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第3節 非製造業の競争力強化に向けた課題

これまでは、我が国製造業の低収益性の背景と生産性向上に向けた課題、製造業企業の海外進出が国内部門の生産や雇用に与える影響について検討してきた。そこで見たように、製造業における競争力強化に向けた取組は引き続き重要だが、諸外国同様に我が国でも経済のサービス化が進展し、非製造業の成長が経済全体に与える影響が高まっている。ここでは、非製造業に目を転じ、貿易可能性の拡大、ICT(情報通信技術)などを活用した生産性向上といった観点から、非製造業における競争力強化に向けた課題を検討する。

1 非製造業の貿易可能性の拡大

近年、非製造業においても製造業同様に、輸出による海外展開、企業の海外進出といった動きが活発化している。こうした非製造業における貿易可能性の拡大は、輸出や投資収益の拡大を通じて企業の競争力を高めると考えられる。

ここでは、まず、非製造業の競争力の現状を評価するため、労働生産性を国際比較する。また、特許等使用料、輸送、旅行など狭義のサービス貿易、海外拠点での販売などを含む広義のサービス貿易の現状について国際比較する。さらに、非製造業の対外直接投資の動向、海外進出による国内企業の収益性や従業員数への影響などについて分析する。

(1)サービス貿易の広がり

サービスの貿易可能性は、どのようにして把握することができるだろうか。ここでは、まず、非製造業の位置付けを確認するとともに、WTO協定に基づくサービス貿易の定義を紹介する。

アメリカ、ドイツより低い我が国非製造業の労働生産性

前節で見たとおり、日本、アメリカ、ドイツいずれもGDP、雇用者数に占める製造業のシェアは低下し、経済のサービス化が進んでいるが、非製造業の生産性は高まっているだろうか。生産性を表す指標として労働生産性を国際比較してみよう。

2000年代前半以降、日本の非製造業の労働生産性上昇率は低下している(第2-3-1図)。経済のサービス化の進展とともにGDP及び従業者数に占める非製造業のシェアは高まったが、従業者数の伸びに比べて生産額の伸びが小さいことによる。

また、アメリカ、ドイツと比較して、日本の労働生産性上昇率は、1990年代以降、総じて低迷している(第2-3-1図)。特に、アメリカの労働生産性上昇率が高いが、これは、日本、ドイツよりも早い時期から経済のサービス化が進展する中、後述するとおり、流通やサービス分野において、ICT投資を活用して、TFP上昇率が高まり、労働生産性の上昇がもたらされたためであると考えられる。

広い定義でサービス貿易を捉える必要性

我が国非製造業の労働生産性のパフォーマンスはアメリカ、ドイツに比べて劣っているが、今後は、生産性を高め、製造業同様、非製造業においても、輸出による海外展開や企業の海外進出などを通じて収益力を高めていくことが期待される。

非製造業の貿易可能性について検討するため、WTO加盟国によるサービスの貿易に関する一般協定(GATS)に基づくサービス貿易の定義を紹介しよう(第2-3-2表)。サービスには、生産と消費を同時に行う「同時性」、目に見えない価値を提供する「無形性」といった特質がある。このため、サービス貿易も、国境を越えて行うサービスの提供(越境取引、モード1)といった供給形態以外に、外国に行った際に現地の事業者が行うサービスの提供(国外消費、モード2)、外国に設置した支店・現地法人などの拠点を通じたサービスの提供(商業拠点の越境、モード3)といった供給形態も含めて定義されている。

通信手段の発達、各国の規制緩和、企業の国際的な活動拡大などを背景として、サービスは以前よりも貿易可能性が高まっている。そのため、越境取引や国外消費だけでなく、商業拠点の越境といった視点も含めて貿易可能性の現状を把握する必要がある。

(2)狭義のサービス貿易の拡大

越境取引や国外消費といった狭義のサービス貿易は拡大しているだろうか。狭義のサービス貿易の規模や比較優位を見てみよう。

狭義のサービス貿易の規模は拡大

我が国の貿易は、これまで製造業による財貿易が中心的な役割を担ってきたが、財貿易に比べて、狭義のサービス貿易の規模は拡大しているだろうか。貿易規模を見るため、財の輸出入金額と比較しつつ、狭義のサービス貿易の受取・支払金額の対GDP比をアメリカ、ドイツと比較する(第2-3-3図)。

