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第1節 世界経済の概観

1.世界経済の動向:減速の動きが広がる中で続く弱い回復

世界経済は、2008年の世界金融危機後から回復を続けてきたものの、12年に入ってからは政府債務危機を背景とするヨーロッパ経済の弱さが一層鮮明になり、その影響が中国等の新興国を中心に波及する中で、景気減速の動きに広がりがみられるようになった。本節では、12年に入ってからの世界経済の動向とその背景について概観する。

(1)減速の動きの広がり

各国・地域の景況感指数1別ウィンドウで開きますをみると、欧州政府債務危機による金融資本市場への影響を背景に、11年から低下し始め11年末にいったん底となった。その後、春先へ向けてやや持ち直した時期もあるが、再び低下に転じることとなった。特にユーロ圏では、基準の50を大きく下回り続けており、大幅に悪化していることが分かる(第1-1-1図)。

第1-1-1図 主要国の景況感指数:低下傾向
第1-1-1図 主要国の景況感指数:低下傾向

主要国の実質経済成長率をみると、景況感に続く形で低下し始めた(第1-1-2図)。アメリカでは12年に入り前半は成長率が低下し緩やかな回復となっており、潜在成長率2別ウィンドウで開きますを下回る成長が続いている。政府債務危機下にあるヨーロッパでは南欧諸国等の景気低迷が主要国に伝染し、ユーロ圏では成長率は11年10~12月期にマイナスとなって以降、弱含んで推移している。また新興国をみても、中国では12年7~9月期に前年比7.4%、ロシアは同2.9%、韓国は同1.6%となるなど、世界金融危機から急回復を遂げた10年頃をピークに成長率3別ウィンドウで開きますは低下傾向にある。

第1-1-2図 主要国の実質経済成長率:低下傾向
第1-1-2図 主要国の実質経済成長率:低下傾向

実質経済成長率の低下の要因として、まず外需をみてみると、ユーロ圏の経済の鈍化を受けて、ヨーロッパ地域向けを中心として各国の輸出が11年以降大きく減速している(第1-1-3図)。特に、輸出が景気の主なけん引役となっている新興国等ではその影響が大きく、中国では12年7~9月期には前年比4.5%増と一桁台の伸びに落ち込み、韓国は同▲5.6%とマイナスとなった。また、資源国であるロシアやブラジルでも前年比マイナスに落ち込んでいる。先進国においてもやはり鈍化が続いており、アメリカでは7~9月期前期比▲0.2%となり、ユーロ圏も同1.5%増と低い伸びにとどまっているなど、世界貿易は全体的に減速している。

第1-1-3図 主要国の輸出動向:全体的に減速
第1-1-3図 主要国の輸出動向:全体的に減速

次に内需の動向をみると、ユーロ圏では11年以降は消費、投資ともに横ばいからやや減少に向かう動きが続いており、アメリカでも消費や投資は緩やかな増加にとどまっている(第1-1-4図)。また、新興国をみると、中国では消費は比較的底堅い動きをしているものの伸びは12年に入りやや低下しており、投資は後述するように伸び率は高いながらも緩やかなものとなっている(第1-3-5図)。外需の影響を受けやすい韓国では、消費は底堅い伸びを保っているものの、投資は12年に入り減少に転じている。また、原油価格の上昇に支えられつつも世界経済の減速を受け、ロシアでは消費は堅調に推移しているものの、投資は伸びが鈍化しており、ブラジルでも11年半ばから消費の鈍化に加え、投資の減少が特に顕著になっている。

第1-1-4図 主要国の内需の動向:新興国等では消費は比較的底堅い、投資は総じて弱い動きも
第1-1-4図 主要国の内需の動向:新興国等では消費は比較的底堅い、投資は総じて弱い動きも

このように内外需に現れた減速の動きを背景として、各国の生産活動においても伸びの低下がみられる(第1-1-5図)。ユーロ圏では11年末から伸びがマイナスに転じており、アメリカや中国等でも12年に入ると伸びの低下がみられはじめ、12年7~9月期には、アメリカでは前期比▲0.0%とマイナスに転じ、中国では前年比9.1%増と一桁台の伸びが続いている。

第1-1-5図 主要国の生産:弱い動き
第1-1-5図 主要国の生産:弱い動き

一方、雇用情勢については、世界金融危機後にアメリカ、ユーロ圏で失業率が顕著に上昇したが、11年以降は、景気が弱含んでいるユーロ圏では更に上昇する一方、緩やかな回復過程にあるアメリカでは徐々に低下するなど、先進国間で差異がみられる(第1-1-6図)。また、資源需要の低迷からブラジルやロシアではこれまでの低下傾向が足踏み状態にある。一方で、景気に鈍化がみられるものの内需を中心に比較的高い成長が続く中国では低い水準が続いており、新興国間でも状況が異なっている。

第1-1-6図 主要国の失業率:各国・地域間で異なる動き
第1-1-6図 主要国の失業率:各国・地域間で異なる動き

消費者物価上昇率は、各国・地域とも、11年前半は原油価格の上昇を背景に高まっていたが、景気の減速に伴い、11年後半以降横ばいまたは低下傾向にある。その後も12年7~9月期頃には一次産品価格が再び上昇する局面があったものの、比較的落ち着いた動きとなっている(第1-1-7図)。

