昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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昭和37年度の日本経済

労働

労働需給の変化と流動の停滞

 今次調整期に雇用面の影響が少なかった要因として労働市場の変化を挙げることができるが、37年度の労働需給は新規学卒者とその他の一般労働者と合わせてみると前年度並に求人と求職とがほぼ見合う結果となった。これまで、すう勢的には低下してきた求人に対する求職の倍率も景気調整期に求人減少、求職増加の両側面からの影響で多少Ⅸ勝するのが常であった。今次調整期に求人求職バランスが前年度並に止まったことは労働市場の変化を反映した点で注目されよう。

 しかし、この需給バランスは主として新規学卒者に対する依然たる大幅求人超過によるものである。新規学卒者に対する求人倍率は37年3月卒の場合、卒業者の著増、求職者の大幅増にもかかわらず、中学で2.9倍、高校で2.7倍とこれまでの最高を示した。なお38年3月卒の場合もそれぞれ2.7倍、2.7倍となり学卒者に対しては依然超売り手市場であることを示している。過去の景気調整年次には求人倍率がかなり低下することもあったが、今回の低下は極めてわずかである。

 この理由は、 雇用量の絶対的水準が著しく高まってきているためリタイアの補充を含む需要量が新規供給量を大きく超過していること、 技術的条件からみれば単純労働領域が拡大している一方賃金面では年齢的格差が残っているために、労働能率と賃金のかね合いからいえば相対的に低賃金の若年労働者を採用する方が有利であること、 好況長期化の過程で中小企業などの未充足求人が累積していたことなどの点で製造業大企業の採用減がありながらも前回景気調整期とは条件が異なっているからである。

 需要集中の学卒者以外の一般の労働需給状態をみると、さすがに景気調整の影響がみられる。求人数は鉄鋼、機械などを中心に37年に入ってから前年水準を下回るに至り、他方、人員整理、離職増を反映した求職数は年初来増加に転じた結果、求職者の求人に対する倍率は37年度に入ってから前年同期に比べ期を追って高まっている。

 好況局面における設備投資増大、生産増を反映した求人増加が学卒者求人難を起点として一般の労働需給改善に向かったのが、景気調整によってつまずいた影響がここに現れている。

第10-3表 有効求人求職(除学卒者)

 主として求人の減少を反映して停滞した労働需給故音も、38年に入ると、求人も前年水準に向復する一方、求職増加の傾向も月を追って弱まり始めたので需給あらし化は峠を超えた状況にある。

第10-4図 製造業・規模別入離職率

 労働需給面の変化はいうまでもなく労働市場の流動の停滞となって現れた。「毎月勤労統計」による37年度の異動率(入職率+離職率)は36年度に比べ5ポイント程度低下したが、これは大企業中心の採用抑制による入職率の低下と、他方、転職機会を閉ざされたことによる中小企業の離職率の低下という2つの要因が大きく働いている。前回の調整期に比べるとこの傾向はかなり強まっている。離職率が中小企業で低下したのは前回ほどには人員整理が増えないことも影響しているが、主因は自発的移動が沈静したことである。これまでの景気後退期にみられた転落的移動は少なく、「雇用賃金調査」によれば大企業の中途採用背が大幅に減少した37年度においても中途採用者のうちで上位規模企業へ移動したものの割合は約6割に達し、好況局面の35年度に比べてもあまり低下していない。つまり、量的には移動は沈静したが、質的には悪化がみられなかったのである。

 また、これまで労働力の流動性を高め上向移動を促進する機能を果たしてきた臨時工の本工昇格実施状況などについても景気調整下の後退は極めて軽微であった。臨時工制度を採用している企業で37年度中に本工昇格を実施した企業の割合は4割をこえ、前年度に比べてもあまり減っていない。また、1,000人以上の大企業では在籍臨時工の約3割が本工に採用されているが、この昇格率も前年度に比べわずか低下したに過ぎない。


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