まず、日本の狭義のサービス貿易は、2000年以降拡大している。ただし、財貿易と比べ、規模は依然として小さい。特に、受取の対GDP比は、緩やかに上昇しているものの、2011年で2.4%であり、ドイツの8%程度、アメリカの4%程度と比べ、低い水準にとどまっている106

一方、財貿易は、輸出入ともに10%強となっており、ドイツよりは小さいがアメリカと同程度である。

我が国はものづくりに依存した貿易構造が続いているが、越境取引や国外消費といった狭義のサービス貿易も水準は依然として低いものの拡大している。

2-3 輸出財に体化されているサービス業が生み出す付加価値の大きさ

先に我が国の狭義のサービス貿易の規模は、財貿易に比べて小さいことを見たが、付加価値ベースの貿易統計で見るとそれほどの差は見られない。これは、輸出される財を生産する際に生み出される国内付加価値には、サービス業が生み出した付加価値も含まれているためである。

2009年の財・サービス輸出のうち国内で生み出した付加価値の割合は約83%、サービス産業の生み出した付加価値の割合は約36%となっている(コラム2-3図(1))。アメリカ、英国では、日本に比べ国内のサービス業の比率が高いため、サービス産業の生み出した付加価値の割合が日本よりも高くなっていると考えられる。また、ドイツ国内で生み出した付加価値の比率が日本よりも低いのは、EU域内の貿易が盛んであり、日本に比べて輸入依存度が高いことによる。

次に、財・サービス輸出に含まれるサービス業の生み出した国内付加価値のうち、製造業の生産した輸出財に体化されている割合を見ると、日本はアメリカ、英国に比べて高い水準を維持している(コラム2-3図(2))。これは、我が国製造業の輸出財の製造過程においては、マーケティング・商品開発や研究開発、保守・アフターサービスといったサービス業の付加価値貢献度が高いことを示している。

このように付加価値ベースで見ると、サービス業が製造業の生産過程に深く組み込まれている様子がうかがえる。今後、狭義のサービス貿易の規模を高めていくとともに、製造業との相互連関を更に深めていくことにより、サービス業の貿易可能性の向上につながると考えられる。

狭義のサービス貿易の比較優位は財貿易に比べて上昇

狭義のサービス貿易の規模は財貿易に比べて小さいが、比較優位はどうなっているだろうか。顕示比較優位(RCA)指数を見てみよう(第2-3-4図)。

まず、日本の狭義のサービス貿易は、ドイツと同程度の比較優位を有するが、アメリカと比べると劣位にある。先進国では、製造業企業が海外に生産拠点を移したことなどを背景に、長期にわたってサービス経済化が進展しており、貿易における製造業の相対的ウェイトが低下している。アメリカではこの傾向が顕著であるため、非製造業のRCA指数が高い。

また、2000年代における日本のRCA指数の変化を見ると、財貿易では低下する一方、狭義のサービス貿易では上昇しており、その上昇幅はドイツよりも大きい。サービス貿易については、後述するとおり、特許等使用料、旅行などの比較優位が上昇していることによる。他方、財貿易は、従来競争力を有していた加工型製造(電気機器、一般機械等)の比較優位が低下したことによる。

このように、狭義のサービス貿易における比較優位は、財貿易よりは低いものの、徐々に高まりつつあると言える。

狭義のサービス貿易のうち「特許等使用料」「旅行」などの比較優位は上昇

狭義のサービス貿易のRCA指数は、2000年代前半に比べて上昇したことを見たが、どのような項目で上昇しているのだろうか。項目別に見たRCA指数の推移を見る(第2-3-5図)。

まず、狭義のサービス貿易の中でもその他サービス、旅行の比較優位が上昇している。

その他サービスの内訳を見ると、その他営利業務、特許等使用料、建設の比較優位が上昇している。その他営利業務については、製造業の海外生産比率の上昇、卸・小売業の海外販売強化、商社の資源分野における投資拡大戦略などを受け、外国から外国への貿易である仲介貿易が増えていることによる。特許等使用料については、主に自動車メーカーが、現地生産台数に応じて海外生産子会社から受け取るロイヤリティ(工業所有権)の増加によるものである。