第1-1-7図 主要国の消費者物価上昇率:おおむね低下傾向
第1-1-7図 主要国の消費者物価上昇率:おおむね低下傾向

以上、先進国及び新興国の景気には減速の動きがほぼ共通してみられることが分かるが、こうした世界経済全体の減速の動きは、IMFの各時点の見通しの改定状況において、12年の世界経済の成長率見通しが時期を追うごとに下方修正されてきていることからも確認できる(第1-1-8図)4別ウィンドウで開きます

第1-1-8図 世界経済の12年実質経済成長率見通しの推移:徐々に低下
第1-1-8図 世界経済の12年実質経済成長率見通しの推移:徐々に低下

(2)世界的に広がる金融緩和と各種の政策対応

世界金融危機後の大規模な財政出動により、多くの先進国では財政状況が大幅に悪化した状況にある。そこでこれらの国・地域では財政再建に向けた取組を進めているが、これが更なる景気の下押し要因ともなっている(第1-1-9図)。

その一方で、11年以降、世界的に緩和的な金融政策が維持されていたが、12年に入るとアジア主要国や新興国も含めた多くの国・地域で、政策金利の引下げ等、一層の緩和策が採られた。また、財政余力のある中国等の新興国では内需を中心とした刺激策をとる動きもみられた(第1-1-10図、第1-1-11表)。

これらの政策対応を受けて、アメリカや中国等で一部の指標に明るい兆しもみられており、9月以降の欧州中央銀行(ECB)の政策対応(詳細後述)も世界の金融資本市場の安定化に寄与しているとみられる。現在のところ世界の景気は引き続き弱い回復にとどまっているが、今後はこうした政策の効果が次第に発現することが期待される。

第1-1-9図 主要先進国の一般政府財政収支(GDP比):先進国では財政緊縮の動き
第1-1-9図 主要先進国の一般政府財政収支(GDP比):先進国では財政緊縮の動き
第1-1-10図 主要国の政策金利:一層の金融緩和へ
第1-1-10図 主要国の政策金利:一層の金融緩和へ
第1-1-11表 各国・地域の主な政策対応:更なる景気刺激策の実施等
第1-1-11表 各国・地域の主な政策対応:更なる景気刺激策の実施等

2.金融資本市場の動向:欧州政府債務危機の再燃を背景に不安定な動き

(1)株式・債券・為替市場

金融資本市場においては、11年夏以降、欧州政府債務危機の再燃を背景に、投資家のリスク回避傾向が強まっていたが、12年に入ると危機の深刻化回避の期待が高まったことなどから5別ウィンドウで開きます、いったんは小康状態となるかにみえた。しかし、12年5~6月のギリシャにおける総選挙をめぐる動きやスペインにおける金融機関及び財政に対する先行き懸念の高まり等を背景に、ヨーロッパを中心として先行き不透明感が一段と増したため、12年半ば頃は再びリスク回避の動きが強まった6別ウィンドウで開きます(第1-1-12~14図)。

その後は各国が金融緩和姿勢を維持し続け、さらに前述の各種政策(前掲第1-1-11表)が打ち出されたことや、アメリカや中国等の一部の指標に明るい兆しがみられたことなどから、やや落ち着きを取り戻している。ただし、ヨーロッパ地域の一部の国々における財政の先行きに対する根強い不安は依然として続いている。

第1-1-12図 主要国の株価:リスク回避の動きが一段と増して下落した局面も
第1-1-12図 主要国の株価:リスク回避の動きが一段と増して下落した局面も
第1-1-13図 主要国の長期金利:安全資産への逃避の動きから利回りは大きく変動
第1-1-13図 主要国の長期金利:安全資産への逃避の動きから利回りは大きく変動
第1-1-14図 主要国の為替レート:ユーロは一時下落後、政策対応後は増価へ
第1-1-14図 主要国の為替レート:ユーロは一時下落後、政策対応後は増価へ

(2)国際商品市場

原油価格は、イラン情勢の緊迫化による地政学リスクの高まりや、欧州政府債務危機に対する懸念の後退等から11年10月以降上昇傾向にあったが、12年5月から6月にかけては、投資家のリスク回避行動が強まったことなどから下落した(第1-1-15図)。それ以降は中東情勢が引き続き不安定にあることに加え、欧米において景気の先行き懸念が幾分後退したことなどから上昇に転じたが、9月半ば以降再び下落に転じた。このように、実需動向に加え、投機的・地政学的要因の影響により価格の変動幅が大きくなっている。

農産品価格は、世界的な干ばつの影響から6月以降夏場にかけて上昇し、その後も高止まりする傾向にある。

第1-1-15図 国際商品価格の推移:投資家のリスク回避行動等も影響したとみられる
第1-1-15図 国際商品価格の推移:投資家のリスク回避行動等も影響したとみられる

