目次][][][年次リスト

第1章 歴史的転換期にある世界経済:「全球一体化」と新興国のプレゼンス拡大

第2節 世界の資本市場

2.世界の資金の流れをめぐるリスクの増大

  以上でみてきたように、世界の資金フローが増加する中で新興国のプレゼンスが拡大しており、また、国境を越えて企業が新興国にも活動の場を広げるなど、資本の「全球一体化」が進んでいる。
  一方、新興国、先進国のいずれの側にも、世界の資金フローを不安定化させるリスク要因も存在している。

(1)グローバル・インバランス(経常収支不均衡)の再拡大

(i)問題の所在(5)
  各国の経常収支は、短期的な経済情勢の変化だけでなく、各国の人口動態や資源の賦存状況、対外投資ストックの多寡等にも大きく左右される。このため、経常収支の不均衡の存在自体は、必ずしも問題であるとはいえない。しかしながら、グローバル・インバランスの存在が何らかの世界経済の歪みを反映し、将来起こり得る危機の兆候を示す場合もある。2008年9月のリーマン・ショックを契機とする世界的な金融危機がそうである。これは、どのようなメカニズムによるものであろうか。
  今般の世界金融危機の根本的な原因は、金融規制・監督が適切に行われなかったためにリスク管理が適切に行われず、金融機関による過剰なリスク・テイクを招いたことに求められる。しかし、マクロ経済にもこうした投資行動を助長した面があった。それがグローバル・インバランス拡大の裏側で起こった国際的な資本の流れである。
  2000年代に入り、アメリカの過剰消費や新興国や産油国における経常黒字の拡大を背景に、グローバル・インバランスは拡大した。その結果、資金余剰となった新興国や産油国からアメリカやヨーロッパへ大量に資金が流入し、世界の金融市場の規模は大きく拡大した。世界全体で民間及び政府が発行した債券は、07年末で約80兆ドルと02年末時点(約43兆ドル)から5年間で2倍近くに膨らんだ。
  アメリカやユーロ圏では低金利の状態が続いていた。長期にわたって緩和的な金融政策スタンスが継続したことに加え、新興国や産油国からの資金流入が増加したことが背景にある。例えば、中国による米国債の保有額は年々増加していた。その結果、政策金利(フェデラル・ファンド・レート)が引き上げられても、米国債の利回りがほとんど上昇しないという状況が生じた(第1-2-20図)。低利回りの状況が続く中、高利回り資産を求める金融機関は、リスク管理を十分に行わないままサブプライム・ローンを裏付け資産とする証券化商品を大量に保有し、金融危機の引き金となった(6)