旅行については、RCA指数の水準は必ずしも高くはないが、上昇している。これは、2000年に476万人であった訪日旅行者数が2012年には837万人となっていることによる。

一方、輸送107については、比較優位が低下している。我が国の財の輸出減少を受けた航空・海上貨物運賃の受取減などが背景として挙げられる。

このように、「特許等使用料」「旅行」などの比較優位が上昇したことから、狭義のサービス貿易の比較優位が上昇した。

(3)広義のサービス貿易の活発化

サービスは、生産と消費の同時性という特質を有するため、貿易可能性の拡大には、現地に設立した子会社・支店などを活用した商業拠点の越境による取引がより重要となる。以下では、広義のサービス貿易の現状とそれが企業の収益性に与える影響などについて分析する。

商業拠点の越境による取引は活発化

非製造業の対外直接投資による海外拠点の設置(モード3)は拡大しているだろうか。対外直接投資の動向を国際比較する。

我が国の直接投資金額を2005-07年平均と2010-12年平均で比較すると、製造業が減少する中で、非製造業が大きく増加していることが分かる(第2-3-6図)。

こうした中で、非製造業の対外直接投資残高対GDP比は製造業を上回る勢いで増加している(第2-3-7図(1))。非製造業の直接投資残高を業種別に見ると、近年は金融・保険業や卸売・小売業などの残高の増加が目立つ(第2-3-7図(2))。

金融・保険業は、国内市場の縮小懸念から成長の期待される海外市場に積極的に進出していると考えられる。この間、欧州の金融機関は、リーマンショック後の景気後退などの影響を受けて、我が国非製造業の直接投資が多いアジア向けの与信残高を減らし、シェアを低下させており、我が国金融機関のビジネスチャンスは広がっていると考えられる(付図2-5)。また、卸売・小売業は、製造業の海外生産比率の高まりに伴う流通需要、中国を中心とした海外の消費市場拡大などに対応するために直接投資を増やしていると考えられる。世界的な金利の低下により証券投資収益が伸び悩んでいる現状を考えると、海外からの所得受取を増やすためには、直接投資の収益性を高めていくことが重要である。

対外直接投資残高の水準は低い

近年、非製造業の対外直接投資による海外拠点の設置(モード3)が活発化していることを確認したが、直接投資残高や海外現地子会社の売上を比較するとどうだろうか。

我が国非製造業の直接投資残高の対GDP比の水準は、アメリカ、英国、ドイツと比べても低い水準にとどまっており、海外現地子会社の売上高も低い(第2-3-7図(1)(3))。一般的に、製造業企業では、財の輸出から海外生産という段階を経て海外進出を図る場合が多い。一方、非製造業企業が海外進出する際は、経済的・文化的に異なる環境の下での市場開拓、流通体制の現地化などを同時に進めなければならず、相対的にハードルが高くなっていると考えられる。特に日本については、主要な投資先であるアジアにおいて、非製造業の外資出資比率規制や流通業の売り場面積・出店規制など、非製造業分野の海外進出に対して制度面の制約があることも影響している可能性がある。今後、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定交渉や日中韓交渉など108を通じた規制緩和・制度整備の進展が期待される。

海外進出により非製造業企業の収益性は上昇

対外直接投資によって、国内拠点の収益力を強化することができれば、国内での付加価値生産の増加を通じてGDPの向上にも資すると考えられる。第2節ではアンケート調査から、海外進出することによって製造業企業の国内での業況が改善する傾向にあることを見たが、ここでは、「企業活動基本調査」の個票データを使い、非製造業において2003年に海外進出を開始した企業(海外進出開始企業)と海外進出を行っていない企業(海外非進出企業)の2001年を1としたときの累積ROA109を比較する(第2-3-8図付図2-6)。

まず、非製造業においても、製造業と同様、海外進出開始後のROAは上昇する傾向にある。海外進出を通じて、国内外の生産拠点の機能分担を進め、国際的な立地最適化を行うことなどを通じて、国内部門の生産性が高まり、収益率の向上につながったと考えられる。

