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第II部 世界経済の展望――緩やかな景気回復

第2章 緩やかな回復にとどまる世界経済

第2節 景気回復の遅れがもたらす財政金融政策の課題

 第1節で確認した欧米主要国の緩やかな景気回復は、各国の財政金融政策にも多くの課題を与えている。

1.悪化した米・欧の財政収支 

 アメリカやユーロ圏主要国では、景気回復の遅れから税収の低迷が続いており、財政収支が悪化している。アメリカでは、経常収支赤字の拡大と相俟って、80年代にみられた「双子の赤字」を懸念する見方もある。ユーロ圏では、いくつかの国で「安定と成長の協定」で義務付けられている財政赤字の上限が守られない可能性が生じ始めたことから、「協定」を巡る議論に発展している。

●アメリカの財政収支悪化
 2002年度に入り財政収支は大幅に悪化している。2002年度の財政収支は1,585億ドル(対GDP比1.5%)の赤字となった。これは、前年度比でみると2,858億ドル(対GDP比2.8%)の財政拡大であり、景気の下支えの役割を果たしているとみられるが、財政赤字の拡大が高金利につながった場合には、景気の下押し圧力となるため、赤字幅の拡大が懸念されている。
 行政管理予算局(OMB)によると、2002年度の財政収支は、予算策定時(2001年2月)に比べて4,415億ドルの悪化となっており、そのうちの6割が景気悪化要因、2割が減税、2割が歳出増によるとみられる(第II-2-18図)。
 減税や裁量的支出の増加には景気浮揚効果があると考えられるものの、景気の回復が一層緩やかになる中、さらなる減税策の提案が行われているほか、軍事的緊張も高まるなど、財政収支はさらに悪化する可能性もある。こうした情勢を受けて、OMBや議会予算局(CBO)の財政収支見通しは下方に修正されている。
 80年代には、拡張的財政政策と緊縮的金融政策の組み合わせが、高金利・ドル高と経常収支赤字の拡大をもたらし、大幅な財政収支赤字とともに「双子の赤字」を生み出した。90年代には、アメリカ経済の長期拡大を背景に経常収支赤字は拡大したが、財政収支赤字が徐々に減少したことが金利上昇圧力を抑え、高金利・ドル高には至らなかった(第II-2-19図)。
 投資貯蓄バランスの観点からこれを詳しくみると、90年代には株価上昇が消費を拡大させたこと等から民間貯蓄は低下したものの、財政再建による政府貯蓄の高まりがこれを補ったため、投資貯蓄の乖離は拡大せず、高金利が生じなかったことが分かる(第II-2-20図)。
 財政赤字の拡大が懸念される中で、今のところその影響は長期金利には表れていない。2001年以降の金融緩和や、経済の先行き不透明感が高まる中での国債への資金シフト等もあり、このところ長期金利は低下を続けており、2002年9月には約40年ぶりの低水準となった。しかしながら、このところの財政赤字の拡大をうけて投資貯蓄の乖離は拡大している。また、前述のようにイラクを巡り軍事的緊張が高まる可能性もあり、長期金利の動向を注視する必要がある。

