昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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昭和37年度の日本経済

金融

回復過程の企業金融

産業資金供給の構成とその需要

 37年度の産業資金供給は4兆8,621億円(前年度比22.7%増)で、生産活動がほぼ横ばいであったのに比較すれば、高水準で推移した。しかしその構成はかなり大きく変化している。

 すなわち、資金使途別には、設備資金は1兆7,554億円で前年度比7.5%の減少、運転資金は3兆1,067億円で前年度比45.9%の著増となった。また資金源泉別にも、資本市場からの調達が不振で8,369億円と前年度(1兆1,397億円)を下回り、その外部資金に占める比重も28.8%から17.2%へ低下した。反面、銀行や中小金融機関などの民間貸し出しは3兆7,125億円(前年度2兆5,627億円44.9%増)と大幅な伸びをみせ、その比重を高めた。中でも金融市場が緩和した年度後半になって、銀行貸し出しの増勢が著しい。

 ちなみに、内部資金は約1兆8,300億円に留まった。

 以上のように、資金供給面では設備資金、長期資金の伸びが鈍り、運転資金の増勢が年度後半において顕著であった。これに対し、経済実体面では、設備投資は沈静に向かったものの高水準を維持し、在庫投資は小幅ながらも低下した。従って37年度の設備資金の供給と需要の動きには若干のギャップが生まれ、運転資金についても年度前半においてはひっ迫を免れなかった。この過程で企業間信用の累増が続き、企業は資金繰りに苦しんだ。これに対し、37年度後半に入って引締政策の解除と金融緩和を背景に、資金の供給が潤沢化し、調整中のしこりもほぐれて、企業の手元資金繰りも緩和するに至った。

設備投資と設備資金供給

 設備投資は37年度に入って、その増勢はやんだが落ち込み幅は小幅であった。しかるにこの満水準の設備投資を賄うべき長期資金は、企業収益の悪化と資本市場の不振にわざわいされて不十分にしか供給されなかった。このため短期資金によって長期資金の穴埋めが行われた( 第8-5図 )他、設備関係の支払いがとどこおり、設備投資関連業縄での製db、仕掛け品在庫や売掛債権の増大をまねいた。

第8-5図 長短資金の運用と調達の推移(増減)

 設備資金供給の内訳をみると、第1に内部資金は減価償却が増大したにもかかわらず、企業収益の悪化で社内留保が激減したため、大幅に減少した。特に市況が不振であった鉄鋼、紙パルプ等の社内留保の低落が目立っている。

 第二に株式については、年度前半においては、いわゆる「金繰り増資」が強行されてきたが、市況の不振で限界に突き当たり、増資等調整懇談会による調整も加えられ、銀行から「増資繰り延べ資金」の供給を受けて増資の繰り延べが図られるに至った。その後。37年秋以降企業の収益状況悪化から増資意欲は沈静化し、そのため増資調整も不要となった。

 第三に社債は、36年度後半に引き続く投資信託の不振を主因に低迷を続け、消化先は金融機関、特に都市銀行に著しく集中することとなった。

 最も年度末に近づくにつれ、コール・レートの低下もあって、環境はようやく明るさを増してきた。

 第四に、これらに対して設備資金貸し出しは増勢を保った。都市銀行は前年度に引き続き依然として高水準で推移した。長期信用銀行は金融緩和と共に金融債の消化が進ちょくしたので、年度後半には漸増傾向をたどり、設備資金貸し出しに占める比重も回復に向かった。また信託銀行は貸付信託の好調に支えられて大幅に増加している。

運転資金需要の増高とその性格

運転資金需要増大の内容

 一方、運転資金需要も増勢を続けた。法人企業統計速報により大企業の短期資金運用状況を前回の景気調整・回復過程と比較すると( 第8-6図 )、前回は在庫投資の急速な圧縮を中心に運転資金需要は引き締め後順調に低下し、景気回復初期にかけて比較的落ち着いた動きを示した。これに対して今回は、引き締め開始後において、製品在庫の増大、企業間信用の膨張、流動性の回復に基づく資金需要の三つの山が次々に現れて企業の総運転資金需要を常に高水準に維持した。

第8-6図 短期資金の運用と調達(単位百億円)