ただし、輸出や海外投資などの国際的な事業活動をする場合には、企業には追加的に輸送コストなどの可変費用や設備投資などの固定費用が必要となるので、そうしたコストを賄った上で利益を生み出すことの可能な大企業だけが、海外進出を行うのではないか、との指摘も考えられる110。そこで、大企業と中小企業を比較すると、両者ともに、海外進出開始企業のROAは、上昇する傾向にある。海外進出は、非製造業企業の収益力を高める効果があると考えられる。

なお、製造業については、大企業、中小企業ともに海外進出開始企業のROAは、海外進出開始後に上昇し(付図2-6)、特に、中小企業の上昇幅が大きい。中小企業では、生産コスト削減などを目的として生産移転を行う企業が多いため(前掲第2-2-2図)、販路拡大に加え、生産コスト削減などの効果が上乗せされたことによると考えられる。

海外進出により非製造業でも国内雇用は増加する傾向

非製造業においても、海外進出は国内部門の収益性にプラスの影響を及ぼすことを見たが、雇用面ではどうだろうか。非製造業の海外進出開始企業と非進出企業の国内従業員数を比較する(第2-3-9図)。

非製造業においては、製造業同様、海外進出開始企業は非進出企業に比べて国内従業員数が増加する傾向にある。海外進出を通じて国内拠点の生産性が高まり、国内雇用の増加につながっているものと考えられる111。ただし、その効果は製造業に比べて小さい。

以上のように、従来、製造業特有と思われてきた貿易可能性という特性は、非製造業においても高まりつつあり、この面での製造業と非製造業の垣根がなくなりつつあると言える。今後、貿易可能性を更に高める中で、特に海外拠点の設置(直接投資)を通じた取引を拡大させていくことにより、国内外において非製造業企業の収益力を高め、競争力の向上につなげていくことが期待される。

2 非製造業におけるICT資本蓄積を通じた生産性向上

従来、製造業を中心にICT投資を通じた生産性向上に向けた取組がなされてきたが、非製造業においても、同様の取組は進展しているだろうか。ここでは、ICT資本蓄積、特にソフトウェア投資に着目し、非製造業の労働生産性に与える影響などについて分析する。

(1)ICT資本蓄積と非製造業の労働生産性上昇

我が国非製造業の生産性向上には、製造業同様、ICT投資の積極的な活用が期待される。ここでは、非製造業の労働生産性上昇率とICT資本蓄積の関係について見る。

我が国非製造業の生産性上昇に対するICT資本蓄積の寄与は小さい

前述のとおり、我が国非製造業の労働生産性上昇率はアメリカ、ドイツに比べて低いことを見たが、ICT資本装備率(労働投入1単位当たりのICT資本ストック)やTFPがどの程度寄与しているのであろうか(第2-3-10図)。

2001年から2010年平均の非製造業の労働生産性上昇率を要因分解して国際比較すると、日本は資本装備率の寄与が小さく、特にアメリカと比較してICT資本装備率の寄与が小さいことが特徴的である112。我が国では、バブル崩壊後の設備投資低迷の影響を受け、ICT資本を集中的に投入する卸売・小売業などにおいて、ICT資本蓄積が低迷したことが背景にあると考えられる。

また、アメリカ、ドイツと比較してTFPの寄与が小さいことも特徴となっている113。この点について、アメリカでは、ICT革命を通じて、流通やサービス分野のTFPが上昇したとの指摘がある。我が国におけるICT投資の低迷は、在庫管理や人事・給与システムの導入などを通じた業務効率化の遅れにつながり、TFP上昇率低迷の一因となっている可能性がある。

TFP上昇を伴わない資本蓄積主導の労働生産性上昇は、資本蓄積が進むにつれて資本収益率が低下するため、やがては労働生産性の上昇鈍化につながるため、今後、非製造業においてもICT投資の積極的な活用によりTFPを高めていくことが期待される。

業種別に見てもICT資本蓄積の寄与は小さい

日本の非製造業の労働生産性上昇率に対するICT資本蓄積の寄与が小さいことを見たが、業種に分けて国際比較してみよう。

両者の関係を見ると、日本、アメリカ、ドイツいずれの国においても、ICT資本装備率の伸びが大きいほど、労働生産性の伸びも大きい(第2-3-11図付図2-7)。ただし、日本では、全般的にICT資本装備率の寄与がアメリカ、ドイツと比べて小さい。

