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経済審議会建議 6分野の経済構造改革

平成8年12月3日

経済審議会


目次

第1部 構造改革の基本的視点
1.今回の検討の基本的視点
2.構造改革推進の基本的考え方
3.構造改革の実施に際しての留意点
第2部 6分野における構造改革
第1章 高度情報通信
第2章 物流
第3章 金融
第4章 土地・住宅
第5章 雇用・労働
第6章 医療・福祉

第1部 構造改革の基本的視点

我が国経済は今、大きな歴史的転換点に立っている。一つには、戦後の歴史的キャ ッチアップ過程が終了し、一人当たり所得は世界のトップクラスとなった。もう一つ には、冷戦が終わり、技術革新・情報化が急進展する中で、世界的な競争が激化し、 国境を越えた経営資源の移動が加速している。我が国経済が21世紀においても、引き 続き繁栄を維持し、豊かで安心できる経済社会を創造し、地球社会に貢献していくた めには、こうした構造変化に即応して、適切な経済構造改革を実行する必要がある。

  1. 今回の検討の基本的視点
    はじめに、今回の検討の基本的な視点を明らかにしておきたい。

    (我が国経済の構造改革は待ったなしの状況)
    構造改革は時間との競争であり、我が国経済はその競争への立ち遅れが目立ちつつ ある。それは次のような点に明らかである。
    第1に、構造改革の遅れによって経済の各分野において空洞化がもたらされつつあ る。ボーダーレス化が進む中での世界的な大競争の下で、各国はより効率的で、利用 者にとって使い勝手の良い経済システムを築くべく市場間・制度間競争を繰り広げて いる。我が国はその競争に立ち遅れており、それが金融、物流産業などの空洞化をも たらしている。構造改革のテンポをスピードアップさせない限り、各国との制度間ギ ャップは拡大する一方である。
    第2に、戦後半世紀にわたって我が国経済の発展を支えてきた諸制度に「制度疲労 」が目立ってきており、既存の諸制度の抜本的な見直しが求められるようになってき た。キャッチアップを終え、お手本のない時代に入った我が国経済の活力を生むのは 、政府の指導ではなく、民間が自らリスクを負う進取の気性であり、制度的に守られ た資源配分ではなく、資源の流動的な移動である。従来型の諸制度を抜本的に見直し 、その再設計を行うことが求められている。
    第3に、国民生活の質的向上が遅れている。国民一人一人の視点から経済を見ると 、内外価格差は依然大きく、住宅事情は依然として劣悪である。高齢化の進展を控え て、医療・福祉システムへの不安感も大きい。経済の究極の目標は国民生活の質的向 上である。国民をいつまでも待たせるわけにはいかない。これまでの「供給者・生産 者重視型」の経済構造を「利用者・生活者重視」型のものへと切り換えていく必要が ある。
    今回の構造改革の提言については、各方面から「長期的な方向としては正しいが、 既存の秩序を乱さないよう、改革にはもう少し時間をかける必要がある」という趣旨 の意見が寄せられている。しかし、改革が遅れる間に、国民経済全体は「改革によっ て得られるはずのメリットを得られない」という形での膨大な機会費用を払っている ことを忘れてはならない。改革に際して既存の秩序を保つための議論に時間をかける ことは、「船が沈みかけているのに、乗客が眺めの良い席をめぐって議論する」よう なものである。

    (今回の検討プロセスの特徴)
    言うまでもなく政府はこれまでも、規制緩和を始めとする経済構造改革に取り組ん できた。しかしそのテンポは依然として遅く、十分な成果をあげるには至っていない 。そこで今回は、次のようなアプローチでこの問題に取り組むこととした。
    第1に、重点分野を絞って短期・集中的な検討を行った。すなわち今回は、総花的 に各分野を取り上げるのではなく、高度情報通信、物流、金融、土地・住宅、雇用・ 労働、医療・福祉の6分野における構造改革の推進策を集中的に審議した。これらは 、今後の経済フロンティア、高コスト構造の是正、国民生活の質的向上などと密接に 関連している分野であり、いずれも構造改革に際して、戦略的に重要な分野である。

