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内閣府ホーム  >  経済財政政策  >  白書等(経済財政白書、世界経済の潮流等)  >  世界経済の潮流 2013年II  >  第2章  >  第1節 中所得国の罠の回避に向けて

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第1節 中所得国の罠の回避に向けて

本節では、中国経済の中長期的な経済成長を概観するため、過去に高度経済成長を遂げた各国と比較し、中国の現在の経済発展段階がどの位置まで来ているのか、また「中所得国の罠」という概念を補助線として、成長の大幅な低下に陥らないための課題について分析する。具体的には、 長期の高度成長を遂げたのちに中所得国の罠に陥った諸国としてアルゼンチン、ブラジル、チリ、マレーシア、メキシコ、タイ、安定成長を続けた諸国・地域として日本、アメリカ、韓国、香港、シンガポールを中国との比較対象に取り上げる。これらの各国について、成長屈折期の状況を比較しながら、中国の発展段階をみつつ、中国が安定成長に移行するための課題を探ることとする。

1.中所得国の罠とは

20年間にわたる実質10%台の高度成長の結果、中国の一人当たりGDP1別ウインドウで開きますは11年には7,800ドルに達している。現在の実質経済成長率は7%台にまで低下しており、一人当たりGDPの伸びは11年に5%程度に低下しているが、単純計算によれば、仮にこうしたペースの成長が続けば17年には1万ドルに達することになる。ここ数年の成長率の低下と、1万ドルといった高度成長経路の区切りから、中国の成長力をめぐっては、「中所得国の罠」を回避できるのかが問われる状況になっている。

「中所得国の罠」とは、多くの途上国が経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することを指す。これは、開発経済学でゆるやかに共有されている概念であり、その端緒は世界銀行が07年に発表した報告書2別ウインドウで開きますにあるとみられている。

この点について、これまで長期の高度成長を遂げたのちの各国の経済成長の軌跡について確認してみよう。60年以降の実質経済成長率と一人当たりGDPの推移をみてみると、過去はアメリカがその他の国・地域を圧倒的に上回っていたが、日本は60年代、香港、シンガポールは70年代、韓国は80年代にそれぞれ1万ドルの水準を突破し、その後も安定した成長を続けている。一方、中南米諸国はメキシコが80年代に1万ドルを突破するなど好調であったものの、その後は伸び悩んでいる(第2-1-1図)。

第2-1-1図 実質経済成長率と一人当たりGDPの推移(60年代以降):1万ドル前後で中所得国の罠に陥る国も

このように、成長率は下がるものの、一人当たりGDPが増加を続けた形で安定的に成長を続ける国もある一方、一人当たり所得が1万ドル周辺で成長率が大きく低下し、一人当たりGDPの水準が停滞する国もみられている。

そこで、60年以降を目安として3別ウインドウで開きます、各国の実質経済成長率が最も高かった20年間の平均と、その後の10年間の成長率の平均を比較してみよう。まず、高度経済成長期は、中国以外の各国ではおおむね60年代から80年代までが多いことが分かる。また、アジア諸国では高度成長期の後も成長率が安定している国・地域が多い一方、中南米諸国やタイ等では高度成長期の後は通貨危機の影響等もあり成長率の低下が比較的大きくなっている(第2-1-2図)4別ウインドウで開きます

第2-1-2図 高度成長期前後の実質経済成長率の比較:中南米諸国等は下落傾向

いずれの国でも高度成長の過程では成長率の顕著な低下、ないしは成長率の屈折がみられている。しかし、上記でみた国の例に限ってみても、安定成長国では成長率の落ち込みが半分以下にとどまっているのに対して、成長減速国では半分以上になっている。

こうしてみると、中所得国の罠の水準について必ずしも厳密な定義がない中で、一人当たりGDPがプラスで推移している限り、中国はいずれは一人当たりGDPが1万ドルを突破することとなる。そこで、ここでは中所得国の罠を厳格に解釈するのではなく、マクロの成長率や一人当たり成長率が、中所得の段階でそれなりに大きく屈折することと捉えよう。中国の場合、10%成長が長く続いたため、今後、比較的短期間に半分以下になるような大きな低下があり得るかどうかと考えてよいだろう。また、それを回避するための課題は何かと考えてよいだろう。