業種別に見ると、日本の非製造業の中では、卸・小売のICT資本寄与は大きいが、労働生産性上昇率はアメリカ、ドイツと比べて低い。1990年代後半以降、ICTを活用して新しい経営手法(SCM、3PL、POS等114)を実現するためのシステムが開発されてきたが、特にアメリカではICT資本の活用が進んでいることから、その労働生産性上昇率への寄与に差が生まれていると考えられる。

他方、我が国の製造業は、ICT資本装備率の寄与がアメリカ、ドイツと同程度であるが、労働生産性上昇率はアメリカよりもかなり低い。アメリカは、定常的業務に加え、経営戦略サポートや市場分析・顧客開発など、企業内データをより高度に解析するためのシステムへの利活用も進めており、ICTの利活用がTFPを高め、労働生産性の上昇に寄与している面があると考えられる。

以上のように、業種別に見ても、我が国非製造業におけるICT資本蓄積の低さが、労働生産性上昇率の低さにつながっている。

(2)重要性を増すソフトウェア投資

我が国非製造業のICT資本蓄積は低迷していることを見たが、種類別に見たときに、コンピュータや通信機器などのハードウェア、調達管理システムや顧客管理ソフトなどのソフトウェアによる違いはあるのだろうか。以下では、我が国非製造業の付加価値成長に対する種類別ICT投資の寄与、ソフトウェア資産の保有が企業の収益性に与える影響、ソフトウェア投資と組織改革との相乗効果などについて分析する。

ハードウェアに偏った非製造業のICT投資

ICT投資を労働生産性の上昇につなげていくためには、蓄積した資本を最大限活かすよう、ICT資本の蓄積とあわせてサービスの提供方法などを機動的・戦略的に見直すことによって、ICT資本蓄積と同時にTFPを上昇させていくことが期待される。

非製造業について、労働生産性上昇率に対するICT資本装備率とTFPの寄与の動向を見ると、日本はアメリカ、ドイツに比べていずれの寄与も低迷している。ICT投資の低迷が、在庫管理や人事・給与システムの導入などを通じた業務効率化の遅れにつながり、TFP低迷の一因となっている可能性がある(第2-3-12図(1))。

どの分野のICT投資が遅れているかを見るため、非製造業の付加価値成長に対する品目別ICT資本蓄積の寄与を見ると、2000年以降、ハードウェア資本の蓄積に比べ、ソフトウェア資本の蓄積の寄与は小さい(第2-3-12図(2))。例えば、アメリカでは、ソフトウェア導入に当たって、安価なパッケージソフトで済ませ、企業組織の改編や労働者の訓練により、企業側がソフトウェアに適応してきたが、日本では、企業組織改編や労働者の訓練を避けるために、高価なカスタムソフトウェアを導入するケースが多かったと言われている115。このため、日本では、割高な導入コストや異なったソフトウェアを導入した企業間の情報交換の停滞もあいまって、ICT投資の予想収益率が低く、ICT投資が進まなかったと考えられる。

付加価値成長に対する寄与を製造業と比較すると、製造業では、近年ソフトウェア投資が急速に拡大しており、ICT投資の大きな割合を占めるに至っている。他方、非製造業では、依然としてハードウェアが大半を占めており、ソフトウェア投資の遅れが見てとれる(第2-3-12図(3))。これまで企業の生産活動に活用されてきたICT資本は、どちらかと言えば業務の合理化を目的として、製造業における生産管理や企業間取引の効率化を目的としたSCMの導入などに活用されてきた。しかし、顧客情報管理やマーケティング、人事・給与・経理といった間接部門などへのICTの活用が増えつつあり、最近では、非製造業でも導入されてきていると考えられる。

ハードウェアの質は年々高まっているものの、より幅広くICT投資を活用し、ICT資本蓄積とTFPの上昇を同時に達成していくためには、非製造業においても、ソフトウェア投資の積極的かつ戦略的な活用が期待される。

ソフトウェア資産の保有により企業の収益性は向上

非製造業企業のソフトウェア投資は製造業と比べて低迷していることを見たが、ソフトウェア投資の高まりは、企業の収益性を向上させるだろうか。「企業活動基本調査」の個票データを用いて、総固定資産額に占めるソフトウェア資産の割合(ソフトウェア資産保有割合)の上位、中位、下位5分の1企業のROAを比較した(第2-3-13図)。

