第1節 高齢化・人口減少の意味

高齢化の進行と、今後確実に見込まれる人口の減少は、特に経済成長や社会保障制度を中心とする公的部門に与える影響との関連で、我が国経済社会の将来に対する大きな懸念材料となっている。少子・高齢化の進行は、経済成長による所得水準の向上や医療技術の進歩、人々の価値観の変化等に伴って各国共通にみられる現象であり、我が国に限られた問題ではない。しかし、我が国における少子・高齢化は、他の先進国と比べてそのスピードが非常に早く、従来の制度のままでは様々な問題が生じる。高齢化・人口減少による影響を緩和するためには、まず、子どもを欲しいと思う人々が子どもを生み育てられる環境を整備することにより、行き過ぎた出生率の低下に歯止めをかけることが重要である。さらに、例え出生率が反転したとしても長期間に渡って続くと見込まれる働き手の減少の影響を緩和するため、現在、就業意欲があるのにも関わらず、必ずしも十分にその能力を活用できていない女性や高齢者の就業を促進することが求められる。

以上のような認識の下、本節においては、我が国における高齢化や人口減少の現状とその背景について検討するとともに、出生率の低下を反転させ、女性や高齢者の就業を促進する上での課題について論じる。

1 高齢化・人口減少の進行

 少子化の進行

少子化の傾向に歯止めがかからない。2002年の合計特殊出生率(1)は1.32と前年の1.33を0.01ポイント下回り、過去最低を更新した(2)

我が国の合計特殊出生率は、1947年には4.54であったものが、1960年頃にかけて急速に低下し、60年代、70年代前半の高度成長期には、66年の丙午(ひのえうま)を挟んで、2.0前後で安定していた(第3-1-1図)。その後、再び低下傾向となり、89年のいわゆる「1.57ショック」(3)を経て、2002年の1.32に至っている。これは、人口水準を維持するために必要とされる2.07をはるかに下回っている。

こうした出生率の実績は、5年ごとに行われる「日本の将来推計人口(国立社会保障・人口問題研究所)」(以下、「将来推計人口」という。)において見通された出生率を下回っており、予想を超える勢いで少子化が進んできた。

今後の合計特殊出生率は、2002年1月に推計された将来推計人口の中位推計によると、2007年に1.31まで低下した後、緩やかに回復し、長期的には1.39程度で安定すると見込まれている。また、低位推計においては、2000年の1.36から更に低下を続け、2050年には1.10に到達すると見込まれている。

 高齢化の進行

少子化と同時に高齢化も進んでいる。2002年10月1日現在における老年人口(65歳以上人口)は2,363万人となっており、老年人口比率(総人口に占める65歳以上人口の比率)は18.5%となった(4)

我が国における高齢化は、そのスピードが極めて速いことが特徴となっている。老年人口比率が7%から14%に達するまでの所要年数を比較すると(5)、フランスが115年、スウェーデンが85年、比較的短いドイツやイギリスでもそれぞれ40年、47年であるのに対し、我が国の場合、7%に達したのは1970年であり、それが14%となったのは1994年と、その期間はわずか24年であった(第3-1-2図)。

「将来推計人口」の中位推計によると、我が国の老年人口比率は今後も上昇を続け、2025年に28.7%、2050年には35.7%と極めて高水準になると見込まれている。これは、現役世代(20~64歳)約3.6人で1人の高齢者(65歳以上)を支える現在の状況が、2025年には約1.9人で1人、2050年には約1.4人で1人を支える状況になることを意味する。このような結果、我が国はイタリアを上回り、先進国中最も高齢化の進んだ国となる。

 人口減少社会の到来

以上のような少子・高齢化が進むなか、我が国の人口は、2006年に1億2,774万人でピークに達した後、死亡数が出生数を上回り、人口が減少していくと見込まれている。これは少子化を理由に、単に相対的に高齢者の比率が増えるという段階を過ぎて、少子化によって人口が減る段階に入るということを示している。「将来推計人口」の中位推計によると、将来の人口は2025年には1億2,114万人、2050年にはおよそ1億60万人になると予測されている(6),(7)第3-1-3図)。

人口の年齢構成も少子・高齢化によって大きく変わる。年少人口(0~14歳)が総人口に占める割合が低下するだけでなく、生産年齢人口(15歳~64歳)が総人口に占める割合も低下していくことが見込まれる(前掲第3-1-3図)。2000年時点の生産年齢人口は8,622万人で、総人口に占める割合は68.1%となっているが、これが2050年にはそれぞれ、5,389万人、53.6%にまで低下することが見込まれている。生産年齢人口の減少は、労働投入の減少を通じて経済成長の制約となると考えられるが、総人口に占める生産年齢人口の割合の低下は、支え手の減少を通じ、社会保障制度の基盤を不安定なものにすることが懸念される。