中所得国の罠については、世界銀行による問題提起以降、その原因や処方せんをめぐり、様々な議論がなされている。例えば、前述の世界銀行の報告書では、東アジア諸国は、資本や労働といった生産要素の蓄積を基本とした成長戦略が、資本の限界生産性の低下からその成果が徐々に薄れていくとしている。その上で、中所得の罠から抜け出すには、(1)生産及び雇用の重点化・高度化、(2)投資の重要性低下に伴う技術革新の推進 、(3)熟練労働者の教育制度を新たな技術習得から新たな商品やプロセスの創造へのシフト、の3つにより規模の経済を十分に活用することが重要であるとしている。

またアジア開発銀行の研究では、各国の成長率の具体的な推移を用いて罠に陥った国を特定した上で、こうした国では輸出製品が一次産品や労働集約的なものにとどまり、多様化・高度化していないとしている。こうした「製品の罠」に陥ると、中所得国から抜け出せないと指摘している5別ウインドウで開きます

中国の国務院発展研究センターと内閣府の経済社会総合研究所の共同研究において、中国側の報告書では、過去の日本や韓国の成功事例を踏まえた上で、中南米の例として、地主に土地が集積して国民の貧富の差が拡大したことを注意すべき点として挙げている。

世界銀行が中国国務院発展研究センターと共同でまとめた「China 2030」によれば、労働集約型・低価格の財の生産への資本・労働の集約によって多くの国が中所得国に達したものの、イノベーションによる生産性の上昇が達成できず、中所得国の罠に陥ったとしている。これを世界銀行の別の報告6別ウインドウで開きますでは「模倣の罠」と表現しており、中所得国の設計部門では生産性と所得が低いため教育へのインセンティブが押し下げられ、需給の両面でイノベーションに必要な人材が確保できにくいという点を指摘している。

こうした中所得国の罠については、厳密な定義や、標準的な理論としては必ずしも確立されてはいない。それにも関わらず、成長鈍化に直面した多くの途上国等から、その発展戦略の在り方について再考を促すものとして共感され、共有されているものと思われる。

そこで、中国の置かれている状況を踏まえながら、上述のような議論から、当面の成長の大幅な低下を回避する課題としては、次のような点が重要と考えられる。

第一に、投資主導型経済から転換して、技術進歩の役割が高まる成長への転換である。これまでの安定成長国でさえも、成長率屈折の時期はあり、投資比率も低下している。その際に、技術革新を進めることや、その国の生産資源をより有効に使うことで安定的な成長を実現している。これは、投資リターンの低下を抑えること、つまり投資の効率化を確保することで、投資比率の低下を抑える余地も生む。中国の投資比率が高水準にあることからも、投資の効率化、投資の質の向上を図っていくことは重要と考えられる。

第二に、産業・輸出構造を高度化・多様化することである。これは、投資の効率化・質の向上とも表裏一体ともいえよう。なお、先行研究では、東南アジア諸国を念頭に、輸出品の特化による規模の経済の利用という戦略も検討されているが、むしろ中国のような規模の大きい国であれば産業・製品の多様化が自然な戦略と考えられる。

第三に、人材の育成とマッチングである。産業、輸出構造の高度化には、技術革新を担う高度な人材が必要である。しかも、それが適材適所に配置することは、その国の生産資源をより有効に使うことにつながる。

第四に、都市化の推進による中間層の形成である。産業・輸出構造の多様化・高度化の結果により生み出される成果は、市場で高い付加価値として評価され消費されるということで、成長の持続として実現する。こうした好循環が持続するためには、消費市場を支える中間層の厚みを増すことが重要であろう。

これらは、それぞれが明確に切り分けられているものというより、同じ方向性を違う断面からみている部分もある。しかし、以下では整理の簡単化のために、それぞれの観点から、中所得国の罠に陥った国と安定成長国を比較検証することを通じて、中国の発展段階を確認しつつ、今後のその成長を展望する。

2.中国の安定成長への移行に向けた課題

中国が大幅な成長の減速を避け、中所得国の罠を回避するための条件として、これまでの整理を踏まえると、(1)投資の重要性低下に伴う技術進歩の推進、(2)産業・輸出構造の高度化、(3)人材の育成とマッチング、(4)都市化の進展と中間層の充実、の観点が重要と考えられる。そこで、以下ではこれらの点について、安定成長国と成長減速国での相違を踏まえながら、中国の推移がどのような位置付けにあり、どのような課題があるかを整理する。