(ii)世界金融危機により縮小したグローバル・インバランスの再拡大とその背景
  世界金融危機発生後の2009年にはインバランスは一旦縮小したが、10年には再拡大している(第1-2-21図)。
  具体的には、中国では2000年に205億ドルだった黒字額が08年には4,361億ドルに拡大し、09年には縮小したが10年には再拡大して3,054億ドルとなった。サウジアラビア等の産油国を中心とする中東・北アフリカ地域では、2000年の804億ドルから2008年には3,430億ドルまで拡大し、09年には縮小したものの再び拡大している。一方、世界最大の経常赤字国であるアメリカでは、2000年に4,164億ドルであった赤字額が06年には8,026億ドルまで拡大し、09年には3,784億ドルに縮小したものの10年には4,702億ドルと再び拡大した。
  こうしたグローバル・インバランスの再拡大の背景として、各国の貯蓄投資バランスの問題と為替調整の問題が考えられる。
  貯蓄投資バランスは、一国の資金の過不足の状況を表している。貯蓄が国内の投資を上回れば、経常収支は黒字になり、余剰資金が海外に投資される。逆に、国内の投資が貯蓄よりも多ければ、経常収支は赤字になり、海外からの資金でファイナンスされる。したがって、貯蓄と投資のバランスは経常収支の動きをみる上で重要なポイントとなる。
  アメリカでは、世界金融危機発生後、バランスシート調整を進める家計部門では貯蓄が投資を上回る状態(貯蓄超)が続いている一方で、積極的な財政出動により政府部門の資金が不足している状況にある(第1-2-22図)。他方、中国では、自動車や家電の販売促進策など各種の消費刺激策が実施されてきているものの、年金や医療などの社会保障制度が不十分(7)であることから、病気や失業に伴う出費や所得減少、想定以上の長生きに対する備えといった将来の不確実性から家計が行う予備的貯蓄もあるとみられる。これもあって、中国のGDPに占める個人消費の規模は相対的に小さく、貯蓄率は20%を超えて上昇を続けている(第1-2-23図)。こうした米中双方の状況がグローバル・インバランスの再拡大の背景にある。
  次に、為替調整についてみる。一般に、自国通貨の減価は輸出を増加させることを通じ、その国の経常黒字を拡大させる働きを持つ。一方、輸出相手国では輸入が増加するため、経常赤字が拡大する。為替相場が十分に伸縮的であれば、経常黒字が拡大した国の通貨は増価し、それが当該国の輸出競争力を低下させて中期的には経常黒字の拡大が抑えられることが期待される。しかし、通貨当局による外為市場への介入のために市場による為替レートの調整が適切に働かず、経常黒字が拡大した国の通貨が増価しない場合にはその拡大は抑えられず、結果として、グローバル・インバランスは拡大することになる。
  経常黒字国の為替として、例えば、中国人民元をみると、その対ドル名目為替レートは徐々に切り上げられている(第1-2-24図)。中国政府は、05年7月21日に、人民元の対ドルレートを1ドル=8.28元から1ドル=8.11元に約2%切り上げ、同時にそれまでの事実上ドルにペッグをした管理変動相場制から、前日比0.3%までの変動を認める、通貨バスケットを参考とする管理変動相場制へ移行した。08年7月には世界的な景気後退を背景に一時的に変動幅を縮小した(事実上のドル・ペッグの復活)が、10年6月19日には為替レートの柔軟化を発表し、人民元は再び徐々に増価した。11年5月の時点の対ドル人民元レートは1ドル=6.49元と、05年の切上げ前と比べておよそ28%切り上がっている。しかし、IMFが人民元は中期的なファンダメンタルズからみると過小評価されているとコメントする(8)など、更なる切上げが必要との見方も多い(9)

(iii)グローバル・インバランス再拡大による国際資金フロー
  グローバル・インバランスが再拡大する中、新興国等の潤沢な資金が赤字国であるアメリカの財政をファイナンスする状況になっている。例えば、中国はアメリカが発行した債券を年々買い増しており、その内訳をみると、リスクが低い政府証券(国債等)とGSE(10)発行債券(エージェンシー債)がほとんどである(第1-2-25図)。中国がGDP比10%近いアメリカの財政赤字の一部をファイナンスするとともに、住宅市場を間接的に支えている構図となっている。
  膨大な外貨準備を保有する中国は、その安全な運用先としてアメリカ国債やGSE発行債券を選んでいると考えられ、このような中国によるアメリカ国債の大量購入は、アメリカ国債の低位な利回りに寄与している。両国の現状は、結果として、双方にメリットがある状況といえなくもない。
  しかしながら、貯蓄投資バランスや為替調整の問題に起因するグローバル・インバランスの再拡大は、次の(2)以降で見るように、力強い成長を続ける新興国のバブル懸念やアメリカの財政規律の緩みなど、新たなリスクにもつながりかねない。