●ユーロ圏主要国の財政収支悪化と財政規律の遵守を巡る議論
 景気の回復力が弱いものとなっているユーロ圏主要国でも、2002年度の財政収支は大きく悪化する見込みである。ドイツ、フランス、イタリアの2002年の財政収支見通しは、予算編成時から大幅に下方修正されており、特にドイツ、フランスの財政赤字は「安定と成長の協定」に定める上限(対GDP比3%)に迫るものとなっている(第II-2-21図)。税収見積もりの前提となる政府経済見通しをみると、各国とも予算編成時から大きく下方に修正されており、景気回復の遅れが、こうした財政収支悪化の主因とみられる。
 特にドイツでは、2002年に入り、たばこ等への付加価値税増税や付加価値税の脱税対策などの増収措置が採られたにもかかわらず、2002年5月の時点で既に景気要因等による減収が増収分を上回ることが見込まれていた。その後、景気が回復から減速に転じたことや、8月に起きた洪水被害(22)に対する復興対策費の支出増等から、2002年の財政収支は、「協定」に定める赤字上限3%を超える可能性が高いとみられている。
 ユーロ圏では、金融政策を一元化して欧州中央銀行(ECB)に委ねているため、各国政府がそれぞれ放漫な財政政策を行って高金利やインフレ圧力をもたらすことがないよう、「協定」により財政規律の遵守を求め、域内経済の安定を図ることとしている。「協定」には「過度の(財政)赤字」を抱えると判断される国に対する制裁措置も明確に規定されているが(コラム参照)、このところいくつかの国で「過度の赤字」に至る可能性が高まってきたことから、「協定」そのもののあり方を巡る議論にも発展している。
 2001年の財政赤字が急拡大したとみられたドイツとポルトガルに対し、2002年1月、欧州委員会が「早期警告」を欧州連合(EU)の経済財務相理事会に提案したが、2月の同理事会でこれを見送る(23)ということがあった。3月の欧州理事会では各国とも財政収支の均衡を2004年までに達成することを確認したが、その後7月にポルトガルの2001年の財政赤字が対GDP比3%を超える4.1%に達していたことが判明した。
 その後も、ドイツ、フランス、イタリアで財政赤字が対GDP比3%を超える可能性が高まったことから、欧州委員会は9月、2004年としていた財政収支均衡の達成期限を2006年へと先送りする一方、景気変動の影響を除いた構造的財政収支赤字を2003年から毎年GDP比で0.5%ずつ削減するとの新たなルールを提案し、各国が財政収支均衡に向けて努力することを求めた。しかしながら、フランス1国だけが2006年の達成も困難であるとして同意しなかったため、合意には至らなかった。フランスは、2003年の財政収支赤字は2002年と同じく「協定」の上限に迫る2.6%にとどまるとするなど、「協定」を遵守する姿勢をみせていない。
 今後、ドイツ、フランス等の財政収支赤字が「協定」上限を超える可能性は高いと言われており、その場合には「協定」の意義そのものが問われることになる。また「協定」で定める手続きは厳しすぎるものであり、各国の財政政策の余地を奪うこととなるため、より柔軟な財政規律遵守のためのメカニズムが必要とする見方(24)もあり、ユーロ圏における財政規律遵守を巡る議論の行方が注目される。

コラム ユーロ圏の「安定と成長の協定」による財政規律遵守の仕組み

●「過度の財政赤字」の予防・是正手続きを明確化
 マーストリヒト条約(1992年調印)(25)をうけて成立した欧州共同体(EC)条約(26)は、経済通貨統合(EMU)第3段階にある各国(ユーロ参加国)に「過度の(財政)赤字」(27)を回避するよう求め、予防・是正のための手続きを定めています。その手続きを明確化し、強化することを目的として、「安定と成長の協定」がドイツの提案により97年に成立しました。「協定」は、欧州理事会決議(28)と、「過度の赤字」の予防・是正手続きを定めた2つの欧州連合(EU)理事会規則(29)の3つの文書から構成され、概ね以下のような手続きが定められています。

●財政状況を監視
 「協定」は、ユーロ参加国に通常の景気循環下で財政赤字を対GDP比3%以下に抑えられるよう、健全財政目標(財政の均衡近くまたは黒字化)達成に向けた努力を促しています。このため、毎年目標までの中期計画を示した「安定プログラム」をEUの経済財務相理事会と欧州委員会に提出することを義務付けています。理事会は、各国から提供された情報や欧州委員会の評価等に基づき、プログラムの実施状況を監視します。
 理事会が、当該国の財政状況が中期目標から著しく乖離していると判断した場合には、「過度の赤字」予防のために「早期警告」を与えるとの観点から、当該国に必要な調整措置を講じるよう「勧告(recommendation)」を行います。2002年2月にドイツ、ポルトガルに対して検討されたのはこの早期警告の勧告です。