(1)投資の重要性低下に伴う技術革新の推進

発展の初期段階では、一人当たりの成長率を上げるためには、労働者の増加以上に経済規模を成長させる必要があるが、これまで多くの国では、活発な投資活動により一人当たりの資本ストックを増加させることによって、成長を生み出してきた。これは、安価な労働力や先進国の技術の利用で、比較的高い資本リターンが得られるためである。しかし、所得水準が上昇し、安価な労働力が払底してくると、もはや資本リターンはさほどは増えなくなる。そこで、資本ストック増加に依存する投資主導の成長から、技術進歩の役割が高まる成長への転換が鍵となる。技術進歩による付加価値の上昇により、投資リターンの確保を図る余地が出てくるのである。

そこで、各国の投資比率の推移をみると、各国とも高度成長の時期から成長屈折の時期にかけて上昇し、そこから低下する傾向にある。例えば、中南米は80年代に投資率が30%前後に上昇したのち、おおむね20%前後で推移しており、次いでアジア新興国は90年代に投資率が40%前後に上昇し、その後は30%前後で推移している。このように、各国とも高度成長期は投資主導型の経済構造であるものの、総じてみると安定成長国の方が高度成長期の前後を通じて投資率が高く、一定程度の成長力の底上げとなっている可能性がうかがえる7別ウインドウで開きます。一方、成長減速国では投資率の落ち込みが大きいことから、過剰投資によって成長率の停滞が起きた可能性も示唆される(第2-1-3図)。

第2-1-3図 投資率の推移:成長屈折周辺でピークとなる傾向

実際、技術進歩の動向として、経済の生産資源に横断的に関わる生産性である全要素生産性(TFP)をみると、安定成長国ではTFP上昇率が趨勢的に上昇している一方、成長減速国ではTFP上昇率は伸び悩んでいる。成長減速国では、投資比率の低下幅が大きいことと合わせてみれば、投資主導型からの転換ができず、成長の好循環が続かなくなっていることがうかがえる(第2-1-4図)。

中国についてみると、投資比率の高さという点では、安定成長国のこれまでを上回っており、12年にはGDP比48.4%に達している。これは、水準としては安定成長国を上回っており、これが高度成長を支えていたことが示されている。

第2-1-4図 TFPの推移:中国は低い水準

しかし、こうした投資の水準の高さについては、設備水準として過剰となっている可能性もある。こうした投資の質という観点について、これまでの中国の高度成長における投資の在り方を踏まえ、検討してみよう。

中国のこれまでの投資パターンをみると、その経済構造を反映して二面的な性格がある。すなわち、素材産業型等の業種と、電気機械等の加工組立型の業種である。これらは、単純に割り切れない面はあるが、素材産業型の業種では、大量の資本投下が必要だったことなどもあり、比較的国有企業が多い傾向がある。これらの業種では、世界金融危機後の08年の大規模経済対策に合わせた投資増加もあり、過剰設備を抱えている。一方、加工組立型の業種は、比較的外資との連携が多くみられる分野である。

生産設備稼働率の推移をみると、製造業全体として稼働率が低下しており、設備が過剰気味で推移していることが分かる(第2-1-5図)。その中で、特に鉄鋼業では07年以降大きく低下している。他方、コンピュータ・通信では直線的な低下はみられてはいない。

先述の各国のTFP上昇率の動向をみると、中国はTFPの水準は低いが、成長減速国とは異なり、TFP上昇率はプラスの伸びを続けている。すなわち、中国では過剰投資が行われ投資の質が低下した面もあるが、その一方で技術進歩が経済成長を動かすしくみが育ちつつあることがうかがえる。したがって、過剰能力の整理は重要であるが、同時に投資の効率化あるいは投資の質の向上をいかに図れるかが課題といえよう。

第2-1-5図 生産設備稼働率の推移:鉄鋼業を中心に下落

これまでの経験を踏まえれば、対内直接投資の活用は引き続き重要なオプションと考えられる。実際、各国の対内直接投資(GDP比)の推移をみると、グローバル化の進展により、全般的に60年代から2000年代に次第に拡大する傾向にあり、安定成長国であっても対外開放度が高いとはいえない。ただし、GDP比でみる場合には経済規模の低い国ほど大きくなる傾向があるため、経済規模を調整してみると、中国は対内直接投資のGDP比が高く、外資との合弁をうまく活用して技術導入を行い、TFPを高めてきたことがうかがえる(第2-1-6図)。

中国は、こうした対内投資のプラス効果を引き続き活かしていくことが重要である。しかし、現状では賃金の上昇に加え、制度も含めたビジネス環境としてのインフラが十分に追いついていない8別ウインドウで開きます。中国の対内投資(GDP比)は10年の4.1%をピークに12年は3.1%へと低下している。後述のように、非製造業の直接投資は堅調であり、消費地としての魅力は高まっている面もあるが、製造業の直接投資は減少傾向にあり、グローバルサプライチェーンとしての位置付けには陰りもみられる。今後は、関係国との安定的な対外経済関係を維持することも含め、投資環境の改善を進めていくことが課題である。また、サプライチェーンの中での位置付けをより高度な財や過程にシフトさせていくべく、直接投資の在り方も変わっていく必要があろう。