(iv)不均衡是正に向けた取組
  こうした貯蓄投資バランスや為替調整の問題は、アメリカをはじめとする経常赤字国が財政再建を進めるだけでなく、中国等の経常黒字国が為替レートの柔軟性を高めるなど、世界的な取組が無ければ解消されないと考えられる。
  2010年11月に開催されたG20ソウル・サミットでは、対外不均衡の問題については具体的な行動が必要との意見が示され、経常収支を持続可能な水準で維持するためのあらゆる政策を追求する旨の首脳宣言と「ソウル・アクションプラン」が採択された。これを受け、11年4月には、対外不均衡の相互評価プロセス(MAP)を行うための参考として、対外バランスについては貿易収支を、対内バランスについては政府部門の財政赤字と公的債務、民間部門の民間貯蓄率と民間債務を評価項目とし、詳細な評価を受ける国を特定するための参照値を示すガイドラインが合意された。今後、当該ガイドラインに基づき、持続的な不均衡が存在する国の評価が行われることとなっている。また、「ソウル・アクションプラン」では、為替政策についても、為替レートの柔軟性を向上させるとともに、通貨の競争的な切下げを回避すること、為替レートの過度の変動や無秩序な動きを監視することが盛り込まれている。
  なお、OECDの試算(11)によれば、全OECD加盟国での財政再建、ドイツ、日本、中国における製品市場の規制改革、中国における公的医療支出の増加及び金融市場改革を同時に実施した場合、OECDに中国を加えた地域の対外収支不均衡(12)が3割程度減少し得るとされている。
  このように、グローバル・インバランスの是正に向けて国際的な政策努力が継続的に行われていくことになっているが、他方で、新興国の台頭により、国際社会のプレイヤーは多数になり、また、多様化している。そのため、経常黒字国と赤字国が政策協調を円滑に行うことが難しくなり、不均衡の是正が容易には進まない可能性もある。実際、為替による不均衡の調整について、中国人民銀行総裁は「東アジアの高貯蓄は主として文化的、構造的な性質のものであり、単に為替調整を行っても貯蓄行動には影響を及ぼさない」との見解(13)を示しており、為替切上げを求める先進国とスタンスは対立している。
  一方で、長期的にみれば、新興国の人口構造の変化に伴い、貯蓄投資バランスが変わる可能性もある。現在、多くの先進国において高齢化が進展しているが、今後は中国をはじめとする新興国等でも急速な高齢化が見込まれる(第1-2-26図)。ライフサイクル仮説に基づけば、高齢化の進行は貯蓄を取り崩す人口が増加することを意味し、貯蓄率の低下や投資の減少につながり得る。これが、グローバル・インバランスを縮小させる要因になる可能性もある。

(2)新興国のバブル

  中国やインド等の新興国では、景気が内需を中心に拡大しており、今後も拡大傾向が続くと見込まれる。こうした中、例えば中国では実需に加えて投機的な動きもあり不動産価格が上昇する(14)など、新興国では景気の過熱感が強まっている。こうした新興国では、一次産品価格を中心に物価上昇によるリスクが高まっていることから、金利引上げや預金準備率の引上げ等の金融引締めが行われているが、不動産価格や物価の上昇に歯止めがかかっていない。
  一方で、先進国では緩和的な金融政策運営が続けられている。特にアメリカでは、(1)でみたとおり、グローバル・インバランスが再拡大する中で新興国等の潤沢な資金が米国債に向かっており、米国債の低位な利回りに寄与している状況にある。このようにアメリカ等の先進国に流入した資金の一部は、再び新興国に流入しているとみられる。新興国は先進国と比べて経済成長のスピードが速いほか、金利水準が高いため、高収益を求める先進国の投資家等が、新興国を投資先に選んでいることがその背景にあると考えられる。
  新興国に流入している資金の内訳をみると、証券投資はリーマン・ショック後に一時的に流出超に転じているものの、09年半ばからは流入超の状況が続いている(第1-2-27図)。
  例えばアジア新興国への資金フローの動きをみると、タイやインドネシアでは、09年半ば以降、流入総額に占める証券投資やその他投資(金融派生商品、貸付・借入等)の割合が大きくなっている(第1-2-28図)。また、中国では09年後半よりその他投資が急増し、10年後半には1,887億ドルにものぼっている。
  アジア新興国のマネタリーベース(ベースマネー)の動きをみると、タイ、インドネシア、中国ではいずれも09年後半から前年比の伸び率が拡大傾向にある。一方、マネーサプライ(マネーストック)については、10年に入りタイとインドネシアで前年比上昇率が高まっているものの、中国では低下しており、国ごとに状況が異なっている(第1-2-29図)。
  次に、マーシャルのkを用いて、実体経済の拡大以上にマネーサプライが増加してないかを確認する(第1-2-30図)。いずれの国についても、08年の半ばにかけてマーシャルのkは低下基調であった。しかし、世界金融危機発生後、政策金利引下げによる緩和的な金融政策が採られたことや、中国では08年11月に総量規制が撤廃されたことも影響し、マーシャルのkは上昇に転じた。タイに関しては、10年に入りマーシャルのkの上昇に歯止めがかかりつつあるものの、中国では上昇が続いており、また、インドネシアでも10年後半に上向いている。こうした国では、実体経済の拡大以上にマネーサプライが増大している可能性がある。
  1990年代のアジア通貨危機前後の状況を振り返ると、当時は大量の資本流入を背景にアジア新興国では対外短期債務が増加していた(第1-2-31図)。為替政策が事実上のドル・ペッグを採用しており、大量の資本流入が起こると、自国通貨のドルに対する増価圧力を抑えるため、自国通貨売り、外国通貨買いの為替介入を行い、外貨準備も積み増されていた。しかしながら、危機が起こった97年にかけて、インドネシア、タイでは対外短期債務の額が外貨準備を上回るようになった。先進国による資金の引上げが起こった際、外貨準備が十分でなく、銀行等による国外債権者への債務返済のためのドル需要の急増に対応できなくなったことが、アジア通貨危機につながった。
  2000年代に入ってからの動きをみると、これらの国はアジア通貨危機の反省を踏まえ、十分に外貨準備を保有している模様である。しかし、今後も新興国への資金流入が続いて対外短期債務が外貨準備を上回る状況となり、万が一これらの国から資金が急激に流出した際には、通貨の大幅な下落や金融システム不安に至る可能性がある。
  アジア通貨危機直前のような大量の資本流入が起こることを未然に防ぐため、現在、タイ、インドネシア、中国等では、外貨建て短期債務に対する制限等海外からの資金流入への規制強化を実施している(第1-2-32表)。また、急激な資金流出に対応するため、通貨スワップによりアジア域内で外貨準備を融通する仕組み(チェンマイ・イニシアティブ)も構築されている。

