平成17年度 日本経済2005 第1章 第3節 財政の動向

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第3節 財政の動向

(歳出押下げに寄与する公共事業関係費と公務員人件費)

政府は、2010年代初頭における国と地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目指している。そのために2006年度までの間、一般政府の支出規模の対GDP比が2002年度の水準を上回らない程度とすることとし、また、2007年度以降も、それ以前と同程度の財政収支改善努力を行うと同時に民間需要主導の持続的成長を実現することとしている。

2003年度までの期間について一般政府の支出の動向を国民経済計算でみると、公共投資は1999年度頃から継続的に減少に寄与する一方、社会保障給付は増加し続けている(第1-3-1図)。なお、2004年度以降については、公共投資に関する国の一般会計歳出予算額(補正後)をみると、公共事業関係費は2004年度には台風・地震関連の災害復旧のための補正予算(1.09兆円(37))の影響で前年度予算額(補正後)と比べて増加している(第1-3-2図)。また2004年度までの地方歳出決算をみると、都道府県、市町村とも普通建設事業費(単独・補助事業)は引き続き減少している。また災害復旧事業費では被災地を含む北陸・新潟及び四国地方の公共工事を大幅に増加させたものの、これら地域の公共事業全体を押し上げる影響については限定的であったとみることができる(付図1-23)。

他方、増勢を続けている政府最終消費支出(固定資本減耗除く)についてその内訳をみると、継続的に増加に寄与しているのは医療・介護費の保険給付分を含む現物社会給付であり、その額は2003年度で30.7兆円と雇用者報酬に継ぐ項目になっている(第1-3-3図)。一方、公務員人件費に当たる雇用者報酬は依然として最大の項目となっているが、その額は2000年度以降減少し、2003年度で31.6兆円となっている。これを国・地方の決算等からみると、国の一般会計歳出では4兆円程度の水準で推移している一方、市町村では10兆円程度、都道府県では15兆円程度の水準で、このところ減少している(付図1-24)。地方公務員は公務員数全体の4分の3程度を占めているが、一般職員の高齢化に伴う退職者の増加を新規採用によって補充しないという形の職員数削減によって、都道府県・市町村とも人件費はこのところ減少に寄与している(付図1-25)。地方では2007年度以降に団塊世代の退職も控えており職員数の削減が見込まれることに加え、本年11月には経済財政諮問会議において公務員総人件費改革の基本指針が決定されたところであり、今後も公務員人件費は政府最終消費支出を長期的に押し下げていく要因となることが予想される。

(増収に転ずる税収)

次に、一般政府の収入をみると社会保険料が緩やかな増加傾向にある一方で税収は2003年度まで減少に寄与していたが、2004年度は4年ぶりに増収に転じている(付図1-26)。国税についてみると、2004年度は企業収益が好調に改善していることから法人税収が11.4兆円となり、2003年度に続き前年度を上回る動きとなった(第1-3-4図)。一方、所得税は、2004年度は賃金の持ち直しが遅れていた中で、配偶者特別控除の廃止(38)等の影響から増収に転じた。2005年度についても、堅調な企業収益や景気回復の企業から家計への波及による雇用者所得回復の動きを反映して、法人税、所得税ともに増収が見込まれる。また、地方税についても2004年度は法人二税の税収が6.7兆円(前年度比4.1%増)となるなど、3年ぶりの増収となっている。

(徐々に縮小しつつある財政赤字)

こうした歳入、歳出の動きを反映して、国と地方を合わせた財政赤字は徐々に縮小していくことが見込まれる。財政赤字と基礎的財政収支の赤字の名目GDP比はそれぞれ2003年度7.7%、5.5%となった後、2004年度以降、歳入増、歳出削減の進展により縮小していくことが見込まれている。ここで足元の状況をみるために、資金循環勘定における国と地方政府の資金過不足(39)の状況をみると、資金不足は名目GDP比で5%程度となっており、財政赤字が縮小傾向にあることを示している(第1-3-5図)。

(限定的とみられる税制変更のマクロ経済に与える影響)

2005年度税制改正においては、2006年から所得税(1月から)、住民税(6月から)の定率減税の縮減(40)が決定されたが、これは国・地方あわせて平年度ベースで約1.6兆円の税収増効果(2005年度は1,850億円)を持つ。これは、内閣府経済社会総合研究所「短期日本経済マクロ計量モデル(2005年版)」の乗数表によれば、実質GDPを0.1%ポイント強押し下げる影響を持つ。景気回復が企業から家計部門に波及しつつある中で、所得は緩やかに改善しており、今後ともこうした傾向が続くならば、このような制度変更が景気に及ぼす影響は限定的であると考えられる。ただし、今後の原油価格の動向によっては、それによって家計の実質所得がさらに押し下げられる可能性もあることから、いずれせよ、消費への影響については注視する必要がある。

また、法人税に関しては、2003年度税制改正において試験研究税制及びIT投資促進税制に関して2005年度末までの時限的な措置として減税が行われている。こうした減税措置は企業の実質的な税負担率を低下させる効果を持ったと考えられる。例えば、日経225採用銘柄の有価証券報告書をみると(除く金融・証券会社、保険会社等)、186社のうち53社がIT投資減税ないし試験研究減税等の法人税額控除の適用を明記し、減税率は各社平均で4.3%程度となっている。これら186社の実質的な税負担率は40.8%であることから、減税措置の効果は1割程度企業の税負担の軽減に寄与している。

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