第5節 まとめ

本節では、これまで述べてきた高齢化・人口減少に伴う財政の課題について、特に重要と思われる分析内容を改めて整理する。 

高齢化・人口減少下での財政の在り方を考えるには、成長率だけでなくGDPの構成や産業構造の変化を踏まえることが重要

2030年くらいまでを展望すると、高齢化・人口減少が経済成長にマイナスに働くとしても、労働力率の上昇や生産性の向上が十分あればこれを軽減することができる。成長率のほかに高齢化の影響で忘れてはならない点は、経済構造の変化である。これをGDPの構成でみると、支出面と分配面に分けられる。まず支出面では、個人消費のウエイトが上昇する。分配面では、雇用者報酬のウエイトが低下する。また産業構造は、保健医療、住宅リフォーム、旅行などの需要が拡大することによって、全体としてサービス化が進むとみられる。サービス業の生産性の伸びは低く、そのままでは経済全体の生産性の伸びの鈍化につながるおそれがある。このため、海外との連携・競争などを通じた生産性の向上が求められる。

したがって、高齢化・人口減少に伴う財政構造の課題を検討するに当たっては、人口構造の変化の影響に加えて、グローバル化、技術革新をいかに進めるかという視点を同時に持ちつつ検討することが重要である。

国民負担の増加が避けられない中、労働や資本の供給を阻害しない負担の仕組みが必要

高齢化・人口減少が財政に影響を及ぼす最も直接的で、重要なルートは社会保障である。社会保障給付は、現行制度の下では、医療や介護を中心に増加が見込まれる。その際、国民負担の規模が増加する過程で、成長率との関係については様々な見解があるものの、程度の差はあれ労働や資本の供給が阻害される可能性も指摘される。その中で、こうした影響ができるだけ生じない仕組みを考えることが経済成長との関係で重要である。また、社会保障給付の場面でも、できるだけ労働意欲を削がないこと、民間経済活動を圧迫してイノベーションの芽を摘まないことが求められる。

高齢化によって負担を求める場合、それは究極的には国民の選択となる。そこで、今後増加が見込まれる社会保障の給付と負担の在り方に関する調査を行った。その結果、おおむね年齢により考え方が異なり、年齢が上がるほど社会保障への負担増があっても給付を重視し、若い世代では給付よりも負担軽減を重視する傾向がみられた。高齢化・人口減少に伴う負担増の提案を行う際には、このように給付と負担に明瞭な世代間の意見の相違があることを踏まえることが重要である。

高齢化・人口減少に対応した税制の在り方の検討が必要

高齢化の進展に伴う社会保障給付の増加によって、歳出面から財政負担が大きくなることが懸念される一方で、個人所得課税については、個々人や社会全体の活力を引き出す視点が重要となる。また、法人課税については、これまで我が国においてそのGDP比が低下してきたところであるが、それでもなお国際的にみて高い水準にある。企業がグローバルな競争に直面する中で、成長戦略の観点からもこれ以上の負担を求めることは難しいとの指摘があり、その在り方は今後の検討課題とされる。さらに、消費課税については、特にタックスベースの広い「一般消費税」の役割が先進各国において高まっている。一方で、消費課税には逆進性などの課題もあるが、高齢社会におけるあるべき所得再分配政策を考える上では、軽減税率の仕組みだけでなく、他の税や社会保険料を含む負担全体を考慮する必要がある。社会保障の受益は低所得者で大きく、その安定的な財源を確保することは、再分配政策にも大きな意義を有することを踏まえ、受益と負担を通じた総合的なアプローチが求められている。

地方で安定的な公共サービスを提供するための税制、歳出の効率化が重要に

高齢化・人口減少によって地方は財政面で大きな課題に直面する。これまで公共事業に依存していた地域では、社会保障給付を通じた国からの移転がなされており、その規模は公共事業によるものを上回っている。地域間の所得再分配が避けられないならば、こうした形の再分配の方が経済活動を歪める度合いが少ないと評価できる。

ただし今後、更に高齢化・人口減少が進む中で地域の自立を図っていくためには、歳入面での課題がある。特に、社会保障については、地方の果たす役割も重要であるとの観点から、地方消費税を含めた財源の確保が必要とされ、検討が行われている。ここで、消費と所得に着目し、経済規模を考慮したうえで高齢化率との関係をみると、所得に比べて消費の方が相関が小さい(ほとんどない)ことが分かる。こうした結果の解釈には様々な留保が必要であるが、税目別の税収も高齢化の影響をある程度受けることが考えられる。

より根本的には、各地域が住民や企業にとって魅力ある存在となることが、自立のための条件となる。そのためには、一定規模以上の「集積」が決定的に必要であり、市町村合併などによる都市・行政機能の集約が重要になる。特に、地方自治体の一人当たり行政費用は、ある程度の人口規模に達するところまでは減少することが示され、高齢化対策費についても、同様の傾向が当てはまる。

一部の自治体では、公共事業の削減の中、ファシリティ・マネジメント、アセット・マネジメントと呼ばれる施設・社会資本管理を歳出効率化の一環として進めている。これは一つの例であるが、地域によっては先進的な取組を行っているところもあり、国、地方を問わず、内外のベストプラクティスに学ぶことが必要であろう。