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第1章のポイント

1.世界金融危機後の金融資本市場

世界の金融資本市場は、各国の政策対応により、最悪の状況からは脱しつつあるものの、依然として緊張状態。2009年に入ってからも、金融機関の経営不安が続いている。
短期金融市場では、スプレッドが縮小するなど状況の改善がみられるが、社債市場や資産担保証券(ABS)市場では、市場の機能は十分に回復していない。
金融システム安定化は、景気回復に向けた必要条件。引き続き、金融機関における資本増強や市場機能の回復に向けた取組が必要。
なお、大恐慌と今回の金融危機を比べると、株価は大恐慌初期と同等の下落幅を記録したものの、実体経済面は大恐慌の時ほどは落ち込んでいない。しかし、大恐慌と同じメカニズム、すなわち金融危機と実体経済悪化の悪循環というメカニズムが働いており、金融機関の高レバレッジ解消による貸出抑制など懸念される共通点が存在する点に留意すべき。

2.アメリカの景気後退の深刻化と金融危機の長期化

●今回の景気後退局面では、過去の景気後退を上回る速さで主要指標が悪化。先行きについても、金融危機と実体経済悪化の悪循環が続いており、景気後退が長期化するリスクは高い。
●アメリカのGDPの約7割を占める個人消費は、(1)戦後最悪の雇用情勢、(2)金融危機による信用収縮の影響、(3)家計のバランスシート調整等により、2010年までは本格的な回復に向かうことは困難。
● 住宅着工の減少や住宅価格の下落が続いており、債務の不履行による差押えの増加に歯止めはかからず。実体経済の悪化により、個人・企業向け貸出が不良債権化し、金融機関の損失は拡大。
● アメリカ政府及びFRBは、大規模な景気刺激策や金融システム安定化策を実施。ただし、金融システム安定化のための資金については、金融危機が早期に収束しないリスクを考慮すれば、枯渇するおそれ。
● FRBによるバランスシートの拡大は、資産市場の機能回復に一定の効果。ただし、マネーサプライ増加への寄与は限定的。

3.ヨーロッパの景気後退の深刻化と金融危機への対応

ヨーロッパでは、2009年1〜3月期の成長率が、過去最大のマイナス幅となるなど、景気後退が急速に深刻化。先行きについても、金融危機と実体経済悪化の悪循環により、景気後退が長期化するリスクが高い。
ヨーロッパにおいては、
(1)ドイツ、フランス等の主要国でも雇用情勢が本格的に悪化しており、消費を中心とした内需主導の自律的な回復は困難であること
(2)中・東欧経済の悪化により、外需の回復も期待できないことに加え、中・東欧向けの貸出が不良債権化し、金融危機が増幅されるおそれがあることなどから、早期の景気回復は望み薄。
各国は景気刺激策により景気の下支えを図っているが、景気後退の深刻化により、国によっては、財政支出の規模が十分でない可能性。
他方、財政赤字の大きな国においては、財政の持続可能性への懸念から、国債の格付け引下げや、国債金利の利回りスプレッドが拡大。

 


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