2 高齢化・人口減少の背景

 出生率低下の要因:未婚化・晩婚化・晩産化、夫婦出生力の低下

我が国の出生率は、主として未婚化・晩婚化・晩産化の進行により低下してきた。

まず、未婚化についてみると、未婚率は、80年は男性が28.5%、女性が20.9%だったのが、2000年にはそれぞれ31.8%、23.7%となっている(8)。年齢階級別でみるとこの傾向は更に顕著になり、80年から2000年にかけて、25~29歳では、男性で55.1%から69.3%へ、女性で24.0%から54.0%へ、30~34歳では、男性で21.5%から42.9%へ、女性で9.1%から26.6%へとそれぞれ大幅に上昇している(9)

次に、晩婚化についてみてみると、平均初婚年齢は、80年は男性が27.8歳、女性が25.2歳であったのが、2002年には男性が29.1歳、女性が27.4歳になっている(10)。これに伴い晩産化も進行しており、1975年には25.7歳であった第一子出生時の母の平均年齢が、2002年は28.3歳になるなど、上昇傾向にある。

最近の出生率低下の背景には、以上のような従来からの要因に加え、夫婦間の出生率そのものの低下という新たな現象が加わっている。国立社会保障・人口問題研究所「第12回出生動向基本調査」によると、2002年の完結出生児数(ほぼ子どもを生み終えたと考えられる結婚持続期間15~19年の夫婦の平均出生子ども数)は2.23人となっており、この30年間ほぼこの水準で安定している。しかし、結婚持続期間5~9年、10~14年の夫婦の平均子ども数は、最近時点の調査ほど低下している。これは、将来的に完結出生児数は低下していく可能性が高いことを示唆している(第3-1-4(1)図)。

以上のような要因の結果、女性の年齢別の出生率は、年を経るごとに分布の山が年齢の高い右側の方に移動するとともに、全体としての出生率の水準も低下している(第3-1-4(2)図)。

 出生率低下の背景:子育てにかかるコストの上昇

出生率低下の背景には様々なものがあるが、ここではその主要な要因の一つである子育てにかかるコストの面から検討してみよう。

人々が子どもをもうけるのは様々な理由によるものである。しかし、それらをあえて捨象して、単に経済的な側面のみから考えると、子どもには、一般的に(1)働いて、親を助けてくれるという労働力としての役割、(2)親の老後を面倒見てくれるという社会保障機能を担う役割、(3)親を喜ばせてくれるというサービス消費的な目的を満たす役割があるとの指摘がある。しかし、経済成長等に伴う経済社会の変化に伴い、人々が子どもを持つことの意味が変化してきている。具体的には、産業構造の変化による農業者や自営業者の減少等により(1)としての子どもの役割は低下しているほか、社会保障制度が整備され、老後の面倒を自分の子どもに期待しないという親が増加していることにみられるように、(2)としての子どもの役割も低下していると考えられる。したがって、現在では、子どもを持つことの意味として(3)としての役割を期待することの比重が高まっていると考えられる。

このように、子どもを持つことが生計を維持するための必須要件でなくなってきているなか、人々は「子どもを作ることの効用」と「子どもを生まなかった場合にその費用でできる他のこと」を比較考量して子どもを作るかどうか決めていると考えられる。後者を「機会費用」というが、これは子どもを養育する直接的な費用とは別で、「子どもを生むことで、稼ぎそこなう費用」のことである。

出産・育児に伴う機会費用は、女性の高学歴化、男女の賃金格差の縮小などを理由に、近年高まっていると考えられる。実際に男女の賃金格差は、一般労働者の所定内給与額でみると縮小傾向が続いており、2002年には全年齢階級平均で66.5(男性=100とした場合)となっている(第3-1-5図)。また、大卒女性の賃金カーブをもとに、具体的に女性の所得の面における機会費用(11)を試算してみると、大卒女子の場合で、28歳で出産、同時に退職し、子どもが小学校に入学後34歳で再就職するケースでは、就業を継続した場合と比べ、約8,500万円(12)の所得逸失が発生するという結果になる。このように、出産・育児に伴う就業中断により多額の機会費用が生じることが、子どもを生むことを控える大きな要因となっていると考えられる(第3-1-6図)。

また、子育てにかかる直接的なコストの一部である教育関係費をみても、消費支出に占めるその割合が、ここ30年間で2倍に増加している。また私立の中学校、高等学校に行く場合の教育費は年間100万円超、私立の大学では200万円超かかる(13)