 これに対して金融機関はどのように対応していったか。まず36年度後半から37年度前半にかけては、極力貸し出しの抑制に努めたが、37年度後半に入ってからは金融緩和の進展で資金繰りも好転したので、比較的潤沢に貸し応じたものと思われる。全国銀行の運転資金貸し出しの37年度増加額は、2兆492億円で、36年度1兆1,730億円を大幅に上回った。( 第8-3表 )最も、これには、38年1~3月にかけていわゆる含み貸し出しの解消が約4,000億円行われたことを考慮しなければならないが、それを調整した実勢でも相当高く、企業の手元の資金繰りを緩和することができた。

第8-3表 全国銀行運転資金貸出増減

 しかし以上の動きにも業種別にはかなりの差がある。第一に商社は、在庫や企業間信用の整理を比較的早く終えたので、年度前半の借り入れは比較的落ち着いており、後半に入ると業容拡大に基づく前向き資金需要もあって、借り入れが急増している。第二に、鉄鋼、紙パルプなど不況産業では、滞貨減産資金や企業間信用の累増による後ろ向き資金所要に追われて借り入れの増勢はやまなかった。また機械、重電機、造船など設備投資関連業種では、年度前半は借り入れが抑制されていたが、後事に至って借り入れが増加した。

 第三に自動車、石油、化合繊、化学等は、年度中ほぼ一貫して借り入れが高水準を続けたが、後半は特に営業活動の積極化による借り入れが増加した。

企業間信用の変動過程

 次に、つよかった運転資金需要を支えた企業間活用について、その膨張と収縮の過程を、前回の金融引き締め時期と比較しながらみておこう。

 金融引き締めによって企業間信用が膨張したのは、前回も今回も同様であるが、前回は引き締め後3期目の32年10~12月には早くもそれが収縮過程に入ったのに対し、今回は6期にわたってその膨張が継続した。従ってまた企業間信用の大きさそのものもOG回をはるかに上回る規模に達している。

 このような相違をもたらしたのは、金融引き締めに対する企業の反応に異なったものがあったためである。前回は、銀行信用が抑制されると、大企業はまず支払い繰り延べによって資金繰りをつけようとする一方で、新規の在庫仕入れを手控えた。従って企業間信用の膨張も引き締め開始時既に行われていた取引について支払いが繰り延べられたことによる面が大きく、新規仕入れに基づく買い入れ債務の増大によるものは少なかったとみられる。企業間信用の増大も、在庫圧縮から減産へと至る企業の本格的な不況対応策への、いわばつなぎに過ぎなかったといえよう。

 しかるに今回の金融引き締め期には、企業は売掛を増やしても売り上げや生産を維持しようとした。この違いは引き締め開始前の売掛期間の動きにも現れている。前回は引き締めの直前まで売掛期間は短縮される傾向にあった。当時のあい路産業であった鉄鋼や機械に対しては、前渡金を与えてもその入手を確保しようという動きが目立っていたくらいである。しかし今回は、引き締め前の35年ごろから売掛期間は次第に延長されてきており、供給余力の増大と販売競争の激化を示唆している。引き締め後この傾向は一層強まったものと思われる。

第8-7図 企業間信用の動向

 もちろん企業としては、売掛増加によって売り上げの維持に努めるかたわら支払いをできるだけ繰り延べようとした。特に企業が継続中の設備工事をかかえていた反面、設備資金の供給が抑えられていたため、設備代金の支払いが繰り延べられた。このことは支払手形中の設備関連分の比重が概して高まっていることからもうかがわれよう。( 第8-4表 )しかし、それを別としても売掛負担に耐えるためには支払い繰り延べが必要とされた。このようにして前回とは異なり、生産や投資がなかなか落ちなかったので、新規仕入れに伴う買掛債務の発生が続き、企業間信用が累増していくことになったのである。

