昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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昭和37年度の日本経済

金融

逼迫から緩和への金融市場

現金需給バランス

 金融緩和は、まず現金需給の好転から始まった。そのきっかけは財政資金対民間収支が従来の揚げ超から、散超基調へと変化したことである。この傾向は9月以降更に強まり、その間日銀券の増発も比較的落ち着いていたので、金融市場の緩和は一層進展した。しかし、38年に入ると季節性もあって、財政資金対民間収支が揚げ超となり、それに3月には日銀券の増発が大きくなったため1~3月に1,000億円に及ぶ日銀の市中保有債券買い入れが行われたにもかかわらず、日銀貸し出しは増加を見た。

 結局37年度全体では財政資金対民間収支は1,961億円の散超(うち外為会計は1,613億円の散超)、日銀券は2,343億円の増発で、現金需給バランスは前年に比べ大幅に好転したが、財政の散超が日銀券の増発を上回るには至らなかった。

 そのためオペレーションの年度間621億円の買い超があったにもかかわらず日銀貸し出しは122億円増加(前年度6,860億円増加)した。これは特に日銀券の増発によるところが大きい。日銀券の対前年度末伸び率は18.1%で36年度(20.2%)、35年度(22.9%)を下回ったものの、年度間増発額は前年度の2,171億円をこえ、これまでの最高を記録した。従来景気調整期には日銀券の増勢は著しく鈍化するのが例であったが、今回は生産や消費が落ち難かったためそれが高水準を保ったうえ、38年に入って増加テンポが高まっており、金融緩和の進展を制約している。

第8-1表 現金需給バランス

第8-1図 現金需給の推移

金融機関の資金繰りとコール市場

金融機関の資金繰り

 以上の事情を反映して金融機関の資金繰りも、ひっ迫から緩和への向かった。まず全国銀行の動きをみると、上半期は依然として貸し出しが高水準であったらえ、約900億円オペの売り超があって資金不足を生じたが、下半期に入ると預金の著増を主因にオペの買い入れ超過約1,500億円があったので資金余裕に転じた。

 このような下期における資金繰り好転の様相が特に明らかなのは都市銀行である。都市銀行では上半期は、営業性預金が不振であったうえ、貸し出しはいわゆる「後ろ向き資金所要」を中心に高水準で推移したため、預貸率は前年度に引き続き悪化した。しかし、下半期に入ると預金が企業の流動性回復に支えられて営業性預金を中心に、目覚ましい伸びを示した。これには「含み貸し出し」解消の影響もあるが、財政資金のうち外為会計の散超が大きかったこと、地方銀行や中小企業金融機関の貸し出し増が企業間決済の流れなどを通じて大企業の手元をうるおしたこと等、預金環境が都市銀行に特に有利になったことによるところが大きい。そのため下半期には上半期までの資金不足から一転して資金余裕となった。

 一方、地方銀行や中小金融機関は、上半期は預金、貸し出しとも順調に増大したが、下期に入って貸し出しが大幅に増加したので資金余裕は頭打ちとなった。

コール市場の動向

 引き締め期間中、大きな波乱を呼んだコール市場は、金融緩和の進展に加えて公定歩合の引き下げ、新金融調節方式の発動等の政策的配慮もあって沈静に向かい、短期金利割高是正に一歩が踏み出された。

 まず、コール・レートは現金調給バランスの好転した7~9月以降低下傾向をたどり、37年12月には無条件もの2銭7厘(前年同月3銭8厘)であった。以後も順調に低下し、期末月の3月も平穏に推移し、4月に入って公定歩合の引き下げと共に更に低下した。その後最近に至ってやや下げ止まりの気配がみられる。特にしばりものの下げ渋りが目立っている(38年5月月越しもの2銭3厘)。

 一方、市場資金残高は累増を続けている。都市銀行は依然として最大の取手であり、金融緩和後もコール資金依存は高水準を保っている。証券会社は高水準ながら、その増加は抑えられているが、証券金融会社のコール取り入れは著増している。出し手側では信託銀行が高水準を維持し、信用金庫、農中などの放出が増加している。地方銀行は年度前半の増加が特に大きかった。

第8-2表 37年度の全国銀行の資金運用

第8-2図 コール・レートと市場資金推移

株式市場と証券金融

 金融市場の緩和傾向は景気回復への期待と相まって株式市場を持ち直させ、また証券会社の資金繰りもようやくひところの窮迫状態を脱するに至った。

 株式市況は37年度に入っても金繰り増資の圧力もあって一貫して低迷を続け、37年10月29日には今回景気調整下の最安値(1216.04)を記録した。これを前回の景気調整期と比較すれば、株価の下げ幅(33.5%、前回20.2%)も大きく、低迷期間(15ヶ月、前回7ヶ月)も長かった。その後金融引締政策の解除や証券市場対策の実施等を契機として、かなり急速な回復に向かったものの、その間、日証金融資残高が激増したことや景気早期回復への過度の期待に反省が生じたことなどがあって、38年度に入り、騰勢はやや一服の観がある。

第8-3図 株式市況の推移

第8-4図 産業資金供給(増減)の推移

 一方、投資信託の動向をみると、公社債投信が解約の減少で、わずかなから運用可能資金の増加を示したが、オープン型株式投信は極端な不振に終始した。そのため公社債の換金売りやコール・ローンの回収等で株式投資を行うという苦しい資金運用が続いた。

 このような情勢のため、証券会社の資金繰り窮迫はなはだしく、6月、8─9月、10月、11月の4回にわたって公社債担保金融が行われるに至った。しかしその後は金融緩和の進展、株価の回復、大衆資金の流入漸増と共に、その手元は次第に明るさを取り戻しつつある。更に起債市場面も後述のごとくようやく回復の兆しがみえてきた。

 以上のように現金需給バランスの好転に始まる金融緩和は、市中銀行の資金繰りを緩和させ、資本市場の地合いを漸次明るくすることによって、企業への資金供給力を増やし、景気回復を先導する役割を担うことになった。


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