以上のような出産・育児に伴う費用の高まりが、近年における出生率の低下の主要な要因の一つであると考えられる。そもそも出産・育児と女性の就業の両立が可能であれば、就業中断による機会費用は発生しないが、現実には、仕事と出産・育児を両立させにくい職場環境にあること、都市化や核家族化により子育て家庭が孤立しがちであること、保育所等の子育て家庭を支援するための施設が不足していること等から、出産・育児と女性の就業の両立は困難となっている。このような側面にあわせて、人々の結婚や育児に対する価値観の変化や育児に対する心理的、肉体的負担感の高まり、長時間労働等男性を含めた働き方の現状等が背景となって、人々が子どもを持つことを断念させていると考えられる。

 高齢化の要因:平均寿命の伸長を伴う死亡率の低下

高齢化の要因としては、死亡率の低下による平均寿命の伸長が挙げられる。戦後、我が国の死亡率(14)は、生活環境の改善、食生活・栄養状態の改善、医療技術の進歩等により若年層の死亡率が大幅に低下したため、1947年の14.6から約15年で半減した(第3-1-7図)。その後なだらかな低下を続け、1979年には6.0と最低を記録している。近年の死亡率はやや上昇傾向にあり、2002年の死亡率は7.8となっている(15)。近年死亡率が上昇傾向にあるのは、高齢化の進行により、年齢別にみて死亡率がより高い高齢者層の総人口に占める割合が増加した影響によるものである。実際に、人口の年齢構成に変化がないと仮定した場合における死亡率(年齢調整死亡率(16))をみると、男女ともほぼ一貫して低下してきている(17)(前掲第3-1-7図)。

死亡率の低下に伴い、我が国の平均寿命(18)は、1947年に男性が50.06年、女性が53.96年であったものが、2002年には男性が78.32年、女性は85.23年となっている(19)。平均寿命は、今後も引き続き伸び続けることが見込まれている。

3 出生率の反転は可能か

 少子化対策の基本的考え方

これまでみてきたように、少子・高齢化の進行により、我が国においても人口減少社会が間もなく現実のものとして到来する。人口減少社会においては、人口密度の低下による過密問題の解消、資源・エネルギー消費の減少による環境への負荷の低減といったプラスの側面も考えられるが、生産年齢人口の減少や貯蓄率の低下等が経済成長の制約となると考えられるほか、租税・社会保障負担の主たる担い手である現役世代に対する高齢世代の比率が高まることを通じ、社会保障を中心とする公的部門の財政状況が大きく悪化することが見込まれる。現在のような低い出生率が続けば、たとえそれが個々人にとって所与の条件の下における合理的な選択の結果であったとしても、社会全体にとってはマイナスの影響を与えてしまう。行き過ぎた出生率の低下が日本全体の労働力供給や社会保障制度に及ぼす影響の大きさを考慮すれば、政策的に出生率の向上や子育て支援を講じていくことは重要である。

子どもを生むか生まないかは、あくまでも個人や家族の意思決定に基づくべきであることはいうまでもない。しかし、社会制度その他の理由により子どもを持ちたくても持てないといったケースがあれば、それは問題である。出生動向基本調査によると、夫婦にとっての理想的な子どもの数(理想子ども数)は、1977年の理想子ども数の調査開始以来、実際に持った子どもの数(結婚持続期間15~19年の妻の平均出生児数)を上回っており、理想と現実の間にかい離がある(第3-1-8図)。理想子ども数と平均出生児数とのかい離を小さくするため、子育てを妨げる様々な障害を取り除くとともに、社会全体で子育てを支援することにより、子どもを持ちたい人が安心して生み・育てられる環境を整備することが必要である。

出生率の低下の主要な要因の一つとして、人々が就業と出産・育児を両立できないことがあると考えられる。特に現状においては、女性が就業と出産・育児との間での選択を迫られる場合が多いことから、女性の就業と出産・育児の両立が可能となるように経済社会の諸制度・慣行を変えていくことが重要となろう。主要先進国間で女性の社会参画の程度を示す指標(GEM)(20)と合計特殊出生率の関係をみてみると、先進諸国においても、女性の社会参画と出産・育児とが必ずしも背反するものではないということが考えられる(第3-1-9図)。我が国においても社会及び家庭への男女共同参画とともに、女性の就業と出産・育児の両立が可能となるような経済社会を構築することが出生率の向上に資すると考えられる。