●「過度の赤字」是正が進まなければ制裁措置も
 実際に財政赤字が対GDP比3%を超えた場合、欧州委員会は、それが例外的・一時的なものではなく、「過度の赤字」が存在すると判断すれば、理事会に対して勧告を行います。それをうけて理事会は、「過度の赤字」が存在するかどうかを判断します。「過度の赤字」が存在すると判断する場合には、当該国に対して最長4か月の期限を呈示して有効な対策を採るよう勧告し、通常1年以内の赤字是正を求めます。11月の経済財務相理事会では、ポルトガルに「過度の赤字」が存在すると判断され、2002年12月31日までに必要な措置を講じ、2003年に財政赤字を対GDP比3%以下にするよう、勧告が行われました(同国の2001年の財政赤字:4.1%)。
 当該国が勧告に対して有効な対策を採っていないと判断される場合、理事会はその判断から1か月以内に当該国に必要な措置を講じるよう「通告(notice)」を行います。これに従わない場合、理事会は通告から2か月以内に当該国への「制裁(sanctions)」を決定します。制裁は、欧州委員会に対する無利子の預託金他の形で課されます。預託金はGDPの0.2%に参照値3%を超えた赤字額(対GDP比)の10分の1を加えたものとされ(ただし、各預託金はGDPの0.5%を上限とします)、2年が経過しても「過度の赤字」が是正されていないと判断されると、預託金は罰金として没収されます。その後も当該国が通告に従わない場合には、理事会はさらなる預託金等の制裁を課すことができます。

●硬直的過ぎるとの意見
 このように、「過度の赤字」の予防・是正手続きを明確にした「協定」ですが、ドイツ、フランス、イタリアといった大国が「過度の赤字」を抱える可能性が高くなったことから、「協定」の手続きは硬直的過ぎるとして見直しを求める動きがあります。特に、10月には欧州委員会のプローディ委員長から、より柔軟な制度が必要との意見が表明され、議論を呼んでいます。しかしながら、ユーロ圏における財政規律遵守の仕組みを守れなくなったからといって変更することは、ユーロの信認低下につながるともみられており、議論の行方が注目されます。


2.金融政策を巡る議論の高まり

 景気回復の遅れは、財政政策ばかりでなく金融政策の舵取りも難しいものとしている。特に、アメリカ、イギリス、韓国においては、一般物価が安定的に推移する一方、住宅価格は高い水準で推移しており、金融政策運営における資産価格の位置付けも課題のひとつとなっている。

●難しい局面にある金融政策の舵取り
 2002年初めに景気が回復局面を迎えたことから、韓国銀行等いくつかの中央銀行は利上げに転じ、アメリカ連邦準備制度(Fed)、欧州中央銀行(ECB)などでも利上げが視野に入れられていた。しかしながら、景気の回復が緩やかになるとともに、FedやECBなどでは次第に利下げが視野に入れられるようになった。この間、中央銀行の政策スタンスに対する市場の期待も利上げから利下げへと大きく転換した(第II-2-22図)。
 こうした中、景気の回復力が弱いアメリカ、ドイツでは財価格を中心にインフレ率が低下していることに加え、積極的な利下げが困難とみられることから、一部にデフレの状態に陥る可能性を懸念する見方もある。
 アメリカでは、2000年末以降に積極的な利下げが行われたことから、FFレートの誘導目標は2001年12月から1.75%という史上最低の水準を続け、2002年11月には更なる利下げを行い、1.25%となっている。こうした中、2002年3月以降、景気は緩やかな回復局面にあるがインフレ率は低い水準で推移している。また、2002年の9月以降、再び景気が減速し、インフレ率も低下しているドイツでは、他のユーロ参加国で緩やかながらも景気の回復が続き、インフレ率がそれほど低下していないことから、当面は利下げが期待できないとみられる。
 このような状況下では、デフレが招く実質金利の上昇等による経済の下押し圧力に対し、金融緩和措置を講じられずに一層のデフレを招き、いわゆるデフレ・スパイラルに陥ることが懸念される。このため、今後のインフレ率の動向に充分注視する必要がある。