第2-1-6図 直接投資(GDP比)と経済規模の推移:中国は経済規模に比して高い率

なお、中国の高貯蓄率は、これまでの高成長には寄与してきたと評価できる。しかしながら、今後、成長屈折が見込まれる中で、投資の効率を上げていかないと、高齢化で希少となる貯蓄が無駄に使われることになる。この点を各国の国民貯蓄率の推移で確認すると、安定成長国では概して貯蓄率が高く、成長減速国及びアメリカは貯蓄率が低いことが分かる。中国は各国の中でも特に貯蓄率が高く、2000年代以降は上昇基調にあり、総国民所得比50%前後と高い水準で推移している。また、日本は生産年齢人口比が減少に転じた90年代から貯蓄率が大きく低下するなど、高齢化に伴い貯蓄率は低下する傾向にある(第2-1-7図)。中国も15年以降は生産年齢人口比が低下する見込みであることから、今後は貯蓄率が徐々に低下する可能性があり、それが投資の伸びを一定程度抑制する可能性がある。

第2-1-7図 国民貯蓄率と高齢化率の相関:高齢化により貯蓄率の低下も

以上のように、各国とも成長率の屈折を経験しているが、安定成長国はその中で投資比率の低下も比較的小さく、同時にTFPが上昇傾向にあり、技術進歩の役割が高まる成長への転換が行われている。中国は、投資比率の高さには過剰投資の可能性もあるため、過剰設備の整理等の対応は必要であるが、それにとどまらず経済の技術進歩を高めていくことも同時に課題である。

(2)産業・輸出構造の高度化

上記でみたような投資の効率化や投資の質の向上が成功するということは、それによる成果として、付加価値のより高いものが市場で評価され消費されることで、成長の高まりとなる。その意味で、産業・輸出構造の高度化・多様化は、投資の効率化、質の向上と表裏一体ともいえよう。

まず、輸出の役割をみるに当たり、各国でどのように推移したかを比較してみよう。これは、輸出等が拡大することで、成長の押上げ寄与にとどまらず、技術移転が進み、それが国内投資を喚起することで、輸出構造の高度化が促進されることが期待されるためである9別ウインドウで開きます。中国は堅調な直接投資に加え、01年のWTO加盟をきっかけに貿易取引が急速に拡大した。

各国の輸出比率の推移をみると10別ウインドウで開きます、安定成長国は対外開放度が比較的高いといえる(第2-1-8図)。ただし、総じてみれば経済規模が大きい国(アメリカ、日本)では輸出比率は小さく、規模が小さい国(香港、シンガポール)では大きくなっている。その中で、中国は01年のWTO加盟の影響等もあり2000年代に急伸しているが、経済規模が近い日本と比較してもその比率は高くなっている。このように、中国の2000年代の成長には輸出も寄与していたことがうかがえる。ただし、09年以降は中国の輸出比率は横ばいで推移している。

第2-1-8図 輸出率と経済規模の比較:中国は経済規模に比して高い率

こうした中で、実際の輸出品目の構造において、多様化や高度化がみられ、それが進展することは、持続的な成長をけん引する役割を持つと考えられる。アジア開発銀行の分析を踏まえ、各国の輸出構造の状況を確認してみよう11別ウインドウで開きます

多様化について、世界の貿易財の品目のうち各国で比較優位にある品目の数がどれだけ多いか、高度化については、各国で同じ品目のうち技術・資本集約的な高度な財がどれだけ多いかを比較している。

多様化については、安定成長国は比較優位にある品目の数が比較的多く有する傾向にある。一方、成長減速国は比較優位を有する財が少ない国が多い。

また、高度化については、安定成長国は経済成長に伴い高度な貿易財について比較優位を有する傾向にある。一方、成長減速国は比較優位を有する財のうち高度な貿易財の割合は高くない。

中国の位置をみると、輸出財の多様性はかなり高くなっている(第2-1-9図)。また、高度化については水準としてはまだ低いが、所得水準との相対関係でみれば高く、特に成長減速国と比較すれば、相対的に高くなっている(第2-1-10図)。中国は、労働集約型の産業に強みを持っているものの、経済発展度合いを考慮すると高度化の度合いが高いものについても比較的優位性を持っており、安定成長国に近いといえる。これは、前述の対内直接投資の効果もあると考えられる。したがって、中国はこの路線を維持し、こうした多様化をできるだけ保持しつつ、高度化を進めていくことは重要と考えられる。