それによると、上で見たように、非製造業のソフトウェア投資はこれまでのところ必ずしも活発ではないが、ソフトウェア資産保有割合が大きい企業ほど、ROAの水準が高まっている。また、製造業に比べて下位の企業との差も大きい。ソフトウェア投資は、非製造業企業の収益力を高める効果があると考えられる116

海外進出とソフトウェア投資に見られる相乗効果

前述のとおり、非製造業においても海外進出が進んでいるが、グローバルな活力を活かし、投資収益を拡大していくためには、例えば、海外進出の際に、積極的にICT投資を行い、国内外の受発注業務の標準化などを通じて、収益性の一層の改善を期待することができる。

先に、非製造業でも、海外進出開始企業は非進出企業に比べてROAが高いことを見たが、海外進出企業の中でもICT投資、とりわけソフトウェア投資に積極的な企業とそうではない企業の間で収益性に差があるのだろうか。

非製造業企業のうち海外進出開始企業のROAは、ソフトウェア資産保有割合が大きいほど高まる(第2-3-14図)。例えば、海外進出をしている卸売業企業などでは、事業を拡大するために本社主導で海外の情報システム基盤を強化することが考えられるが、顧客情報管理やマーケティングなどのソフトウェア投資を通じて業務の合理化を図り、収益性の向上に結びつけている可能性がある。

ICT投資の増加により非定型業務が増加

今後、我が国非製造業においてICT投資を生産性向上に結びつけていくためには何が必要だろうか。前述のとおり、日本では、ICT投資の収益率が低いことから、ICT投資が低迷し、同時にソフトウェア導入による組織の合理化や労働者の技能形成も進まなかったとされている117。このように、ICT投資の停滞の問題は、企業による労働者の訓練や組織の改編といった、いわゆる無形資産投資の問題とも密接に関連していると考えられる。

そこで、定型的か非定型的か、知的作業か身体的作業かなどの観点から、非製造業の就業者の業務内容を「非定型分析」「非定型相互」「定型認識」「定型手仕事」「非定型手仕事」の5つに分類し、非製造業の従業員数に占めるこれら業務のシェアとICT資本装備率の関係について見る(第2-3-15図)。

まず、ICT資本が導入されるにつれ、「非定型分析」、「非定型相互」が増える。ICT資本の蓄積に伴って、分析、判断、渉外などの業務に従事する人材の必要性が高まるためである。

一方で、「定型手仕事」は減少している。ICT資本が深化し、従業員がパソコンの操作能力を身につけると、例えば給与計算などの単純な業務はコンピュータによって代替される。

しかし、ICT資本の蓄積に伴う業務効率化により、減少することが予想される「定型認識」は、ICT資本の蓄積に伴ってむしろ増えている。前述したとおり、日本の場合、ソフトウェア投資のうち、特にパッケージソフトの活用が十分に進んでおらず、ICTが組織改革に活かされていない可能性がある118

企業組織改革との相乗効果が重要

ICT資本の蓄積とともに、非定型な知的業務のシェアが増えることを見たが、ICT投資と同時に組織改革を行い、更に規則的・反復的な業務を減らすとともに、高度な知的業務の占める割合を高めることで、生産性の向上につながると期待される。例えば、ICT資本の深化とともに、受発注業務などの単純な業務はコンピュータに代替されるが、これに加え、社内の情報伝達や意思決定の階層を減らすような組織改革を行うことによって、更に経営管理や新商品開発などの業務に従事する人の割合が増え、生産性上昇につながることが考えられる。

そこで、非製造業の業種ごとに見て、ICT資本装備率の水準を固定した場合に、組織改革などによって非定型業務従事者のシェアが変化すると労働生産性の水準にどのような影響が生じるかを見てみよう(第2-3-16図)。

まず、ICT資本装備率上位5分の1グループと下位5分の1グループを比較すると、前者の方が労働生産性の水準が高い。ICT資本の蓄積とともに、企画・立案や研究・分析などの高度な専門知識を活用する業務に従事する人の割合が増え、生産性が高まっていると考えられる。