    ちなみに、今回検討した6分野が我が国経済全体に占めるシェアは、93年の国内生 産額ベースでは約18.2%、就業者数ベースでは約16.4%となる(2010年では、それぞ れ約22.5%、約23.1%と推計)。
    第2に、実現可能性をチェックしながら個別施策を積み上げるのではなく、各分野 における最も望ましい構造改革の姿をまず体系的に提示し、その後に現実的な観点か らの検討を加えるという手法を取った。また、構造改革に対する国民的理解を得るた め、この間の議論のプロセスは全て公開されている。
    第3に、経済の活性化という視点から、規制の撤廃・緩和に限ることなく、場合に よっては規制の強化、税制の改革、社会資本の整備などを含め幅広い検討を行った。 規制の撤廃・緩和は経済構造改革の最重要の柱であることは間違いないが、例えば、 消費者保護規制を強化した上で行政的事前規制を撤廃するなど、「規制緩和のための 規制強化」が必要な場合もあるからである。

  2. 構造改革推進の基本的考え方

    今回の6分野の構造改革の検討を通じて、構造改革を推進する上でのいくつかの基 本原則ともいうべき点が浮かび上がってきている。それは次の4点である。

    1. 市場原理の貫徹、競争の促進が経済活性化の中心
      改めて言うまでもないが、経済構造を改革して、経済を活性化させ、経済全体の生 産性を高めていくためには、市場原理を貫徹させ、競争を促進することが何よりも必 要である。
      キャッチアップ過程を終えた我が国経済の今後の発展は、自己責任原則の下、個人 ・企業が自らリスクを担いながら、いかに創造性を発揮するかにかかっている。その 過程では企業及び国民自身の意識改革も必要となる。その先行きは不確実性に満ちて おり、行政があらかじめ道筋を描き示すことはできない。それは、明確なルールの下 での市場における公正な競争を通じて、消費者、利用者が真に望むものをより安価に 供給したものが選ばれていくことによってしか指し示すことができないものである。 個人・企業の市場における競争を促進し、「競争の自由」「リスク・テイキングの自 由」が十分に享受できるよう行政各分野の制度を再設計することが必要である。規制 の撤廃・緩和はそのためにこそ必要なのである。
    2. 業種や国境の垣根を越えた競争の確保
      市場における競争は、できるだけ広い範囲で行われるべきである。
      まず、個別の財・サービスにおける競争が確保されなければならない。このため、 参入規制・価格規制などの経済的規制は、自然独占などの「市場の失敗」が明確であ る場合を除いて、撤廃されなければならない。しかし、現実には依然として、役務の 安定的供給の確保、市場秩序の維持等を理由に、競争的であるべき市場においても参 入規制・価格規制が課されている場合が少なくない。我が国経済が発展途上にある段 階では、物資やサービスの安定的供給に政府が責任をもったり、社会の安定性に配慮 して「結果としての平等」を重視することには理由があったかもしれない。しかし、 今日ではこれら競争制限的な規制の存在が、むしろ、事業者の創意と工夫による多様 なサービスの開発、供給への制約になっている。競争が可能な市場での参入規制、及 びそれとセットになって実施されている認可料金などの価格規制は、速やかに廃止す べきである。
      従来の業種・業態の垣根を越えた競争も必要である。技術革新の進展は、業種・業 態の垣根を崩しつつあり、同種の製品・サービスをめぐる異業種・異業態間での競争 が活発化しつつある。こうしたタイプの競争を促進するためには、一定の仕切りの中 での競争を極力廃し、幅広い競争の場を確保する必要がある。
      さらに、国境を越えた競争を確保することも重要である。グローバル化により、国 境を越えた「大競争」が進展しつつある現在、我が国は、進んで厳しい国際競争の風 の中に自らをさらすことによって、効率化を図り、高コスト体質を是正していく必要 がある。行政各分野における制度設計にあたっては、国際的な調和を図るために、積 極的に市場を開放し、輸入、対内投資などを通じた外国事業者の参入を極力自由化し ていく必要がある。
    3. 弱者への配慮は別個の対応が必要
      複数の政策目的に対しては、複数の政策手段が必要である。市場原理を貫徹させる ことによって生じうる副作用には、その副作用自体を対象とした別個の政策手段が用 意されるべきである。
      代表的なものは、経済的弱者への配慮である。市場における競争では、全ての参加 者が勝者になることはあり得ない。競争によって、効率的な事業者の経済活動が拡大 する一方では、非効率な事業者の活動が縮小し、あるいは市場から退出することも覚 悟せざるをえない。また、規制の撤廃等によって、土地、労働などの資源移動が活発 化すれば、住み慣れた土地を手放さざるをえなくなる住民や、不利な立場に陥る労働 者が生ずることも考えられる。経済的効率性を追求する一方で、こうした経済的弱者 に配慮することも重要なことである。しかし、こうした副作用があることを理由に規 制撤廃・緩和を行わないことは、「少数の利益」を守るために「国民経済的に得られ たはずの多数の利益」を犠牲にしていることを意味する。「経済活動、資源配分には 市場原理を」、「経済的弱者には弱者への対策を」というのが正しい政策割り当てで ある。
    4. 残る規制は根拠を明確に、その運用は透明に
      言うまでもなく、市場は万能ではありえない。自然独占などによって市場の失敗が 生じうる場合には、規制が必要である。しかし規制を存続させる場合には、次のよう な原則に沿ったものとすべきである。
      第1に、規制の根拠を明確にすべきである。例えば、一般に規制の根拠とされる「 弱者の保護」「公共性の高さ」は、規制を存続させる理由にはならない。弱者の保護 については、別の独立の政策によって対応すべきであることは既に述べた。また、国 民生活にとっての必需的な財・サービスという意味での「公共性」が高いものであっ ても、民間主体が市場メカニズムに沿って供給したほうが生産性も高く、低廉で質の 良いものとなる場合が多いからである。
      第2に、規制の実施は、事前的・裁量的なものから、事後的で明確なルールに基づ くものに転換すべきである。いわゆる「業法」を中心としたこれまでの縦割り型の規 制には、事業者の行動を細かく指示、規定する事前介入的規制が多く見られ、その運 用に際しても行政当局の裁量の余地が大きかった。しかし、個人・企業の創意と工夫 による新しい価値の創造が経済発展の原動力となる今後の我が国経済においては、こ うした規制の存在は大きな障害となる。行政の裁量の余地が大きいと、事業者にとっ ての将来の不確実性が高まり、創意の発揮、積極的な投資を阻害するからである。今 後は、市場における一般的なルールとしての独占禁止法の厳正な運用を図る中で、個 別の規制を必要とする場合であっても、裁量の余地の少ない明確なルールを定め、行 政はその遵守を監視することを原則とすべきである。
      第3は、行政の公開・透明化である。明確なルールの下での自己責任に基づく個人 ・企業の自由な経済活動が有効に行われるためには、ルールの公正さに対する個人・ 企業の信頼が不可欠である。そのためには、これまで以上にルールの策定過程、その 運用プロセスが国民に対して透明であることが必要となる。
  3. 構造改革の実施に際しての留意点