国際的なサプライチェーンの中で、中国はこれまで部品等の中間財の提供を受けて組立を行うという位置付けにあったが、組立については、次世代の新興国にシフトしつつある。そのため、中国は中程度の水準の部品等の中間財の供給にシフトしていくというのが一つのシナリオといえる。

第2-1-9図 貿易多様性と一人当たりGDPの比較:中国は多様性が高い
第2-1-10図 高度輸出財の割合と一人当たりGDPの比較:中国は高度化が課題

それでは、こうした輸出製品の多様化・高度化を支えている製造業の役割について、発展段階の観点からみてみよう。製造業は、全国的あるいは世界的な市場を対象とすることができ、高度化・多様化等を通じて差別化に成功すれば規模の経済が働きやすく、また実践的な学習を通じた技術進歩も生じやすい分野として性格付けられる。

80年以降の一人当たりGDPと第二次産業就業者比率の推移をみると12別ウインドウで開きます、安定成長国は成長減速国に比べてその比率が高い傾向にある。現時点にかけては中南米諸国や一人当たりGDPの高い国・地域(アメリカ、日本、シンガポール、香港、韓国)はおおむね低下傾向にある一方、アジアの新興国では上昇傾向にあるが、総じてみると、一人当たりGDPが1万ドルを超えてからは第二次産業就業者のシェアが低下する傾向にあり、安定成長を続けた国でも成長力の屈折の時期と重なっている13別ウインドウで開きます(第2-1-11図)。

中国は、製造業の拡大による成長段階の途上にあり、第二次産業のシェアの拡大が高い成長を支えていることが分かる。特に、各国の中でも安定成長国の経路をうかがう位置にあることも注目できる。当面はこうした安定成長国の経路の近傍をたどり、ある程度の所得水準までは、製造業中心の経済構造となるとしても合理的だと考えられる。

第2-1-11図 第二次産業就業者比率と一人当たりGDP:1万ドル付近でピークに

一方、第三次産業が本格的に成長するためには、国内消費市場の拡大が必要であるが、後述のようにサービス市場の発達には所得水準の閾値があると考えられる。成長減速国はその段階に達する前に第二次産業が頭打ちになってしまったという意味で、「早すぎる脱工業化」(premature deindustrialization)を経験した可能性がある。

したがって、中国が今後も安定成長を遂げるためには、ある程度の所得水準になるまでは第二次産業の生産性を十分に高め、そののちにサービス業への移行を進めていくことがむしろ合理的であると考えられる14別ウインドウで開きます

また、中南米諸国のような資源国では、60年代から70年代の資源ブームで急成長を達成した反面、国内所得の長期的な上昇を反映した為替レートの上昇により、ある意味でオランダ病に近い形で、脱工業化した可能性があるが、中国にはその可能性はないものと思われる。ただし、サプライチェーンに占める位置が次世代新興国にとって代わられるという新しい形での脱工業化のリスクを抱えている。特に、現代のサプライチェーンにおける加工組立てにおいては、モジュール化といわれるように、工程を細分化・ユニット化することにより、(技術的なすり合わせも少なく)、短期で構築が可能であるが、これは短期で撤収も可能である。そのために、サプライチェーンの変化は速いテンポで進む可能性もある。加えて、関係国との安定的な対外経済関係が維持されないような場合には、サプライチェーンの変化が更に加速する可能性もある。

なお、実質ドルレートの推移をみると、安定成長を続けた諸国は総じて成長期から成長屈折期にかけて徐々に増価する傾向がある。安定成長を続けた国は、為替レートが増価してもそれによって経済が停滞することなく、競争力を維持しつつ成長を続けた姿がうかがえる15別ウインドウで開きます。一方、中南米諸国、タイ等は通貨危機の影響等により屈折期に総じて自国通貨が減価している(第2-1-12図)。これが輸出拡大に一定程度は寄与したものの、成長は総じて低迷した。中国は為替レートが緩やかに増価しており、今後もこの傾向が続くと見込まれることから、貿易構造等で競争力を維持しつつ成長を続けられるかが鍵になるといえよう。