(3)アメリカ財政の持続可能性と市場による規律

  08年のリーマン・ブラザーズの破たんを契機とした世界金融危機や景気後退に対処するため、多くの先進国において積極的な財政刺激策が実施された。
  アメリカでは、こうした積極的な財政出動による歳出拡大や減税に加え、景気後退による税収減により、財政赤字が拡大し、公的債務も急増している。具体的には、10年度の財政赤字は1兆2,942億ドルとなっており、GDP比で8.9%の水準となっている。連邦政府債務残高(民間保有分)は10年度末時点で9兆ドルとGDP比62.2%の水準まで増大している(15)
  このような中、グローバル・インバランスの再拡大の結果として新興国や産油国から流入した資金が、アメリカの財政赤字をファイナンスする構図となっている。
  例えば、米国債の10年末時点での保有者をみると、全保有者のうち、アメリカの家計、州・地方政府、年金の合計が23%、FRBが11%を占める一方で、海外諸国は47%のシェアとなっており、01年時点よりも海外保有割合が大幅に上昇している。海外諸国の内訳をみると、2000年代初頭には日本のほか中国、ドイツ、香港等が中心であったが、10年時点では日本の割合が低下する一方で、新興国や産油国の占める割合が大きく上昇している。特に、中国の占める割合は01年の8%から10年には20%まで上昇している。OPECの占める割合も、01年の4%から10年には6%に上昇している(第1-2-33図)。これらの国々は、外貨準備の安全運用先として、米国債を多く保有しているとみられる。また、08年後半から金融政策において量的緩和が行われており、10年11月からは、11年6月までの間に6,000億ドルの米国債をFRBが買い取る量的緩和の第2弾(QE2)が進められるなど、結果として、財政の一部が金融政策によっても支えられている状況にある(第1-2-34図)。
  このように新興国・産油国の潤沢な資金による財政赤字のファイナンスが続けられれば、国債利回りが低位に抑えられるが、金利による市場の規律が効かないことで、アメリカの財政規律そのものが緩む可能性も考えられる。

