第 I 部 海外経済の動向・政策分析 |
第1章 サブプライム住宅ローン問題の背景と影響
1.サブプライム住宅ローンの特徴
●「サブプライム」の定義
「サブプライム」という言葉には必ずしも決まった定義がある訳ではないが、通常は個人の信用力を示す債務の返済能力や信用履歴等に基づいて、信用力が高いと判断される層を「プライム」、低いと判断される層を「サブプライム」と区分している。アメリカ金融当局の定義では、第1-1-1表に示した項目のいずれか一つ以上に該当する場合、原則サブプライムとして取り扱っている(第1-1-1表)。
●サブプライム住宅ローン市場の進展
アメリカでは、1980年代初めに、貸出金利の上限規制の撤廃や変動金利の解禁といった金融セクターの規制緩和等が進む中、サブプライム層を対象とした住宅ローン(以下、「サブプライム住宅ローン」という。)が登場した(3)。しかし、サブプライム住宅ローンが本格的に広がり始めたのは90年代後半に入ってからで、特に04年以降にその貸出しが大幅に増加した。住宅ローンの新規貸出に占めるサブプライム住宅ローンの割合をみると、03年は8%であったが、04年以降割合が急速に高まり、05年には20%台に達した(第1-1-2図)。また、サブプライム住宅ローンは、後述するように証券化の進展とあいまって普及しており、貸し出されたローンのうち証券化されたものの割合も01年の50%台から06年には80%台まで上昇した。
●サブプライム住宅ローンの主な特徴
アメリカの住宅ローン市場は、政府機関である連邦住宅局(Federal Housing Association:FHA)の融資保険が付与されたローン、ファニー・メイ(4)やフレディ・マック(5)といった政府支援機関(Government-Sponsored Enterprises:GSEs)の買取り基準を満たしたローン及びそれ以外のローンと大きく三つに分けられる(第1-1-3図)。サブプライム住宅ローンは、FHA保険が付与されておらず、またGSEsの買取り基準も満たしていないローンの一類型に当たり(6)、その元利返済リスクは、通常、民間の金融機関や投資家等が負っている。
サブプライム住宅ローンの貸付機関は、近年の貸出金額のシェアでみると、独立のモーゲージ・カンパニーが5割程度を占めており、次いで預金取扱金融機関が2〜3割、預金取扱金融機関の子会社、系列会社がそれぞれ1割強を占めている(第1-1-4表)。モーゲージ・カンパニーとは住宅金融を専門にした事業者のことで、アメリカ国内に1,300社(7)ほど存在しており、通常は預金機能を持たないため、セカンダリー市場(8)等への売却を前提に住宅ローンの貸付けを行っているノンバンクである。住宅ローン全体の貸出しでは預金取扱金融機関が4割強と最も大きなシェアを占めており、モーゲージ・カンパニーは3割程度に止まっている。また、サブプライム住宅ローンの販売は、大半はブローカーが借入希望者と貸付機関を仲介する形で行われている。
次に、金利の特徴をみてみると、住宅ローン全体では約70%が固定金利であるのに対し、サブプライム住宅ローンに限ると変動金利と固定金利を組み合わせたハイブリッド変動金利が大半を占めている(9)。中には、返済期間が30年のローンで、最初の2年間は固定金利が適用され、残りの28年間は変動金利へと移行する「2/28ハイブリッド・ローン」と呼ばれるものもみられている(10)。このローンの場合、最初の2年間の固定金利を通常の金利よりも低く抑える代わりに、2年後の金利変更(リセット)の際にプレミアムを市場金利に上乗せして変動金利に移行するため、借手はローン返済額が大幅に上昇するショック(ペイメント・ショック)を受けることとなる。想定されるローン返済額を固定金利ローンと2/28ハイブリッド・ローンについて比較すると第1-1-5表のようになる。こうした金利構造を持つローンが普及したのは、借入れ当初の返済負担を低く抑えられるというメリットに加え、信用力が低い借手でも2年間返済を続けることでクレジット・スコアの改善が期待でき、さらには2年後の金利変更の際に住宅価格が上昇していれば、その上昇分を担保としてプライムローン等より有利な条件のローンへの借換えが可能と判断されたためである(11)。ただし、このローンの多くはプリペイメント・ペナルティ(12)が課せられており、借手は借換えに際して一定の違約金を支払う必要がある。