    本報告書で述べるような構造改革を実行していくに際しては、以下のような点に留 意する必要がある。

    1. 明確なタイムスケジュールの必要性
      経済構造の改革は、それが抜本的であればあるほど、ソフト・ランディングのため の経過措置を求める声が強まる。確かに、急激な環境変化は既存事業者に大きなコス トを強いる面がある。しかし、経過措置の間には、国民経済全体が「得べかりし利益 を得られない」という形での莫大な機会費用を払っていることは既に述べた通りであ る。
      また、当該産業の事業者の近代化を待って構造改革を推進するべきだという主張も ある。しかし、1)その間に参入を阻止された潜在的な新規参入者が、当該市場を活性 化させる可能性を閉じるという形での国民経済的損失をもたらすこと、2)競争的市場 においては、全ての参加者が勝者にはなりえないことを考えると、全ての事業者の近 代化を待つことは、結果的に改革を永遠に先延ばしすることにつながりかねないこと を認識すべきである。
      したがって、経過措置は極力短期にとどめるとともに、それが恒常的な構造改革の 回避につながらないよう、構造改革のタイムスケジュールを明確化することが必要で ある。制度改革の全体像、そのタイムスケジュールを示すことは、個人・企業の将来 に対する不確実性をなくすことになり、それによって投資、研究開発などが活発化す ることが期待される。
    2. 経済的効果の定量的把握
      現在の我が国が取り組むべき構造改革は、戦後の制度改革にも比すべき抜本的で大 規模なものである。こうした構造改革が経済に及ぼす影響は、1)一部の人々には一時 的に「痛み」を伴う一方で、国民経済全体としては大きな利益が生ずること、2)短期 的には摩擦的コストが生じうるが、長期的には利益が優ることなど、複雑な様相を呈 して現れてくる。国民全体に広く構造改革への理解と支持を得ていくためには、こう した構造改革の国民経済的諸影響について可能な限り定量的に把握し、分かりやすく 国民に提示していくことが必要である。
      今後、本報告書で示したような、具体的な構造改革、規制緩和の推進に際しては、 その経済的効果をさらに総合的・定量的に把握し、これを広く公開していくことが重 要である。経済審議会としても、こうした課題について、今後取り組んでいくことと したい。

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