 少子化対策の推進

少子・高齢化は先進諸国に共通した問題であり、各国においても出生率の向上を図るため、様々な少子化対策がとられている(付表3-1)。我が国においても、「少子化の流れを変えるためには、従来の取組に加え、もう一段の少子化対策を講じていく必要がある」との考え方の下、「次世代育成支援に関する当面の取組方針」(2003年3月14日)を決定し、これまでの「子育てと仕事の両立支援」に加え、「男性を含めた働き方の見直し」、「地域における子育て支援」、「社会保障における次世代支援」、「子どもの社会性の向上や自立の促進」という4つの柱に沿って、総合的な取組を効率的かつ効果的に推進することとしている。

さらに、2003年7月に「少子化社会対策基本法」(以下、「基本法」という。)及び「次世代育成支援対策推進法」(以下、「次世代法」という。)が成立した。「基本法」では、少子化社会において講ぜられる施策の基本理念、国、地方公共団体等の責務や政府における施策の大綱の策定等を定めている。また、「次世代法」は、「基本法」を具体化するもので、国の行動計画策定指針並びに地方公共団体及び事業主の行動計画の策定等について規定し、子どもが健やかに生まれ育つために必要な環境の整備に取り組むこととしている。このような取組により、地域における子育て支援の充実や、企業における男性を含めた働き方の見直しが図られ、さらには仕事と子育ての両立が実現すれば、出生率の低下を反転させることもある程度可能であろう。

ただし、仮に少子化対策が功を奏して出生率が増加に転じたとしても、人口構造はすぐには変化しない。また、現時点での出生率の動向は、以後70~80年に渡って人口構造を決定づけることから、これまでの人口構造の歪みは、外国人・移民労働者を大量に受け入れるといった極端な政策をとらない限り実質的に修復不可能である(コラム3-1参照)。高齢化・人口減少を前提とした経済社会の仕組み作りは不可避である。

4 女性と高齢者の就業の促進

 女性と高齢者の労働力率の向上

人口減少社会への移行に伴って、今後労働力が減少することが見込まれる。我が国経済の知識・技術集約化が進み、労働力節約型の産業構造が実現すれば、必ずしも労働力不足に見舞われるとは限らないとの考え方もあり得る。しかし、一方で高齢化等に伴い福祉・介護サービス等の労働集約的な分野が拡大することも見込まれている。したがって労働力の減少の影響を緩和するためには、働きたいとの希望を持っている女性や高齢者の就業を促進することが不可欠である。

我が国における女性の年齢階級別の労働力率(21)は、20歳台後半から30歳台の出産・育児期にくぼむというM字型のカーブになることが知られている(第3-1-10図)。これは、就業と出産・育児の両立が難しいことから、就業を断念しているということを示しているものと考えられ、他の先進諸国ではほとんどみられない現象である。これを10年前、20年前と比べると、2002年にはM字の底の30~34歳女性の労働力率が60.0%となるなど、女性の社会進出により労働力率は全体として上がってきているが、M字型カーブの形状を解消するまでには至っていない。

では、現在は働いていないものの、条件さえ整えば働きたいと思っている女性が就業したらどうなるだろうか。実際の労働力率に就業希望者を加えたものを「潜在的労働力率」とすると、潜在的労働力率ではM字型のカーブがほぼ解消される(前掲第3-1-10図)。これは、就業と出産・育児の両立支援を進めれば、女性の労働力率を高めることができることを示唆している。

以上のように子育て期を中心とする女性の労働力率が向上すれば、労働力人口の減少をある程度相殺することは可能である。しかし、今後、労働力率を更に高めるためには、人口比で高まっていく高齢者の就業を促進することが重要となる。

我が国の高齢者の労働力率は諸外国に比べて高い(第3-1-11図)。60代前半の高齢者で50%超、65歳以上で20%を超えており、いずれでみても、諸外国の労働力率を上回っている。これは、日本の高齢者は相対的に高い就業意欲をもっていることの現れと考えられる。

しかし、高齢者の労働力率は最近低下の傾向にある。これは、65歳以上人口の中でもより高齢である人々の割合が増加していることや、社会保障の充実により、高齢者の経済力が向上していることによる面もあると考えられるが、自営業者の減少や経済情勢の悪化等により、高齢者の雇用機会が減少していることによるものとも考えられる。また、高齢者の完全失業率をみても、2002年は、60~64歳では7.7%となるなど(22)、雇用環境は厳しいものとなっている。このことは、働く意思のある高齢者を十分に活用できていない状況を示している。

 女性と高齢者に対する就業支援の推進

以上、女性や高齢者の就業状況をみてきたが、高い就業意欲を持ちながら、就業できない状況にあることが分かった。今後本格的に進行する労働力人口の減少を緩和するため、働きたい人がその意欲と能力に応じて、ライフスタイルに合致した多様な働き方を選択し、自己の持てる能力を十分に発揮できるような就業環境を整備することが重要である。

