平成21年度年次経済財政報告公表にあたって

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日本経済は、2007年末頃から景気後退局面に入りましたが、2008年9月のリーマンショック以降、急速な悪化へと転じました。2009年の春になって、最悪期を脱したという意味で、「底打ち」したと考えられるものの、我が国の経済は、依然として「当面の危機」と「構造的な危機」に直面しています。「当面の危機」とは、経済活動の水準が低いなかで、景気が再び下押しされ、「二番底」となるリスクです。「構造的な危機」は、世界経済の「大調整」が避けられないなかで、日本経済の成長の姿の見直し、脆弱な体質の改善を迫られていることです。今回の白書では、こうした二つの「危機」を前にした日本経済の現状と課題を明らかにしています。
まず、急速な景気後退に陥った日本経済の状況を振り返り、そのメカニズムを改めて整理しました。今回の世界的な需要減の出発点には、アメリカにおける自動車など個人消費の崩壊がありました。これが自動車・IT製品等に依存する我が国の輸出に大きな打撃を与え、激しい在庫調整とあいまって、先進国の中でも最大のマイナス成長となったことを示しました。一方で、最近では、日本を含め各国での経済対策の効果が発現するなかで、輸出が持ち直してきています。今後は、躍動するアジアを始め世界の再成長の果実を国内に取り込み、内需と外需の「双発エンジン」により牽引される新たな持続的成長プロセスが一刻も早く始動することが期待されます。
次に、内外における金融危機の歴史的経験を踏まえ、今回の金融危機の影響や波及の特徴をまとめた上で、「危機後」の日本経済が中期的に取り組むべき課題を整理しています。かつて危機に陥った国々の事例を調べると、「危機後」も生産性を高め競争力を維持するカギは、厳しい状況の中にあっても研究開発や人材への投資を怠らないこと、資金や人材の成長分野への円滑な流れを妨げないことなどにあります。様々な形での保護主義的な動きを防ぐことも重要です。同時に、緊急避難的な財政拡大について、「出口戦略」を組み立てていく必要があります。
さらに、今回の景気悪化の過程では、雇用不安や「格差」に対する懸念が大きな社会問題となりました。そこで、雇用の非正規化が労働市場や家計に及ぼした影響、所得格差の動向とその要因、家計を取り巻く不確実性と個人消費との関係などについて検証しました。経済の収縮による悪影響が非正規労働者等にしわ寄せされる形で顕在化したことを確認した上で、セーフティネットの充実が急務であること、「景気回復は最大の格差対策」であることを改めて強調しました。社会保障制度に対する国民の信頼確保が個人消費の下支えにつながることも示しました。
このように、今回の白書では、危機の克服と持続的回復を展望するに当たって、いくつかの重要なメッセージを示すことができたと考えます。本白書により、日本の経済と財政に対する認識が深まり、日本経済が抱える課題の解決に貢献できれば幸いです。

平成21年7月

経済財政政策担当大臣

林芳正

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