●金融政策運営における資産価格の位置付け
 アメリカ、イギリス、韓国では、景気回復力の弱さから一般物価の上昇率(インフレ率)が比較的低水準で推移する一方、住宅価格は高い水準で推移している(第II-2-23図)。このため、金融政策運営における住宅価格等資産価格の位置付けに関し、このところ議論の高まりがみられる。また第1節でみたように、アメリカではこれまでの株価がバブルであったとの見方が強まっていることから、Fedはこれを防ぐべきであったとの議論もみられる。
 金融政策運営における資産価格の位置付けとして標準的な考え方は、資産価格の変動に対しては、それがバブル的な要素を含み、実体経済への影響を通じてインフレ率に影響が及ぶと見込まれる場合には、金融政策の対応が必要になる、といったものであろう(30)。したがって、資産価格の上昇(または下落)が観察された場合の中央銀行の対応は、実体経済への影響が見込まれるかどうかに依存する。前述のように、アメリカ、イギリス、韓国では住宅価格が高い水準で推移しているが、各中央銀行は資産価格への見方や対応にそれぞれ違いをみせている。
 Fedでは、資産価格の変動に積極的に対応する姿勢はみせていない。グリーンスパン議長は、2002年8月の講演で90年代の株価上昇に関し、バブルは崩壊前にそれを検証することは不可能であり、利上げによってバブル形成を押しとどめることもできないとして、金融政策による資産価格への対応に否定的な見解を示している。また、同年7月の議会証言では、高水準で推移する住宅価格については、バブルではないとの認識を示している。
 イングランド銀行では、91年にインフレ・ターゲティングを導入し、インフレ率2.5%(RPIX)を金融政策の目標としているが、資産価格は将来のインフレ率に影響を与えるとの意味において金融政策の目標の一部であるとしたレポートを公表している(31)。一方、最近の住宅価格については、過去に比べて対所得比で高い水準にあるとしながらも、低金利による住宅需要の高まりや住宅供給の遅れといった構造的要因を指摘しており(32)、バブルの可能性についてはやや否定的である。
 韓国銀行でも、98年にインフレ・ターゲティングを導入し、インフレ率の中期目標を2.5%、2002年の目標を3±1%としているが、住宅価格の上昇等によるインフレ圧力を理由として2002年5月に利上げを行っているほか、その後も韓国銀行総裁が再三にわたり住宅価格の上昇を将来のインフレ圧力として指摘し、利上げを示唆するなど、住宅価格の高まりを極めて警戒的に受け止める姿勢がみられた。韓国銀行ではまた、住宅価格は数四半期のラグでインフレ率に影響を与えるとみられることから、インフレ率の予測に極めて有用であるとするとともに、2001年5月以降の住宅価格の急騰は将来のインフレ圧力となるとのレポートを公表している(33)