3.世界経済の見通し(メインシナリオ)-各国・地域の政策対応を前提として、次第に回復テンポが持ち直し

前述したとおり、世界の景気は、引き続き弱い回復にとどまっている。各国・地域の先行きについては、アメリカでは鈍いながらも雇用の改善が期待されることから、個人消費は緩やかな伸びが続くとみられ、景気は緩やかな回復が続くと見込まれる。ヨーロッパではEU、ECBや各加盟国の政策努力による金融資本市場の不確実性の低下を前提としつつも、12年中は引き続き政府債務危機の影響から弱い動きとなるとみられる。中国では不確実性が高いものの更なる各種政策効果等の発現により、景気は緩やかな拡大傾向が続くと見込まれる。その他のアジアでは、全体としては輸出の不振により、当面は足踏み状態が続くと見込まれるが、在庫調整が進展している韓国や台湾の電気・電子製品、部品等の生産や輸出において持ち直しに向けた動きが続くことが期待される。

以上から、世界の景気の先行きについては、当面、弱い回復が続くとみられるが、各国・地域の適切な政策対応を前提とすれば、次第に回復テンポの持ち直しが期待される。こうしたことから、13年全体の実質経済成長率は、世界的な緊張の続いた12年に比べやや上昇し、2%台後半から3%の間(市場レートベース)になると見込まれる(第1-1-16図)。

第1-1-16図 IMFによる各国地域の実質経済成長率見通しと世界経済へのインパクト
第1-1-16図 IMFによる各国地域の実質経済成長率見通しと世界経済へのインパクト
第1-1-17表 国際機関による主要国・地域別経済見通し
第1-1-17表 国際機関による主要国・地域別経済見通し
第1-1-18表 民間機関による主要国・地域別経済見通し
第1-1-18表 民間機関による主要国・地域別経済見通し

4.経済見通しに係るリスク要因

見通しのリスクバランスは下方に偏っており、特に欧州政府債務危機の深刻化やアメリカの「財政の崖」の影響には十分な警戒が必要である。

(1)欧州政府債務危機の深刻化

ヨーロッパでは、欧州政府債務危機に対し、各国の財政再建に向けた取組やECBを中心としたユーロ圏レベルでの様々な政策対応が行われたため、金融資本市場は対策以降小康状態となり落ち着きをみせていた(前掲第1-1-11表)。しかし、問題は根本的解決には至っておらず、依然として一部の国々における財政の先行きに対する根強い不安が存在している。また、財政緊縮の景気への悪影響が引き続き懸念されるとともに、財政再建に対する市場の信認が損なわれ欧州政府債務危機が深刻化する可能性がある。こうした場合、ヨーロッパ経済全体に対する先行き不確実性が再び高まり、企業や消費者の先行き見通しの悪化等を通じて、景気に対する大きな下押しリスクとなる。また、財政赤字が拡大し長期金利上昇による消費や投資が抑制されるリスク、金融資本市場における金融システム不安が再燃するリスク、ヨーロッパ向け比率が高いアジア等の国・地域の輸出が更に鈍化するリスクも顕在化する可能性がある。

(2)アメリカにおける「財政の崖」等、財政緊縮の影響による景気減速

各国の財政再建に向けた動きと経済成長のかじ取りは難しい状況が続くとみられ、財政緊縮の影響は、景気には下押し圧力となっている。特にアメリカでは現行法のままでは13年1月より失効してしまう個人所得税の減税措置等、いわゆる「財政の崖」の問題について解決が図られなかった場合に大きな下押し要因となるリスクがある。加えて、中期的な財政健全化目標という課題も引き続き抱えており、「財政の崖」が回避されたとしても、ある程度の緊縮は不可避である。いずれにせよ、今後の財政緊縮の規模とタイミングが世界経済に与える影響については不確実性が高い。

(3)中国経済の減速の長期化

中国では政策効果により景気に安定化の兆しもみられ、こうした動きが更に底堅いものとなると期待されるものの、依然として政策効果の規模や持続性等の不確実性が存在している。今後、政策効果が大きく発現しない場合、景気拡大テンポが長期化、場合によっては更に鈍化し、貿易等を通じて世界景気の下押しリスクとなるおそれがある。

また、中国の固定資産投資については不動産投資抑制策が維持される見通しだが、本政策の継続により、不動産価格の急落が生ずる場合には、地方政府の財政悪化等が引き起こされ、ひいては投資等の実体経済が急激に冷え込む可能性もある。

(4)原油価格等の再上昇

12年夏以降、原油価格は上昇に転じて推移していたが、9月半ば以降再び下落に転じた。しかし、地政学リスクが一層深刻化すれば、原油価格が更に上昇するおそれがある。また、先進国では金融緩和が継続され、加えて新興国でも緩和的政策に転じており、過剰流動性が投資先を求めて原油市場その他の国際商品市場に流れ込む可能性も考えられる。原油価格等の再上昇が消費者物価の上昇をもたらせば、家計の購買力が失われ実質的な個人消費が下押しされるおそれがある。現時点での物価動向は落ち着いているものの、原油価格のほか、農産品価格といったその他の一次産品価格の今後の動向には引き続き留意が必要であろう。

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