また、ICT資本装備率の大きさが同程度のグループ内で比較すると、非定型分析や非定型相互といった非定型業務に従事する人のシェアが増えるとともに、労働生産性が上昇している。

このことは、ICT投資と同時に組織改革を進めれば、更に高度知的業務に従事する人の割合を高めることにより、生産性が上昇する可能性を示唆している。

非製造業の研究開発投資は活発化

ICT資本蓄積以外に、TFP上昇に資する取組として、研究開発投資が挙げられるが、我が国非製造業では活発化しているだろうか。非製造業の総生産額に占める研究開発投資の割合をアメリカ、ドイツと比較する。

日本はアメリカより低いものの、ドイツよりはやや高い(第2-3-17図)。アメリカについては、例えば、利用者の商品の購買履歴や決済情報、コミュニケーションの発信履歴など膨大なデータ(ビッグデータ)を蓄積し、それらのデータを分析して活用するための技術開発など、情報サービス業における研究開発が他国よりも盛んに行われていることなどが背景にあると考えられる。

他方、日本でも、アメリカには劣るものの、2000-05年平均から2006-10年平均にかけて、研究開発費の割合が増えている。ICTの発展などを背景として、サービス分野における技術開発の重要性が認識されるようになっていると考えられる。

研究開発投資を通じたイノベーションの拡大は、従来、製造業の特性と考えられてきたが、我が国非製造業においても活発化し始めている。今後、研究開発の成果を活かしつつ、貿易可能性の拡大を図ることで、投資の収益性を更に高めていくことが期待される。

これまでの分析が示しているように、我が国非製造業では、従来、製造業特有と思われてきた貿易可能性が高まってきており、ICT投資による生産性向上といった動きも見られ始めている。今後、非製造業の競争力を強化するためには、貿易可能性の拡大を図るとともに、ICT投資、特にソフトウェア投資の企業組織改革への活用、研究開発投資を通じたイノベーションの拡大などが重要となる。


(106)ドイツは受取も支払も圧倒的に大きい。一般に、EU諸国は各国の経済規模が相対的に小さい上、市場が統合されているため、域内貿易が盛んで輸出入依存度が高い。
(107)「輸送」には、居住者(非居住者)が非居住者(居住者)のために行った、旅客の運搬、財貨の移動、乗員を含む輸送手段のチャーターなど、全ての輸送サービスに関する取引が計上されている。
(108)その他に、日本・中国・韓国・インド・オーストラリア・ニュージーランドの6か国とASEANとの自由貿易協定を束ねるRCEP(東アジア地域包括的経済連携)交渉もある。
(109)各年のROAを収益率とみなしたときの累積した収益率。2001年を1として、各年のROAを掛け合わせて求めている。
(110)Melitz(2003)、Helpman, Melitz, and Yeaple(2004)などを参照。
(111)前節では、製造業の海外進出開始企業は、リーマンショック後に、国内生産拠点での雇用を削減していたことを見た。第2-3-9図においても、2008年から2010年にかけては、製造業の海外進出開始企業と非進出企業の国内従業者数はともに減少しているが、減少幅は開始企業の方が大きくなっている。一方、2012年版中小企業白書によると、2002年度に直接投資を開始した中小企業(全産業)の国内従業者数は、直接投資非開始企業と比べ、開始直後から増加し、2008年度以降も上回っている。
(112)以下の記述は、深尾(2010)などによる。
(113)不況期には、雇用保蔵や資本稼働率の低下が生じるため、生産要素投入増加の生産への寄与を過大に評価し、結果的にTFP上昇率を過小に推計する可能性があることに注意する必要がある。
(114)SCMはサプライチェーン・マネジメント(Supply Chain Management)、3PLはサード・パーティー・ロジスティクス(Third-Party Logistics)、POSは販売時点情報管理(Point Of Sale System)の略。
(115)元橋(2010)を参照。
(116)リーマンショック後の景気低迷によりROAは低下しているが、その影響が残る2010年においても、ソフトウェア資産の保有により収益力を高めている非製造業企業のROAは、保有していない企業に比べて低下幅が小さい。
(117)深尾(2010)などを参照。
(118)サービス、もてなしなど、「非定型手仕事」については、ICT資本による代替が想定し難い業務であることから、明確な関係は見られない。
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