第2-1-12図 実質ドルレートの推移:安定成長国は成長屈折期に上昇する傾向

以上から、産業・輸出の状況及びその構造からみると中国は対外開放が成長の源泉となっているアジア諸国・地域のパターンに近い。中国は、今のところ輸出が第二次産業の拡大に結び付き、それが成長を押し上げる要因ともなっているが、為替レートの上昇等の影響もあり、労働集約型産業の優位性が低下している。今後は、産業高度化・多様化を通じた競争力の維持が鍵となるといえよう。

(3)中堅・高度人材の育成とマッチング

産業・輸出構造の高度化には、イノベーションを担う高度な人材が必要である。しかし、単に技術開発能力のある高学歴の人が増えればよいというわけではなく、実際、中国では大卒の人材が就職難になるといった状況もみられている。むしろ、製造業の活動の実態は、多様な労働者を必要とする重層的なものである。こうした観点を踏まえると、今後の産業の高度化を進めるために重要なのは、経済全体の中で、適切にマッチングが行われ、労働者を適材適所に配置することである。これにより、生産効率を高めていくことが重要である。また、製造業の競争力の向上に継続的に取り組む上で、中堅人材の育成も重要な課題であるといえる。職場やその他の各所において、労働者の技能を高めていくことも重要であろう。

そこで、経済全体の大きなマッチングという観点から、第二次産業への労働供給となり得る、第一次産業の就業者比率の動向を確認してみよう。中国では、農村出身の労働者が「農民工」として都市部に移動し、労働力を提供する動きが広がった。80年以降の一人当たりGDPと第一次産業就業者比率の推移をみてみると、中国は、一人当たりGDPに比して農業従事者のシェアが高い傾向にあり、余剰労働力の移動が成長の源泉となったことがうかがえる(第2-1-13図)。一方、同じ所得レベルの各国と比較すると、中国の第一次産業就業者比率は農業国であるタイを除けば約10%程度高いレベルで推移しており、戸籍制度16別ウインドウで開きますにより農村からの人口移動を制限していることによる影響もうかがえる。

第2-1-13図 第一次産業就業者比率と一人当たりGDP:中国は高水準で推移

余剰労働力がどの程度利用可能かについて、労働市場の需給状況を中国の都市部における実質賃金でみてみよう。90年代までは経済成長率を下回って推移していたが、2000年代初頭は賃金の伸びが上回る傾向にあり、その後はほぼ実質GDPと同様の伸びで推移している。これをみると、労働需給が過剰から不足の方向へシフトしたと考えられる。このように、表面的には「安価な労働力」の余地が限られてきた様子がうかがえる(第2-1-14図)。農村部の余剰労働力を更に活用するためには、戸籍改革等の労働力の流動性を高める施策が課題となるといえよう。

第2-1-14図 中国の実質平均賃金:2000年代に入ると賃金の伸びが経済成長率を上回る

次に、製造現場での産業の高度化の担い手となる中堅人材の育成については、職業訓練等の教育と、現場での習得という二つのチャネルがあろう。

まず、職業訓練の利用率の低さについては、課題として指摘されることもある。例えば、職業訓練受講者が教育受講者全体に占める割合と一人当たりGDPの比較でみてみると、 安定成長国では職業訓練受講者の割合が比較的高い。一方、成長減速国ではその割合が高い国(タイ、チリ)とその他の水準が低い国に二極化している。そのうち、中国は職業訓練受講者の割合が経済の発展度合いをみても低い水準であることが分かる(第2-1-15図)。

しかし、職業訓練は、ある意味でサービス産業の一端でもあり、その受講が普及するのも経済が成熟してからであるとも思われる。職業訓練の利用が低くても、現場での習得がこれを補完できれば、中堅人材を育成することができると考えられる。日本の高度成長においても、企業の職場内研修ともいえるOJT(On-the-Job Training)がその一端を担ったことが指摘されている17別ウインドウで開きます。この意味で重要と思われるのは、特に中国のような所得水準にある国の場合、中等教育の充実である。企業のOJTといえども、一定の基礎能力が必要と考えられるからである。この点、中国では都市農村間や地域間での教育格差があり、また公立の高校教育の学費が無料化されていないなどの課題がある18別ウインドウで開きます

この背景には、教育の実施は地方政府の責任となっており、都市化の進展等に伴って支出が増加する傾向にあるにもかかわらず、中央政府から十分な予算が確保されていない点も課題として指摘されている。