第8-4表 設備関係支払手形の増大

 いったんどこかで支払いがとどこおり始めると、企業間信用は連鎖的に拡大する傾向がある。しかしその程度は今回の方が激しかった。例えば、製造業大企業を業種別にみても、前回は売掛債権回転率の悪化と買掛債務回転率の悪化が必ずしも相関していなかったが、今回は両者にかなりの相関がある。( 第8-8図 )前回の企業間信用がどちらかといえば、一方的なシワ寄せという性格を帯びていたのに対し、今回のそれは売掛・買掛の相互的な拡大の姿をうきぼりにしている。そしてこの相互的拡大の頂点に置かれたのが機械、電機、鉄鋼等の設備関連業種であった。例えば鉄鋼では、前回は買掛超過傾向を深めたが、今回は売掛の増大が買掛の増加を上回っており、反対に前回売掛を増やしながら買掛を減らして金融クッションとして働いた商社も、今回は買掛を売掛同様に増大させている。更に大企業は全体として中小企業に対して売掛超過を示したが、これも前回とは逆であった。前回は中小企業に金融引き締めのシワを大きく寄せたが、今回はその程度は少なかった。その違いは、大企業が現在自由化をひかえて優良下請け企業の確保に努めていること、大企業の供給余力が増大するに至って売り込み競争を激化していることなどに帰せられよう。

第8-8図 売掛債権回転率と買掛債務回転率の悪化状況

 このように、企業間信用の相互的拡大によって生産を維持し、そのことによって企業間信用が更に増加するという循環は、いつまでも続くものではない。引き締めが続けられているなかでは企業間信用の膨張につれて企業の手元資金繰りは段々ひつ追して行くし、受取手形の割り増しも次第に困難になって行く。特にまた企業間信用拡大の中心となっていた設備関連業種では、37年度に入って急速に受注が減少し、販売の先行きが危ぶまれるに至った。このように、やがて企業の現金収入の減少が見込まれるときに買掛債務の増大が心配されるのは当然であり、かくて売掛回収の要請が高まることにもなった。このような情勢下に37年秋以降金融引締政策が解除され、銀行が潤沢に企業の資金需要に貸し応じ得るようになった。

 こうしてようやく企業間信用の決済が進行し始めた。37年10月~12月に、大企業の買掛金が減少したのはこの現れといえよう。

 前回においては生産が低下して企業間信用が収縮した面がつよかったのに対し、今回は金融緩和に支えられて企業間信用の決済が進み始めたのである。

流動性回復の現段階

 企業の流動性(手元現預金)は、景気上昇が進むにつれ投資の増大のため低下するが、投資の沈静と共に次第に回復し、きたるべき拡大への企業の資金的余力を形成する。その意味で流動性の回復は、いわば「後始末的」なものであると同時に次の飛躍への先行指標ともなるものである。そのような観点から流動性回復の現状をみてみたい。

 前回の景気循環期においては、生産調整が比較的早く完了したので、企業流動性の回復も速やかであった。しかるに今回は設備投資の落ち込みが小幅であり、企業間信用の増加が長期にわたって継続された。そのため企業の流動性回復はてまどることとなった。

 またこれを業種別にみると、流動性回復の時期や内容にはかなり異なったものがある( 第8-9図 )。

第8-9図 流動性回復の推移

 まず売掛超過の累増が最も激しく、ために流動性の低下を余儀なくされた機械、電気機器等では企業間信用の決済が進ちょくしたことが契機となって流動性が回復してきている。

 一方、鉄鋼では銀行借り入れを増加しながら流動性の回復を図ってきたことがうかがわれた。すなわちここでは10月以降現預金・売上高比率や現預金・買掛債務比率の上昇がみられるものの、それとは対照的に預借率(現預金/短期借り入れ)の低下傾向が目立っている。

 これらに対し、比較的早く生産調整を終えた化学、綿紡、商社や官公需、消費の堅調な需要に支えられた建設、食料品では流動性には景気循環に伴う変動はみられず、引き締め期以来概して順調に流動性の上昇を続けている。

 総じていえば、現状では企業流動性の回復は一部の業種を除いては売上高や企業収益の増加、すなわち景気回復に基づくものではない。むしろ金融緩和が進展し、企業間信用の決済進ちょくや銀行借り入れが容易になったことによって回復したものである。企業の手元資金がさらに潤沢なものと感じられるためには、今後はむしろ経済実体面の改善が進み、銀行借り入れによって支えられた流動性が、売上高の増大に基づく自力の流動性に次第に置きかえられていくことが必要であろう。


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