にみられるように、38年度に輸出増加率が大きかったのは、化学、機械、金属でそれぞれ24%、23%、18%の増であったが、食料品は減少し、繊維品は停滞し、雑貨の増加率は鈍化した。

第4図 世界の輸入と日本の輸出の推移

第1表 商品別輸出の推移

 商品別にみて増加が著しかったのは、乗用車、二輪自動車、プラスチック、合成繊維織物等、新商品に多く、新しい商品が伸びる反面、伝統的商品が停滞するという転換期の姿がはっきりと認められる。

 このような、いろいろな事情から、昭和38年には、輸出は、今までの回復期のような急上昇を示さず、その増加率は、生産の上昇を下回った。

輸入の急増

 国際収支バランスがくずれた原因として重要なのは、輸出の伸びが不十分であったことよりも、輸入の増大が大幅だったことである。輸入は、5,980百万ドルで、前年度を30.5%上回った。輸入増加寄与率を通関統計によってみると、原材料、燃料が57%、消費財が27%、木材、飼料が各8%で、機械はほとんど増加しなかった。

 輸入がなぜこのように大幅に増大したかというと、経済が拡大した上に、自由化や、麦類の凶作などいろいろな原因が重なったからである。

 偶然的原因の影響はかなり大きかった。その1つは、輸入食料品価格の上昇である。キューバ問題、ハリケーン被害、ヨーロッパのビート糖不作が原因となって砂糖価格が倍以上に上がり、海上運賃の値上がりからとうもろこしなどの雑穀類も値上がりした。そのため食料品価格が22%上昇し、価格上昇分だけで2億3千万ドルの輸入増加要因となった。また、長雨によって67%減という大不作となり、小麦、大麦の輸入が増大した。麦類その他の食料品の増加は価格の上昇を別にして37年度価格で計算しても約130百万ドルであった。

 国内の経済構造の変化による木材、飼料の輸入増230百万ドルや自由化による完成消費財の増加も目立った。自由化品目の増加率はバナナ、時計が2.7倍、万年筆が2.6倍というように高いものが多かったが、 第2表 にみられるように金額的にはあまり大きくなく、完成消費財全体の増加も、金額で1億1千万ドルで、輸入増加全体に対する寄与率は7%であった。

第2表 主要自由化品目の輸入増加

 輸入増大の一番大きな原因は、生産の上昇である。日本では、いつでも景気回復期には、鉄鋼など、輸入原料を消費する産業の生産が高く、生産上昇率よりも、輸入原料消費の増加率は、幾分多くなる傾向がある。今回も、鉱工業生産の増加15%に対し、輸入素原材料消費は18%増え、前年度に比べ約5億ドルの輸入増をもたらした。また素原材料在庫投資の増大によって約2億ドルの輸入増大が生じた。昭和38年度に2億ドルの輸入素原材料在庫を蓄積したというのではない。38年度の積み増しは、1億ドル弱だが、37年度に1億ドルの在庫の食いつぶしを行っているので、前年度に比べた輸入増加要因としては2億ドル弱とかなり大きくなるわけである。生産が上昇し、稼動率が上がってきたので製品原材料の輸入も、非鉄金属を中心に約2億ドル増加した。

 以上の増加要因をまとめて示すと、 第5図 の通りであって、前年度に比べて、16億ドルという大幅な増大となっている。生産や消費の増加に伴う必然的な輸入増加と、偶然的な増加とが混ざっているのが特色であるが、38年度の貿易収支の赤字が4億1千万ドルに対し、偶然的あるいは一時的とみられるものが、砂糖の値上がり、麦の増加、素原材料在庫増大の一部等為替ベースでせいぜい3億ドル~4億ドルであるから、砂糖の値上がりや、麦の不作がなくとも、38年度の貿易収支の赤字は免れなかったであろう。

第5図 38年度の対前年度輸入増加の要因

貿易外収支の赤字

 貿易収支の赤字に加えて、貿易外収支の赤字が増大していることが最近の特徴である。 第3表 に示すように、近年収支尻の悪化が最も著しいのは、手数料、交互計算などの貿易付帯経費である。これに次いで、外国資本、外国技術の導入の増大を反映して、投資収益と特許料の赤字が増えている。軍関係収入も毎年約20百万ドルずつ減少している。運輸関係の収支尻は35年以来、毎年2億ドルの大幅な赤字を示し、38年度は2億4千万ドルと前年度に比べ3千万ドル悪化した。

第3表 貿易外収支尻の推移

 昭和32年ごろまでは、貿易外の受超は、貿易収支の赤字をカバーする均衡化要因であった。現在ではこれが一変して、貿易外の赤字が貿易の赤字に加重されるようになった。今後の貿易の拡大につれて、海外支店経費、広告費、運輸関係などの支払いが増加しよう。また、海外渡航の自由化、外貨の流入に伴う利子、配当の増加、特需収入の減少を考えると、貿易外収支の赤字は拡大が予想される。

基礎的収支のアンバランス

 38年度の経常収支の赤字822百万ドルは、資本収支の黒字871百万ドルでカバーされた。資本の流入は、長期資本の純流入474百万ドル、短期資本の受取超過397百万ドルであった。

 長期資本は、38年7月、アメリカが金利平衡税法案を発表してから後、それまで急増してきた証券投資の流入は減少したが、年度を通じインパクトローンの流入好調と上期米国、下期欧州を中心とする外債の発行などによって高水準の流入を維持した。短期資本は、輸入増加による輸入ユーザンス残高の著増を主因に、ユーロ・マネー、自由円、クリーンローンなども増加したので前年国際収支の困難をしのぐために行ったアメリカの市銀からの特別借り入れを90百万ドル返済したにもかかわらず大幅な黒字となった。日本のように、発展の途上にある国では、国際収支は必ずしも経常収支だけでバランスする必要はないだろう。当分は経常収支と長期資本とを合わせた基礎的収支でバランスをとり、資本蓄積が進むに従って、次第に、経常収支の均衡に近づくべきものと考えられる。しかし、38年度は、総合収支は、長期資本だけではバランスせず、短期資本の流入によってようやく均衡をとることができた。

 輸入のうちに、一時的、偶然的なものがかなり含まれていることをしん酌する必要はあるが、 第3図 にみられるように38年度の10~12月には基礎的収支は月60百万ドル位の大幅な赤字となっており、一時的要因を別にしても輸出や長期資本の流入など基礎的な対外収入は、国内の生産や消費活動を支えるのに十分ではなかった。

第6図 長期資本と短期資本収支尻


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