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第 I 部 第1章のポイント

1. サブプライム住宅ローン問題の背景

●アメリカでは、2004年以降、サブプライム住宅ローンの貸出しが大幅に増加した。大半は、預金機能を持たないモーゲージカンパニーによる貸出しで、貸出しから2〜3年後に変動金利へ移行するハイブリッド型の金利構造が主流となっている。
●サブプライム住宅ローンの普及の背景には、(1)住宅ブームにおいて住宅価格の上昇期待が高まり信用力の低い者や投資目的の住宅取得が促されたこと、(2)証券化によってリスクの効率的な分散や貸付機関における資産債務の期間ミスマッチの解消等が図られたこと、(3)低金利や十分な流動性の存在といった良好な国際金融環境の下でアメリカの証券化市場等への資本流入が進んだこと、などが挙げられる。
●サブプライム住宅ローンの普及において、家計の住宅取得能力が低下している状況下で住宅価格のさらなる上昇を見込んで住宅取得を加速させるというリスクをもたらし、また、証券化に潜むインセンティブ問題や緩和気味な国際金融環境は貸付機関の融資基準や投資家のリスク評価を緩ませたと考えられる。

2. サブプライム住宅ローン問題の発生とその影響

●06年後半以降、サブプライム住宅ローンの延滞率は急速に高まった。特に、05〜06年に貸付機関の融資基準が弛緩し、高リスクな貸出しが増加したことも寄与した。07〜09年にかけて金利のリセット時期を迎えるものが多く、今後延滞率がさらに上昇する可能性は高い。
●サブプライム住宅ローンを担保に証券化されたRMBSやCDOの格付けも大幅に引き下げられ、スプレッドも急拡大している。証券化によるリスクの拡散やコンデュィット・SIVを活用したオフバランス取引の進展によって損失の所在・規模が不透明となったため、金融資本市場で流動性不足や信用収縮が発生し、その動揺は国境を越えて波及した。
●この問題は実体経済に対しても影響を与えている。住宅の差押えの増加や金融機関の融資態度の厳格化等により住宅部門の調整を長期化・深刻化させる可能性がある。また、住宅価格の下落は逆資産効果を通して個人消費を減少させるおそれがあるが、特にアメリカではMEWが普及しているため、住宅価格の下落は信用制約の引締め効果をもたらし逆資産効果を強めることが懸念される。

3. 主要国の住宅ブームの動向とリスク

●アメリカ以外の国でも、2000年代に住宅価格の上昇が加速した国が多くみられる。スペイン、アイルランド、英国、オランダ、オーストラリア等では、アメリカ以上に過去のトレンドからの乖離が大きく今後の調整リスクに留意が必要である。
●主要国の住宅ブームの背景には低金利や人口増等があるが、規制緩和や技術革新の下での住宅ローン市場の変化も挙げられる。ハイブリッド型変動金利やLTVの高い住宅ローン等によって幅広い層の家計による住宅ローン借入れが可能となる一方、家計は金利変動の影響を受けやすくなったり、返済可能額以上の借入れを行う可能性も生み出した。
●主要国では住宅部門の調整により住宅投資の減少や逆資産効果等を通した個人消費の減少の可能性がある。特に、アメリカと同様、MEWが広く行われている国や住宅ローン債務比率が高まっている国などは留意が必要である。ただ、サブプライム住宅ローン類似の市場が存在する英国、オーストラリア、カナダにおいては、アメリカと比べて、住宅調整や経済全般に与える影響は限定的と考えられる。


第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第1章 サブプライム住宅ローン問題の背景と影響

 アメリカでは、2000年代にかつてない住宅ブームが到来し、住宅投資の高い伸びに加え、良好な雇用・所得環境と住宅価格の上昇等に支えられた消費拡大によって堅調な経済成長を続けてきた。しかし、06年に入ると、住宅投資は減少に転じるとともに、住宅価格の上昇も鈍化し始めた。こうした住宅部門の調整をさらに長期化・深刻化させる要因として現れたのが、サブプライム住宅ローン問題である。
 サブプライム住宅ローンとは信用力の比較的低い者に対する住宅ローン(1)のことであるが、その規模は住宅ローン残高の1割強(2)に過ぎない。しかし、06年後半以降に加速したサブプライム住宅ローンの延滞率、差押率の急上昇は、住宅部門の調整を遅らせる要因となるだけでなく、証券化という新たな金融技術を通して国境を越えた金融資本市場の変動にまで発展した。
 本章では、サブプライム住宅ローンが普及した背景を住宅ブームや証券化の進展、国際金融環境の観点から整理するとともに、サブプライム住宅ローン問題が金融資本市場や実体経済に与える影響について考察する。また、アメリカ以外の主要国でも進展している住宅ブームの動向とそのリスクについても検討する。


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