●インフレ・ターゲティングの導入を巡る議論
 イングランド銀行や韓国銀行等で導入されているインフレ・ターゲティングとは、中央銀行や政府が共同または単独で、一般物価の上昇率(インフレ率)の目標を設定・公表し、中央銀行がその目標を達成するよう独立して金融政策を行うという、金融政策の枠組みを指す。中央銀行が目標にコミットすることで、期待インフレ率も目標値周辺に安定化させることができ、金融政策の効果を高めると考えられている。
 インフレ・ターゲティングでは特定のインフレ率の目標を設定することから、その導入によって目標の達成が最優先されるようになり、金融政策運営の柔軟性が失われるとの議論がある。しかしながら、実際にインフレ・ターゲティングを導入している国々ではそれぞれ柔軟な運営を行っており、先にみたイングランド銀行、韓国銀行の事例からも明らかなように、資産価格を明示的にインフレ目標としていなくても、各中央銀行はそれぞれ、インフレ目標の達成のために必要な範囲で、資産価格の変動に対しても柔軟に金融政策運営を行うことは可能である。そもそも、インフレ・ターゲティングは金融政策運営の「ルール」ではなく「枠組み」に過ぎないことは多くの専門家が指摘するところである(34)
 一方、インフレ・ターゲティングを明示的に導入しない金融政策運営を行う中央銀行として、Fed、ECBがしばしば取り上げられる(35)が、それぞれについてインフレ・ターゲティングを導入すべきとの議論もこのところ多くみられる。
 Fedの金融政策運営に関しては、グリーンスパン議長の信認が極めて高いため、インフレ・ターゲティングを明示的に導入する必要がないと考えられることが指摘されてきたが、その退任時期(2004年6月)が近いこともあり、導入の必要性が指摘されるようになっている。2002年5月、米上下院合同経済委員会は、制度的にFedの金融政策の信認を高めるインフレ・ターゲティングをグリーンスパン議長の在任期間中に導入しておくべき、とする報告書を公表した。また、2002年8月に就任したバーナンケFRB理事も、就任直前の7月に、インフレ・ターゲティングを導入することはFedの金融政策をより効果的にするとの議会証言を行っている。
 ECBでは金融政策運営にあたり、2%以下の物価安定を目標として掲げ、目標実現のためにマネーサプライを参照するとしている(36)が、事実上マネーサプライの参照値を無視した金融政策運営を行っていることもあり、より純粋な形でインフレ・ターゲティングを導入する必要性が指摘されている。2002年5月に欧州議会に提出された専門家報告(37)は、マネーサプライの伸び率はインフレ率の予測に適切な指標ではなく、またインフレ率2%以下との目標は、非対称的である(中心値と上下に対称的な範囲を示していない)ため、期待インフレ率の安定化に資するものではないとして、(純粋な形の)インフレ・ターゲティングを採用すべきとしている。

●インフレ目標の下限遵守の重要性
 ECBが設定していないインフレ目標の下限には、どのような役割があるのだろうか。前述のように、アメリカやドイツではデフレ懸念が議論されている。デフレからの脱却には、期待インフレ率に働きかけるインフレ・ターゲティングが有効との見方がある。これに対し、インフレ・ターゲティングはインフレを抑えるためのものであり、我が国のようなデフレ期に導入してインフレ率を高めることは適当でないとの議論がある。
 しかしながら、インフレ・ターゲティングの枠組みにおいて、インフレ期待が重要な役割を果たす以上、インフレ率が目標レンジの下限を下回った場合に、これを放置せずに金融緩和を行い、目標を達成することは同様に重要であろう。実際、IMFスタッフのサーベイ(38)によると、90年に世界に先駆けてインフレ・ターゲティングを導入したニュージーランドでは、一貫して目標下限の遵守を重視しており、また、その1年後に導入したカナダでも、当初インフレ率の引下げに主眼があり、目標下限が重視されない時期があったものの、93年後半以降は目標下限の遵守に努めるようになっているという。
 インフレ・ターゲティングの枠組下における金融緩和の効果を、最近のカナダの経験を例にとってみよう。カナダでは、99年1月から2月にかけてインフレ率が目標下限を下回ったことがあったが、カナダ銀行では、これに対し積極的な金融緩和を行ったと見られる。マネタリーベースは2月から3月にかけて大幅に拡大し、3月と5月には2度にわたる利下げが行われている。この結果、マネーサプライには拡大がみられ、インフレ率もこの頃から目標レンジ中心値付近まで上昇した。その後、インフレ率が目標中央値に迫ると金融引締に転じ、インフレ率が急騰するようなことはなかった(第II-2-24図)。カナダ銀行では、この頃のインフレ率を押し上げた要因として、(インフレ・ターゲティングによる)目標レンジ中心値への長期的なインフレ期待の存在と、97年から98年にかけてみられたカナダ・ドルの減価(39)をあげている(40)
 カナダ銀行のティーセン前総裁(41)は、デフレはインフレ同様に阻止すべきものであり、インフレ・ターゲティング下での目標下限の遵守は、デフレ期待を抑える効果があるとしている。


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