第2-1-15図  職業訓練受講者比率と一人当たりGDP:中国は低い比率

高度人材についても、それが活かされる環境が整備されていない場合は、その能力が十分に活用されないおそれもある。例えば、技術革新について、各国の人口当たり特許申請数と一人当たりGDPの推移で確認すると、安定成長国は高付加価値化に向けた無形資産の累積が進んでいる一方、成長減速国では伸び悩む傾向にある。 中国は、近年は特許申請数が上昇しているものの、安定成長を遂げた各国と比較すると必ずしも高い水準とはいえない(第2-1-16図)。そのため、中国が安定成長を遂げるためには、 無形資産の累積を促進するような諸制度の整備と人的資本の向上が必要といえるだろう。

なお、上記のように特許件数を一人当たり水準でみると中国は低いが、(一人当たりでなく)総件数をみると中国は多くなっている。研究開発制度という意味では効率が問われる一方、実際の件数は多いため、経済全体にとっては、それだけプラスの効果は期待できるといえよう。

第2-1-16図 主要国の人口当たり特許申請数と一人当たりGDP:中国は低水準

最後に、高学歴化の位置付けとして、各国の高学歴率と一人当たりGDPの推移をみると、総じていえば成長減速国は所得格差を背景に高学歴比率が低く、安定成長国は所得水準の高さを背景に中から高水準となっている。しかし、成長減速国でも高水準の国もある一方、安定成長国でもそれより低い国もある19別ウインドウで開きます。少なくとも中所得国の罠との関係では、高学歴比率は本質的な問題ではないようにみえる。

なお、中国は2000年頃よりやや上昇しているものの、低水準にあり、11年には20%程度となっている(第2-1-17図)。

第2-1-17図 高学歴率と一人当たりGDP:中国は低水準

(4)都市化の進展と厚みのある中間層の構築

先述のように、産業の高度化の成果は、消費の拡大を通じて実現する。その際、中間層の充実は厚みのある市場を提供することとなり、それが更なる産業の高度化を促していくという意味で、成長の好循環を実現する上で有利な条件となる。中南米では高度成長の過程で貧富の格差が高まったことにより消費が伸びず、中所得国の罠に陥った面があることも指摘されている。

したがって、成長の好循環の実現の中で、その中間層の充実が位置付けられることが重要である。それは、高度化を進められる製造業において、労働者がそれを担い、その所得が増加する。所得が増加していけば、新製品や高度な製品への需要が増加する。そして、そうした消費需要に応えるかたちで、商品の高度化・多様化が更に進んでいくという循環である。先述のように、このプロセスでは、輸出や対内直接投資の生産プロセスで誘発された技術進歩の成果の派生効果も期待できるだろう。

こうした中での非製造業はどのように位置付けられるだろうか。まずは製造業を核とした好循環を目指す観点からは、製造業の生産性を高めるような広い意味でのインフラとしての位置付けが重要となる。具体的には、事業所サービスとしての運輸通信、金融保険、建築・設計等のビジネスサービスが考えられる。先進国の経験からみれば、これらの生産性上昇率は製造業のそれに対して低めになりがちである。製造業を支える上で、他国と比べて相対的に高コストになれば、それが国際競争力を弱めることにもなりかねない。その意味でも重要性が低いわけではない。

さらに、それを超えていけば、サービスに対する消費が本格的に拡大する形での好循環も視野に入ってくる。例えば、各国のサービス消費の推移をみると、娯楽やホテル・ケータリング等の支出は、一人当たり所得1万ドル程度を超えるあたりまではほとんど消費されないが、それを超えると所得増に応じて消費も増加している(第2-1-18図)。すなわち、生活必需の品目がどうにか賄えるようになるような一定程度の所得水準を超えると、それまでには対価を支払って求めることはなかった費目についても、消費者は価値を認め、購入し、市場として成立するように転換するのである。

第2-1-18図 一人当たり消費額:一定程度の所得水準を超えると増加

こうしたサービス費目に対する需要は、生活必需品に比べると均一というよりも多様であり、そのためには一定以上の所得をもつ多様な消費者が集積していることが望ましい。都市化の進展によって中間層の厚みを増すことは、多様性という観点からも、こうした成長プロセスには有利となる。中国では、後述するように、既に都市化は進展が始まっており、90年をピークに農村人口が減少に転じ、15年には都市人口が農村人口を上回る見込みである。またその時点では人口500万人以上の都市に在住する住民の割合が2割を超えているなど、人口の集約が見込まれている。

なお、中間層の形成という点については、中国は地域別の経済格差が大きいことが知られている。ただし、ここ10年程度でみると、地域間の格差は収れんする傾向もみられている。例えば、地域別の10年前の消費水準とその後の上昇率の関係をみると、内陸の地域を中心とした消費水準の低い地域での方がこの10年間の上昇率が総じて高い傾向がみられている(第2-1-19図)。