(4)金融システミック・リスク増大の可能性

(i)金融機関の寡占化、巨大化の傾向
  先進国の金融システムは、金融機関の寡占化、巨大化の傾向が継続している。
  アメリカでは、2000年には米連邦預金保険公社(FDIC)加盟の金融機関数は10,000行程度あったが、資産額1億ドル未満の金融機関を中心に淘汰が進み、10年には8,000行弱まで減少している。一方で、総資産額についてみると、90年代半ばから大きく増加しており、2000年時点と比べて2倍程度となっている(第1-2-35図)。
  ヨーロッパでも金融機関数の減少が続き、2000年には7,500行程度あった金融機関は10年には6,300行程度になっている。総資産額はアメリカと同様、この10年で2倍程度に増加している(第1-2-36図)。
  このように金融機関が寡占化、巨大化すると、金融機関のガバナンスの強化やリスク管理の徹底、国際的な規制・枠組みの実効性の確保が適切になされない場合には、システミック・リスクが増大する可能性が高まるといえる。

(ii)金融システム強化のための取組
  世界金融危機の根本的な原因が金融機関による過剰なリスク・テイクによる投資行動にあったことから、現在、各国で金融システムの強化のための枠組み作りが行われている。
  バーゼル銀行監督委員会(16)では、2010年11月のソウル・サミットにおいてG20首脳によって承認された銀行の自己資本と流動性に係る国際的な基準の詳細として、同年12月にバーゼルIIIを公表した。このバーゼルIIIでは、(1)資本水準の引上げ、具体的には、現行バーゼルIIで設定されている総資本最低所要比率8%に加えて、普通株等Tier1(いわゆるコアTier1)比率が4.5%、Tier1比率が6%に設定され、(2)資本の質の向上のため、普通株等Tier1から普通株転換権付優先株が除外され、普通株及び内部留保のみが算入される。また、(3)プロシクリカリティの緩和及びストレス時の資本保全を目的として最低所要資本に加え普通株等Tier1で2.5%の上積みが求められる(資本保全バッファー)。さらに、(4)レバレッジ比率(17)や(5)新たな流動性規制(18)が導入されることとなる。加えて、(6)カウンター・パーティ・リスク(19)の評価方法の見直しが行われることとなった。このバーゼルIIIの各国における適用は、2013年以降段階的に実施されることとなっている。
  アメリカでは、抜本的な金融規制改革を内容とする金融規制改革法(20)が10年7月に制定された。同法では、新たな機関である消費者金融保護局(21)を新たに設置し、強力な消費者保護を行う権限を付与している。また、金融機関が過度のリスクを抱えることを抑制するため、銀行等が自己勘定取引やヘッジファンド・未公開株投資ファンドへの投資・出資を行うことを禁止する、いわゆる「ボルカールール」が導入されることとなった。さらには、システミック・リスクに対処するためのマクロ・プルーデンス政策として、金融システムの総合的な監視を行う組織である金融安定監督協議会(22)が創設されることとなった。10年10月には、第1回金融安定監督協議会が開催され、金融規制改革法の具体化を11年夏から秋頃までに行うとするロードマップが決定された。このようにミクロ・マクロの両面からの新たな金融規制が緒についた。しかしながら、銀行や貯蓄金融機関といった預金取扱機関や、保険、証券等、各金融分野の規制・監督は、FRB(連邦準備制度)やFDIC(連邦預金保険公社)、OTS(貯蓄機関監督局)、SEC(証券取引委員会)、州政府等、依然として多数の機関によって担われている(23)。世界金融危機の背景として、複雑な監督制度が新たな金融商品やサービスに対応しきれなかったことも指摘されており、こうした問題が新たな規制枠組みの下で解消したとまではいえない。また、前述のロードマップにおいては消費者金融保護局の機能の設計が11年7月まで、「ボルカールール」の基準の作成は11年10月までに行われることとなっているなど、金融規制改革法の詳細はこれから具体的に定められることとなっており、実効ある規制となるかどうか、今後の検討を注視する必要がある。
  英国では、財務省が設置した銀行独立委員会(Independent Commission on Banking)が、11年4月、銀行の健全性を高めるための提言を含む中間報告を発表した。同報告には、普通株等Tier1比率について、バーゼルIIIが求める普通株等Tier1比率(4.5%)と資本保全バッファー(2.5%)の合計(7%)より高い10%に設定することにより、資本の積増しを求めることや、リテール業務を法人向け業務・投資銀行業務から分離することなどの改革案が盛り込まれている。同年9月には最終報告が提出され、その内容を踏まえ、英国政府において国内の銀行政策の見直しが行われることとなっており、その動向が注目される。


目次][][][年次リスト