そのためには、技能・能力に応じた賃金・昇進体系の整備、短時間勤務や隔日勤務など柔軟な勤務形態の拡充、再就職を含めた雇用・就業機会の十分な確保等、働き方の多様化等を通じて、女性や高齢者が働きやすい環境づくりを促進することが必要である。また、女性や高齢者に特有の施策としては、次のようなものがある。

まず女性については、少子化対策における取組と同様、仕事と育児の両立のため、基本的には保育所の充実が重要である。このことは、保育所定員数と女性の有業率との関係をみても明らかである。都道府県データをサンプルとして乳幼児を持つ女性の一人当たり保育所定員数と乳幼児を持つ女性の有業率の関係をみると、保育所定員数が多いほど女性の有業率が高いとの関係がみられる(23)第3-1-12図)。小学校低学年の子どもを持つ家庭については、放課後児童クラブ(24)の拡充が重要である。これらの施策は、「エンゼルプラン(96年12月)」、「新エンゼルプラン(98年12月)」において、充実が図られているところである。また、子育てをしながら働き続けることのできる職場環境の整備も重要である。具体的には、育児休業を取りやすく、職場復帰をしやすい環境づくりや、働き方の多様化等が必要である。

さらに、女性と就業の問題をめぐっては、公的年金制度における第3号被保険者制度(25)、税制における配偶者に係る控除制度(26)、企業の福利厚生制度における配偶者手当等があいまって専業主婦(世帯)を優遇する結果となっている。今後更に重要となる女性の労働力を有効活用するため、女性の就業・非就業の選択に対し、より中立的な制度への転換が必要である。

一方、高齢者については公的年金制度において支給開始年齢が段階的に65歳までに引き上げられることになっていることから、少なくとも65歳までの就業機会を確保する必要性がますます高まってきている。したがって、定年の引上げや継続雇用制度導入の促進など、65歳までの安定した雇用の確保を一層確実なものとするような取組を強化する必要がある。その際、個々の高齢者の就業能力に応じ、多様な勤務形態を認めることが必要である。

また、改善が図られてきたとはいえ、公的年金制度における在職老齢年金制度(27)が高齢者の就業意欲を抑制しているのではないかとの指摘もある。今後、高齢化に伴い社会保障給付費が急速に増大していくことを考えれば、高齢者が就業し、社会保障制度を支える側にとどまることの経済的意義は大きい。高齢者の就業選択により中立的なものに見直していく必要がある。

コラム3-1 外国人・移民労働者の受入れについて

我が国の生産年齢人口の減少を補うために外国人・移民労働者(28)の受入れがしばしば議論されるが、この問題をどのように考えるべきであろうか。

少子・高齢化は先進諸国の共通の課題であり、EU域内における最大の外国人・移民労働者の受入国であるドイツでは、労働力不足や社会保障制度の安定化を図るべく外国人・移民政策を推進しており、ドイツに居住する外国人・移民の数は約730万人と、総人口の8.9%を占めている。またアメリカでは、数量割当のもとで家族統合と専門的職業に従事する就労目的移民の積極的受入れを目的に、この10年間で年平均90万人の移民を受け入れ、総人口の10.6%を外国人(29)が占めている(いずれも2000年の数字)。

我が国における2001年末現在の外国人登録者は178万人(総人口の約1.4%)となっている。この10年間で総数は約1.5倍(年平均で5万人の増加)となっており、今後も増加していくことが見込まれる。しかし我が国における人口の減少は急速であり、これを外国人・移民の受入れにより補おうとすれば、総人口を維持するためには年間34万人、生産年齢人口を維持するためには年間約64万人の外国人・移民の受入れが必要になる。

現在の我が国社会の外国人をめぐる状況を考えれば、現状の10倍以上の外国人・移民労働者を継続的に受け入れていくことには多くの課題がある。外国人・移民労働者の受入れは、国内労働市場や社会的コスト等の点で我が国経済社会に多大な影響を及ぼすとともに、送り出し国や外国人・移民労働者本人にとっての影響も極めて大きいと考えられることから、慎重な検討が必要である。

ただし、我が国の経済社会の活性化・国際化を図る観点から、専門的・技術的分野の外国人・移民労働者を受け入れていくことは重要であり、国籍・年齢・性別を問わず勤労意欲と能力のある者が適材適所で働くことのできる仕組みをつくるとともに、我が国で働くことの魅力を高めていくことが必要である。

先進諸国における移民受入に関するシナリオ別移民の規模(2000~2050)