現在、上海や天津等の沿海部の大都市の方が内陸部に比べて所得水準が高い。こうした高所得の地域での、特にサービス業の拡大を含めての消費主導の成長を所得水準の高い沿海部でねらい、それを全国的に波及させていくことは現実的だろうか。先述のように、早過ぎる脱工業化のおそれもある。また、中国でしばしば問われている格差問題も考慮すれば、上記で展望した製造業を核とした発展の姿が基本となるだろう。

第2-1-19図 中国の地域別の消費水準とその変化:消費水準は収れんする傾向

なお、これまでみた論点に加え、中国では生産年齢人口が減少に転じる見込みであり、中国における論調でも、それが成長屈折の要因になるとの指摘がなされることが多い。そこで、労働力人口そのものの変化により、人口ボーナス期は高成長(人口オーナス期は低成長)となる傾向にあるかを検証する。

生産年齢人口の増加率の推移をみてみると、安定成長国と成長減速国で大きな違いはみられない20別ウインドウで開きます。60年代と80年代に伸び幅が拡大した香港と2000年代にプラスからマイナスへと転じた日本を除き、1~3%の間で推移しており、中所得国の罠に陥った国とそうでない国に大きな違いはみられない(第2-1-20図)。今後の見通しとしては、2085年にはどの国も▲1~0%の範囲に収束すると予想されている。中国は1985年から低下傾向にあり、高度成長率である90年代後半から2000年代初頭にかけてはむしろ生産年齢人口成長率が低下しており、必ずしも生産年齢人口成長率の低下が成長率の低下に結び付かない可能性が示唆される。なお、15年以降は中国の生産年齢人口の伸びはマイナスになると見込まれている。

第2-1-20図 生産年齢人口成長率の推移:おおむね低下傾向

(5)安定成長に向けた課題

以上でみたように、投資主導型の成長からの転換は、単に投資比率を減らすだけではない。比較的単純な製造業から高度化した製造業へ、更にサービス業へといった消費需要の発展と、それに対応した産業の高度化を進める製造業と投資活動、その労働者の所得水準の上昇と更なる消費の高度化という好循環を通して、投資率の緩やかな低下と消費率の緩やかな上昇が展望される。

また、それは中所得国の罠の水準等、何らかの水準に到達した段階で全面的に起こるものではない。むしろ、好循環を続けながら、経済横断的な規模で徐々に進むものである。したがって、ある水準に達した段階で構造改革を進めれば実現するというよりも、そうした方向に向けて早急に経済構造を変えていく戦略が重要なのである。

こうした観点から、改めて前項を振り返ってみよう。高度経済成長から安定成長への移行するための条件として、(1)輸出・産業の対外開放度を活用した上で、多様化・高度化に成功すること、(2)技術進歩を担う中堅・高度人材の育成や人材の適正配置が行われること、その際に製造業の役割を活用すること、(3)都市化の進展に合わせ中間層の充実を図り、成長の好循環に位置付けること、等が課題であった。また、輸出・直接投資の役割を今後も活用していくためには、各国との経済関係に不確実性が高まる事態は避ける必要があろう。

中国の中長期的な成長の課題を取り上げた国際機関等の研究でも同様に、中国の経済成長を支えた労働及び資本の伸びが今後限定的となることが見込まれている以上、中国の生産性の伸びが今後の鍵となることが指摘されている。特に、金融市場改革等を通じた資本の資源配分の効率化、戸籍制度改革による労働資源の活用、人的資本や生産性の向上を促す知的財産の保護及びそれを支える社会制度の整備等が重要となることが分かる(第2-1-21表)。このようにみると、こうした課題に対応する上で、経済の生産資源に横断的に関わる生産性を高めるためには、生産資源(生産要素)市場の自由化に向けた取組も重要であるといえよう。

前述のように、中所得国の罠への対応という問題意識からは、それに向けて早急に構造改革を進めていく必要があるという点からは、本格的に改革を進めるのに残された時間は、さほど長くはないと考えられる。多くの分野で狭い道を歩むような努力が求められることが想定されるが、中国の政策当局は、資源配分には市場が決定的な役割を担うという考えを示しており、方向性としては、本項や国際機関の見方とも同じように思われる。

第2-1-21表 中所得国の罠に陥らないための今後の課題 21別ウインドウで開きます 22別ウインドウで開きます 23別ウインドウで開きます 24別ウインドウで開きます 25別ウインドウで開きます 26別ウインドウで開きます
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